単焦点レンズで風景写真の表現力をアップ!|高橋良典
はじめに
さて、いきなりですが皆さんに質問です。風景写真を撮られる方で単焦点レンズって持っていますか?また、持っているとお答えの方は使っていますか?
私も各地で写真教室やセミナーを行なっているのですが「持っていない」または「持っているけどほとんど使っていない」とお答えの方が多い印象です。そこで今回は、私がどういったシーンで単焦点レンズを使っているのかをお伝えしてまいります。
※これから以下は風景撮影で使いやすい標準域以下のレンズに絞って、フルサイズカメラを基準に書いています。
単焦点レンズとは
風景を撮る方なら必ず1本はズームレンズをお持ちだと思います。例えば24-105mm F4や70-200mm F2.8などが挙げられますが、1本のレンズで焦点距離が変えられるレンズの事をズームレンズと呼びます。
それに対して、1つの焦点距離のみが使えるレンズのことを単焦点レンズと呼びます。例えば50mm f1.8というレンズなら50mmしか使うことができません。ズームレンズなら自分の立ち位置を変えずに狙っている被写体を大きく撮ったり広く撮ったりする事が出来ますが、単焦点レンズで大きく撮るには自分が被写体に近づく、広く撮るには自分が被写体から離れる必要があります。
単焦点レンズの特徴
1番に挙げられるのは明るいレンズが多いと言うことでしょう。ズームレンズの場合は開放F値が明るくても、そのほとんどがF2.8です(キヤノンRF28-70mm F2やタムロン35-150mm F2-2.8など一部レンズを除く)。
それに対して単焦点レンズではF1.8やF1.4、明るさを追求したものだとF1.2など、ズームレンズでは考えられない明るさのレンズが揃っています。
それから明るさの割にリーズナブルな価格のレンズが揃っているのも特徴です。ズームでF2.8クラスのものになると価格が25万円を超えるようなものが多いのですが、例えば開放値F1.8クラスの50mm単焦点レンズだと3万円以下で手に入るものも多いです。確かにF1.2クラスの高級単焦点レンズなどは高価ですがF1.8クラスならリーズナブル。手に届く範囲で明るいレンズが手に入ります。
単焦点レンズの使い所
単焦点レンズの特徴は大体ご理解いただけたと思いますが、ここからは私なりの単焦点レンズの使い方です。
まず先立って、ズームを含めたレンズ選択の考え方です(風景撮影に主眼を置いた場合)。これは個人差もあるでしょうから一概に言えない部分もあるのですがご参考になればと思います。
撮影のほとんどはズームレンズを使っている
風景を撮る多くの皆さんもそうではないでしょうか。これ以上前に出られない。後にも下がれない。また遠くの斜面を部分的に切り取りたいなど、カメラ位置と被写体との距離感を変えられないシーンが多い風景写真ではズームレンズの利便性が役立ってくれます。
そして自然の中を歩き回りながら撮影することも多く、荷物を少なくするにはやはりズームレンズ中心の構成となります。超広角ズーム(16-35mmなど)、標準ズーム(24-70mmや24-105mmなど)、望遠ズーム(70-200mmや100-400mmなど)の3本さえ持っておけば、どのような条件にも対応することが出来ます。
ズームレンズでは表現できない画に関してのみ単焦点レンズを使う
持ち歩く本数を少なくでき、自分が動くことなく画角を変えることが出来るズームレンズは、風景撮影の心強い相棒。目まぐるしく変わる気象条件の中でもシャッターチャンスを逃しません。言うまでもないのですが焦点距離の数値が同じなら写る範囲は同じです。
例えば単焦点レンズ50mm F1.8とズームレンズ24-105mm F4の50mm域は全く同じ画角です。F8やF11などに絞って撮影する場合はズームレンズを使っても単焦点レンズを使っても写りは同様なので、フットワークに優れるズームレンズで撮影します。
となれば単焦点とズームで明らかに差別化できるポイントは、やはり開放F値。そこで私がわざわざ単焦点レンズに交換して撮影するのはどのような時なのか?を一言でいうと
「手元にあるズームレンズの開放値より明るい絞りを使いたい時」です。
では、ここからは具体的に「F値の明るい単焦点レンズならでは」の写真をご覧いただきながら解説していきましょう。
大雨の奈良公園で雨宿りをする小鹿。暗い状況の手持ち撮影でも開放F値が明るいと速いシャッターが切れるのでカメラブレのリスクが減ります。
星の点像撮影では開放F値が明るいほど有利でその恩恵を受けられます。
開放F値が明るいと焦点距離が長くなくてもボケ表現が可能。濡れた落葉に最短撮影距離まで近づいて撮影しました。望遠的なボケ具合に見えますが背景の入り具合は望遠のそれとは違い、奥行を感じさせるものになっています。標準域(50mm前後)のレンズは使いようによって望遠的表現と広角的表現を使い分けることが出来ます。
若草山(奈良県)より東大寺大仏殿を遠望。大きな前ボケを作りつつ、風景全体をおさめました。きっとズームレンズだと前ボケが中途半端になってしまったでしょう。
F1.4で撮影。被写界深度の浅さを生かして水面にピントを置き、きらめく流れを前ボケとしました。
一見ボケ表現には不向きに感じる超広角域ですが、最短撮影距離付近まで近づきF1.8で撮影することで程よくぼかしつつサザンカの木の奥行きを伝えました。
咲き始めのユキヤナギをネックレスのイメージで描きました。超広角域でのぼかしは一味違った描写になります。最短撮影距離付近で撮影。
彼岸花を主役に朝露で玉ボケを作り背景をぼかしました。風景の広さを広角域で描いています。
背景の雑草が彼岸花の花びらとシンクロしているよう。この時、手元にあったズームは開放F4のものだったので単焦点レンズに交換。真上からの撮影で花と地面は比較的近いのですがF2.8でぼかすことが出来ました。
大口径レンズを開放で使うと周辺光量不足が起こります。本来はレンズの欠点とも言えるのですが、私は逆にレンズの味だと捉えています。
ただし、最近のカメラには周辺光量を均一にするための補正機能がついていますので、私は普段からオフにして使っています。この2枚は同じような条件で撮影したものですが上が単焦点レンズで絞りF1.8、下の写真はズームレンズで絞りがF16です。きちんとピントが合い、しっかりと撮れているのは下の写真ですが、上の写真は周辺光量が落ちている事で独特な雰囲気があり島の存在感が出ています。
風景写真的、単焦点レンズの選び方
そうは言っても実際にどれを選べば良いの?と思いますよね。カメラメーカー、レンズメーカーを含めると相当数の単焦点レンズがあります。その中で私が単焦点レンズを選ぶ際の優先事項は以下の3つです。
・所有しているズームレンズより明るいこと
・重量が少しでも軽いこと
・そして嵩張らない大きさであること
※近年発売されるレンズはリーズナブルな価格帯でも満足のいく画質が保たれていることが多い。
前述の通り、風景写真ではズームが主体ですので、私のバッグには超広角域~望遠域までをカバーできるよう最低でも3本のズームレンズが入っています。そこにプラスするという意味では上記3つの条件が重要になってきます。それらを満たすレンズとして私が所有しているフルサイズ用単焦点レンズは以下の通りです。
・ソニー FE 55mm F1.8 ZA
・ソニー FE 35mm F1.8
・ソニー FE 20mm F1.8 G
あと、今回の記事はフルサイズを基準に書いていますがマイクロフォーサーズでも以下を所有しています。
・OMシステム 45mm F1.8
・OMシステム 25mm F1.8
開放値が極めて明るい単焦点レンズも各メーカーにラインナップされているのですが、それらは「大きく・重く」なる傾向です。そうなると持ち出すのが面倒になったり、家に置いて行ったりしてしまいがち。せっかく買っても使わないのでは意味がありませんので、自分が持ち運ぶのにムリが無いかどうかを考えた上でのレンズ選びをおすすめします。
今までズーム以外は持ったことがなく初めて単焦点レンズを購入する方は、描写に癖のない35mmや50mm近辺のレンズがおすすめです。逆に標準域の単焦点レンズをすでに持っている方は、広角域の単焦点を手に入れて新たな表現にトライすると良いでしょう。
肉眼での遠近感に近い描写の標準域は、初めて単焦点を持つ人にも使いやすいと言えます。木の手前と雨が打ち付ける水面に浅くピントを合わせて奥をぼかすことで遠近をつけています。
上の写真と同様、自然な遠近感で描きました。開放絞りを使い、画面奥にかけて徐々にぼかしています。
まとめ
ここまで単焦点レンズについてお話してまいりましたが、実際の撮影では、ほとんどがズームレンズになってしまうのもよく理解できます。しかし、意識して使えば表現力アップ間違いなし!使えるようになるコツとしては、近所の公園など頻繁に通える場所で、あえて単焦点1本だけを持ち出してみる。そこからヒントが見えてくるかもしれません。
奥の深い単焦点ワールドを是非、楽しんで下さいね。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニーイメージングプロサポート会員・αアカデミー講師
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