目からうろこ!並木隆の花撮影術|写真は見た目通りに写らない!光の使い方を学ぼう

並木隆
目からうろこ!並木隆の花撮影術|写真は見た目通りに写らない!光の使い方を学ぼう

はじめに

花に限らず、写真を撮るうえで最も重要なのが「光」です。花と言えば「逆光」で撮るものというイメージがありますね。逆光で見る花は、花びらに光が透けて輝いて見えるのでとてもキレイです。では背景はどうでしょう? 肉眼で見る背景よりも暗く写っていませんか? 

↑花の明るさはこのくらいに見えますが、見た目の背景はこんなに暗くないですよね?

↑見た目の背景はこのくらいの明るさで見えています。

そこで背景を見た目に近付けるために露出補正をプラス側に補正していくと、今度は花が真っ白に飛んでしまいます。
逆光で輝く花を基準に露出を決めたら背景が真っ暗に、背景を基準に露出を決めたら花が真っ白に。あちらを立てればこちらが立たずになってしまうのは、いったいなぜでしょう?

写真は見た目通りに写らない

まず、写真は見た目通りには写らないんです!
えっ! っと思うかもしれませんが、明暗でいうと肉眼の半分くらいしか再現できないんです。

下の手書き感満載のイラストをご覧ください。肉眼で見える明るいところから暗いところまでをこの幅だとすると、写真で再現できる範囲はこのくらい(手書きなのですごく大雑把です。こんな狭いわけないとかツッコミは受け付けません)なんですよ。だから白飛びや黒つぶれがあるんです。

晴れた日のように光の当たるところ(日向)と当たらないところ(日陰)の明暗差が大きければ大きいほど、日向を基準に露出を決めたら日陰は見た目よりも暗く写り、日陰を基準に露出を決めたら日向は明るく飛んでしまうんです。

じゃあ光が均等に当たる順光なら大丈夫じゃないの? と思うかもしれませんが、順光では花の凹凸があると必ず太陽の反対側に影ができます。その影が見た目よりも暗く濃く写るので汚く見えてしまうんです。

その影を明るく見せようと露出補正をプラス側に補正していくと、光の当たっているところは逆光と同じように白く飛んでいってしまいます。見た目にキレイに見えるから、写真でもキレイに写せるはず! という先入観を取り払うことがポイントです。

明暗差のないところにレンズを向ける

見た目通りに見せたいならどういう光の状態を選べばいいかというと、日陰や曇り、雨など明暗差がないところです。
でもそんなところは薄暗いから写真でも暗く写っちゃうじゃないっ! と思って今まで避けていたのではないでしょうか? 

しかし写真は露出補正という明るさを調節できる機能がありますから、日陰や曇り、雨など薄暗く見えていても、仮に暗く写ったとしても明るく写るようにプラス側に露出補正すればなんの問題もありません。

【±0EV補正】日陰や曇り、雨では見た目このように暗く見えますけどね。

【+1.7EV補正】明るく補正すれば見た目の暗さなんて全然問題になりません。

明暗差のないところであれば花に凹凸があったとしても影がでることはなく、逆光のように背景が真っ暗になることもなく、被写体も背景もちゃんと色を出すことができるのです。

でもひとつ注意したいのが色味。日陰や曇り、雨などの条件では明暗差がないかわりにやや青味がかった色味になっています。それを補正するのがホワイトバランスです。

最近のデジタルカメラは画面の中の色も判断しながらホワイトバランスを調整するので、オートでも良好な結果がでる機種もあります。でも、オートではフレーミングを変えると色味も変わるという欠点があるので、オート・曇り・日陰の3つは撮影しておき、後でどれが一番好みの色に仕上がるかを選べるようにしておきましょう。

また、あえて青味を残して雰囲気を出した方がいい場合もあります。こういうときはどんな設定にしたらいいのか? という答えを探るのではなく、どんな条件のときにどの設定が一番自分の好みかを探っていきましょう。それをいろいろなところで繰り返していくと、設定に迷うことはなくなってきますよ。

オートホワイトバランス
曇り
日陰

どのホワイトバランスが正しいのか、ではなく、どのホワイトバランスが好みの仕上がりになるのかで選べばいいのですよ。見た目の色なんて撮影した本人しかわからないんですから(笑)。

日陰で撮影したアガパンサス。形の複雑な花ほど光が当たると影が出て汚く見えてしまうことが多いので、明暗差の少ない光の条件で撮影すると色も形もしっかり出すことができます。

曇りの日は影が目立たないので被写体に影ができないだけでなく、背景にも影の黒い部分が入りにくく、色を出しやすいメリットがあります。

逆光だって撮っていいんですよ

こう書くと日陰や曇り、雨じゃないと花は撮ってはいけない! と受け取る人が多いんです。あくまで明暗差のないところだと影が目立たなくなるのでキレイに撮れますよ、というだけ。逆光で撮っちゃいけないなんてひと言も言っていませんからね。

逆光では背景が暗くなりやすいですが、それは影になっている部分も入りやすいからです。その影の部分と光の透けている部分の明暗差が大きいから見た目通りに写らないだけなので、光の透けている部分と背景が同じ明るさなら明暗差が少ないのでちゃんと色を出すことができます。

逆光で撮影していますが、背景にも同じように逆光で光が当たっているので色がしっかり出ています。被写体と背景に明暗差がなければ逆光でも撮っていいんです。被写体と背景の光の当たっている部分を把握することが大切なのですよ。

またまたこう書くと逆光では色を出さなきゃいけないと受け取る人がいるのであえて書きます。明暗差があるのが逆光だから、このように影の部分を多くフレーミングしてマイナス補正すると、光の透けている部分だけが浮かび上がってきます。こういうときマイナス補正はどのくらい? って聞きたくなりますよね? だから露出補正がなかなか覚えられないんですよ。マイナス1~3段くらいまで変えて撮ってみて自分好みの露出を探していきましょう。

順光は小さくたくさん!

逆光で撮ってもいいんですから、順光で撮ってもいいんです。でも、順光では花びらの反射する面が多くなるので反射によって色が出にくく、色を出そうとすると暗めの露出にしなければならなくなります。また、花の形によっては花のところどころや茎などが黒くなりやすいので、アップでは影の黒い部分が汚く見えがちです。

色を出そうとすると暗めの露出になるので、背景もくすんできちゃうことがあります。このような大きさの花写真に順光が向かないのは、反射と影になっている部分の明暗差が激しいからなんですね。

じゃあどんなときに順光で撮るかというと、青空を背景に入れたいときです。逆光では空を入れても太陽に近い空が入るので白くなりがちだからです。また、花を大きく写すと前述したように影が目立ってしまうので、このように花を小さくたくさんフレーミングするのがポイントです。これは上の写真の菜の花からカメラを上に振ったところにある菜の花なので光線状態は全く一緒なんですが、全然印象違いますよね? 花を小さくすると陰も目立ちにくくなるからキレイに見えるんです。

もうひとつはこのように風景っぽく撮りたいときですね。望遠レンズでも広角レンズでもポイントは同じです。空を入れるときに比べて手前が多く入るので、広角レンズを使うときは自分の影が画面の下に入りやすいので注意しましょう。

ちょっと特殊な順光の使い方として、真っ赤な花を影と一緒に撮ったりもします。赤は露出を暗くするとどんどん濃くなっていきますし、影も同系色の暗い色なので極端にマイナス補正して黒く潰してしまいます。するとこのように真っ赤な色だけが印象深い作品に仕上がります。順光で光が当たっているからこそできる表現ですね。

まとめ

撮影のとき、写真の再現できる範囲と肉眼で見える範囲の違いをまずは意識しましょう。晴れている日の順光や逆光で撮影したとき、撮影後の画像を背面液晶などで確認しながら肉眼との見え方の違いを把握すると、だんだんわかってきます。これが把握できるようになったときが「光の使い方」をマスターしたときです。

順光、逆光、日陰、曇り、雨といった光の条件で、花撮影にもっとも適した光なんてものは存在しません。どんな表現をしたいのかで変わってくるのです。

 

 

■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。

 

 

関連記事

人気記事