佐藤俊斗 × ポートレート vol.2 | 春を印象的に映し出す桜撮影テクニック
はじめに
気温が少しずつ上がり、日差しの中でほころび始める花たち。そんな中でも特に好きな花の1つである『桜』は、いつも暖かい風と共に春の訪れを感じさせてくれます。
連載2回目である今回のテーマは、桜。私の象徴ともいえる、毎年好評の桜ポートレートでの構図の作り方や、光の取り込み方、人物の捉え方などについて詳しく説明していきますので、ぜひ今年の桜撮影の参考にしてみてください。
桜を魅せる構図の作り方
皆さんは、桜の写真を撮る時にどのような事を心がけていますか?
私の場合は
・桜を美しく切り取る
・背景には必要以上の情報を入れない
・光の向きを考える
・桜を引き立てる
これを基本として心がけて撮影を行っています。
これらの基本とプラスアルファの要素を合わせて、桜と人物を美しく撮影する際のテクニックを解説して行きます。
まず1枚目。上の写真をご覧ください。
こちらはロケーションを活かした引き写真です。
構図に対する考え方として、桜が川に向かって大きく咲いている壮大さを表現するために、人物を中央に配置し、バランスを調整しています。この時、被写体が近すぎても桜が引き立たず、遠すぎても印象が薄れるためバランスはとても重要です。
また、桜の影の中に人物を入れてしまうと衣装の色味が薄れ、影に埋もれた暗い写真になってしまう為、影に重ならないギリギリの所に座ってもらいました。顔はカメラに向けずに対岸を見つめていることによってより自然で儚げな1枚になっていますね。印象的な影をしっかり写しつつ、桜をより美しく引き立てるために背景の川から水色を取り入れ、桜の色が映えるようにしました。
引きの写真のバランスはとても難しいですが、一般的な日の丸構図に加え、三分割構図などの色々な構図がある中で、一枚の写真を撮影する時に「写し込む情報のそれぞれの配分」を素早く考えて撮影しています。桜、影、人物、川の4要素のバランス。必要な情報量を明確にしながら、その割合を考えて絶景のこの空間でしか撮れないものを切り取ることを意識してみてください。
次にお見せするこちらの写真も特にバランスを重要視しています。
2枚の写真を見比べてください。
2枚目は人物を配置させ、階段を降りてもらう事により桜の壮大さを表現しています。思いきって大胆に引き、奥行きが出るように少し画角を変えただけで桜のボリューム感がしっかりと伝わるのではないでしょうか。
ここで質問です。
絶景スポットで撮影するとき、皆さんは縦と横ではどちらで撮影されますか?
私は引き写真では特に「横」で切り取る事が多いです。なぜなら人間の視野角は縦ではなく、横に広がり『パノラマのように』景色を捉えている為、目で見た感動をそのまま写真に写し出すには、横写真が最適だと考えるからです。
その為、この写真も広がる大きな桜をよりダイナミックに表現しようと思い横で撮影しました。階段を降りる被写体、そこを囲うように咲いている立派な桜並木。こんな風に1枚の写真から情景が広がります。このように物語の一瞬を切り取ったような写真を作り出すポイントもなりますので是非覚えておいてください。
「光」で作る写真
壮大な桜と川の波紋が印象的なこの写真。
実はよく見てみると桜の中に立ってもらっているだけでなく、桜の木漏れ日を目元に入れているんです。光の向きは逆光気味で少し暗い雰囲気の写真も、ワンポイントとして光を取り込む事を意識するとより印象的な1枚にする事ができます。
次はロケーションを変えて撮影しました。
先程述べたことを踏まえて見比べてみてください。
光は見つかりましたか?
構図、人物の動きはほとんど同じですが、2枚目には髪の毛にワンポイントで光を入れて撮影しました。
引きの構図は特に、桜や周りの背景だけに着目して撮影しがちですが、その絶景の中でも人物を引き立てることは同様にとても重要です。
この日はとても風が強く、桜並木の隙間から差し込む光の向きが変化する中で2枚目のような一瞬の光を捉え撮影しました。このように、少しの光の当たり方を変えるだけで絶景の中でも被写体を引き立てた完成度の高い写真を撮影することができます。
寄り写真の表現方法
次は寄りの撮影ポイントを解説します。
私の場合、寄り写真でも桜を壮大に切り取ることを意識して撮影しています。写真のように、前ボケを左側に作ることで奥行き感を出し、被写体を引き立てることができます。寄りの写真こそ奥行きが大切であり、抜け感を出すことも大事な要素の一つです。
そして、背景にも立派な桜並木を画角に入れて切り取りました。それを写さないとせっかくの景色が勿体無いですよね。先程お伝えしたように、「ロケーションを活かした撮影」はこのように寄り写真でも活用できます。
被写体を真ん中に配置する定番の日の丸構図でも、左に前ボケの桜・真ん中に被写体・右側に抜け感を作り背景に桜並木を写すことによって立体感と、奥行きを感じさせることが出来ます。
影も上手に使う
この日は天候にも恵まれ、桜の木からの木漏れ日が美しく、ひとつの表現方法として影を入れて切り取りました。2枚目のような少し陽が傾いた時間帯に柔らかい光が木の下を照らし、優しい影をつくっています。
視野を広く持ち、着眼点をいつもと変えて撮影してみるのもいいかもしれません。
夕陽×桜
桜の定番の撮影は、日中の明るい光の中で青空と桜を写すというイメージを持つ方が多いと思いますが、実は夕方の光は桜をより美しく儚く彩ってくれます。優しい光と桜のピンク色の相性が良く、ドラマティックな作品になるので夕陽に切り替わるまでの「日没前の光」で撮影することをおすすめします。
このロケーションは、真っ直ぐ抜け感のある通りがとても印象的な場所なので、この道を夕陽に向かって颯爽と駆け抜けるシーンをイメージして撮影しました。ドラマティックな情景を頭の中でしっかりと思い浮かべて映画のようなワンシーンを切り取ることを意識して撮影しています。
このような動きのある写真を切り取る際のポイントは、寄り、引きのどちらにおいても風向きを意識することです。被写体のスカートがピタッとなっていたらどうでしょうか。私は表現として不十分だと感じます。目の前の景色や情景をそのまま表現することを重要視する一方、写真においても「動きを表現する」ということがとても大切になってきます。
この写真は、歩き出しの前に踏み出すシーンで、その中でもスカートと髪がなびく瞬間にシャッターを切りました。こういった動きは、写真の中の一つのスパイスとしていい味を出してくれます。写真はあくまでも静止画ですが、動きのある写真を撮る上で、上記で説明したような構図づくりに加えて、その場の情景や風向きを写真として写し出す事を意識してみて下さい。風になびく髪やスカート、手指の動きまでを見極めて切り取ることで、より魅力的な写真になるでしょう。
まとめ
今回は絶景の桜並木での撮影方法や、構図としての考え方、美しく切り取るポイントなどを解説しました。いかがだったでしょうか?少し矛盾した話にはなってしまいますが、個人的には作り込みすぎない少し力を抜いた写真、思い出に残るような一枚も私は素敵だと思っています。
これからのお花見シーズンに向けて、これまでとはひと味違った桜写真が撮れるように、是非今回の内容を参考にしてみてください。暖かい春を一緒に楽しみましょう。
■モデル:秋庭ひろね
■写真家:佐藤俊斗
「佐藤俊斗 × ポートレート」の連載記事はコチラ
佐藤俊斗 × ポートレート vol.1|光の捉え方
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485296339/