野鳥撮影の楽しみ方と観察の重要性|山田芳文
はじめに
かつて、フイルムカメラの時代は、野鳥を撮る人はあまりたくさんいませんでした。ですが、撮影はせずに鳥を見るだけのいわゆるバードウォッチャーは普通にたくさんいました。一方で近年、野鳥を見るだけのバードウォッチャーは激減したように感じます。これは、野鳥に関心がある人が減ったわけではなく(むしろ増えているように思います)、観察はせずに撮るだけの人が増えたように私は感じています。
あまり観察をせずに野鳥を撮影するのもおおいに結構なのですが、良好な撮影結果を求めるならば、丁寧な観察は欠かせないものです。今回の記事では、野鳥撮影の撮り方だけでなく、観察の重要性についてもご紹介させていただきます。
双眼鏡
カメラとレンズは持っているけれど、双眼鏡は持っていない、という人がたくさんいるように聞いていますが、双眼鏡をご用意されることをお勧めします。双眼鏡は多くの人にとってなじみが薄いものかもしれませんので、簡単にご説明します。
商品名には通常、「〇〇×〇〇」などと数字が表記されています。前の数字が倍率で、後ろの数字が対物レンズ径です。たとえば8×42とあれば、倍率は8倍で、対物レンズ径は42mmです。そのうえで、バードウォッチングで使う場合のお勧めのスペックは以下の通りです。
まず倍率ですが、高倍率のものが大きく見えていいように思われがちですが、12倍ぐらいの高倍率な双眼鏡だと手ブレしてしまい、数秒間見るのが限界となってしまいます。なので、8〜10倍の倍率のものをお勧めします。
次に対物レンズ径について、対物レンズ径は大きいほど明るく見やすくなります。ですが、対物レンズ径は大きくなるほど双眼鏡は重く、大きくなります。なので、実際に手に取ってみて重さが負担にならないと感じたものをお勧めします。どれぐらいが重く感じるかには個人差がありますが、目安として、32〜42ぐらいのものがいいように思います。
そして、今回ぜひともお勧めしたい双眼鏡があります。それは、野鳥ファンが憧れるスワロフスキーのフラッグシップモデル「NL Pure 8×42」です。のぞいて見ると、別次元の明るくクリアな見え方に感動し、思わず声が出てしまいます。かつて私は、別のメーカーの双眼鏡を使っていましたが、知人にスワロフスキーの双眼鏡をちょっとのぞかせてもらった時に、その見え方に驚嘆しすぐに購入し、それ以来スワロフスキーのユーザーとなりました。
スワロフスキーの双眼鏡はそれなりのプライスではありますが、カメラと比較すると、商品サイクルが長いので、何十年も使うことも可能です。思い切って投資しても、時間が経ったらいい買い物をしたと実感できると思います。
観察することで、必然撮りができる
上の写真をご覧ください。杭の上と右横に白いもの(矢印のところ)が付着しているのがおわかりいただけると思います。これは野鳥の糞です。私たちと違って、鳥たちは出したら出しっぱなしなので、ここに止まっていたという証拠が残ります。これを見つけたら、杭から遠く離れて糞の主が現れるのを待ちます。しばらく待っていると、糞の主と思われる鳥が現れました。
スワロフスキーNL Pure 8×42でのぞくと、双眼鏡越しにジョウビタキの雌がくっきりと浮かび上がりました。糞の主がジョウビタキとわかったので、撮影の準備に入ります。ジョウビタキがいない間に、三脚にα1+FE 70-200mm F2.8 GM OSS IIをつけて焦点距離200mmでセット。ジョウビタキが左を向いた時に撮ると決め、背景が上から順にハイライト、濃いグリーン、薄いグリーンになるようにフレーミングして、自分はカメラ位置から離れてジョウビタキがくるのを待ちました。それなりの時間待ちましたが、ジョウビタキは杭にやってきて「ヒッ、ヒッ」と鳴いてくれたので、遠くからリモートでシャッター(※)を切りました。
※リモートでシャッターを切る方法は
(1) スマートフォンアプリのリモコン機能を利用する
(2) 別売りのリモコンを使用する
の2つに大別できます。スマートフォンアプリの場合、スマホ側のバッテリーの消耗が激しくなるのと、シャッタータイムラグが長い(ように私は感じる)ので、私は以下の別売りのもの(ソニー純正)を活用しています。
カメラを2台用意する必要がありますが、電波式ワイヤレスレシーバー「FA-WRR1」を撮影するカメラに装着して、発信側のカメラに電波式ワイヤレスコマンダー「FA-WRC1M」を装着して遠隔でシャッターを切っています。
ジョウビタキが止まる杭のすぐ近くにセットされたカメラのところに私がいると、ジョウビタキが私を警戒して杭にくる可能性が低くなりますが、無機質で魂のないカメラだけなので、いつも通りやってきたのではないかと思われます。カメラを警戒する鳥もいますが、そのような鳥でも、ほとんどの場合、一定の時間以上カメラを置きっ放しにすることでカメラを警戒しなくなります(人間が止まり場のすぐ近くに体丸出しで立ちっぱなしでいても、鳥が人を警戒しなくなることはほとんどありません)。
また、たとえ人間が目の前にいなくても、ほとんど全ての鳥はシャッター音に驚きます。なので、音による鳥への負荷を低減させるために、シャッターは電子シャッターのサイレントにしています。この時のカメラの設定もご紹介します。
通常このような場合、ジョウビタキの目がこの辺にくるであろうところに置きピンして、ピント位置が動かないようにMFで固定して撮影します。しかし、α1で撮る場合はAFでも問題はないので(むしろその方がベター)、AFモードを「AF-C」に、AF時の顔/瞳優先は「入」にして、顔/瞳検出対象は「鳥」に、フォーカスエリアは「トラッキング:ゾーン」に設定しました。
次に下の写真をご覧ください。こちらは焦点距離を70mmにして、周囲の環境も含めて丸ごと受け止めた写真です。同じフィールドで同じ個体を撮影する場合でも、カメラポジションを変えたり、レンズの画角を変えたり、撮影時間を変えたりすることで、別の意味合いのカットを撮影することができます。
ブラインドを使って撮影する
上述で遠隔操作による撮影をご紹介しましたが、カメラのファインダーを自分の目でのぞきながら撮影したいので、リモート撮影はちょっとなぁという方にお勧めしたいのがブラインドです。これは撮影用のテントで、簡単に設営と収納ができます。ブラインドの中に隠れるだけで、体丸出しでは到底撮影ができないような近距離から撮影することができます。
周囲にカモフラージュしたような状態で設置するのがベストですが、オープンスペースに人間の目には丸わかりの状態でブラインドを設営しても、かなりの効果が期待できます。いろいろなものが販売されていますので、ネットで検索してみて、ぜひご用意ください。
さいごに
最後に2枚写真を見ていただきたいと思います。
この2枚のヤマガラは、冬の間から継続的に観察を続けて、桜が咲いた頃に撮影するという構想を練って、開花してから撮影した写真です。撮影前にカメラは持たずに観察を繰り返したことで、
(1) 何時頃にどこからやってくるのか
(2) どこに止まるのか
(3) なぜそこに止まるのか
などカメラを持っていないからこそ見えてきたことがたくさんあり、撮影におおいに役立ちました。皆さんも撮影前に双眼鏡を持ってバードウォッチングを楽しんでみてはいかがでしょうか。
■写真家:山田芳文
「100種類の鳥よりも1種類を100回」をモットーに野鳥を撮り続ける。ライフワークは鳥がいる風景写真。主な著書は『写真は「構図」でよくなる!すぐに上達する厳選のテクニック23』(エムディエヌコーポレーション)、『やまがら ちょこちょこ』(文一総合出版)、『SONY α6600 基本&応用撮影ガイド』(技術評論社)など。 最新刊は『SONY α7 IV 完全活用マニュアル』(技術評論社)。