写真を撮ると「ありがとう」と言われる国に魅了されて|加納満氏と高橋俊充氏がイタリアでの撮影の魅力を語る

ShaSha編集部
写真を撮ると「ありがとう」と言われる国に魅了されて|加納満氏と高橋俊充氏がイタリアでの撮影の魅力を語る

本インタビューについて

新宿 北村写真機店では、2025年1月24日(金)~2月2日(日)の期間、地下1Fギャラリーにて写真展「Duetto Fotografico -イタリア二重奏-」を開催します。この展示では、写真家 加納満氏と写真家 高橋俊充氏の二人がそれぞれのイタリアでの旅で撮りためた写真を展示しています。今回は写真展開催を記念しまして、二人へインタビューを行いました。二人の出会いから、イタリアでの撮影の魅力や展示作品の見どころについて伺ってきましたので是非ご覧ください。

イタリア二重奏

– 2人の出会いを教えて頂けますか。

高橋:2011年の夏にイタリアで撮り下ろした作品の写真展を新宿で開催した時に加納さんが見に来てくれたのが始まりです。雑誌などでは加納さんの作品を拝見していたのでお名前は存じ上げていたのですが、話しをするのはその日が初めてでした。加納さんの服装は黒ずくめでしたし、SNSでも少し怖い方のような印象を持っていましたので少し緊張しましたが、実際に話しをしてみると見た目より話し易くて安心しました(笑)。

高橋俊充氏

加納:怖いって失礼な~(笑)。
僕の方はというと高橋さんの写真展告知を何かで見て、僕と同じようにイタリアを撮っている何だか許せない奴がいると思い見に行くことにしました。。。というのは冗談ですよ(笑)。

僕は1991年からイタリアを撮り続けているんですが、自分の周りで他にイタリアだけを撮っている人をあまり見かける事がありませんでした。そんな中、高橋さんがイタリアをメインに撮られている写真家ということを知り興味がわいて写真展に行きました。その後も高橋さんは精力的にイタリアの写真展を行っていましたので、そちらの方も見に行くようになりました。

加納満氏

 

– 写真展で会う仲から、どのように仲良くなっていかれたのですか

高橋:加納さんのイタリアの写真は以前から雑誌などで拝見してリスペクトしていましたので、写真展で立ち話しするだけでなくじっくりお話しをお伺いしたいなと思い、私が上京したタイミングで加納さんに連絡をとってどっかの喫茶店でお話しをした記憶があります。昔からの知り合いと話しをしているように会話が出来、その後も私の方から一方的に親しくして頂いていたかと思います。

加納:僕も何度か高橋さんの写真展を見に行く内に、展示されているイタリアの写真作品にリスペクトしていましたので、一方的にという事はないですね。僕は雑誌でイタリアの写真を紹介していましたが、高橋さんはギャラリーや写真集で紹介を行っており、お互いに異なる媒体でイタリアの魅力を発信する仲間のように感じるようになりました。

イタリアの魅力

– イタリアに通い続けてスナップ撮影をされている理由を教えてください

加納:20代最後くらいに初めてイタリアに行き、そこから今に至るまで魅了され続けています。若い頃から雑誌の撮影依頼で海外に行くことも多かったのですがアメリカが一番多く、日数だけ足し合わせれば通算で3年くらい滞在しています。一方、イタリアでの滞在日数を足しても1年くらいとアメリカに比べると短くなるのですが、僕の写真はイタリアが合っていると感じています。

イタリアでスナップする上での魅力的なところは、人々の生活と街との関わりが見えることと、そのバランスが丁度良いところです。例えば北の寒い地域に行くと、人々の生活は殆ど屋内に入ってしまい、逆にアジアの南の方だと路上に生活観が全て出てきている事は想像できると思いますが、そのバランスがイタリアでは丁度良いように感じています。

またそうした生活と街のバランスに加えて、イタリア人の服装もとても魅力的に感じていています。撮る人にもよると思うのですが、アジアに行って、ショートパンツにノースリーブを着ているような服装では、僕の写真には厳しいので、そういった写真に写る部分が全てイタリアでは魅力的であると感じています。

高橋:私自身、車も自転車もイタリア製で、イタリアのサッカーリーグを見て育ち、イタリア料理を好んで食べるているというように気づけばイタリアに囲まれた生活を送っていましたが、イタリアに行った事は一度もありませんでした。そこで2010年に初めてイタリアに行ってみたのですが、そこからイタリアに魅了されて通い続けるようになりました。

イタリアの旧市街や歴史を感じる建造物の中で暮らしている人を撮ると、凄く画になるのを感じています。以前はアジアばかりを旅していて古い日本というか昭和の日本や懐かしい風景を探し歩いていたのですが、どうしてこんなところに余計な看板があるんだろうとか、捉えようとした景色の中に必要のない情報が沢山あるように感じていました。イタリアではそういった情報もシーンに溶け込み、それも合わせ整った感じがしていてとても画になるんですよね。

またお国柄だったり人間性があると思うのですが、街中を行き交う人々をスナップしていてもとても好意的なんですよね。カメラ向けられることは、自分がカッコいいからと考えてくれる方が多くて、何気ない様子を捉えようとカメラを向けるのですが、カメラに気づくとポーズとったりと逆に迷惑だったりします(笑)。あと、雰囲気が少し良くない時でも、ボンジョルノの一声かければみな笑顔になるというとてもフレンドリーな国民性だなと感じますね。

加納:そうなんですよね。イタリアで写真を撮ると「ありがとう」と言われる事があります。何で「ありがとう」と言うのか聞いたら、「これだけ沢山人がいる中で私を選んでくれたんでしょう」と言われた事があって、目から鱗というかカルチャーショックを受けた事がありました。でも実は1960年代のカメラ雑誌を見ると日本を訪れた有名な外国人写真家が、世界中で写真を撮ってありがとうって言われるのは日本だけだと書いてあるんですよね。今の日本では皆さんご存じの通り「ありがとう」なんて言われる事はないと思うのですが、古き良き日本は今のイタリアのように素晴らしい文化があったのかもしれないですね。

左:加納満氏、右:高橋俊充氏

カメラ機材

– イタリアを旅をする時に持っていくカメラ機材を教えてください

加納:主にライカ M4、M5、M6やツァイスイコンを持って行きました。レンジファインダーは慣れると素早くフォーカスポイントを合わせられるというところもありますが、昔は一眼レフを持っていくと結構な荷物になったので、コンパクトなレンジファインダーのカメラは旅に持っていくには重宝していました。1回の旅で2~3週間イタリアに滞在するので50本くらいフィルムを持っていき30、40本くらい撮影で使いました。

加納満氏

高橋:私は全てデジタルカメラです。メインではライカ M9、M-P 240、M10、SL3です。サブ機は富士フイルムのX70、X100、X100 VIを使っています。レンジファインダーでピント合わせするスピードに慣れるとEVFでのピント合わせに苦労します。ですのでやっぱり旅でスナップを撮るのであればレンジファインダーがいいなと改めて思っているところです。

高橋俊充氏

写真展「Duetto Fotografico -イタリア二重奏-」

– 2人で写真ってやろうと誘ったのはどちらからですか

加納:2024年2月に金沢に行く用事があり、そこに住んでいる高橋さんへ挨拶に行く機会がありましたので、その時に2人で写真展でもやりませんかと持ちかけました。それでやりましょうとなって、北村写真機店のギャラリーもいい場所だなと思っていたので高橋さんにそれを話すと、割とトントン拍子で進んでいきました。

高橋:二人展は双方にリスペクトしてることが必要であると感じていましたので、加納さんからのこの申し出は私にとってとても大変光栄なことでした。ただ準備の途中に加納さんを怒らせてしまわないかと恐怖におののきながらやるのはどうかと。。。(笑)、冗談です。

加納さんと二人展を開催する事になって先ず最初にDMで使う写真の選定からスタートしました。DMを選んでいる段階でも加納さんが何気なく「高橋さんの作品はこういうところが特長だから」と仰ってくれる事は私にとって、とても勉強になり、その後も終始色々なことを教えて頂きました。

加納:高橋さんはデザイナーでもあり、仕上げがきっちりしているんですね。今回の写真展の全ての仕上げは高橋さんにお願いしていて、そのクオリティーが信頼できるのでやっていて楽しいですよ。いや、違うんじゃないの、ってならないんですね。

高橋:こういう感じで現段階まではうまくやっていいるのですが、どこかで意見の違いなんてあったら怖いなと思っているんですけど(笑)

加納:えっ、最後までうまくいくんじゃないですか(笑)

高橋:そうですよね、二重奏ですもんね(笑)

 

– 展示写真の全てをモノクロにされた理由を教えて頂けますか

高橋:加納さんがモノクロで来ることは分かっていたので、私がカラーにすれば対比になって面白いとも考えたのですが細部に拘りたくてモノクロにしました。写真展であればどんな画なのかだけなく、どんなプリントかというところも見られていると思いますので、そういったところまで自分の手で仕上げたいと思いました。カラーはインクジェットを使えばいくらでも出来るんですけど、銀塩でプリントするとなるとカラーの場合はラボの方に仕上げてもらう必要が出てきますので、自分自身で細かい仕上げが出来るモノクロにしています。

加納:ライカ通信やカメラマガジンなどの雑誌媒体に出す時に作品はモノクロで出してきました。仕事はカラーだったので、それとの差別化として作品をモノクロにしたとうこともあります。ただ一番の要因は、イタリアで撮るときは余分なものが写らないという事が言えますので、色も余計な色を入れてカラフルにしたくないという想いがありましたのでイタリアで撮るときは最初からモノクロで撮っていました。

 

– 展示される写真の見どころについて教えてください

■撮影:加納満
■撮影機材:ライカ M6+ズミルックス35mmF1.4アスフェリカル ファースト 手磨き

加納:これはトスカーナのシエナという街で撮ったものです。高齢の男性が大きな壁に向かって歩いているように見えますが、実は壁の手前に右に進める小道が続いています。壁に向かって坂道を登る男性の姿に人生を感じる1枚になりました。

 

 

■撮影:加納満
■撮影機材:ライカ M6+ノクチルックスM 50mm F1.2 ファースト

加納:こちらは同じくトスカーナ地方のサン・ジミニャーノという街中で杖を付いて歩く老婆を捉えたものです。普通に歩いているのでは無く杖を付いている所に、杖1本で人生を感じるというか、支えがあって生きている感じがしていて凄くいいなと感じています。なかなか日本でこのようにすっきりした背景のところで杖を付いた老婆を写すのは難しいように感じますが、イタリアではこういったかたちで背景を整理して印象的な画にすることもできます。

作品の方向性としては、高橋さんの作品とも共通しているかもしれませんが、孤独な個としての人間を撮っています。ですのであまり人がわしゃわしゃ入っている写真を撮らないですし、一つ前の壁に向かう写真も、こちらの杖付く老婆の写真も年を経て一人で生きて行くという感じが写真から伝わってくるところが好きなところです。

 

 

■撮影:高橋俊充
■撮影機材:ライカのM-P 240 + ズミルックス35mmF1.4アスフェリカル

高橋:この写真はシチリアのポッツァッロという港町で11月の早朝にカフェで写したものです。焦点距離35mmのズミルックスで結構近くによってシャッターを切ったのですが、とてもフレンドリーな国民性があって撮れた一枚かなと感じています。

加納さんの作品は情景を含めたアーティスティックな写真に近いように感じていて、それとの対比としてストリート写真のように人物を大きめに入れたものを選ぼうと考えていました。その中でも加納さんに絞り開放気味で人物を撮るのが高橋さんの写真らしさだねって言ってもらえていましたので背景のボケ感が気に入っているこの写真を選びました。

加納:そうなんです、高橋さんは背景ぼかしの写真が凄い魅力的で、僕は割とパンフォーカスで後ろまでピントを合わせるのでそういう違いがありますね。

また僕と高橋さんはイタリア好きで括って頂いて結構なんですけど、2人ともイタリアの中でもシチリアが大好きでシチリア繋がりの部分もあります。ただ今回の写真展のテーマをシチリアにしてしまうと、一緒に撮影しに行っているわけではないのに同じ場所の写真になってしまい場所取り合戦のようになってしまうのでそれは辞めました。何を撮ろうかとか、そんな話しをしていないのに、申し合わせたように同じものを撮っているんですよ。

高橋:本当に不思議ですよね。別々にシチリアに行っているのに、同じベンチを撮っていたり、ベンチに座る同じおじさんを撮っていたりするんですよ(笑)。

シチリアは本当にいいですね。どこの国よりも田舎に行けば行くほど平和な気がしていて、マフィアの街というイメージはありますが、観光目的の旅行者には手を出さないんじゃないかなと思っています。私自身十分に注意してるということもありますが今まで怖い目にあったことは一度もありませんでした。シチリアはレンタカーで周るんですけど、コインパーキングのようなところに車を停める際に小銭が無い時があったのですが、ふっらっと通りかかったおじさんが払ってくれたりするんですよ。凄く親切ですよね。

加納:僕もガソリンスタンドでハイオクとレギュラーを間違えてお金を入れてしまって返金しようとしてもうまく行かず困っていたら、それを見ていたおじさんが、ガソリンスタンドの店主には明日返金してもらうから今俺が払ってあげるよ、といって差分をくれたことがりました。

 

 

■撮影:高橋俊充
■撮影機材:ライカ SL3 + ズミルックス 50mm 復刻モデル

高橋:これはシチリアのカルタベロッタという山の方の街で、教会の佇まいが有名なので訪れたのですが、教会の前に車が数台停まっていたので、その日はやめようと思い街をぶらぶらしていた時に出会った風景です。大きな岩の上に村が栄えているところがあって、夕暮れの時間帯に光が傾いて壁を明るく照らす様子がとてもキレイでこの写真を撮りました。

写真家プロフィール

加納満

岡山市生まれ。天晶雅彦氏、奥宮誠次氏に師事。独立以降フリーランス。主に広告写真を生業とする。

高橋 俊充

石川県小松市生まれ。デザインプロダクション勤務を経てフリーに。アートディレクター、コマーシャルフォトグラファーとしての活動を主体とし、写真展開催、写真集制作など自身写真作品を発表し続ける。日本APAアワード入選、金沢ADC・準グランプリ、会員特別賞、ほか受賞。

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