ヒコーキ撮影テクニック|Vol.1 ~王道のスポッティングカット~
はじめに
今回より全3回に渡り旅客機専門のヒコーキ撮影テクニックを皆さまにお伝えします。ヒコーキ写真を便宜上ジャンル分けしますと、大きく「スポッティングカット」「迫力系カット」「情景カット」の3つに分けることができます。ただし、これらはあくまでもヒコーキ写真を説明するための便宜上の区分けであり、このように撮らなければならないということは一切ありませんし、四角いキャンパス上に無限の自由があるのが撮影の楽しみですから、これらを基本としつつ自分らしさを追い求めていただければと思います。
スポッティングカットとは
まず今回は、ヒコーキ撮影における「スポッティングカット」について。和名では「型式(かたしき)写真」と呼ばれるこの撮影方法ですが、最も歴史が長く最も撮影人口の多い撮影ジャンルです。一般の人がヒコーキ写真というと、この機体真横の写真を思い浮かべる人が多いと思います。また、撮影ファンの間では「スペマ(スペシャルマーキング)」と呼ばれる希少なカラーリングの機体や珍機などを「撮った」と言うと、このような写真を指すことが多くなっています。
その発祥はイギリスで、もともとは単眼鏡や双眼鏡で機体番号を確認し、それを書き留める行為をスポッティングと呼びました。それが時代の流れとともにカメラを用い記録するようになり、現在に至っています。ポジ時代には「日中晴天」「機体に対して順光」「機体真横」「機体番号がしっかり確認できる」「グランドショット」「標準レンズ(35mm判換算で焦点距離50mmのレンズ)使用」「リバーサルフィルムのコダクローム64プロで撮られたもの」など、厳しい条件をポジ交換の際には課されることもあったとか。グランドショットを50mmでという時点でハードルが高すぎますね。
しかし、現在はデジタルデータでOKですし、「機体真横か真横あたり」ということくらいが条件で、できれば「晴天」「機体に対して順光」「機体番号がしっかり確認できる」と、だいぶ基準を緩くしてスポッティングを楽しまれる方も少なくありません。
初心者向けの撮影方法
スポッティング撮影の基本ですが、まずは晴天の日は機体に対して順光になるよう立ち位置をとります。撮影場所ですが、まずは空港の展望デッキをオススメします。日本の空港はユーザーフレンドリーな空港が多く、展望デッキのある空港が少なくありません。展望デッキのある空港ターミナルなどは滑走路や誘導路に対して並行して設置されていることが多いため、機体の真横が撮りやすい場所です。基本的に売店やお手洗いが近くにあるなど撮影環境に優れるため、初心者の方にもオススメです。その他の撮影場所については、撮影ガイドなど本やWebを参照しましょう。撮影ガイドなどで紹介されている撮影場所は、機体真横が撮影可能なスポッティング撮影に適した場所であることが多く参考になります。
撮影の難易度は駐機している機体〜ゆっくり地上走行している機体〜着陸する機体〜離陸する機体など、動きの速さに応じます。離陸する機体は上がる位置がまちまちのため、真横を撮るのが最も難しくなります。風向きや風の強さ、当日のその日の機体の重さなどが関わってくるため、相当な慣れが必要です。滑走路を離れるのが予想より少し早いだけで、いわゆる「腹撃ち」と呼ばれるあおり気味のカットになってしまいます。
日中のカメラの露出設定ですが、初心者の方はまずシャッタースピード優先モード、ISOオートで撮ることをオススメします。そして、機体の動きの緩急に応じてシャッタースピードを上げ下げしましょう。離陸シーンは最も機体の動きが速いので、機体の近さにもよりますがまずは1/1000を基準にシャッタースピードを設定。逆に止まっている機体であればシャッタースピードを下げて1/500程度(曇りの日は1/250程度)に下げてもOKです。ここでは、機体の動きに合わせてシャッタースピードを適切に設定。手ブレや被写体ブレが起きないよう機体をしっかりと止めることを念頭に置きましょう。
続いてAFの設定ですが、止まっている機体を撮影する場合はワンショットAFでも構いませんが、動いている機体を撮影する際はAIサーボなど追従AFが便利です。AF枠は機体の動きが遅い時は1点AF枠の小さいものでも良いですが、離陸シーンなど機体の動きが速い場合は拡大AFなどを設定します。AF枠の位置はど真ん中の胴体の位置で構いませんが、主翼の先端にフォーカスが合ってしまうこともあるので、気になる方は機首寄りの胴体に枠を設定するのも手となります。ここでは、フォーカスを外さず機体がシャープに写ることに集中しましょう。
構図ですが、作例にあるように機体真横を画角の真ん中に置くだけ。機体を画角にいっぱいいっぱい入れるのではなく、機体8割、アキが左右1割くらいずつあると良いでしょう。動いている機体の真横になる瞬間の見定めですが、エンジンやメインギア(車輪)が手前と奥で揃う瞬間を狙います。真横になりそうな瞬間に連写して、真横になっている一枚を採用するのも手となります。
コツは被写体を知ること
スポッティング撮影も極めようとすると撮影条件を選んだりとなかなか奥が深いのですが、初心者の方でも慣れてくると撮影が容易であり、撮影技術よりもむしろ飛来機の情報やどれだけアクティブに動けるかが重要になります。また、雲ひとつ無い空などを背景とした場合は画角の上下にアキが目立つため、写真的な面白みの欠如した写真とみなされ「図鑑写真」「説明写真」などと揶揄されることも少なくありません。しかし、当方がヒコーキ撮影をはじめる方にまずスポッティング撮影をオススメするのには理由があり、ヒコーキの動きについて理解が深まるからなのです。
機体の真横を撮るために色々な撮影場所を考えるようになりますが「この機体は◯◯番のスポットに駐機していて、ここからこのタキシーウェイを通ってこちら側の滑走路から離陸する」ということがお目当ての機体を追いかけているうちに分かってくるため、ヒコーキの迫力ある姿を撮る時にも、美しい風景と撮る時にも、これが活きてきます。ステキな写真を撮るにはまず被写体のことを知る。写真撮影の基本でもあります。もちろん、当方も未だにスポッティング撮影を楽しんでいます。コレクション的な楽しさがありますし、航空会社の塗装が変更されたり機種が新しくなったりと代謝もありますから。
オススメの機材
最後にヒコーキ撮影におけるスポッティング撮影にオススメのカメラとレンズですが、スポッティング撮影のみをするのであればそこまでカメラやレンズの性能を必要としません。駐機シーンやゆっくりと地上走行しているシーンをWeb上で発表するだけなら、それこそ今どきのスマホでも無理なく撮影できます。
ただ、離陸シーンなど動きの速いシーンを上手に撮影するなら、やはりAF性能に秀で、望遠レンズのラインナップが多い一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラがオススメです。その中でも、現在は新技術がいの一番に投入されることの多いミラーレス一眼タイプがオススメでしょうか。レンズの焦点距離に関しては、ご自身がよく行く空港を基準とすると良いでしょう。例えば羽田空港などは騒音に配慮した事実上の海上空港のため、便数は多いのですが外周の撮影場所は大抵どこも機体まで距離があります。そのため、100-400mmや150-600mmなどのレンズがオススメです。逆に伊丹空港や福岡空港など地上空港は、機体の近くで撮れる場所も少なくないため、70-200mmや70-300mmなどがオススメとなります。
スポッティング撮影ではズームレンズが便利です。ヒコーキ撮影は様々な要因から撮影場所が限られるため、自分で立ち位置を動かすより、ズームレンズで機体を引き寄せたり遠ざけたりするのが基本となるからです。
オススメのカメラ
オススメのレンズ
【パナソニック】LUMIX G VARIO 100-300mm F4.0-5.6 II POWER O.I.S.
【キヤノン】EF70-300mm F4-5.6 IS II USM
■写真家:A☆50/Akira Igarashi
絶景ヒコーキ写真を求め全国を駆け巡る瞬撮系航空写真家。雑誌、WEB、TVなど各種メディアに出演、作品を提供するかたわら大手航空会社やカメラメーカーなどのオフィシャル撮影を担当。公益社団法人 日本写真家協会会員。
A☆50/Akira Igarashiさんのヒコーキ撮影テクニック記事はこちらから
・ヒコーキ撮影テクニック|Vol.2 ~迫力のあるカット~
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485546033/