【オールドレンズ】独特な六芒星(ヘキサグラム)ボケが魅力の「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」
はじめに
今回のオールドレンズは少し変わったレンズを紹介します。旧ソ連製のロシアレンズに数多く存在する、Industar(インダスター)という名前のレンズです。
その中でも今回紹介する「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」は、六芒星の独特のボケが楽しめるという点から人気のあるオールドレンズです。そんな「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」の特徴や魅力、そしてその写りをご紹介します。
INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8の魅力とスペック
筆者が所有する「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」は製品名に「MC」と記載されていますが、1981年製のものでマゼンダ色のマルチコーティングが施されているモデルです。製造された年代によって仕様が異なっています。
まずレンズのコーティングについては、「INDUSTAR 61 L/Z」の製造された年代によって違いがあります。初期のモデルは単層コーティング、後期のモデルはマルチコーティングが施されています。実際にはレンズに刻印されているモデル名の「MC」の文字で判断するのが一番わかりやすいです。
この「INDUSTAR 61 L/Z」はモデル名が英語表記で記載されているものと、キリル文字で表記されているモデルがあります。
おおよそ、生産初期1960年代~1970年代中盤ぐらいまでのモデルがキリル文字表記。1970年中盤~1970年後半のモデルが英語表記。そして1980年代からまたキリル文字表記になっており、このタイミングからマルチコーティングの「MC」も表記されています。
レンズの製造年に関しては、シリアルナンバーで簡単に見分けることができます。基本的にロシア製レンズは、シリアルナンバー頭2つの数字が製造年度の西暦で表記されているからです。この「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」は最終的には、2005年ぐらいまで製造されていたようです。
また「INDUSTAR 61 L/Z」には2種類のマウントがあります。現在中古市場に流通しているものの多くが「M42マウント」ですが、「ZENIT用M39マウント」のものも少なくないですが存在しています。
「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」の最大の特徴は、絞り羽根の形状にあります。絞り羽根の枚数が6枚なのですが、羽根の形状が少し独特なので絞りを絞っていくと、絞り指標のF5.6~F8あたりで絞った形状が「六芒星」の形状をするようになります。
この状態で撮影した場合に、アウトフォーカス部分にある光源のボケが「六芒星」の形に表現されるのが、このレンズの人気となっている要因です。ただ一部の製造年に製造されたもので、絞り羽根の形状が少し違うものがあり「六芒星」のボケが発生しない「INDUSTAR 61 L/Z」があるようです。
「INDUSTAR 61 L/Z」で「六芒星」のボケを楽しみたい方は、購入する際に絞りを動かして「六芒星」の形状を確認してから購入するのが安心できます。
下の写真は特徴がわかりやすく出るように、イルミネーションを被写体にして、絞りをF5.6にしてピントは手前に大きく外して撮影してみました。
INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8(1981年製) | |
焦点距離 | 50mm |
絞り | F2.8-16 |
最短撮影距離 | 0.30m |
レンズ構成 | 3群4枚 |
絞り羽根枚数 | 6枚 |
フィルター径 | 49mm |
マウント | M42 |
重量 | 約210g(実測値) |
今回「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」で撮影するにあたっては、カメラはソニーα7R IVに、焦点工房のマウントアダプター「K&F Concept KF-42E.P」(M42マウントレンズ → ソニーEマウント変換)を使っています。このマウントアダプターは実売価格で4,000円を切るお手頃な価格で入手できる商品です。
オールドレンズを使って撮影する場合のカメラの設定やピント合わせなどのコツは、基本的にはこちらの記事をご参照してみてください。
INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8でスナップ撮影
「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」を持って、街中スナップ撮影をしてみました。「六芒星」のボケが特徴なレンズですが、描写の実力はどんなものか気になるところです。
「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」は、鷹の目レンズと呼ばれる3群4枚のテッサー型のレンズです。テッサー型と呼ばれるのは、「テッサー」は、カール・ツァイスが製品化した単焦点写真レンズと構造の名称です。非常に高性能なレンズ「テッサー」は多くのレンズメーカー大きな影響を与え、類似したレンズやコピーレンズが製造されるようになりました。
「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」は、「テッサー」のコピーレンズと言われるタイプのレンズなので、「テッサー」の特徴でもあるシャープな写りをします。
スナップ撮影では、六芒星のボケを意識せずに撮影を楽しんでみました。絞り開放でもピントを合わせた部分は非常にシャープに描写し、背景のボケ具合も自然なボケをするオーソドックスなレンズです。描写のシャープさを活かすために、最終的に被写体を金属製のものを撮ると決めバイクを撮影してみました。結果はとても満足できるもので、金属の描写、シャープなエッジ、重厚さの演出ができていると思います。
最短撮影距離が0.30mなので、マクロ的な使い方もできる有能なレンズ。気になった部分にぐっと寄って撮影できるメリットがあるレンズです。
照明のある所で、六芒星のボケを出すような撮影をしてみました。近くのバイクのタンクにピントを合わせて、絞りをF5.6にし天井の照明を「六芒星」のボケにしてみました。フィルターワークではできない、楽しみ方はこのレンズならではの楽しみ方です。
INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8で花の撮影
前半の金属系被写体のスナップ撮影とは趣を変えて、花の撮影をしてみました。「INDUSTAR 61 L/Z-MC 50mm F2.8」は、最短撮影距離が0.30mと寄れるレンズなので花の撮影にもマッチするレンズです。
少し写りがシャープすぎる感じもありますが、被写体に寄れることで背景も大きくぼかす事もでき被写体を引き立たせることができます。
下の写真は少し引いて撮影したものです。画面右横の柱を見ればわかるのですが、少し「タル型」の歪曲収差が発生しています。
花の撮影ではもう少し柔らかさが欲しいと感じる面もありますが、その点に関してはカメラ側の設定でコントラストを下げたりする事で対応する事は可能ですし、ここまで寄って撮影できる実力を考えると、非常にコストパフォーマンス高いレンズですね。
まとめ
「NDUSTAR-61LZ-MC 50mmf2.8」は、とてもよくできたレンズです。オールドレンズらしい描写をする時もあれば、極めてシャープでキレのある描写をする半面も持ち合わせている。接近撮影にも強くオールラウンダーなレンズです。
独特の「六芒星」のボケをどう捉えるかが判断評価のポイントですが、「六芒星」のボケもこのレンズの大きな特徴なので、特徴を活かせるポイントがあれば積極的に絞りをコントロールして作品作りに活かす事を考えて撮影を楽しむのが良いでしょう。いつもと違った視点で被写体を探すきっかけを見つけてくれるレンズです。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師