ダイヤモンド富士撮影のポイント vol.1「ダイヤモンド富士とは:基礎知識」
はじめに
「ダイヤモンド富士」、一度は撮ってみたいと思う人は多いのではないでしょうか。
フィルム時代にダイヤモンド富士を撮影するには相当の経験とテクニックが必要でした。しかし、デジタルカメラの進化でダイヤモンド富士を撮影することはずっと容易になっています。
下(画像1)の写真は田貫湖でダイヤモンド富士をパノラマ撮影したものです。このようなダイヤモンド富士をパノラマ、日中長時間露光、タイムラプスなどで撮影するには経験と技術が必要ですが、通常のダイヤモンド富士を最近のデジタルカメラで撮影するなら、少しの予備知識とテクニックを知っていれば難しくありません。
【1】
今回から3回の連載で「ダイヤモンド富士」の撮影に関して、知識、機材、技術の観点からご紹介していきます。
Vol.1「ダイヤモンド富士とは:基礎知識」ではダイヤモンド富士の撮影に必要な知識について
Vol.2「ダイヤモンド富士撮影の機材」ではダイヤモンド富士の撮影に適した機材の情報について
Vol.3「ダイヤモンド富士の撮影テクニック」では、いざダイヤモンド富士を撮影する時の助けになるテクニックについて、それぞれご紹介していきます。
※本連載ではデジタルカメラで富士山周辺(富士山から20km前後)からダイヤモンド富士を撮影する場合についてご紹介します。遠距離から撮影する場合やフィルムカメラで撮影する場合も多くは同じですが異なる部分もあります。
※本連載ではダイヤモンド富士撮影の経験から得た私なりの知識とテクニックを基本としています。私と異なる知識やテクニックによって最高のダイヤモンド富士を極めている方々もいらっしゃいます。皆様にはより広い視野で様々な知識やテクニックを習得していただき、ご自身に適した道を見出していただければ幸いです。
「ダイヤモンド富士」とは
太陽が富士山の山頂と重なってキラリと輝く瞬間をダイヤモンドの輝きに例えて「ダイヤモンド富士」と呼ばれるようになったようです。
その光景を捉えた写真は美しく幻想的なことから、ダイヤモンド富士を撮影したいと思う方はますます増えているのではないでしょうか。
また、天気に恵まれなかったりダイヤモンド富士の瞬間に雲がかかってしまったりなど、その瞬間に出会うには幸運が必要なことも人気の要因だと思われます。
中には、山頂のど真ん中から太陽が出ているもの、山頂の旧富士山測候所の建物で太陽が2つや3つに分裂しているものなど、撮影ポイントが数メートルでもズレることが許されないシビアなダイヤモンド富士を撮影されている方々もいます。
しかし、そこまで極めなくても山頂付近から太陽が出ていれば十分感動的なダイヤモンド富士と言えるでしょう。
※ダイヤモンド富士には様々な解釈があるようです。富士山頂のフラットな部分のど真ん中と太陽が重なる場合のみダイヤモンド富士とする考え方がありますが、ここでは富士山頂のフラットな部分のどこかと太陽が重なる場合をダイヤモンド富士としてご紹介します。従って、富士山の稜線と太陽が重なる場合はダイヤモンド富士と呼ばない前提です。
【2】
※太陽とは違い、月が富士山頂にかかる場合は「パール富士」と呼ばれます。
「パール富士」には暗いシルエットの富士山頂にかかる月の場合、赤富士や紅富士の山頂にかかる月の場合など多くのバリエーションがあり、ここでご紹介する「ダイヤモンド富士」とは異なる知識や技術が求められます。
「昇るダイヤモンド富士」と「沈むダイヤモンド富士」
田貫湖や朝霧高原など、富士山の西側から見る「昇るダイヤモンド富士」は日の出の方向になるので、太陽は富士山の背後を右上方向に少しずつ昇って行き突然山頂に現れて輝きます。(画像3)
日の出の時刻からダイヤモンド富士になるまでざっくり1時間かかるので、感覚的な日の出時刻より随分長く待つことになります。
詳しい位置、時刻の情報はネットやアプリでお調べください。
突然現れる日の出のダイヤモンド富士を見逃さない一つの方法として、背後が開けて山がある場合は山に当たる朝日が徐々に下がってくるので、自分の目線まで下がった時がダイヤモンド富士のタイミングと判断することができます。
【3】
山中湖や花の都公園など、富士山の東側から見る「沈むダイヤモンド富士」は日の入りの方向になるので、太陽は富士山に向かって右下方向に少しずつ高度を下げて行き、山頂で輝いた直後に富士山の背後に消えて行きます。(画像4)
雲にさえぎられなければ太陽が沈んで行くのが見えるので「昇るダイヤモンド富士」よりタイミングが掴みやすいと言えます。
しかし「沈むダイヤモンド富士」の時刻は日の入りの時刻より1時間弱早いので、まだ早いだろうと別のことをしながら油断していると、その瞬間を逃してしまうので注意が必要です。
【4】
※「昇るダイヤモンド富士」や「沈むダイヤモンド富士」は私が個人的に呼んでいる名称です。
年に2回のチャンス
実は、ダイヤモンド富士は晴れていれば毎日朝夕2回、何処かで見ることができます。
しかし同じ場所で見ることができるのは1年に2回だけです。
日の出や日の入りの場所は冬にかけて毎日少しずつ南下していき、冬至の頃に反転して北上します。そして夏至の頃に再び反転して南下を始めます。
そのため、山頂の真ん中でダイヤモンド富士だった場所でも、翌日の日の出は山頂の端に移動してしまいます。そのように毎日移動して行き、やがて戻ってきて、前回ダイヤモンド富士だった場所で、その年の2回目のダイヤモンド富士になるということです。
(日の出の場所が反転するところでは1年に一度しかダイヤモンド富士になりません)
よって「ダイヤモンド富士」は同じ場所では年に2回しか見ることができません。
また、昨年ダイヤモンド富士だった場所では今年も同じ日にダイヤモンド富士になります。
※厳密には閏年の関係で若干場所がズレますがほぼ同じ場所と言える範囲です。
例えば、昇るダイヤモンド富士の代表、田貫湖畔のダイヤモンド富士は4月20日前後の数日間、8月20日前後の数日間、それぞれ朝6時頃見ることができます。
沈むダイヤモンド富士の代表、山中湖畔では2月中旬の前後約2週間の16:30ごろと10月25日前後の約2週間の16:00ごろ見ることができます。詳しい位置、時刻の情報はネットやアプリでお調べください。
人気の「ダブルダイヤモンド富士」
「ダイヤモンド富士」の中でも際立って人気なのが「ダブルダイヤモンド富士」でしょう。
ダイヤモンド富士の瞬間の富士山が湖面に映ってダブルになることからそのように呼ばれています。
最初にご紹介した写真は田貫湖で撮影したダイヤモンド富士ですが、よく見ると湖畔近くの湖面にも太陽の輝きが反射しているのが見えます。この反射も入れて「トリプルダイヤモンド富士」と呼ばれることもあります。(画像5)
快晴で風がなく湖面が静かな条件でしか見ることができないため、滅多に出会えない光景です。
【5】
富士山周辺の湖では田貫湖畔と山中湖畔で「ダイヤモンド富士」になりますが、本栖湖畔(広く富士山を見渡せる場所)、精進湖畔、西湖畔、河口湖畔、芦ノ湖畔では「ダイヤモンド富士」になりません。
ちなみに、小さな池ですが富士本栖湖リゾートの竜神池でも年末年始の一時期に「ダイヤモンド富士」になります。
※富士本栖湖リゾートは冬季閉園しますが、例年ダイヤモンド富士期間中は開園されます。有料エリアなので入場料や開園時刻などはホームページでご確認ください。
田貫湖や山中湖でなくても素敵なダイヤモンド富士を撮影することはできます。
(画像6)は二十曲峠で撮影したダイヤモンド富士です。湖ではないので、木立の間からダイヤモンド富士を望む構図で撮影したものですが、これはこれでユニークではないでしょうか。
※冬の富士山周辺は予想以上に寒いことが多く、路面凍結や防寒着などに対する十分な準備を心がけてください。
【6】
混雑について
田貫湖畔、山中湖畔、そして富士本栖湖リゾートのダイヤモンド富士の時期は撮影者で大変混み合います。
(画像7)はある日の山中湖のダイヤモンド富士ですが、大変な盛況ぶりであることがわかります。良い場所を確保するにはかなり早くに現地に居る必要がありますが、目当ての場所が確保できなくても視点を変えることでユニークなダイヤモンド富士を撮ることができます。
また、三脚が立てられなくてもダイヤモンド富士は手持ちで撮影できます。
私の作品ではありませんが、撮影する人々が並ぶ背後から撮ったダイヤモンド富士が大きなフォトコンテストで受賞しています。
広い発想と視点でダイヤモンド富士の撮影を楽しんでいただければと思います。
【7】
まとめ
今回は「ダイヤモンド富士」に関する基礎知識をご紹介しました。
ダイヤモンド富士撮影には場所や時刻など事前の情報収集が欠かせません。ネットやアプリで事前にお調べいただき「ダイヤモンド富士」撮影に臨んでいただければと思います。
次回は「ダイヤモンド富士を撮影するために適した機材」についてご紹介します。
■写真家:TAKASHI
2011年から富士山をメインテーマに風景写真を撮り続ける富士山写真家。主な所ではNational Geographic Traveler誌の2018年6/7月号表紙に採用されSony World Photography Awards 2018日本3位受賞、WPC 2022 (ワールドフォトグラフィックカップ)で日本最高得点を受賞。作品は世界各国のT V番組・写真集・専門誌・カレンダーなどで数多く紹介・掲載されている。
2019年1月銀座ソニーイメージングギャラリー、2020年1月銀座MEGUMI OGITA GALLERY、2023年3月あさご芸術の森美術館、他で写真展を開催。透明感のある美しいカラー、ダイナミックなコントラストのモノクロ、深みがあり記憶に残るブルーインクシリーズと多彩な作品を世界に発表し続けている。