オールドレンズを始めよう!作例編:Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4(YASHICA/CONTAX)
はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回はオールドレンズを始めよう!シリーズ第四弾として、作例編に入ります。
作例編第一回目は、王道中の王道のYASHICA/CONTAXマウントの「Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4」。Carl Zeiss=「透明感」と言うワードの由来ともいえる本レンズ、さっそく紹介していきましょう。
Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4(YASHICA/CONTAX)とは?
カメラを嗜むユーザーの中でCarl Zeiss(カールツァイス)は憧れのブランドのひとつと言えるのではないでしょうか。Carl Zeissがもつレンズシリーズは数多く存在しますが、その中でも最もメジャーなレンズがPlanar(プラナー)です。Planarの歴史は大変古く、プラナー型の構成は1800年代後半に発明され、その初期は現在の大口径レンズの基本となるダブルガウス型を構成していました。
YASHICA/CONTAXマウントのPlanarはその中でもオールドレンズユーザーに一目置かれるレンズで、1975年発売から50年近く経ってなお、デジタルカメラを使用する若い写真家やフィルムカメラユーザーなどから絶大な支持を得ていると感じています。僕もまた、このレンズにはひと際愛着があり、「透明感のある写真が撮れるオールドレンズは何かないですか?」と問われた場合、このPlanarを紹介することが非常に多いです!レンズのスペックは次の通りです。ご存じの方もおさらいしておきましょう。
メーカー | Carl Zeiss |
レンズ名 | Planar T* 50mm F1.4 |
マウント | YASHICA/CONTAXマウント |
発売年 | 1975年 |
絞り設定範囲 | F1.4-F16 |
フィルター径 | 55mm |
重量 | 275g |
最短撮影距離 | 0.45m |
描写の概要
オールドレンズにおけるPlanarは各種マウントに存在していますが、その中で最もメジャーなのがYASHICA/CONATAXマウントのPlanarなのではないでしょうか。メーカーカタログで自ら標準レンズの帝王と宣言し、今もなお、名実ともにオールドレンズ界のザ・標準レンズとして君臨しているPlanar。
当時のレンズとしてはコントラストが高めで、F1.4が持つ繊細なボケと、レンズ特有のブルーコーティングからくる青寄りの清涼感が相まって、「透明」を体現したかの様な描写となるのが特徴です。オールドレンズ的な描写はあまり見られませんが、フレア、そしてわずかにみられるゴーストも特徴のひとつと言えるのではないでしょうか。Planarに憧れを抱くオールドレンズファンからは、この透き通った描写に惚れ込んで購入した!という話をよく聞いています。
前期型・後期型の特徴の違い
本レンズは前期型のAEと後期型のMMのモデルがあり、両者の違いは絞り羽の形とフレアの要因となる内面反射防止の差となります。フレアに関しては、内面反射防止処理が改善された後期型の方がわずかに出にくくなっていますが、あまり大差はなく、どちらかというと絞り羽根の形に気を付けた方が良いと考えます。
前期型のAEモデルはF2~2.8で絞りの形が手裏剣のように変化するので、ボケの形にこだわる方は気を付けましょう。むしろこの特性により、絞り開放をメインとして使うユーザーが増えたことで、先述した透明感のある写真が世に溢れる様になったのでは?と考えています。
特徴を活かした撮影方法:順光~サイド光編
Planarを使って淡く幻想的に撮る方法をよく質問されますが、特に難しいことはなく、絞り開放で極力ハイキーに撮ることがポイントです。レンズそのもののカラーがコーティング所以のブルーにやや傾いていることもあり、ハイキー表現との相性は抜群です!より透明感を重視したいのであれば、この撮影方法に加え、後工程のソフトウェア現像でカラーグレーディング処理(特定の領域に色を追加する処理)を行うのが有効です。レンズそのもののカラー特性と、透明度を上げるためのカラー(=ブルー)がマッチしているため、色が乗りやすいというのもメリットと言えるでしょう。
晴れの日の自然光での撮影がハイキー表現には適していますが、曇りでも透明感を出せないことはありません。カラーグレーディング処理を施すことで、曇りの日でも抜け感を出すことができるようになります。今回の作例のいくつか(岩場で撮られている写真のほとんど)はいわゆるドン曇りで撮ったもので、光によるメリハリはないものの、曇り特有の抜けの悪さはあまり見られず、清涼感を保っています。若干のにじみは見られますが、順光下ではフレアも少なく、積極的に絞り開放でアプローチできるのがこのレンズの強みであると言えます。
特徴を活かした撮影方法:半逆光~逆光編
1970~80年代はレンズ設計にコンピュータの導入も本格的になり、レンズの性能も飛躍的に向上した時代です。特にYASHICA/CONTAXのレンズシリーズはドイツの名門Carl Zeissと、YASHICA傘下に入った日本屈指の光学メーカー、富岡光学により開発製造されており、その性能はピカイチと言えます。特にCarl Zeissのお家芸ともいえる、T*コーティングによる発色の良さは、50年ほど前のレンズと言え、現代レンズにも通じるのではないでしょうか。
現代レンズ程コントラスト偏重でもなく、コントラストと収差に加え諧調性が高水準でバランスしているのがYASHICA/CONTAX Planarの魅力と言えるでしょう。ゆるいフレアが纏う開放描写は幻想的です。色収差(パープルフリンジ)も若干ではあるものの見られますが、同マウントのPlanar 85mm F1.4程ではなく、積極的に逆光にもチャレンジできます。レンズそのもののトーンの豊かさは素晴らしく、トワイライトタイムなど日没にかけての空のグラデーションなどは得意なシーンのひとつだと考えます。
ですが、木漏れ日など小さな光を捉えた時の玉ボケはあまり美しいとは言えないため、背景には少し気を配りましょう。気になる場合は最短撮影距離の短さを利用して、少し寄ってボケが写る領域を狭くするなど工夫して回避することが重要です。
まとめ
さて、いかがだったでしょうか。Planarの透明感は、絞り羽の少なさがもたらす絞り開放の多用と若干青に触れるカラーバランス、それに加え内面反射によるフレアに由来すると考えています。Planarは収差を残しつつも、コントラストと諧調を兼ね備えた奇跡のバランスのもと成り立っているのが、人気の秘密なのではないでしょうか。標準レンズの帝王は伊達じゃありませんね!
もし、オールドレンズに興味を持っていただけたのであれば、僕が執筆している「ポートレートのためのオールドレンズ入門」そして「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」に数多くのオールドレンズの作例と詳細な設定等解説を載せておりますので、是非ご覧ください。また、実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるオールドレンズワークショップ「フランジバック」にもご参加いただければ嬉しいです。では、次の記事でお会いしましょう!
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■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。