オールドレンズを始めよう!作例編Vol.5:Super-Takumar 55mm F1.8でGFX×オールドレンズに挑戦!

鈴木啓太|urban
オールドレンズを始めよう!作例編Vol.5:Super-Takumar 55mm F1.8でGFX×オールドレンズに挑戦!

はじめに

こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回は徐々にそのユーザーを増やしている富士フイルムGFXと、オールドレンズと言ったらコレ!Takumarとの組み合わせが織りなす、ラージフォーマット×オールドレンズを紹介していきたいと思います。ボディは手に入れたけど、最初のレンズはどうしようかな…という方にオススメの記事となっています!さっそく見ていきましょう。

オールドレンズの中心的存在Super-Takumarとは

オールドレンズに興味を持つ方であれば、誰もがその名前を聞いたことがあるレンズ。それが旭光学工業(現リコーペンタックス)のSuper-Takumarです。市場に本数も多く、安価かつ小型で明るいレンズという、オールドレンズ界のスタンダードと言ってもよいレンズです。

1958年、Takumar 55mm F1.8のリリースを皮切りに、Auto、Super、Super-Multi-Coated、SMCなど多くのバージョンを展開しており、生産期によりレンズの硝材が異なるなど、違いを比べるのも楽しいレンズ。入門者向けにも関わらず奥の深い、全オールドレンズファンを虜にするレンズと言えるでしょう。筆者もまた、オールドレンズにハマるきっかけとなったのが正にこのSuper-Takumarで、逆光に向けた時のフレアとゴーストの描写に一瞬で魅了されてしまいました。

今回紹介する、Super-Takumar 55mm F1.8のスペックは次の通りです。

メーカー 旭光学工業
発売年 1962年
対応マウント M42マウント
サイズ(最大径×長さ) 57×36mm
質量 約200g(生産期により若干異なる)
焦点距離 55mm
フォーカス MF
レンズ構成 5群6枚
対応撮像画面サイズ 35mmフルサイズ(ラージフォーマットもカバー)
最短撮影距離 0.45m
絞り F1.8-F16
絞り羽根 6枚
フィルター径 49mm

少し本レンズの歴史を紐解いていきたいと思います。Super-Takumar 55mm F1.8は1962年当時PENTAX SVのセットレンズとして販売されました。上位モデルのSuper-Takumar 50mm F1.4と同様、微量な放射線を出す「トリウムガラス」が組み込まれたバージョンが主流となっています。SNS上でも人気で、オールドレンズ初心者には安価で買いやすく、熱心なオールドレンズファンは刻印された字体の新旧などからバージョンを判別して好みのTakumarを購入していくほど。

先述のトリウムガラスが経年により黄変することで、やや黄色味がかった発色になるのが特徴。作例で使用しているレンズはトリウムガラスを使用した後期生産のレンズです。代名詞でもあるゴーストは、逆光にレンズを向け鋭角に光を入れることで発生させることができます。特に秋~冬のシーズンは太陽の高さが低いことからゴーストやフレアを狙って出すことができる、オールドレンズ向きの季節です。

フルサイズよりも大きいセンサーを持つGFX

Super-Takumar 55mm F1.8にK&F ConceptのM42-LeicaMマウントアダプターを付けて、さらにTTArtisanのGFX-LeicaMマウントアダプターでボディに装着しています。

GFXシリーズは富士フイルムがリリースしている、フルサイズ比約1.7倍となるラージフォーマットセンサーを搭載したデジタルカメラです。フルサイズフォーマットと比べ1画素当たりの受光面積が大きく、シャドウからハイライトまで広いダイナミックレンジを持つセンサーとなります。筆者が使用しているのはGFX50S IIで、発売から3年ほど経過した現在でも高い人気を持ち、中古本体価格も高い状態で維持している機種です。

ラージフォーマットと他サイズの比較
富士フイルムHPより引用 (https://fujifilm-x.com/ja-jp/products/cameras/gfx50s-ii/feature-device/)

センサーサイズが大きいことから、フィルム時代の35mm判(デジタルではフルサイズフォーマット)向けのレンズの多くは四隅に暗角(写ってはいるが極端に暗くなる部分)やケラレ(レンズのイメージサークルよりも大きなセンサーを使った場合発生する、全く写らない部分)が発生し、使い物にならないものがほとんどですが、Super-Takumar 55mm F1.8はなんとラージフォーマットをもカバーする珍しいレンズ。

55mmのレンズをGFXで使用すると35mm判換算で約43mm相当、人間の視野角に最も近い画角となります。これは近年いくつかのカメラやレンズ(Leica Q3 43やPENTAX-FA 43mmF1.9、GF55mmF1.7 R WR等)で採用されており、非常に使いやすい焦点距離となるのも特筆すべき点と言えるでしょう。

勿論Takumarは35mm判のレンズですので、GFX純正レンズのように開放から四隅もしっかり写るということにはなりません。ですが絞ることで、本当に35mm判のレンズなのか…と思うほど周辺の画質も向上します。以下はF1.8の開放からF11まで絞りを段階的に変更した四隅の描写の結果です。

開放で撮った紅葉の写真です。この写真で絞り値を変化させて比較してみました。次の写真は、絞り値を変化させて撮った写真の左上隅を切り取って比較したものです。

▼絞りによる描写変化

絞り開放F1.8では強い光量落ちと周辺像の流れが見られます。ですがそれもF8で周辺像の流れがやや残るのみとなり、F11まで絞り込むことでほぼ解消されることがわかると思います。F16はF11とほぼ同様な結果となったことから割愛していますが、ここまでしっかりと四隅までカバーする35mm判レンズはなかなかありません。同様に四隅までカバーすると言われているのが、MinoltaのMC/MDレンズシリーズです。それよりもしっかりと全域をカバーできるレンズがこのSuper-Takumar 55mm F1.8なのです。

現状、Super-Takumar 55mm F1.8が大体1~1.5万円、マウントアダプターが1万円ちょっとですので、3万円弱あればGFX用レンズ1本分を確保できるのは非常にお得だと言えるでしょう。とは言っても描写が良くなければ、使うに値しないはその通り。ここからはスナップを中心とした作例をご覧いただきますが、なんかこれでいいかも?と思わせるだけの描写を感じていただけるはずです!

■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f1.8 1/680秒 ISO100 WBオート
光が当たる庭の草を撮影しただけですが、何ともドラマチックに。これもラージフォーマットが成せる技と感じています。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f8 1/100秒 ISO100 WBオート
F8ではよく見ると四隅のコンクリート、電柱の像がやや流れていますが十分な描写。よくある周辺の暗角及びケラレは全くなく、実用に問題はありません。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f2.8 1/3000秒 ISO100 WBオート
1段絞ったF2.8での撮影です。F1.8との違いは暗角に差があり、F2.8になると四隅の明るさが改善されます。中央の枝にピントを合わせましたが、すぐ後ろの葉もボケてしまうくらいに被写界深度は浅くなっています。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f1.8 1/900秒 ISO100 WBオート
ShaShaにもよく登場する次男坊です。F1.8ですが中心解像力はかなりの物。瞳の奥には撮影する私と、息子の視線の先にある妻の姿まで写っています。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f11 1/80秒 ISO100 WBオート
絞りきることで驚く様な描写が得られます。信号機にピントを合わせていますが、F11に絞っているにもかかわらず背景の鉄塔とのピントの切り離しもしっかりできており、そのボケの大きさから中判フィルムカメラを使っているかの様な感覚に陥ります。

GFX×Takumarが魅せるポートレート

■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f1.8 1/200秒 ISO100 WBオート
■モデル:つばさ

ここからはポートレートの作例を紹介して行きます。Takumarはフレアやゴーストといったオールドレンズらしい表現方法ができることや、現行レンズと比較し緩やかな描写とポートレートに適しているレンズとしても人気があります。それがラージフォーマットと組み合わさることで、フィルムに匹敵するダイナミックレンジ(ラチチュード)が得られ、さながらフィルムカメラのPENTAX SVで撮影したかのような表現が可能となります。

60年前のレンズとは思えないほどの描写力が備わっていますが、現代レンズよりも高コントラストで硬質的な描写にはならず、女性の肌も美しく描くのはオールドレンズの魅力のひとつと言えるでしょう。

オールドレンズを使ったポートレート撮影のコツは、モデルの顔などにゴーストが載らないようにすること。ゴーストだけではなく、葉の影などまばらな影を顔に落とさない様にすることがポイントです。逆光下においてはどうしてもコントラストの低下が否めません。そのため、Lightroom等ソフトウェアによる現像処理を行う必要があり、ゴーストが顔に載ってしまうと補正が行いにくくなってしまいます。敢えてゴーストを大きく取り込んで撮影してみましたが、コントラストの維持とゴーストを載せる位置には気を配っています。

オールドレンズで撮影すると、どうしてもフレアやゴーストを多用したくなりますが、光を柔らかく拡散させることができる古いレンズの性質を活かし、順光も使いこなせるようになると表現の幅が広がります。

■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f1.8 1/200秒 ISO100 WBオート
■モデル:つばさ
モデルを中央に添えたシンプルなポートレートです。中央にモデルを配置する場合は絞り開放で周辺光量落ちを活かし、視点集中の効果を得るという手法もあります。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f8 1/160秒 ISO100 WBオート
■モデル:南条葉月
モデルに寝てもらい撮影をしていますが、実はモデルの顔に光が入らない様に筆者が顔の前に立ちわざと日陰を作り、撮影しています。顔に不自然な光と影が入らない様にコントロールするのは、簡単ですが覚えておいて損はないテクニックです。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f1.8 1/400秒 ISO100 WBオート
■モデル:つばさ
モデルに直接光を当てたやや難しい順光下でのポートレートです。秋の光は柔らかくコントラストがつきにくいため直接顔に光を当ててもコントロールしやすい特徴があります。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f4 1/320秒 ISO100 WBオート
■モデル:南条葉月
少し絞ってもボケの量は十分、この様な草木が生い茂るシチュエーションではオールドレンズならではの騒がしいボケを楽しむこともできます。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f1.8 1/4000秒 ISO100 WBオート
■モデル:つばさ
これも光を直接当てたポートレートですが、絞り開放では中心と周辺で光量差が3段程度発生するため、全体の露出バランスを取るのが困難です。主役はモデルであるため、顔を中心に置くのであれば肌が白飛びしない様に露出を調整していきましょう。
■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f1.8 1/500秒 ISO400 WBオート
■モデル:南条葉月
逆光で少しゴーストを取り入れTakumarな撮影をしてみました。ゴーストが発生することで写真全体のコントラストが下がってしまうので、直接太陽の光を取り込むのではなく、木や葉の木漏れ日の光を拾ってゴーストが出せるようになると、描写が安定します。

まとめ

■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + Super-Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f11 1/30秒 ISO100 WBオート

GFXと35mm判(フルサイズ用)レンズの組み合わせは意外かと思われますが、GFXのポテンシャルを引き出してくれるとご理解いただけたのではないでしょうか。GFXのセンサーを最大限活かすのであれば純正レンズがベストなのは言わずもがなですが、オールドレンズの持つ独特の柔らかさフレアやゴーストといった表現方法は唯一無二であるとも考えられます。

ボディの価格は下がってきたとはいえ、30万円程度と高額ではあるのでGFXに触れてみたい!という方はTakumarとマウントアダプターで始めるのも良い選択肢と言えます。コストパフォーマンスにも優れ、十分な描写も得られるTakumarは正にオールドレンズのザ・スタンダード。ぜひお手に取って試していただければ幸いです!

この記事でオールドレンズに興味を持っていただけたのであれば、僕が執筆している「ポートレートのためのオールドレンズ入門」そして「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」に数多くのオールドレンズの作例と詳細な設定等解説を載せておりますのでぜひご覧ください。また、実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるオールドレンズワークショップ「フランジバック」にもご参加いただければ嬉しいです!では、次の記事でお会いしましょう!

 

 

■モデル
南条葉月:@nanjo_hazuki
つばさ:@tsubasa_mf_

■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。

 

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