デジタル時代の現像スキルでワンパターンから脱却 vol.3 「ベストショットをステップアップさせて感動を伝える現像」

TAKASHI
デジタル時代の現像スキルでワンパターンから脱却 vol.3 「ベストショットをステップアップさせて感動を伝える現像」

はじめに

ここでは、Adobe Lightroom Classic CCを使ってVol.2で行った仕上げの現像を、さらにステップアップさせて感動を伝える現像についてご紹介します。

撮影以上に現像は写真に感動を与える重要なステップですが、感動を与える現像と言っても多種多様の考え方や現像方法があります。ここでは色彩を際立たせてより鮮やかに魅せる現像のパターンをご紹介します。

※ここでご紹介するのは風景写真(特に富士山)の経験から得た私なりの考え方と方法論の一つのパターンです。写真によって別のパターンで行う場合もあれば、これが絶対正解という訳ではありませんので、ここでご紹介する以外の考え方や方法論も参考にしていただき、ご自身に適した道を見出していただければ幸いです。
※ここでは現像の主な流れをご紹介することを目的とするので、Lightroom Classic CCの操作方法全てについては触れません。

参考動画:アドビ公式YouTubeセミナー「写真家が語る『物語を伝える』写真のつくりかた」

色彩を際立たせてより鮮やかに魅せる現像

【1】

(画像1)の写真は「デジタル時代の発想転換でワンパターンから脱却|vol.1 撮影者の期待に応えてくれるα7RシリーズとGMレンズの魅力」でご紹介した一枚です。

富士山の冠雪や空が白飛びしない露出で撮影したRAWデータなので、モミジや湖面の波は実際より暗く鮮やかさに乏しい印象です。
また、水平も若干ズレています。

【2】

まず、仕上げの現像を施します。
暗部を明るくするため不自然にならないよう注意しながら「シャドウ」を調整。この場合は+100まで調整。(画像2)

【3】

次に鮮やかさを取り戻すため「白レベル」を+60まで調整。(画像3)

【4】

明るくなりすぎた空を抑えるため「ハイライト」を-90まで調整。(画像4)

【5】

逆光らしいコントラストを取り戻すため「トーンカーブ」の「コントラスト(中)」を適用。(画像5)

【6】

水平を取り戻すため「切り取りと角度補正」で角度を1.35に調整。(画像6)

これで仕上げの現像が一通り出来上がりました。
このままでも十分美しい仕上がりです。

しかし、この一枚を撮影した時は鮮やかなモミジと煌めく波紋に挟まれた富士山の存在感に感動してシャッターを押しました。
この画像では鮮やかなモミジに対して富士山と波紋の存在感に物足りなさを感じます。

※実際に波紋はもっと鮮やかに煌めいていた印象です。

【7】

ここからは、シャッターを押した時の感動を伝えるプラスアルファの現像を試みます。

まず、この写真の場合は富士山と湖面がブルー系なので「カラーミキサー」で調整することを選択します。

鮮やかなモミジに対して彩度と色相のバランスが取れるように「カラーミキサー」の「彩度」の「ブルー」を+35に、「色相」の「ブルー」をを-3に調整して富士山と湖面のブルーを軽やかで鮮やかに調整します。(画像7)

※「ブルー」を大きく調整すると、近い色「アクア」や「パープル」のバランスが不自然になる場合があります。その時は「アクア」や「パープル」も少し調整してバランスを取ります。

【8】

次に、波紋の煌めきを再現するため「マスク」(部分補正)を使用します。
湖面は湖畔の直線で上下に区切られているので、写真の下半分の湖面を部分調整するためにマスクの「線形グラデーション」を使用します。(画像8)

【9】

「線形グラデーション」をクリックした後、カーソルを湖畔部分でクリックしながら上方向にドラッグすると、直線で区切られた下の部分が調整有効範囲を示すグリーンの「オーバーレイ」表示になります。

同時に「マスク」メニューに「マスク1」が現れ、その下にグレーで囲まれた「マスク1」の調整画面が現れます。(画像9)

※オーバーレイ表示の色はデフォルトの「赤」から変更して「グリーン」にしてあります。

【10】

波紋の煌めきを表現するため「オーバーレイ」表示された部分だけにコントラストをつけます。
「白レベル」を+30に調整、「ハイライト」を-15にすると「オーバーレイ」の明るい部分が強調されました。(画像10)

【11】

次に空を調整して富士山を少し際立たせます。
「+新しいマスクを作成」をクリックすると現れるマスク一覧で「空を選択」をクリックします。(画像11)

【12】

しばらく待つとAIが判断した空がオーバーレイ表示(この写真ではグリーン部分)されます。(画像12)

【13】

「マスク2」の調整枠の少し下にある「明瞭度」を+50に調整すると富士山が少し際立ちます。(画像13)

このようにLightroom Classic CCの様々な機能を駆使して目指すイメージに調整していきます。

(画像13)にさらに細かく調整を加えることで完成度が高まりますが、ここではモミジと波紋と富士山のそれぞれの存在感のバランスが整った(画像13)の時点で、シャッターを押した時の感動を伝えるプラスアルファの現像の目的に達したとします。

これはあくまで一つの考え方によるプラスアルファの現像なので、もっと様々な考え方があればLightroom Classic CCの機能を駆使して目指すイメージに調整していけば良いのです。

今回ご紹介した現像を一つの参考としていただければ幸甚です。

「現像は第二の撮影」というチャンスを活用する

撮影時に三脚に固定してPLフィルターやクリエイティブスタイル(SONYの場合)などを駆使して、構図をじっくり練り込みながら完璧の一枚をjpegで撮り下ろすことができれば良いのですが、光の条件が厳しい時や混み合う撮影スポットなどでそれが叶わないことも多々あります。

そんな時は手持ちで短時間に効率よく様々なバリエーションを撮影し、PC上でベストショットを選んで現像で完成度を上げることもデジタル時代の撮影方法と言えるでしょう。

ここまででご紹介した、ベストショットを選び現像で完成度を上げることは第二の撮影と考えることもできるのではないでしょうか。
撮り溜めておくだけでは勿体無いので「現像は第二の撮影」チャンスと考えてみるのはいかがでしょう。

そしてトリミングも「第二の撮影」チャンスと考える事もできます。
(画像13)をよく見ると、画面右端に紅葉の隙間から小さく空が見えています。また、左端に細い枝が3本下に向かって伸びており、中でも一番左の枝が目立ちます。また、右手前の湖面に浮かんだゴミも少し目立っています。

このままでも十分ですがトリミングでそれらの要素を外すことで、より富士山の存在感に視線を誘導する事ができます。

【14】

「切り取りと角度補正」メニューを選んでトリミング枠の四隅をドラッグして範囲を狭めれば簡単にトリミングできます。(画像14)

【15】

現像の前後を比較したのが(画像15)です。

【16】

完成した一枚をJPGなどで書き出せば完了となります。(画像16)

まとめ

仕上げの現像をさらにステップアップさせる感動を伝える現像、そして「現像は第二の撮影」という考え方と、パターンの一つについてご紹介しました。

Lightroom Classic CCの多彩な機能は調整自由度が高いので、様々な現像アプローチが可能なだけに最初はコツがわからず不自然になったり、思うに任せない事も多いと思います。しかし現像は「ヒストリー」をさかのぼれば簡単にやり直す事ができるので、いろいろなスライダーを調整していく中でコツを掴んでいければ広大な可能性が広がります。

※ここでご紹介した画面はLightroom Classic CC 13.3.1 リリース、Camera Raw 16.3.1 の画面です。バージョンアップにより画面デザインやツールバーが変更されて、今回のご紹介画面と異なる場合があります。
※Lightroom Classic CCはAdobe Inc.(アドビ社)の米国ならびにその他の国における登録商標または商標です。
※Adobe 製品のスクリーンショットは Adobe の許可を得て転載しています。

 

 

■写真家:TAKASHI
2011年から富士山をメインテーマに風景写真を撮り続ける富士山写真家。主な所ではNational Geographic Traveler誌の2018年6/7月号表紙に採用されSony World Photography Awards 2018日本3位受賞、WPC 2022 (ワールドフォトグラフィックカップ)で日本最高得点を受賞。作品は世界各国のT V番組・写真集・専門誌・カレンダーなどで数多く紹介・掲載されている。
2019年1月銀座ソニーイメージングギャラリー、2020年1月銀座MEGUMI OGITA GALLERY、2023年3月あさご芸術の森美術館、他で写真展を開催。透明感のある美しいカラー、ダイナミックなコントラストのモノクロ、深みがあり記憶に残るブルーインクシリーズと多彩な作品を世界に発表し続けている。

 

 

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