はじめての野鳥撮影方法とコツ・テクニック|菅原貴徳
はじめに
このところ、野鳥撮影が人気のようです。確かに公園や森を散策すると、超望遠レンズを持った方によく出会います。私は小学生の頃に野鳥の魅力に出会い、以来、観察や撮影を楽しんでいますが、高価で重量級の、いわゆる“大砲レンズ”以外の選択肢がなかった当時を思うと、このところの各社のレンズ(特に超望遠ズーム)、カメラの充実したラインナップには隔世の感があります。
野鳥たちが魅力的であり、多くの人の関心を誘うことは必然的なこと。そして、機材も充実した今、撮ってみたいと思うのも自然なことでしょう。同時に、野鳥たちには野鳥たちの暮らしがあって、撮影や観察する際には「お邪魔している」という謙虚な気持ちを常に忘れないようにしたいものです。
今回の記事では、最初に知るべき基礎的な心構えにも触れつつ、最も初歩的なところ、どのように野鳥撮影をはじめるとよいかをご紹介したいと思います。
野鳥撮影の醍醐味とは
野鳥撮影の醍醐味とは、写真を撮るという目的・行為を通して、野鳥たちのことを知っていくことにあると考えています。例えば、図鑑を1冊めくることや、関心を持って歩くようになると、身近なところにも色々な鳥が暮らしていることに気がつきます。
フィールドではいきなりカメラを据えるのではなく、一歩引いた距離から観察するようなアプローチをすることで、いざ撮影となった時にいい成果を生むことができます。
例えば、魅力的な飛翔写真を撮影したいと思った時、飛翔ルートがわかれば、背景や光線も考えて位置取りをし、カメラの設定も整えて待つことができます。遠回りのようで、実はその過程で得る経験や知識は興味深いものばかりですし、そうして得た1枚には思い入れも宿るでしょう。
下の写真は、秋の水辺に浮かぶオシドリ。日本にも魅力的な鳥がたくさんいます。
野鳥撮影の機材 カメラとレンズ
飛翔撮影、特にカワセミやツバメのような小鳥を対象にするのであれば、AFのポイント数や速度がより優れているハイエンドの一眼レフやミラーレスが有利です。一方、サギ類やハクチョウ類のような大型の鳥であれば、高倍率ズーム機能付きデジカメのような機種でも十分撮影可能です。
システムを組む上で大切な指標のひとつは、「〇〇mm相当」と表記される、俗に言う35mm判換算と呼ばれる焦点距離です。人の生活圏に住み、ある程度に人に慣れた大型の鳥であれば、300mmや500mm相当の焦点距離の範囲でも撮影できますが、日本の野鳥は警戒心が強いものが多く、800mmや1000mm相当の焦点距離をもってしても、なかなか思う大きさに撮影できないことが少なくありません。また、地形的にそもそも近付けない状況も多々あります。
そのため、基本的に長ければ長いほど撮影チャンスは多くなると言えます。35mm判換算の焦点距離をそれぞれ1.5倍、2倍に伸ばしてくれる、APS-Cやマイクロフォーサーズといったセンサーサイズが、望遠系の撮影では有利になるのはこのためです。超望遠の狭い画角になれるのは、最初は大変かもしれませんが、野鳥に近づく労力に比べれば微々たるものです。
超望遠レンズを使うことで、野鳥と離れたところから撮影できるということでもあります。つまり、無理に接近して飛ばせてしまう、というような、野鳥へのプレッシャーも軽減できます。鳥の方が安心していれば、結果的にゆっくり、じっくりと撮影できることにもなります。近年は、高性能で比較的手ごろな価格帯の超望遠レンズも増えてきました。野鳥への配慮、という観点からも、ぜひ超望遠レンズの導入を検討して欲しいと思います。
下の写真は街中の川に暮らすコサギを、散歩の途中で撮影したものです。比較的大型の鳥なので、鞄に入る小型のシステムでも充分でした。
下の写真は、都内の緑地でも普通に見られるキツツキの仲間、コゲラです。大きさはスズメほど。鳥が小さい上、木の上にいて近づけないので、35mm判換算1000mm相当のシステムでもこの大きさに写すのには苦労します。
野鳥撮影の機材 三脚と雲台
カメラやレンズに搭載の手ぶれ補正や、カメラの高感度耐性の向上によって、手ブレ防止という観点で見れば、その心配はある程度解決されているように思います。最初の鳥の見つけ方をよく知るべき段階では、機動性を重視して手持ち撮影専門や、軽めの三脚にとどめるのが良いと思います。
三脚が重宝するのは、野鳥を待ち伏せる時。野鳥は追いかけると逃げますが、静かに待ち伏せていれば近づいてきてくれることがあります。三脚にカメラが据わっていれば、野鳥の出現時にカメラを構える動作を小さくすることができ、野鳥を驚かせにくくすることができます。
雲台は、野鳥撮影で使うレンズには三脚座がついていることが多いので、ビデオ雲台や2WAY雲台が使いやすいでしょう。“大砲レンズ”とジンバル雲台の組み合わせは野鳥の素早い動きに対応するのに人気がありますが、大きく、そして重いので、どうしても機動性が落ちます。観察を通して、待つべきポイントが明確であれば重宝しそうです。
下の写真は、ジッツオGT2532三脚に、レオフォトのビデオ雲台 BV-10の組み合わせ。間には、スリック レベリングユニット2を挟んでいます。動きを連続的に追うためには、雲台自体が水平であると快適になります。
野鳥撮影の機材 双眼鏡
上述のように、機材の軽量化が進み、身軽に散策することができるようになったからこそ、ぜひ充実させて欲しいと思うのが観察機材。その代表格が双眼鏡です。カメラのファインダーと比べると、両眼視できることで目も疲れにくく、視野が広いため鳥も見つけやすいといったメリットがあります。
いい写真を撮るという観点から言えば、そもそも写真とは、他人に伝えたいなにかを見つけた時に、伝えるための手段です。よく鳥を見て、魅力的な仕草や角度を見つけることが、いい写真の第一歩。ぜひ、その時間を楽しんで欲しいと思います。
カメラレンズと同様、対物レンズ径が大きくなるほど明るいのですが、当然重くなります。視野が広い8から10倍、口径25から32mmくらいが使いやすいでしょう。防水機能も野外では重宝します。
カメラ設定のポイント
まずAF設定は、C-AF(コンテニュアスAF)を基本にし、うまくピントが合わずAFが迷ってしまう場合はS-AF(シングルAF)への切り替えを考えると良いかと思います。AFターゲット(AFエリア)は、小さすぎると野鳥の動きに対応しづらく、大きすぎると障害物に合焦します。概ね、画面の面積の20~50%程度をカバーする範囲で調整すると良いでしょう。
画面内の鳥が小さい時はより小さく、逆に大きい時は拡げるといいと思います。機種によっては、鳥認識AFや動物の瞳認識AFといった機能がサポートしてくれる場合もあります。機種ごとの差が大きい部分でもありますので、お手持ちのカメラで試してみましょう。
私は、新しいカメラを手に入れた際は、身近なカラスやハトを対象にして、特性が理解できるまで練習してから実際の撮影に導入するようにしています。
連写はなるべく速い方が有利です。ミラーレスカメラでは、連写速度を最大にすると、AFやAEが追従しなくなる場合があるので注意しましょう。
露出制御は、最もよく使うのは「絞り優先オート」です。絞りを開放にしておくことで、レンズの明るさを担保しながら、適切なシャッタースピードをカメラが決めてくれます。「ISOオート」と組み合わせることで、任意のシャッタースピードを下回った時に、自動的にISO感度を上げてくれるように設定できます。自身のシステムで、手振れが起きやすいシャッタースピードを事前に知っておき、設定時の参考にしましょう。
「シャッタースピード優先オート」や「マニュアル露出」は、鳥の羽ばたきを確実に止めたい、あるいは流し撮りをしたいなど「シャッター速度を使った表現」を目指す時に使います。ちなみに、小鳥が飛び立つ瞬間を止めるには、最低でも1/2500、できれば1/4000程度の高速シャッターを切りたいところです。
下の写真のアオサギのように、大型の鳥は飛翔速度が比較的遅いので、練習に良いでしょう。より小型の鳥でも、動きに合わせてカメラを振ることができれば1/500や1/1000程度のシャッター速度でも飛翔を写すことができます。
まずは水辺からはじめよう
さて、野鳥撮影を始めたいと思った時、最初にいく場所としては、山野よりも水辺がおすすめです。その理由を挙げると、
1.開けているので、野鳥の姿を見つけやすいこと
2.カモ類やサギ類、ハクチョウ類など、大型で見つけやすく、かつ動きが比較的ゆっくりしているものが多いこと
3.光が潤沢なので、ブレを抑えやすいこと
などがあります。
ベストなのは、市民の憩いの場になっている、池の周りが遊歩道になっているような場所。人の姿を見慣れている鳥たちも多いので、比較的近くで撮影できるチャンスが期待できます。特に秋から春にかけては、多種のカモ類がやってきて賑やかです。撮影の際には、一般の方の邪魔にならないよう、カメラを構える前に周囲を見回す配慮をしましょう。
下の写真のように、小鳥が羽ばたく瞬間も、光が潤沢な水辺なら撮影チャンスが多くあります。虫を追い、石を転々と飛び回るハクセキレイを、プリ連写機能と高速シャッターの組み合わせで写し止めました。
水辺では、人気のあるカワセミの発見も期待できます。小さい鳥なので、慣れないうちは見つけるのが難しく感じるかもしれませんが、コツを掴めば案外身近なところにも多く生息している鳥だとわかります。
カワセミを発見するには、まずは双眼鏡で、杭の上や、水面に張り出た枝をみる癖をつけること。カワセミは、概ね水面から1~10m程度の高さから水に飛び込んで魚を捕らえます。次に、声を覚えること。カワセミの声は特徴的で、自転車のブレーキのような、金属的な声です。
カワセミに限らず、生態を知ることや声を気にすることで、発見できる鳥の数は飛躍的に増えていくはずです。開けた水辺と違い、森の中ではより声が重要です。まずは水辺でトレーニングをして、徐々にいろんな環境に出かけるようにすると良いでしょう。
野鳥について、知ってほしいこと
野鳥と接する上で、鉄則と言えることをいくつか紹介します。冒頭に示したように、「お邪魔している」という謙虚な気持ちを持つことはもちろんですが、以下のようなことを心がけると、鳥との距離が縮まる可能性があります。
1.すべての動作を、ゆっくり、ちいさく、静かに!
急に立ち上がる行為、三脚を振り上げるのはNG。カメラを構える動作もゆっくり行いましょう。
2.情報発信は慎重に!
人気のある鳥の居場所をSNSに晒してしまうと、人が集まってしまいます。特に子育ての時期は、カメラマンが集まることで天敵を呼び寄せることにつながるため、怯えて子育てを放棄する事件が毎年起こっています。すぐにSNSに公開せず、子育てが終わってからにするなどの配慮が必要です。
3.自分のシルエットを小さく見せる
立つよりしゃがむ、半身を植え込みや木の幹の影に隠す、大勢で群れないなどを心がけると、鳥も安心します。
下の写真は、地上で食べ物を探すツグミです。立って近づくと飛び去ってしまいますが、低い姿勢で待つようにすると、近くに来てくれることもあります。背景も綺麗にボケやすいので、写真的にもメリットがあります。
最後に
いかがだったでしょうか。野鳥撮影は、相手が思う通りに動いてくれないことも多く、難しく感じるかもしれません。しかし、大事なことは、野鳥のことを知り、思いやる気持ちを持つことです。
一見、テクニックとは関係のないように思われてしまいそうですが、鳥が飛び立たない距離で立ち止まることができれば、鳥の生活の邪魔をせずにすみますし、結果的に撮影チャンスも広がります。そして、じっくり撮影できれば愛着も湧くことでしょう。
いつまでも野鳥撮影を楽しめるように、鳥や周りの環境にも敬意を払いながら、奥深い野鳥の世界を楽しんでいきましょう。
■写真家:菅原貴徳
1990年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持ち、海洋学や鳥の生態を学んだ後、写真家に。野鳥への接し方を学ぶ講座を開くほか、鳥が暮らす景色を探して、国内外を旅するのがライフワーク。著書に最新刊『図解でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)ほか、『SNAP!BIRDS!』(日本写真企画)などがある。日本自然科学写真協会会員。 オリンパスカレッジ講師。