標準レンズで切り取る風景撮影の楽しみ方|齋藤朱門
はじめに
今回は標準レンズ(焦点距離35mm~80mm程度)を使った風景撮影の楽しみ方について紹介したいと思います。さまざまな焦点距離で表現できるのが風景写真撮影の醍醐味の一つだと思いますが、標準の焦点距離の場合でも広角レンズや望遠レンズとも違った風景撮影を楽しむことができます。
標準レンズの使いどころ
人の視野に近いと言われている画角である、いわゆる標準レンズ(単焦点、ズーム)は言うまでもなく、風景撮影においても使いどころは多く、幅広く様々なシーンに適用できると思います。筆者の場合は次のようなシーン・撮り方のケースで使っています。
直感的に見たままを表現したい時
やはり、自分が標準レンズを使うケースで最も多いのが、その時に自分自身の肉眼で見た瞬間に感じた目の前の風景の印象をそのまま表現したい場合だと思います。標準ズームレンズと単焦点レンズの両方を使用することがありますが、単焦点レンズはよりリアリティ感を表現するのに適しているように思います。
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■撮影環境:マニュアル露出・50mm・F13・ISO100・1/13秒
福島の有名な滝である、達沢不動滝での一枚。光り輝く繊細な滝の流れと木々の美しさを意識しながら撮影しています。
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■撮影環境:マニュアル露出・62mm・F16・ISO100・1/160秒
千葉県鴨川市の大山千枚田での一枚。縦構図にすることで、標準域でも空と手前の前景の両方を入れることで、広大なシーンでの奥行き感を出しています。
森林のシーン
場所にもよりますが、森の中での撮影では広角レンズや望遠レンズよりも、より標準レンズの方が臨場感や空気感を表現するのに適していることが多いように思います。
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■撮影環境:マニュアル露出・40mm・F9・ISO6400・1/160秒
白駒池の苔の森にて。薄暗い中での手持ち撮影だったため、ISO感度は高めになってしまいましたが、森の中では手持ちで素早く何かを感じた瞬間を切り取りながら撮るのも面白いと思います。
事前に焦点距離が分からないケース
撮りたいイメージを持ちながら、まだ知られてないような撮影場所を散策して探すような場合にも標準ズームレンズが最適だと思います。もし、もっと広く撮りたいと思った場合にも後述の方法で対応できますし、もっと寄りたい場合もとりあえず撮っておいて後で切り出すことで対応できます。
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■撮影環境:マニュアル露出・42mm・F11・ISO100・1/10秒
秋に撮影場所を探しながらドライブしている最中に、一面が紅葉に染まった森を見つけたので、車を停めて数枚撮った中の一枚。24-105mmのようにカバーレンジが広いレンズは、ばったりと思いがけずに出会うような風景を素早く撮影する際にはとりあえず装着しておくと便利ですね。
機材を減らしたいケース
登山や、車からの距離が遠い場所などで機材を減らす必要がある場合や、悪天候等でレンズ交換が難しいシチュエーションでは、どうしても全てのレンズを持っていくことが困難だと思います。そういったケースでも標準ズームレンズは重宝しています。
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■撮影環境:マニュアル露出・35mm・F13・ISO100・1/50秒
雪山撮影での一枚。雪で一面真っ白い世界が朝日の光で徐々に色づいていく瞬間がとても美しいですね。筆者の場合、登山時は機材軽量化のために、なるべくカバーレンジが広い標準ズームレンズを持っていく場合が多いですね。
標準レンズ作例
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■撮影環境:マニュアル露出・80mm・F16・ISO100・1/100秒
80mmですので、やや望遠よりの焦点距離ですが、標準ズームレンズで撮影しています。
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■撮影環境:マニュアル露出・51mm・F16・ISO100・1/100秒
イタリア・ドロミテでの一枚。同じシーンでもう少し引いて撮ったのが、次の一枚です。
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■撮影環境:マニュアル露出・35mm・F16・ISO100・1/80秒
同じシーンでも標準ズームレンズの幅広い焦点レンジのおかげで、レンズを変えることなくさまざまな切り取り方ができるのも面白いですね。
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■撮影環境:マニュアル露出・56mm・F10・ISO100・5.0秒
長野県にある有名な中綱湖の桜を撮った一枚。
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■撮影環境:マニュアル露出・51mm・F11・ISO100・6.0秒
白駒池の苔の森にて。霧に包まれる苔と白樺が幻想的な雰囲気を作り出していました。
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■撮影環境:マニュアル露出・46mm・F13・ISO100・8.0秒
秋の白神山地の周辺での撮影中、車で通りかかった際に一瞬気になる風景が目に飛び込んで来たので、急遽車を停めて撮影した一枚。いつまた風で水面が揺れて水鏡が撮れなくなるか分からなかったため、素早く撮影する必要がありました。
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■撮影環境:マニュアル露出・61mm・F10・ISO100・1/10秒
撮り方・テクニック
標準ズームレンズの場合は、比較的幅広いシーンに応用ができるので、特別なテクニックというのはあまりありませんが、もし標準レンズでもう少し広く撮りたいという場合は、パノラマ撮影を行うと良いでしょう。
下の写真は教会と後ろの険しい山を一緒に撮りたいと思ったのですが、撮影場所である丘を登る際に広角レンズを持ってこなかったので、急遽パノラマ撮影したものです。80mmくらいの焦点距離で撮影した写真を縦に3枚つなげて合成しています。
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■撮影環境:マニュアル露出・80mm・F16・ISO100・1/100秒(パノラマ撮影で3枚を合成)
さいごに
標準レンズといっても、単焦点レンズや広い焦点距離レンジに対応できる便利なズームレンズとさまざまなレンズがありますが、それぞれの特徴・利点を活かしながら撮影すると風景撮影のまた違った楽しみ方ができると思います。単焦点レンズはどの焦点距離のレンズを使うかが悩ましいですが、単焦点ならではの描写力が魅力的ですので、ボケを重視しないような風景撮影でも重宝します。
標準ズームレンズは筆者が一番多用しているレンズになります。やはりどれかレンズ一本だけ持っていく場合には便利で重宝するレンズだと思います。ぜひ、自分のお気に入りの標準レンズを持って風景撮影を楽しんでください。
齋藤朱門さんの撮影テクニック連載記事はこちら
・丘や山での撮影テクニック|齋藤朱門
https://www.kitamura.jp/shasha/article/483573391/
・星景写真の撮影テクニックと機材|齋藤朱門
https://www.kitamura.jp/shasha/article/483154709/
・滝・渓流での撮影テクニック|齋藤朱門
https://www.kitamura.jp/shasha/article/482531059/
・海での風景撮影テクニック|齋藤朱門
https://www.kitamura.jp/shasha/article/484586478/
・冬の風景撮影とテクニック|齋藤朱門
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485081309/
・望遠ズームレンズで切り取る風景撮影の楽しみ方|齋藤朱門
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485398095/
・広角レンズで切り取る風景撮影の楽しみ方|齋藤朱門
https://www.kitamura.jp/shasha/article/486245114/
■写真家:齋藤朱門
宮城県出身。都内在住。2013年カリフォルニアにて、あるランドスケープフォトグラファーとの出会いをきっかけにカメラを手に取り活動を始める。海外での活動中に目にした作品の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、自らがその場にいるかのような臨場感を出す撮影手法や現像技術の重要性を感じ、独学で風景写真を学ぶ。カメラ誌や書籍での執筆、Web等を通じて自身で学んだ撮影方法やRAW現像テクニックを公開中。