写真に深みが出ること間違いなし。プリントこそ写真上達の近道

新納翔
写真に深みが出ること間違いなし。プリントこそ写真上達の近道

はじめに

写真を撮るインプットのプロセス、つまりカメラやレンズの話はよく耳にするのに、アウトプットであるプリントの話となるとどうだろうか。この令和の時代、プリントだけが作品の最終的な提示方法ではないことは重々承知であるが、自分のワークショップなどの空いた時間にプリントをしない理由を聞いてみると、しないのではなく、やりたくてもノウハウがなくて出来ないという消極的な答えが相当数返ってくる。

プリントこそが写真上達の一番の近道だと考えている筆者としては、プリントの楽しみ・意義を啓蒙しなくてはならないと常々思っているのである。

今回は現在筆者が愛用しているEPSONのプリンタ、SC-PX1VL及びその弟分であるSC-PX1Vにフォーカスしながら、プリントの楽しさから、そのイロハを述べていきたい。プリントをしたいけど、何から手を付けていいか迷っている人にはとっておきの解説になるだろう。

プリントの楽しさ

プリントの楽しさ、これは言わずもがな、手に取ることのできないデジタルデータを「モノ」として物体にすることに他ならない。誰でも自分の写真を初めてプリントした時は感動するものだろう。筆者の場合は暗室でのフィルムプリントだったが、プリントしたことない人ならA4サイズでさえ心踊るはずだ。写真を紙にすることで、SNS上のシェアが、物理的にできる楽しさ・喜びというのは計り知れない。

今はネットの普及で手軽に全世界へ向けて発信できる時代であるが、相手のデバイスが分からない以上、どんなに色調などの細部にこだわったところで100パーセント正確に伝えるのは不可能だ。プリントであれば、自分の伝えたいトーンを正確に伝えられる。

プリントは数値上のスペックでは計り知れない部分が多いため筆者の使用感で言わせてもらうが、PX1VLはディープブルーインクを採用したおかげか階調性が素晴らしく豊かで、特にハーネミューレのペーパーと組み合わせた際、プリントにみずみずしささえ感じるのだ。まさにプリントは生モノなのである。

本当にA2機?疑いたくなるサイズ感

最大A3ノビが出せるPX1V、A2ノビが出せるPX1VLともに公式サイトで前機種の約7割!というコンパクトさを実現した点が本機の売りである。実際このサイズのプリンタを使ってきた身としては驚異ともいえるサイズである。

これからA3以上のプリンタを触り始める方にはその凄さが分かりにくいかもしれないので、カメラに置き換えて言えば、中判デジタルをマイクロフォーサーズ機の大きさで実現した感覚、といえばお分かりいただけるだろうか。

一世代前のA2機からするとコンパクトでスペースもとらなくなった

小型化したからといって、プリントの安定性が落ちたなどの欠点もなく、さらにはスタイリッシュなデザインはプロダクトとしての美しさも兼ね揃えている。

初期ロットでは給紙の不安定さが散見されたが(筆者は運がよかったのか一度も遭遇してないが・・・)、今は改良されたようで安心して使える。

極端な話、30mのロール紙ならものすごいパノラマ印刷も可能なのだ

ロール紙ユニットは別売りだが、非常に扱いやすくなったうえに表現の幅が格段と広がる。さすがにユニットを装着させると全長は長くなるが、筆者はつけっぱなしだ。ロールユニットで刷れば一枚あたり安くなるし、ワイドなプリント制作も可能になる。

ただ若干の苦言をいわせてもらおう。A2ノビの単票紙はほとんどのメーカーが作っていないので(写真作品用なら皆無)、実質最大サイズであるA2ノビで出そうとしたらロールユニットを使わざるを得ないのだ。A2ノビを使うユーザーが極端に少ないのは分かるが、せめてプリンタメーカーであれば用意してほしいところである。

ここ20年で一番の進化

筆者は暗室が下手なこともあり、作品制作にデジタルを使い出したのが2003年と比較的早かった。初めて本格導入したプリンタが2002年発売のEPSON PM-4000PXで、まだカラリオのフラッグシップという位置づけであった。プリントしたものを今見返しても、なかなか味のある質感だ。この4000PX、A3ノビを最高品質でプリントすると一時間近くかかった記憶がある。

「PETALOPILS」©ShoNiiro

現在に至るまでEPSON、CANON、HPと様々な機種を使ってきたが、安定性の向上などはあっても正直、画質がとびぬけて前機種から向上することはなかった。名機と誉れ高いEPSON PX-5500(2005年発売)の愛用者が今でもいるのはそうしたことの裏付けだろう。

上の写真をハーネミューレのバライタ紙にプリントしたものが以下である。ウェブ上で質感が伝わるかは分からないが非常に満足いく結果だ。

ただ、今回のPX1VLでの進化は目を見張るものがある。やはり一番は「解像感」の目覚ましい向上だろう。初めてPX1VLでプリントした時、思わず「へ!」と変な声が出てしまったほどだ。一気に3世代くらい飛躍してしまった印象さえあった。

プリントは作風や使用する用紙によって出来栄えが様々変化するために数字だけでは一様に語れない部分があるが、筆者が知るこの20年の間で一番目覚ましい進化を果たした機種がこのPX1VLだと感じている。

カメラが進化するからこそプリントしたいのだ

デジタルカメラは高画素機が当たり前のようになってきて、それを小さなモニタの中だけで実感するのには限界がきていると感じる。せっかく高価な機材を揃えてもその真価が見えないのは非常に勿体ないのは言うまでもない。

UNSUSTINABLE(2022)©ShoNiiro

A4あたりのプリントサイズ(210×297ミリ)であれば、条件次第では加速的に進化するスマートフォンで撮影した写真と見分けるのは難しい(そこは筆者の眼力不足なのかもしれないが)。フルサイズで撮ったものの真価はB0などのビッグプリントにして初めて分かるものなのだ。そこに、プリントこそ「写真上達の近道」といえる所以がある。

写真上達の近道

大きくプリントすることによって必然的に細部のアラが目立ってくる。高感度ノイズや僅かな手ブレなどがA3サイズあたりから顕著になるのだ。

例えば、小さなサイズではISO3200で気にならなかった高感度ノイズが大きなプリントでは悪目立ちしてくる。よりキレイに仕上げる為に、次の撮影で同じようなシチュエーションではシャッタースピードが落ちるもののISO1600にして、しっかり脇を締めて撮ろうとなる。さらには自分のレンズの癖、f値による画質の低下など細かいところを撮影時に考える習慣がつく。

これらはあくまで一例だが、次の撮影にフィードバックが得られるのは非常に大きいことなのだ。

これを繰り返せば自然と写真がうまくなる。これは技術的な話であるが、それだけでなく紙にアウトプットする行為は自分の写真を客観的に見ることにもつながる。もう少し撮影時に構図をこうしたら良かった、あと一段絞っておけばよかった・・・自分の写真と真剣に向き合えるようになる。

モニタのままプリントが出てくるのはストレスレス!

プリントを始めることで写真に深みがでることは間違いない。プリントも色々揃えようと思えば、カラーマネジメントモニタや写真観賞用ライトなどいろいろ出てくるが、まずはプリントする習慣を作ることが重要なのだ。

保存性:紙の素晴らしさ

プリント保存ボックスなどには無酸性紙のものを使おう

保存性の観点からもプリントは優れている。フィルム全盛期では半永久的に持つといわれていたが、ケミカル処理するフィルムは「なまもの」、ビネガーシンドローム(フィルムのベースが空気中の水分と化学反応し腐食していく現象)から画像を守るためにデータ化が急がれているのが現状である。

しかし皆様のご自宅には、大正末期などに撮られたご先祖の肖像写真が残っていることも多いかと思う。それだけ紙の保存性は優れているのだ。

PCの中だけに作品を閉じ込めておくのは非常に勿体ない。PX1VLの顔料インクはアーカイバル保存の点でも優れており、長期に渡って劣化しないよう工夫されている。

紙選びもプリントの楽しさのひとつ。フィルム用印画紙の種類が減る一方でデジタル用プリントペーパーは迷うほど多くの種類がある。高くて有名な紙だからいいというわけではなく、ある人の作風にはわら半紙が一番合っているということさえある。この沼も相当深いのだ。

プリンタでちょい上写真ライフを

とっつきにくいイメージのあるプリントであるが、今回の記事でチャレンジしてみようと思ってくれたら嬉しい限りである。繰り返しになるが、高いレンズを買うお金をプリント用紙とインク代に使ったほうがよほど写真は上手くなる。

自分の写真を冷静に客観視するにはプリントこそが最適の方法なのだ。PX1VLで一つ上の写真ライフを送ってほしい。それが筆者の願いである。

 

 

■写真家:新納翔
1982年横浜生まれ。麻布学園卒業、早稲田大学理工学部中退。2000年に奈良原一高氏の作品に衝撃を受け、写真の道を志す。2007年から6年間山谷の簡易宿泊所の帳場で働きながら取材をし、その成果として日本で初めてクラウドファウンディングにて写真集を上梓する。2009年から2年間中藤毅彦氏が代表をつとめる新宿四ツ谷の自主ギャラリー「ニエプス」でメンバーとして活動。以後、現在まで消えゆく都市をテーマに東京を拠点として活動をしている。日本写真協会(PSJ)会員。

 

 

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