目からうろこ!並木隆の花撮影術|今年こそ失敗しない!桜をキレイに撮るコツ
はじめに
桜の撮影って本当に難しい! 幼い頃から誰もが見ている、知っている花だからみなさんそれぞれにイメージが出来上がっちゃっているんです。そこをぶち破るくらいのインパクトのある写真じゃないと「あぁ~桜ねぇ~」って普通に見えてしまいますよね。
そんな桜の花の撮影でいつも気をつけていることは、枝や日陰の暗い部分をできるだけ入れないようにすること。なぜかというと桜の色は白やピンクなどの明るい色が多いので、その中に枝や日陰の暗い部分が黒く入ってしまうとすごく目立ってしまうからです。
花は小さめにフレーミングして可愛く見せる
桜の花は小さくて可愛いイメージですが、ここの枝が邪魔、そばにある花が邪魔だと切り取りながら画面を整理していくと、どんどん花が大きくなってしまいます。このように画面いっぱいに複数の花を入れるとひとつひとつの花が主題になってしまい、どれが主題なのかわからないごちゃごちゃした印象になりがちです。また、平面ではなく奥行きのある花付きをするので、手前にピントを合わせるとそれ以降にある花が中途半端にぼけてしまいますし、痛んでいるところも大きくなって目立つので汚く見えてしまいます。
花を大きくフレーミングするほど寄ることになりますし、撮影位置を変えずにズーミングして画面を整理すると、焦点距離が長くなるので被写界深度が浅くなり、こんなふうに中途半端にぼけた花が多くなってしまいます。
画面の1/4くらいの範囲にひとかたまりを収めるイメージで小さく撮ってみましょう。そうすると複数の花がひとつの被写体として見えてきますし、中途半端なボケがあっても花全体を小さくフレーミングするのであまり気になりません。小さく撮ると花数を見せながら画面をすっきりさせることができます。
小さく撮れる被写体選びが重要
小さく撮れる被写体選びの一番のポイントは、このように枝先の花を探すこと。枝の途中に咲いている花だと画面の中を枝が貫通してしまいますし、黒い枝がたくさん写ってしまうので汚く見えてしまいます。また、花付きや形の良さだけでなく周囲に他の被写体がない花を選ばないと、小さくフレーミングしたときにすっきり見せることができません。正直言うと、この被写体選びが一番難しいんです。だってそんな都合の良い被写体はなかなかないからです。
たくさん咲いているところで被写体を探す方が選択枠は広がりそうですが、それも思い込みです。花の密度が濃いほど余計なものが入りやすいので、切り取らないと画面の整理ができないってことになるんですね。ポイントは花数(枝)の少ないところで被写体を探し、たくさん咲いている雰囲気は背景で作ります。このように画面の左右どちらに配置しても他の被写体が入らない花を探してみましょう。
また、手前の被写体ばかり見ているのも同じような写真を量産する原因なので、どんどん奥、もしくは上の方に咲いている花に目を向けていきましょう。遠くに咲いている横並びの花のまわりに他の花や枝がなければ、小さくフレーミングしてもその花だけにしかピントが合わなくなります。奥の花は手前の花を前ボケとして生かすことができるので、ちょっとアングルや位置を変えるだけでたくさんのバリエーションを撮ることができます。
奥の花に目を向けると、この花の横並びに他の花や枝がありませんね。欲をいえばこのように枝が伸びて丈があると、前ボケを入れるときにアングルをコントロールできる幅が広がるのでよりベストです。目安としては100mmのレンズなら1mくらい、200mmなら2mくらいのところを探してみましょう。
ほら、余計なものが周囲になければ切り取る必要もなくなるので、小さくフレーミングしてもこの花だけが自然と浮かび上がってきてすっきりするのです。
少ししゃがんで、手前の花の隙間からこの花が見えるアングルを探せば前ボケをたくさん入れることができるので、花を大きく写さなくてもたくさん咲いている雰囲気を出すことができます。
さらに数センチアングルを下げてもっと前ボケを入れたら、色の印象の強い作品に仕上げることだってできるんです。こんなふうに小さくフレーミングできる被写体が探せるようになると、被写体以外の空間が多くなるので、前ボケや背景のボケを変えることで同じ被写体でも印象の違う作品を作り上げることができるようになります。
枝を消したいなら枝に沿うようにレンズを向ける
たくさんの花にピントを合わせた方が、たくさん咲いている雰囲気が出ると思って枝に対して真横からレンズを向けると枝が入りますが、桜の花は白やピンクなどの明るい色ばかりなので、その中に枝の黒が入ってくると目立つ上に汚く見えてしまうのです。
画面の中を桜の色一色で埋め尽くしたいなら、枝に沿うようにレンズを向けてみましょう。このときの自分の目線より低い枝を探すのがポイントです。高い枝では沿うようにレンズを向けることができないからです。
このように枝に対して横からではたくさんの花にピントを合わせることができますが、枝も必ず入ってきてしまいます。この枝を消したいなら枝に沿うようにレンズを向けましょう。
低い枝先の花なら枝に沿うようにレンズを向けられます。横からよりもこっちの方がキレイに見えませんか?
垂れ桜なら枝の真下から真上に向かってレンズを向けてみましょう。枝に沿うようにって意味がわかってもらえるかな?
どのような桜でも枝先の花にピントを合わせれば、その向こう側にある枝は花で隠すことができるので、画面全体を明るい色だけでまとめやすくなります。
光の当たり方で変わる描写
私は桜の柔らかな雰囲気と薄いピンクの色が好みなので、日陰や曇り・雨のような柔らかい光が当たっている桜が一番好きです。だからといって桜を撮るのに最適な光は曇りや雨なんて決めつけないでくださいね。
どんな光の状況で写しても構いませんが、色を出すなら明暗差のない日陰や曇り・雨のような光の方が最適ですし、透過光を生かして輝きを出すなら逆光、青空と絡めたいなら順光と、撮りたいイメージに合わせて光を選べるようになることが大切です。
同じ花ですが、日陰と木漏れ日のような光が当たっている逆光ではこんなふうに変わってきます。日陰は明暗差がないので色がちゃんと出ていて柔らかい雰囲気に仕上がっていますし、逆光は花びらに光が透けて輝きを感じますがそのぶん影が強くでています。
どっちが正解なのか? ではなく、どんな風に桜を写したいのかによって光を選べるようになりましょう。
青空バックは小さく明るめに!
順光の光が当たっている桜は一番キレイに見えますし、快晴の青空が背景にあったらついついレンズを向けたくなってしまいます。でも、アップで撮影するほど花びらは反射して色が出なかったり、影の部分は見た目以上に黒く写って汚く見えてしまいます。影を目立たなくするためにも花を小さめにフレーミングすることを意識しましょう。
標準露出だと青空は濃くなりますが、影の部分も黒く目立ってしまうのでキレイに見せたいなら少し明るめの露出がオススメです。こう書くと「どのくらい補正したらいいのか?」って気になると思いますが、あえて言いません。だって+1EV補正って書いたらそれしか補正しないんですもの。このあたりの補正値は好みで変わってきますから、いくつか試して好みの明るさを見つけてください。そうそう、花は白飛びするところが出てきますよ。でも全体をキレイに見せたいなら気にしなくていいです。
私は日陰や曇りや雨で撮る桜が好きなんです!
順光や逆光で撮っちゃいけないと否定しているわけではありませんよ。太陽の光がある写真だってキレイです。でも日陰や曇りや雨の柔らかい光の中で撮影する方が色も出せるし影も出ないので、私のイメージするふんわりした桜のイメージが作りやすいんです。
薄曇りでちょっと光の当たっている桜です。枝が入らず全て明るい色のみになったので、極端にプラス補正してみました。えぇ、白飛びしてますよ。いいんです、自分好みのイメージが形になるなら。
曇天の空の下では、グレーな空が真っ白になるまで極端なプラス補正をします。それが好みだからです。木の幹を背にした方向から手前の花を前ボケに置いて枝をフレーミングしています。手前の花と奥の花の距離は1mくらいです。
日陰に咲いていた桜です。枝に沿うようにレンズを向けて、手前の花のほんのちょっとの隙間から見える花にピントを合わせています。わさわさ咲いているところだったのでこのような前ボケを作ることができました。
垂れ桜は向こう側の枝を狙う!
垂れ桜の雰囲気は垂れている枝ですね。その雰囲気を出すなら、手前の枝越しに向こう側の垂れているものにピントを合わせてみましょう。離れて小さくなるだけでなく、手前の枝が前ボケになるのでたくさん咲いている雰囲気を出すこともできます。このとき、枝先を切ってしまうとごちゃごちゃした印象になりやすいので、枝先を入れるだけでなく少し空間を作るとすっきりとした印象に仕上がります。
たくさんの枝を小さくフレーミングするのはなかなか難しいので、最初はこのように1本から始め、徐々に本数を増やしながら遠くの被写体を探していくようにしましょう。
クロスしている枝が少ない方がキレイに見えますが、クロスしていないところは正直ありません。だからできるだけ小さくフレーミングして目立たなくするんです。
まとめ
今までと違う写真を撮りたいと思うなら、今までと違う被写体や光の使い方をできるようになりましょう。上手に撮れる被写体を探そうとしても、それがどんな状況の被写体なのかが理解できていないと見つけることができません。まずは記事を参考に撮影し、うまくいかない場合は原因がなんなのかを探っていきましょう。周囲に余計なものが入ったり中途半端なボケが入るなら、まだまだ花の密度の濃いところで被写体を探しているってことです。背景がぼけないなら被写体と背景の距離が近いからです。撮影した画像を確認しながら気に入らないところを改善していくことを繰り返して、徐々に自分のものにしていきましょう。
■写真家:並木隆
1971年生まれ。高校生時代、写真家・丸林正則氏と出会い、写真の指導を受ける。東京写真専門学校(現・ビジュアルアーツ)中退後、フリーランスに。心に響く花をテーマに、各種雑誌誌面で作品を発表。公益社団法人 日本写真家協会、公益社団法人日本写真協会、日本自然科学写真協会会員。