デジタル時代の現像スキルでワンパターンから脱却 vol.1 「ベストショットを選ぶ」ためのルーチン
はじめに
過去3回に渡り「デジタル時代の発想転換でワンパターンから脱却」と題して、デジタル時代ならではの多彩な構図で撮影する発想転換についてご紹介しました。
ここからは「デジタル時代の現像スキルでワンパターンから脱却」と題し、Adobe Lightroom Classic CCを使って撮影した多数の写真からベストショットを効率よく選び、更に感動を伝える作品に仕上げるまでを3回に渡って連載していきます。
撮り溜めた写真を現像するのに無限に時間がかかってしまい、嫌になることがあるのではないでしょうか。そこで多くの写真から効率よくベストショットを選び、ベストショットだけを現像するという私流の効率的な方法をご紹介します。
※ここでご紹介するのは風景写真(特に富士山)の経験から得た私なりの考え方と方法論の一つのパターンです。写真によって別のパターンで行う場合もあれば、これが絶対正解という訳ではありませんので、ここでご紹介する以外の考え方や方法論も参考にしていただき、ご自身に適した道を見出していただければ幸いです。
※ここでは現像の主な流れをご紹介することを目的とするので、Lightroom Classic CCの操作方法全てについては触れません。
参考動画:アドビ公式YouTubeセミナー「写真家が語る『物語を伝える』写真のつくりかた」
「ベストショットを選ぶ」ための粗現像
これからご紹介する方法は被写体の向いている方向が決まっていて、短時間に多数のバリエーションを露出固定で撮影した写真群に特に有効な方法です。
【1】
画像1は短時間に構図を変えながら何十枚も撮影した写真をLightroom Classic CCに読み込んだ中の一部です。
これらは全て被写体が同じ方向なので、一番明るい雲や空が白飛びしない露出(マニュアルモード、絞りf/16、シャッター速度1/25秒)で統一して、アングルやズームを変えながら撮影(露出固定撮影)しています。結果、まだ朝日が当たっていないひまわり畑はアンダー気味になりますが、この程度は現像で問題なく調整できます。
【2】
ここで、ベストショットを選別していくのですが、何十枚もあるとピント確認から始めるか、レーティング(★付け)から始めるか、現像から始めるかで効率が大きく変わります。
これらは二世代前のSONY α7R IIIで撮影したものですが、AF性能は十分信頼できるものがあります。なので、ピント確認はある程度レーティングした後で行います。
空が多く入る風景写真では、白飛びを避けると多くの場合暗部のディテールが判別しにくくなります。私の場合、この様なパターンではレーティングするための荒現像から始めます。
まず、最初の一枚を選び、現像モードでシャドウと黒レベルを少しずつ調整してプラスに補正します。この写真の場合、シャドウを+100、黒レベルを+56に調整しました。(画像2)
【3】
コントラストが落ちるのでトーンカーブでコントラスト(中)を選びます。(画像3)
トーンカーブの代わりに基本補正メニューのコントラストのスライダーで調整しても問題ありません。
更に調整を進めても良いですがレーティングするための粗現像なので、暗部のディテールが確認できれば十分なのでこの程度で次のステップに移ります。
※粗現像ではマスクなどを使用した部分補正やトリミングは使用せず簡単な基本補正にとどめます。
【4】
他の写真も露出固定で撮影しているので、全て同じ現像を施しても、明るくなりすぎたり暗くなりすぎることなく統一的に現像できることがここでのポイントです。
最初の一枚の粗現像ができたら、露出固定で撮影した全ての写真を選択し、粗現像した最初の一枚をアクティブにします。(画像4)
【5】
画面右下の「同期」ボタンをクリックするとパラメータの設定画面が現れます。
粗現像を施した「基本補正」と「カーブ」だけにチェック(✔️)を入れます。(画像5)
【6】
同期ボタンをクリックすれば自動的に選択した全ての写真に同じ現像が施されます。(画像6)
【7】
ライブラリモードでグリッド表示にして全てが現像されていることを確認します。(画像7)
この段階でルーペ表示にすると画像が荒く、解像度を取り戻すのに時間がかかることがあります。
【8】
そこで、全体を選択した状態で「ライブラリ」>「プレビュー」>「1:1プレビューを生成」をクリックすると等倍まで解像されたプレビューが生成されるので、高精細のルーペ表示を素早く送りながらレーティングすることができます。(画像8)
※PCの能力によっては多数の写真のプレビュー生成に時間がかかりますが、一枚ずつ開く度に解像度が上がるのを待つより結果的に効率的です。
「ベストショットを選ぶ」ためのレーティング
これで暗部のディテールもよく見えるようになったので、ベストショットを選ぶためレーティング(★付け)によって絞っていきます。
この時、全て一度にレーティングするよりも横構図と縦構図、空が広い構図とひまわり畑が広い構図、標準画角と広角画角のようにグループ分けしてレーティングする方が効率的です。
ここで紹介するのは8枚ですが縦と横の構図が混在しているので、縦構図と横構図を別々にレーティングしていきます。
【9】
【10】
まず、横構図の5枚を選択して「選別で開く」をクリックすると横構図のみが表示されます。
(画像9、画像10)
【11】
【12】
一枚を選んで「ルーペで開く」と大きく表示されます。(画像11)(画像12)
左右のカーソルキーで写真を移動しながら良いと思う写真に数字キーの「1」を押して「★」を付けていきます。これがレーティングです。
ちょっと小さいですが画像12の写真の下に★が付いているのがわかります。
【13】
【14】
グリッド表示に戻って画面上部の「属性」>「レーティング」の「★」を選択すると、★一つの写真だけに絞られて表示されます。(画像13、画像14)
先ほどと同じように「選別で開く」で「★」の写真だけを選別表示し、「ルーペで開く」で大きく表示しながら左右のカーソルキーで写真を移動しながら、良いと思う写真に今度は数字キーの「2」を押して「★★」を付けていきます。
【15】
同様に次は数字キーの「3」で「★★★」を付けていきます。
更に縦構図でも同じことを行います。(画像15)
ここでは「★★★」の一枚がベストショットという事になります。
なお、ベストショットは複数枚でも、横構図と縦構図でそれぞれ1枚ずつなどでも構いません。目的に応じてベストショットの種類や枚数を選べば良いのです。
そして、選別されたベストショットに更に現像を施して作品に仕上げていけば全体効率がとてもよくなります。
※レーティングは必要なら「★★★★★」まで付けることができます。
なお、ピントの確認はレーティングである程度枚数を絞った段階で(この場合だと「★★」くらいの段階で)一枚ずつズーム表示して確認すると効率的です。
もし、ピントが甘いものがあれば、レーティングを一つ下げた中から(この場合だと「★」から)似た様な構図を選べば良いわけです。
まとめ
今回は、過去3回に渡りご紹介した「デジタル時代の発想転換でワンパターンから脱却」の考え方に基づいて撮影した写真から、私が実践している「ベストショットを選ぶ」ためのルーチンの一つのパターンをご紹介しました。
たくさんの構図を撮りすぎると選ぶのに膨大な時間がかかるため、三脚を設置した場所から動かず渾身の一枚を撮るという方法も一つですが、カメラの性能を活かして多彩な構図を撮影しておき、今回ご紹介した様な方法で効率的にベストショットを選ぶというのもデジタル時代の恩恵を活かす方法だと思います。
私はこの様な方法によって、撮影時にベストショットと思っていた構図より更に優れた構図を後から発見することは多々あります。
次回は 「ベストショットを仕上げる現像」と題して、今回選択したベストショット「★★★」の現像を完成させる事例をご紹介します。
※ここでご紹介した画面はLightroom Classic CC 13.3.1 リリース、Camera Raw 16.3.1 の画面です。バージョンアップにより画面デザインやツールバーが変更されて、今回のご紹介画面と異なる場合があります。
※Lightroom Classic CCはAdobe Inc.(アドビ社)の米国ならびにその他の国における登録商標または商標です。
※Adobe 製品のスクリーンショットは Adobe の許可を得て転載しています。
■写真家:TAKASHI
2011年から富士山をメインテーマに風景写真を撮り続ける富士山写真家。主な所ではNational Geographic Traveler誌の2018年6/7月号表紙に採用されSony World Photography Awards 2018日本3位受賞、WPC 2022 (ワールドフォトグラフィックカップ)で日本最高得点を受賞。作品は世界各国のT V番組・写真集・専門誌・カレンダーなどで数多く紹介・掲載されている。
2019年1月銀座ソニーイメージングギャラリー、2020年1月銀座MEGUMI OGITA GALLERY、2023年3月あさご芸術の森美術館、他で写真展を開催。透明感のある美しいカラー、ダイナミックなコントラストのモノクロ、深みがあり記憶に残るブルーインクシリーズと多彩な作品を世界に発表し続けている。