#06 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
はじめに
みなさん、こんにちは。フォトグラファーのコハラタケルです。
これまでは街撮り講座ということもあり、ある程度、引いた距離での写真を中心に解説してきました。ただ、人によっては寄りの写真も撮ると思います。そこで今回は街での寄りの写真について解説していきます。
とは言っても、例えば顔の角度をこうすると美しく見えるとか、そういうのは解説しません。今回の「#なんでもないただの道が好き 街撮り講座」の記事たちは、あくまで街撮りにフォーカスを当てたものなので、ここでは街の壁を生かした撮影方法や逆光撮影時のおすすめのロケーションを解説します。
太陽の光 × 白い壁 でモデルさんの顔に光を
おそらくこの記事を読んでいただいてるほとんどの方がアシスタントを付けずに撮影をしていると思います。
実際、僕もこれまでの記事はモデルさんと1対1、使っているのはカメラとレンズのみです。今のところフィルターも使用していません。
例えば、逆光での撮影のとき顔に当たる光を起こすために「レフ板を持ってくれる人がいればなぁ」と思う方もいるでしょう。
そんなに大きくないレフ板であれば片手に持ちながら撮影することも可能なのですが、街撮りでレフ板を持つのは目立ちますし、アシスタントさんがいない場合は歩行者の邪魔になる可能性もあります。
自分ひとりしかいない。だけど、顔に当たる光を起こしたい。そんなときは白い壁を使ってみてください。
まずは現場の写真をご覧ください。
このような白い壁は太陽の光を反射し、やわらかい光をモデルさんへ当ててくれます。実際に撮影すると……
このような感じです。
カメラマンとモデルさん、それぞれの立ち位置はこのようになっています。
今回はモデルさんを壁から1~2メートルの位置に立ってもらい、撮影しました。
「白い壁を利用するのとしないの、そんなに違うんでしょうか?」
と思う人もいるでしょう。次の写真は白い壁の反射の光を使わなかった場合です。
Lightroom CC の現像画面もご覧ください。
今回、プロファイルは「Adobe カラー」で露光量だけを調整しました。また、色温度と色かぶり補正に関しては1枚目の設定に合わせています。
露光量に関しては顔の明るさを中心に考えたのですが、1枚目が +0.70 に対し、2枚目は +2.70 まで上げないと顔を明るくできませんでした。
顔の肌色も違いが出ています。撮影時が1月後半の14:00~15:00 頃ということもあり、夕陽に近い光が壁からモデルさんへ当たっていたため、1枚目は顔に暖色系の光が当たっています。
瞳のなかを見ると、壁の光が当たっているかいないか見極めやすいです。
1枚目は瞳のなかに白い壁が広く映っているのに対し
2枚目はほとんど映っていません。
今回の写真の右奥の電柱の位置を見てもらうとわかるのですが、ほぼ同じ場所で撮影しています。にも関わらず、太陽の光の反射を顔に当てるか否かでこれだけ写り方が変わります。
また、1枚目は顔の明るさが保たれていることで、全体の露光量をそこまで上げなくても写真を完成させることができます。そのため +2.70 まで上げた2枚目の写真に比べ、背景の光と影の演出がわかりやすいです。
以前の講座でも視線誘導が重要という話をしましたが、2枚目は全体的に明るくなっているため1枚目に比べると顔部分への視線誘導が弱いです。
今回はわかりやすく対比させるためにもカメラは同じ設定にしましたが、2枚目の白い壁の光を使っていないほうでも撮影時のカメラの設定や現像時のトーンカーブの調整などを行えば、そんなに悪い写真にはなりません。
どちらが良いか悪いかではなく、自分の撮影の完成イメージに合わせてコントロールできるようにすることが大切です。
「逆光+屋根がある場所」で2パターンの寄り写真
次は逆光の写真についてです。まずは写真を2パターンご覧ください。
実は第一回目の記事(#01 なんでもないただの道が好き 街撮り講座)でも太陽の光を入れるか否かでコントラストの出方が変わるという話をしています。今回はモデルさんの顔に寄った写真の場合ですね。レンズに太陽の光を入れないと、このようになります。
モデルさんの上部の緑のラインと玉ボケに注目してください。この2枚の写真がほぼ同じ場所で撮影されたことがわかると思います。ちなみにですが、レンズフードは付けていません。
1枚目は太陽の光をレンズに入れるために少し煽って撮影しているのに対し、2枚目はモデルさんの真正面に構えて撮影しています。
次に現場を俯瞰した写真をご覧ください。
モデルさんと僕の立ち位置はこのようになっています。
なぜ、この場所を選んだのか。それは屋根があるので、レンズに太陽の光を入れるパターンと入れないパターン、そして、モデルさんにだけ逆光を当てたパターンを撮れるからです。
ひとつずつ説明していきます。1枚目の逆光写真はモデルさんに立ってもらい、僕が少し屈んで、モデルさんを見上げるようにして撮影しています。実際に僕が見ている景色はこのような感じです。
現場では立ち位置や角度などを調整しているので、完全再現はできないのですが、1枚目はこのようにレンズに太陽の光が入っている状態でモデルさんと一緒に撮っているとイメージしてもらえるとわかりやすいのではないかと思います。
逆に2枚目の写真のときは、このような見え方をしています。
レンズから見える景色はこの状態にして、モデルさんにだけ逆光を当てています。さきほどの写真とは違い、カメラの角度や構える高さや位置を変えることで太陽の光がレンズに直接、入らないようにしています。それぞれの写真を並べて見てみましょう。
(1)モデルさんにもレンズにも逆光が当たっている
(2)モデルさんにだけ逆光。レンズには光を入れない
このようにロケでも屋根がある場所だと、撮影者がモデルさんを撮る角度を少し変えるだけで2パターンの撮影を行うことが可能です。
以前も話したように僕は短い時間でいろんなバリエーションの写真を撮れるかどうかが重要だと考えているため、今回のように同じ場所で違う雰囲気の写真を撮れる場所は積極的に撮影するようにしています。
まとめ
ロケで寄りの写真を撮ろうと思ったとき、モデルさんの顔に綺麗な光が当たっている瞬間を狙うと思うのですが、「綺麗な光ってなんだろう?」と一度、考えてみてください。人によって完成形は異なります。今回、話したように白い壁の反射の光を利用したものが綺麗と思うかもしれないですし、逆光のパターンが良いと思う人もいるでしょう。この講座で何度も言っている通り、良いか悪いかではなく、コントロールできているかどうか。そこが重要です。
■モデル:五味未知子
■写真家:コハラタケル
1984年生まれ、長崎県出身。大学卒業後、建築業の職人を経てフリーのライターに。ライター時代に写真の勉強を始め、その後フォトグラファーに転身。企業案件の撮影ほか、セミナー講師や月額制noteサークルを運営している。ハッシュタグ#なんでもないただの道が好き の発案者。
コハラタケルさんの連載記事はこちら
#01 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/x-pro3-6-20210912/
#02 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/x-pro3-5-20210918/
#03 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/x-pro3-4-20211105/
#04 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/x-pro3-3-20211207/
#05 なんでもないただの道が好き 街撮り講座|コハラタケル
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/x-pro3-2-20220108/