写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」 #1 個展の醍醐味、そして大事なこと

鶴巻育子
写真をもっと愉しむ「個展開催のススメ!」 #1 個展の醍醐味、そして大事なこと

写真家・鶴巻育子はこれまでに17回個展を開催し、代表を務めるJam Photo Galleryでは6年間で企画展とレンタル併せて100を超える展示に携わってきました。写真家とギャラリスト両者の視点から個展の魅力や成功へのアドバイスをお伝えする連載企画です。
 
写真を始めた頃は、写真を撮ること自体が楽しかった。それが段々と撮るだけでは物足りなくなり、表現としての写真に興味を持ち、作品にまとめて人に見てもらいたくなる。写真を続けているとそんな気持ちが湧いてきます。写真愛好家の場合、まずはグループ展に参加することが作品発表の第一歩かと思いますが、個展にはグループ展では味わえない達成感や気づきがたくさんあります。何より自分の写真で埋め尽くされた空間は、何度も個展を経験している私でも毎回感動を覚えます。個展が終わった瞬間に、次の個展のことを考えてしまうほど私は展示をすることが大好きなのです。この記事を読んでみなさんにも個展の楽しさを知っていただき、開催する際のヒントになればと思っています。

グループ展と個展の違い

目黒区民ギャラリーで開催されたJam Photo School合同展2024の一部。グループ展はさまざまな表現を一度に見られるのが楽しい。参加者それぞれの友人が来場することで集客数も増し情報交換もできるのも魅力。

 グループ展は、作品発表に加え仲間と切磋琢磨し合い喜びも苦労も共有できる場でもあります。協力し合うことで費用や準備などの負担を減らすことができるのも魅力です。人数が多ければ来場者もそこそこの人数に達しますから、作品を多くの人に見てもらえますし交友関係も広かるチャンス。みんなで盛り上がりお祭り的な賑やかさが楽しいものです。デメリットと言えば、他の参加者との熱量の差や考え方の違い等で妥協しなければならい点が多々出てくるのはよく聞く話です。準備段階で仲間割れってこともあったりなかったり?

 個展は、空間を好きに使えますし費用の使い道も何でも自由にできますから、その点はストレスフリー。ただ自由がある分、責任も全て自分が負わなければいけません。会場探し、DM、プリント、額装の依頼など、とにかくやらなければならないことは山ほどあります。グループ展では多少手を抜いていても正直誤魔化せることもあるかもしれませんが、個展ではそうはいきません。また現在はSNSで情報発信に力を入れているギャラリーも多いですが、やはり作者本人の努力が集客数増加に繋がると思います。せっかく個展を開くなら、後悔のない満足いく展示にしたいものです。脅かすわけではありませんが、達成感を味わうにはたくさんの労力と努力が必要となります。真剣に取り組んだ分だけ必ず自分に返ってきます。
 

何のための個展か

立木義浩写真展「Ko・So・A・Do 一瞥の足跡」(2023年Jam Photo Gallery企画展)では、「お好きにどうぞ」というった感じで、全て自由にディレクションさせていただきました。写真は他人の視点が加わることで新しい何かが見えてくるのが面白い。
そして写真家の展示や写真集をたくさん見ていますが、優れた写真家は文章も素晴らしい!

 さて、ひとつのスペースを自由に使える個展ですが、気に入った写真を並べて好きなように飾るのは果たして良いのでしょうか。「プロじゃないんだから、趣味で楽しんでいるんだから、難しいこと言わずに、好きにさせろ!」と言う声が聞こえてきそうですが…考えてみて下さい。自分が見る立場になった時、好きな写真をただただ自由に飾られた作者の自己満足の空間に置き去りにされることを。

 写真表現も時代で変化しています。今は写真を撮ることは誰でもできてしまうため、何を表現したいのか、所謂テーマやコンセプトがより重視されています。とはいえ、私は何でもかんでもコンセプチャルなものが好きなわけではありません。いつも難しく写真を鑑賞するなんて疲れます。気軽に鑑賞できる写真展も楽しいものです。ただ、どんな内容でも「へー」と思わず口に出てしまう展示は後々印象に残るものです。日本では風景、飛行機、鉄道、ポートレート、花など写真をジャンル分けされることが多く、そのジャンルが好きな人ばかり集まり盛り上がっている個展を時々見かけます。その中に身を置くと孤独な気分になって、早々とギャラリーを後にすることも。もしそこに、それを撮り続ける作者の個人的な理由や、撮影し続けたことでの作者独自の発見など興味をそそるステートメントが書いてあったりしたら、例えその被写体に詳しくなくても楽しく鑑賞できるかもしれません。「わかる人だけにわかれば良い」のではなく、ある程度の展示作品について理解できるような道標を立てると、より多くの人に自分の作品に興味を持ってもらえるはずですし、写真活動の範囲も広がる可能性も出てきます。そして、誰に見てもらうかを意識することも大切です。私が2024年にキヤノンギャラリーSで開催した「ALT」は、始めから写真関係者やファンだけでなく、むしろ写真に興味のない人にも見に来てもらうことを目標にしていました。そのために会場の導線を工夫したり、プレスリリースを写真業界以外のメディアにも多く流したり、SNSでの宣伝にも力を入れました。結果的に写真展に初めて来たという人や口コミで来た人など、これまで出会わなかった方々にたくさんお越しいただくことができました。私がよくゼミやワークショップで伝えているのは「見てもらう対象を広く考える」です。仲間でもあり良きライバルでもある写真仲間の反応は気になるものですが、身近な人を意識し過ぎて小さくまとめてしまうのは勿体ない。内輪的な雰囲気がする展示は避けたいものです。知らない人にどれだけ届けるか、それが個展の醍醐味なのです。

個展に必要な2つのこと

2024年キヤノンギャラリーSで開催した「ALT」は規模が大きかったため、レイアウト構成もいつも以上に時間がかかりました。キュレーターの柿島貴志さんと半年以上かけて何度も打ち合わせを重ね完成することができました。

個展をするには、自分の作品への熱い思いが大切です。それから、必要なのが時間とお金です。
 
時間というのは、準備期間という意味。仕事をしながら作品制作に励んでいる人にとっては、個展をやるとなれば、時間のやりくりに苦労するのは想像できます。アドバイスとしては、とにかく早め早めに準備することしかありません。

先に述べたように、プリントやレイアウトの他にもやることは盛りだくさん。たとえディレクションを誰かにお願いしたり、人に手伝ってもらうとしても、本人が決めたり動かないと進まないことがたくさんあるのです。準備期間は1年あるとベストですが、最低でも6ヶ月は準備が必要と考えましょう。

時々ギリギリになってタイトルやステートメントを考える人がいます。この2つは、個展準備以前の制作過程で完成していることが望ましいです。プレスリリースにも、当然タイトルとステートメントは必要ですし、プロフィール、メインビジュアルも早めに決定しましょう。昨今雑誌は減っていますが、雑誌掲載を目標にしている方は、少なくても3、4ヶ月前からのアプローチしないと間に合いません。DM制作も同様で、デザインも重要ですし、校正で修正が出てきたりと想像以上に時間がかかります。プリントや額装など作品制作以外の細かい作業を疎かにしないことが個展成功の鍵です。

そして、個展はとにかくお金がかかります。規模や内容にもよりますが、ある程度の覚悟は持っておきましょう。節約術は絞り出せばいくらでもありますが、あまりケチってしまうのはお勧めできません。節約してることがあまりにも見えてしまう空間は、作品に集中できず、見る側は冷めてしまいます。せっかくの個展ですから、自分でも予算を優先納得できる空間をできるだけ目指しましょう。
 
私の場合、最初はお金のことを無視します。まずプリントのサイズや額装など全て理想の形を考えます。そこでいくら掛かるかを計算し、できるだけやれることはやる、難しい場合は他の手段を見つける、という手順で進めます。予算を優先し過ぎては、自分が表現したいことが伝わらなくなってしまうます。それでは個展をやる意味がなくなってしまいますから。
 
世の中には金銭的に余裕のありお金に糸目をつけずにできる人もいるかと思います。その場合も同様で、まずは理想の形を考えること。やたらめったら、大判プリントを大量に作ったり、高級紙や変わった用紙を無闇に使ったり、豪華なフレームを作ったり…羨ましい部分もありますが、表現したいこととズレていては元も子もありません。それこそ、自己満足の世界ができてしまうので要注意です。

個展は、表現したいことが伝わる展示、見てもらうことを意識した展示にすることが大切なのです。費用や個展に向けての準備については、2回目以降に詳しくお話したいと思います!

【写真家に聞く! 表現と個展】ゲスト:田川梨絵さん 

2023年OM SYSTEM GALLERYにて開催された田川梨絵写真展「不可逆、そして摂理をのぞく」の様子。
田川さんの展示はいつも妥協を許さない。表現としての写真をわかりやすく、そしてちょっと穿った見方で説明する田川さんのYou Tubeチャンネル「写真家 田川梨絵 チャンネル」もおもしろい!https://www.youtube.com/@tagawarieCH

 

 

ーーアマチュア写真家の方は、グループ展に参加することが多いと思いますが、グループ展と個展の違いってなんでしょう?

(田川さん)グループ展は作品のパーツを飾っている。自分の世界に入り込んでほしいと思っても他者の作品が影響してくるから難しい。個展でないと自分の世界は成り立たないと思います。

ーー田川さんの最初の個展は?

(田川さん)大学の時須田一政先生のゼミを受けていて、卒業制作の作品を発表する機会を与えてもらったのが初めての個展ですね。

ーー普段、個展の構成は自分で考えますか?

(田川さん)これまで10回個展を開催して、自分ひとりだけで考えたのって2回だけですね。

ーー人の意見を取り入れるのはなぜですか?

(田川さん)より自分の作品が広がると思う。反対に自分だけでやっていると、視野が狭くなりがちでどうしても世界が狭くなってきてしまう。もちろん誰でもいい訳じゃなくて、私の場合は自分の作品を理解しもらい信頼している仕事のパートナー、写真作家の小山航平にディレクションに入ってもらっています。意見を聞くというか、日々の会話でも、私が作品に対して何を一番大切にしているかなど話し合って自分では気づかないところを指摘してもらったり、もっとこうした方が面白かなとかアイデアをもらったり。

ーー話すことで、自分が表現したいことがまとまってくるってことですね。

(田川さん)思っていることを自分の中だけで完結するんじゃなくて、それを言葉にしてアウトプットすると新しい発見もあるから、誰かに相談したり話すことはすごくいいと思う。

ーー展示の作業で一番好きなことと、苦労することって何ですか?

(田川さん)熱中することが好きだから、本当に全ての工程が好き。大変なのは、サイズを決めること。

ーー制作の過程で作品サイズを変えられるって写真ならではですよね。

(田川さん)そうそう。写真だからこそ。これをめっちゃ大きく見せたいと思っても壁面積は決まっているし、他の写真とのバランスもとらないといけないこともある。サイズで意味も変わってきますから。

ーーあと、どうしても予算の悩みは付き纏うと思いますが。

(田川さん)予算は無限、と考えたいところだけど。制作には妥協したくないからできる限りは無理する。だけど、それを現実化させるには難しい時も当然あるから、その落とし所が難しい。

ーー在廊はする派?

(田川さん)以前はそこに拘りがなかった。私の伝えたいことはこの空間にあるから、自分がいる必要はないと思っていました。でも、人との繋がりが大事って強く思う時期があって、個展に来てくれた人と話すことでの気づきもあったり、次の展示に繋がったり具体的な広がりも実際にあって、今はできるだけ在廊することにしています。

ーー他の方の展示は見ますか?

(田川さん)最初から見たいと思う展示を選んで行くので、多いとは言えないかも。

ーー見たいと思わせるDMとか宣伝が重要ってことですね。ご自身の個展でも、見にきてもらう戦略とか努力してることってありますか。

(田川さん)実はそこが苦手なところで自分の課題と思っています。

ーー友達はある程度来てくれる。私も知らない人にどれだけ自分の作品が届くかが大事と思ってます。アマチュアの人に個展をする際のアドバイスするとしたらズバリ何?

(田川さん)「はい撮りました。何となく考えました。何となく飾りました。はい自由に見てね」っていうのは、あまりにも勝手で、せっかく足を運んで見に来てくれる人に失礼。その失礼さがコンセプトだったらいいけど(笑)見てもらいたいと思うんだったら、見せる側のマナーがある。ベストな状態に作り上げることに力を注いでほしい。
あとは教室等で先生からアドバイスを受けるなど、誰か伴走者を得れると良いですよね。

ーー何となく作ったものは、何となくしか伝わらないですからね。最後に田川さんが印象に残っている展示ってありますか?

(田川さん)うーん、難しい。2018年のパリフォトで、ガゴシアン・ギャラリーだったかな、アンディ・ウォーホルの作品をギラギララメラメの銀色の壁に展示してたのが記憶に残ってます。パリフォトだから、販売する戦略とか色々あるでしょうが、壁含めて一つの作品の世界観を作っているんだと思いました。

ーーなるほど!参考になるお話をありがとうございました!

 

 

 

■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)、夢(2021年、Jam Books)がある。

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