#01 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
はじめに
こんにちは。フォトグラファーのコハラタケルです。今回は苦手な人が多いと思われる、夏のロケ撮影時におけるポートレートのポイントについて話していきます。
2~3歩、前に進むだけで景色は変わる
まず初めに当日の空の写真をご覧ください。
撮影時期は8月中旬、13:30頃。ほぼ太陽が真上にあるような状態です。光も硬く、夏場のこの時間帯は撮影を避ける人も多いのではないでしょうか。
この状況下でいかに光を読んで撮影するか。また、そもそも撮影場所としてどういうところを選べば良いのか。最初に情報整理と視線誘導について解説します。
ポートレートでは基本的に人物を主題とします。
では、主題にするとはどういうことでしょうか? 僕のなかでは“視線誘導すること”だと考えています。
視線誘導とは写真を見た瞬間、写真を見る人の視線が撮影者が見て欲しい部分に誘導できているかどうかです。
改めて、先ほどの写真をご覧ください。
僕がもっとも見て欲しい部分はモデルの女の子ですが、右側の非常ボタンが目立っています。おそらくこの写真を初めて見た人は「モデルの女の子」と「非常ボタン」の2カ所に視線誘導されるはずです。
そこでもっと前に進み、この非常ボタンが入らない位置まで移動してから撮影をしました。
余計なモノが写っておらず、放射構図も相まって、中央にいる人物に視線誘導することに成功しました。
左上の住居を見てわかる通り、先ほどの失敗写真から2~3歩前に進んだだけでこれだけ見える世界が変わります。
このような判断に至ったのは何を見せたいのかが決まっていたからです。ポートレートに限らず、撮影においては主題を決めることが重要であり、主題が決まっていないと現場で判断することができません。
闇雲に撮影するのではなく、「自分は何を一番に見せたいのだろうか?」という部分を考えてください。
太陽が真上にいるときは被写体を影に入れてしまう
早朝や夕方のように太陽が傾き、光がやわらかい時間帯の方がポートレートは撮りやすいです。
真夏、とくに太陽が真上にあるときは目の下に影が落ちやすく、撮りづらいと感じる人が多いのではないでしょうか。
太陽が真上にある状態で撮影すると目の下に影が落ちてしまいます。
太陽が真上にある時間帯を避けるという方法もいいのですが、仕事に限らず趣味の撮影においても、どうしても12:00前後の撮影しかできないという場合もあるでしょう。
また、苦手なシチュエーションでも上手に撮影できる練習はしておいたほうが良いです。得意なシチュエーションばかりで撮影していても成長しません。
次にこちらの写真をご覧ください。
先ほどの写真と比べ、目の下に影が落ちておらず、肌もやわらかく見えています。現場の状況はこのようになっています。
最初に見せた失敗写真は(1)で撮影しています。影がまったくない場所です。
対して、成功写真の(2)はモデルさんの全身を影に入れています。
撮影のポイントは“自分が写したい範囲をすべて影にする”ことです。
夏場の12:00前後の撮影では光と影の両方が入っている場所で撮影すると輝度差が激しくなることがあります。
モデルの上半身の明るさを意識して現像したものがこちら。
上記の2パターンの写真はどちらも個人的に微妙です。
もちろん最近のデジタルカメラであればダイナミックレンジが広く、ハイライトとシャドウのバランスを現像でうまく調整することも可能ですが、撮影に慣れないうちは撮影時に露出を合わせるポイントを絞るようにします。
例えば、先ほどの写真の場合。もっとモデルさんに寄って、光が当たっている部分を少なくしましょう。こうすることでハイライトとシャドウの輝度差を意識することなく、撮影時の露出調整がしやすくなります。
実際に撮影した写真がこちらになります。
光が強く当たっている場所と影になっている場所の両方を広く入れた状態だと、どちらに露出を合わせればいいのか迷ってしまいます。光が当たっている部分を減らすことで、露出を合わせるポイントをモデルさんの顔に絞りました。
逆光時、太陽光を直接レンズに入れないで撮影
次は逆光時に意識していることです。
まず、僕は基本的にコントラストがある写真のほうが好きです。なぜ、自分の好きをここで発表するのか。実はそこが決まっていないと、そもそも撮影するときの判断が鈍ります。
逆光での撮影というのはコントラストが低く、淡い雰囲気に仕上げる人もいるでしょう。もちろんその撮り方でも良いです。実際、僕も撮るときがあります。
しかし、重要なのは完成形をコントロールできるかどうかであり、何もわかっていない状態でなんとなく撮影していても上達しません。ここでは逆光でもコントラストがある写真の撮り方について解説します。
先に成功写真をご覧ください。
逆光で撮影していますが、コントラストが維持されています。ちなみにレンズフードは付けていません。
僕はポートレートのときは少しでもカメラの見た目を大人しくしたいと考えています。レンズフードの種類にもよりますが、付けるか付けないか両者を比べた場合、付けたほうが威圧感が増すと考えているため、基本的にロケ撮の場合は付けません。
次の写真をご覧ください。
同じロケーションで撮影していますが、こちらの写真のほうがコントラストが弱くなっています。少しだけカメラの角度を下から上へ煽るような角度にしているのですが、それだけで光の入り方が異なります。
現場の状況を俯瞰した写真をご覧ください。
実は逆光にすればどこでも良いかというと、そんなことはありません。
僕は逆光で撮影する場合はレンズに直接、太陽の光が入らないようにすることも意識しますが、もうひとつ意識するポイントとしては“背景が暗いところを選ぶ”ようにしています。そのほうが写真に明暗差を付けやすく、モデルに光が当たっているハイライト部分の輪郭も見やすくなります。
ちなみに現場を俯瞰している写真のときも少しカメラの角度を持ち上げるだけでこのようになります。
太陽光を入れるか否かでこれだけ変わります。
もう一度、言いますが、もしもあなたが淡い雰囲気の写真を望んでいるのであれば、太陽の光を入れても良いです。
最初にも言いましたが、自分がどういう写真にしたいのかが決まっていないと、そもそも撮影できないので、まずは完成形がどこにあるのかを決め、完成形に合わせた撮影方法にしましょう。
人がいなくても目立つ存在の近くにモデルを配置する
街撮りで質問されることのひとつが「どこでモデルさんを撮ればいいのかわかりません」というものです。
僕がやる方法としては、人物がいなくても目立つ被写体を探すという方法があります。例えば、こちらの写真をご覧ください。
「ただのカーブミラーでしょ?」と思う人もいるかもしれませんが、僕にとっては違和感と新鮮味があるカーブミラーです。
僕の経験上、カーブミラーは頭上にある場合が多く、低い位置に設置されていることのほうが珍しいです。このカーブミラーを見た瞬間「使えるな」と僕は思いました。実際に撮影した写真がこちらになります。
何気なく撮影していますが、実はポイントがあります。
これは花や飲み物が入ったコップなどと一緒に撮るときも同じことが言えるのですが、モデルさんに顔をくっつけるようにして撮影したほうが良いです。今回のカーブミラーでいうと、カーブミラーに顔の側面が当たるようにしてもらっています。
絶対に離してはダメということはありませんが、くっつけることによってふたつの被写体ではなく、ひとつの被写体としてまとまりを持たせることができます。
僕は仕事で家族写真も撮影しているのですが、集合写真を撮るときは「肩と肩がぶつかるまで寄ってくださーい!」と声をかけることが多いです。
これも離すよりもくっついているほうが構図としてもバランスが取りやすく、収まりが良い写真にすることができるからです。
街撮りのコツは自分のなかの違和感を探すこと
先ほどのカーブミラーのように街撮りに関しては自分のなかにある違和感を常日頃から知っておくことが重要です。
街撮りをしているときに自分のなかの違和感を探してください。見つけたら、そこで撮影をします。違和感を写すことで自分らしい写真・自分にしかない視点の写真に仕上げることが可能です。
もう使われてなさそうな古い看板を入れたものがこちら。
傾いている木を発見! モデルさんにも同じように傾いてもらいました。
コンクリートブロックの間に木!?
落ちているゴミを活用することもあります。
まとめ
違和感というのは人それぞれ異なります。例えば、海外の方だと日本の自動販売機の多さに驚き、そこで写真を撮るかもしれません。
写真というのは技術的な部分と感覚的な部分の両方が大切だと考えています。「あ、なんかアレ気になるな……」と感じたモノがあったとき、いかにすぐシャッターを切ることができるかどうか。それが自分の視点であり、撮影において大切なポイントになります。
■モデル:五味未知子
■写真家:コハラタケル
1984年生まれ、長崎県出身。大学卒業後、建築業の職人を経てフリーのライターに。ライター時代に写真の勉強を始め、その後フォトグラファーに転身。企業案件の撮影ほか、セミナー講師や月額制noteサークルを運営している。ハッシュタグ#なんでもないただの道が好き の発案者。