言葉にできないところにあるフィルムの魅力|写真家 増田彩来 独占インタビュー

鈴木文彦
言葉にできないところにあるフィルムの魅力|写真家 増田彩来 独占インタビュー

本インタビューについて

新宿 北村写真機店にて「フィルムの世界、4人の視点」展が開催中です(2025年3月12日まで)。フィルム写真文化に最前線で影響を与え続ける増田彩来、鈴木文彦、染谷かおり、松本慎一の写真家4名の作品を通じてフィルムの持つ魅力を伝えると同時に、写真それぞれに使用カメラ・レンズ・フィルムなどの情報をキャプションで掲示し、写真家の撮影方法も伝えています。この写真展の開催を記念して、増田彩来氏にフィルムで撮る理由、展示作品のテーマなどについて伺いました。

フィルムカメラとの出会い

写真とは15歳のときに出会いました。友だちが体育祭にデジタル一眼レフを持ってきていて、それがとても羨ましくて、親に頼んでデジカメを買ってもらったんです。でもデジカメでは写真にハマりきらず、知人がフィルム一眼レフをくれて、そこからですね。ファインダー越しの世界を見たときに、いつも見ている世界とは全然違って見えて、本当に奇麗だなと感じたんです。それはもう強い衝撃を受けました。そのときにもらったのがいまも愛用しているニコンFM10で、メインのカメラとして使い続けています。

撮影機材

——ニコンFM10の魅力とは?

FM10を使いながら、合間にニコンF3やFM2なども使ってみましたが、みんな重い(笑)。FM10はプラスチックボディなので見た目のかわいさや質感は劣るかもしれないですが、そのぶん安いというのも魅力ですよね。わたしは狙う瞬間の「点」をいかに多くするかということを大切にしていて、カメラの機動力をとても重視しているんです。手に馴染んでいること、軽量なことに加えて、高級なカメラを慎重に使うより、壊れても大丈夫くらいの気持ちで目一杯使うほうが私にとってはよくて。FM10以上のものはないと感じています。あとニッコールレンズは好きです。ニッコールレンズの描写はまさにありのままを素直に撮ってくれる感じがしています。

——コンパクトカメラもお使いですね。

ナチュラクラシカはFM10と同時期に手に入れて愛用してきました。ナチュラクラシカの写りって、本当に唯一無二。このカメラでしか撮れないものがあると思います。京セラのハーフカメラのサムライZ2も同じように、このカメラでしか撮れない写真がある、と思わせてくれる1台。でも、どうしてもコンパクトカメラは寿命がきてしまうので、頑丈で、フラッシュも強力なコニカ現場監督を使う機会も増えています。いま手元に残っているカメラは、さまざまなカメラを使ってきた中で私が好きな魅力をもっていると思ったものばかりです。

フィルムで撮る理由

——なぜフィルムが好きなのでしょう。

デジタルとフィルムの違いは、画質や時間のかけ方など、さまざまなところにあると思います。でも本質的には、言葉にできる違いではなく、言葉にできないことにこそ違いがあると思っているんです。リアルが消えない、という話に近いような気はしていますね。スマホで写真を見ることはできても写真展は行われる。LINEでメッセージが送れても人は対面で会う。それと近いことだと思っています。反論もあると思いますが、もっと個人的な意見を言うならば、「残す」という感覚がデジタルとフィルムとでは違うとは思っています。つまり自分の感覚や価値でしかないし、選択は自由ということですよね。自分が幸せを感じるかどうか。わたしはフィルムに幸せを感じますが決して正義ではなくて…。でもフィルムは楽しいしフィルムでしか見えないものもあるから、良かったら触れてみてね、ということは声を大にして言いたいです。

——写真を撮るという行為、特にファインダーを覗く行為は特別なものになってきました。

フィルム写真の好き嫌いは価値観の話ではあるものの、ひとつだけ確かなことは、写真は撮ろうとしないと撮れないもの、ということ。ファインダーを覗くということは、「見よう」という意識が生まれる行為だと思うんです。「見よう」とすることで気付けることがある。人は見ようとしなければ見えないものがたくさんありますよね。そして撮ろうと思う行為の先には自分の「好き」が必ずあります。自分自身を知ることで自分が拡がる機会になってくるはずです。

展示作品について

——『フィルムの世界、4人の視点』の展示作品について教えてください。

昨年、GR SPACE TOKYOでの展示のために「リル・ツアー」という作品を作ったんですね。8歳(昨年、撮影当時)の親友エイトと旅をする企画。「リル」は「リトル」のことで、衝動を大切にして出来上がっている作品です。わたしは撮影をしているときに、走ったり、飛び込んだり、寝転がったり、高いところに登ったりします。旅をして衝動的に撮っていくのが「リル・ツアー」という作品なんです。「リル・ツアー」はスナップがテーマだったので、今回の企画展もスナップがテーマだと聞きとても相性がいいなって。今回の展示全体のテーマに合わせたいと思ったので、撮り下ろしをしました。お気に入りが多く、356カット撮り、粗セレクトで288カット残っていて、そこから展示作品にするために56枚まで絞って。これでも多いですよね(笑)。最後は配置のバランスを見て27枚に決めました。

——会場には旅のしおりも展示されていますが、撮影のテーマなどを教えてください。

エイトとは旅のしおりを一緒に作ろうと話し、何をしたいかを書いてもらったんですね。その写真の中にスキーをしたいと書かれていたんです。相手が行きたいところに行き、相手が楽しまないと良い写真にはならないよねと思っていて、今回のテーマとして大切にしました。会場には「好きな遊びをしよう。写る人が楽しくなければ、いい写真にはならない」というテーマもキャプションにして張り出しています。

大切なのは「想い」の量

——これまでの作風と向き合い方に違いはありますか?

作品によっては、とことん会話をして知って撮る、ということを大切にすることもありますが、「リル・ツアー」は人と人、一対一で対峙して見つめて撮るという点は共通しているものの、言葉を交わすというよりも、エイトの視点、目に映るものが好きで、それを切り取っている感覚です。彼は空を誰よりも美しいと感じていて、わたしはその気持ちを元々は持っていない気もして。子どものエイトが好きということでなく、自分にないものを持っているエイトと過ごす時間が好きだから撮っているのかなと感じています。言葉は交わしていなくても会話はしている。そんな撮影だったので、アプローチこそ違いますが、一対一を大切にするという点に変わりはないと思います。

——写真を撮る方にはとても参考になる意見だと思います。

写真をはじめたときって、うまく撮りたい、と思ったりすることもあると思っていて。だから、うまく撮れないからやめようとか思ってしまいがちです。良い写真というのは自分が愛せる写真だったり、残しておきたいと思える写真だったりすることだと私は思います。

写真家プロフィール

増田 彩来

写真家・映像作家。2001年生まれ、東京都出身。16歳で写真家として活動を開始し、作品発表のほか、企業広告、雑誌、映画スチール、CDジャケットなど幅広い分野で活躍。映像作家としても活動し、ミュージックビデオの監督やカメラマンとして映像制作に携わり、多彩な表現の場を広げている。
短編映画『カフネの祈り』では、SHORT SHORT FILM FESTIVAL & ASIA 2024のジャパンカテゴリーでオーディエンスアワードを受賞。2024年時点でInstagramのフォロワーは16万人を突破している。

 

 

■執筆者:鈴木文彦
フリーランスエディター/フォトグラファー。編集プロダクション経営、映画ライターを経て、2007年にフィルム写真雑誌「snap!」を創刊。「中判カメラの教科書」「31年目の写ルンです」「オールドデジカメ・ファン」など、趣味の写真・カメラに関する数々の雑誌の手掛ける。企画・編集・撮影・執筆を全てひとりで行うのがモットー。現在は「FILM CAMERA LIFE」発刊をライフワークとしながら、企業・自治体・舞台などを中心にフォトグラファーとしての活動も行っている。

 

展示情報

・日時:2025年2月5日 (水) ~ 3月12日(水) 10:00 ~ 21:00
・場所:新宿 北村写真機店 B1F ベースメントギャラリー
・住所:東京都新宿区新宿3丁目26-14 [地図はこちら
・入場料:無料
・HP:新宿 北村写真機店ホームページへリンク


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