ジャンクレンズを超バブルボケソフトフォーカスレンズに改造「SMC PENTAX 55mm F1.8」
はじめに
今回紹介するレンズは少し特殊な部類になるお話です。ちょっと古いジャンクレンズを改造して、特殊な写りをするレンズにしてしまおうという試みになります。レンズをバラしてしまうので、以後普通の使い方はできなくなりますし、改造する事に関してはあくまでも自己責任になってしまいますが、少し面白い表現ができるレンズになるので、今回その改造方法と改造レンズの写りを紹介いたします。
改造する「SMC PENTAX 55mm F1.8」はどんなレンズ
今回改造するレンズに選んだのは、ペンタックスの「SMC PENTAX 55mm F1.8」です。このレンズは1975年に発売になった、当時の標準レンズです。この「SMC PENTAX 55mm F1.8」の一つ前のモデルは「SMC TAKUMAR 55mm F1.8」でM42マウントでしたが、この「SMC PENTAX 55mm F1.8」からKマウントなったモデルになります。タクマーの名称は無く「バルサム切れ」が発生しているものが多くあり、中古市場ではお安く手に入れることが可能なレンズです。
※バルサム切れ・・・バルサムとはレンズを貼り合わせる接着剤の事で、この接着剤であるバルサムが経年劣化などにより剥がれた状態。
今回はジャンク品で見つけた「SMC PENTAX 55mm F1.8」はチリ・ホコリの混入・カビありのレンズなので、多少のメンテナンスと合わせて改造を施してみる事にしました。ジャンク品を今回使用するのは、気兼ねなくレンズをバラすことができるからです。高価なレンズや希少なレンズには流石に手が出せません。1000円程度で購入したジャンク品であれば失敗しても大きな痛手にはならないという思いから、気軽にチャレンジしてみました。
改造の目的は「超バブルボケ」レンズへの改造です。改造方法はそれほど難しくはありませんが、レンズをバラす必要があるので少し道具を揃える必要があります。
レンズをバラす道具と改造手順
レンズを改造するにあたり、レンズの一部を分解する必要があります。今回のレンズの改造は、道具さえあれば比較的簡単にできるタイプです。簡単にできる改造ですが少し特殊な工具も必要になってくるので、まずは必要な道具を揃えます。
今回のペンタックス「SMC PENTAX 55mm F1.8」のレンズ改造に最低限必要な工具は、カニ目レンチのみですが、レンズ吸盤・手袋・ブロアーなどが用意できればより快適に安全に作業ができます。
作業手順は以下の通りになります。
【1】レンズの後玉が固定されているリングをカニ目レンチで外す
【2】レンズの後玉を外す
【3】レンズの後玉を本来の逆向きに戻す
【4】レンズにリングをカニ目レンチで固定する
という割とシンプルな作業になります。
この改造のポイントは、レンズの後玉を本来の向きと変えてしまうという点になります。これによりこのレンズは、超バブルボケの発生するレンズに変化しますが、普通に画像を撮影する事が出来なくなります。
改造後の効果は、絞りを開けて撮影する事でソフトフォーカスとバブルボケが発生します。改造後のデメリットは解像が非常に甘い、ピント合わせが難しい、周辺が流れるなどの多くのイレギュラーな症状が発生し、普通の写真を撮影する事は出来なくなります。それでも非常に面白い表現が可能になるので、筆者はこの改造レンズを主に花の撮影などに使用しています。
このレンズ改造の注意点ですが、どのレンズでもできる訳ではないのでその点注意が必要です。「SMC PENTAX 55mm F1.8」は中古市場で比較的安く入手できる点と、レンズの構造上簡単に作業ができるので、今回の改造にピックアップしています。
改造したレンズの写りを確認
実際にレンズの後玉の方向を変えてしまったレンズ「SMC PENTAX 55mm F1.8」は、どのような写りをするのか確認してみました。
まずはピント無限での絞り開放と絞りを絞った状態の比較です。絞りを開放で撮影すると全体的にソフトフォーカス調になり、中心部から途中まではグルグルボケのような円を描くように像が流れ、周辺は外に向かって放射状に像が流れています。同じ状態で絞りを絞っていくと、中心部の像は鮮明になりソフトフォーカス調は無くなります。しかし周辺の放射状の像の流れは残ります。
実際に分かりやすくするために、足元の落ち葉を中心にして撮影をしてみました。周辺は大きく流れているのがよく分かると思います。レンズの後玉の方向を入れ替えたことにより、周辺の像を結像できなくなった事による描写になります。
フラットな光源下で絞りを開けた状態で撮影すると、周辺が大きく流れるソフトフォーカス調の写りをするレンズになる事が分かります。ですので、絞りを開けて撮影する際には、メインの被写体をできるだけ中心部に配置して撮影をするのがベターになります。
さてここまでの状況では、今回の改造のテーマである「超バブルボケ」が発生していませんが、大きなバブルボケを写し出すには、ある特定の条件での撮影が必要になってきます。
その条件は
●絞りを開けて撮影する
●メイン被写体は、背景になる部分とある程度距離を取り、メイン被写体に寄って撮影する
●最短撮影をすると効果が大きくなる
●大きな輝度差が発生するような場所を背景にして撮影する
●点光源があるようなシーンで撮影する
この条件であれば普通のレンズでは味わえない「超バブルボケ」が発生し、撮影された画像は個性あふれる賑やかな描写をするようになります。
実際に下の花の写真の背景は紫陽花で、水色の部分が紫陽花の花、緑の部分が葉で、お昼時の高い場所からの太陽光があたっている状態で撮影をしたものになります。ミラーレス機で撮影すればバブルボケの発生状況はリアルに確認できるので、それほど撮影は難しくありません。
少し絞って撮影すると、ボケの表情が変わってきます。「SMC PENTAX 55mm F1.8」は絞り羽根の枚数が6枚なので、絞りを絞って撮影すると下の写真の様にボケの形が六角形になってしまいます。円形のボケで撮影したい場合は絞りを開放で撮影するか、1段程度の絞りまでにした方がよいでしょう。
この改造されたレンズは、逆光での撮影は厳しくなる場合が多くなります。全体的にハレーションが多く発生するシーンが増えてきてしまうからです。オールドレンズっぽいと言えばそれまでですが、レンズの後玉を入れ替えた事による影響によります。
バブルボケを楽しもうと改造したレンズですが、撮影条件や絞りの設定などではいろいろな個性豊かな撮影を楽しむ事ができそうです。
改造レンズで超バブルボケ撮影
超バブルボケを楽しむために、一番撮影がしやすい花を被写体にしていろいろと試してみました。カメラの設定は、ソニーのダイナミックレンジオプティマイザーの設定を強くしたり、シャープネス・コントラスト・彩度などの設定を高くするなどの調整し、通常よりも少し派手目な印象にしています。
まとめ
レンズを少し改造する事で、通常のレンズでは撮影できない世界が見えるようになり、かなり特徴豊かな作品が撮れる場合があります。最新のレンズでキレイなものをキレイに写すのも楽しいですが、たまにはこういった個性豊かな撮影も新鮮で良いのかもしれません。
なお今回の様なレンズの改造は進んで推奨するものではありません。リスクの高い作業を伴うため、あくまでも自己責任でお願いいたします。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師
ジャンクカメラ・レンズの取り扱い
新宿 北村写真機店をはじめ、ジャンクを取り扱っているカメラのキタムラ店舗ではご購入前に実際に手に取ってご確認いただけます。ぜひ自分にあった一品を見つけてみてください。
■新宿 北村写真機店のHPはこちら
ネットで中古の在庫を確認
新宿 北村写真機店では中古カメラ・レンズの一部をネットで公開しています。ぜひこちらもご覧ください。