サバンナ撮影記|Vol.01 ~ケニアへの行き方~
はじめに
子供の頃、テレビで観ていた野生動物の番組といえば『野生の王国』。その画面の中でアフリカのサバンナがよく映し出されていた記憶があります。見渡す限りの草原では弱肉強食が日常的に繰り返されているとても危険なところ。子供ながらにそんなイメージを抱いていました。
私が20歳になり写真学生を卒業する頃になると、野生動物を撮る写真家になりたいと思っていました。ただ、野生動物といえばサバンナしか思い浮かびません。どうやって行けばいいのかすら分からず困っていましたが、そんな時、たまたま動物写真家の方たちが行かれるツアーに参加させてもらえるチャンスがありました。初めてのアフリカ。一体どんなところなんだろうと胸を膨らませながら色々と妄想したことを思い出します。
本記事ではサバンナへ撮影旅行する際の行き方をご紹介します。安心して海外へ行けるようになった時に参考にして頂ければ嬉しく思います。
サバンナへ行くための準備
皆さんの中にも「サバンナに動物を撮影しに行きたいけどどうやって行けばいいの?」と思っている方もいらっしゃるかと思います。そこで今回は、ケニアへの行き方をご紹介いたします。ただ、僕が初めて行ったのは30年も前のことで、今とは少し行き方も違っていると思いますので、最近のルーティンでお話しいたしましょう。
ケニアに行くにはまずは準備が必要です。ケニアに渡航する際に必要な予防接種はありません。ただ、どこの国を経由するかによって、トランジットの時に黄熱病の予防接種証明書(イエローカード)の提示を求められることがあるようです。しかし、今回ご紹介するルーティンでは2020年末時点で必要ありませんでした。
ケニアへの入国にはビザが必要になります。事前にオンラインで申請し、発給されていなければなりません。少しややこしいですが自分でも申請が可能で、費用はクレジットカード決算でUS$51です。少し前まではケニア大使館に申請に行き、翌日発給されるので2日通わなければならなかったのですが、オンライン申請でかなり楽になりました。
英語表記のページには毎回悪戦苦闘させられますが、一度アカウントを作ってしまえば2回目以降は少し楽に申請できるでしょう。分からない方は旅行会社でプラス手数料で申請をしてくれるところもありますので、そちらを利用されると良いかもしれません。
ケニアへの持ち物で注意することがあります。ケニアに入国する時点でプラスチックバッグ(ビニール袋)を持っていると最大で日本円にして400万円ほどの罰金が科せられます。特にスーパーのレジ袋は絶対にNGですが、着替えなどを入れるためにジッパー付きプラスチックバッグは可否不明(ケニアの人に聞いても)なので安全のため紙袋や、100均で売っている洗濯ネットなどを利用します。途中の空港で土産物を買って、プラスチックバッグをぶらさげながらの入国も気をつけたほうが良いでしょう。近いうちにペットボトルも禁止になるという噂もあります。
そのほかに持参すると良いものは、雨季に行かれる際は特に必須の虫刺され対策用品です。マラリア対策として蚊に刺されないような準備がオススメです。ガスタイプではない虫除けスプレーやお部屋で使う用に渦巻きの蚊取り線香は有効です。1000メートルを超える標高の高いエリアはマラリアの蚊は生息していないと言われていますが、飛行機などで一緒に移動してしまうことがあるようで首都ナイロビでもマラリアにかかることがあるそうです。ちなみにマラリアに有効な予防接種はありません。
他には、日中のケニアの太陽は紫外線が強く、空気はカラカラに乾燥しますので、日焼け止めやお肌のケア用品もお忘れなく。日除けにつばの広い帽子は有効ですがカメラを覗くのに邪魔にならないものがオススメです。
そして、意外に思われることが多いのですが、寒さ対策は必須です。特に乾季は体感的にも寒く、ウインドブレーカーや使い捨てカイロが重宝することがあります。朝と夜はかなり涼しいです。いずれお話ししますが、宿によってはベッドに湯たんぽを入れてくれる程で、寒さが故に風邪を引いてしまう方も多いです。
また、毎回悩むのが機材の量です。飛行機に持ち込める荷物の重量はとても厳しくチェックされるので、厳選しなければなりません。航空会社にもよりますがエミレーツ航空ではエコノミークラスだと7キロまで1つ、ビジネスクラスで7キロを2つまでとなります。貧しい私は、もちろんエコノミークラスなので絶対に必要な機材だけカメラバッグに入れ、あとは厳重に梱包して預けます。預けた荷物がなくなる事や数日遅れて到着なんて事もたまに聞く話ですので特に往きは荷物の選定に吟味が必要です。預け荷物もエコノミークラスは30キロまで、ビジネスクラスは42キロまで(一つの荷物が32キロを超えない)で、超過すると1キロにつき片道7千円〜チャージされますので要注意です。
エミレーツ航空は羽田または成田と関空から出ていて、本拠地のドバイで乗り換えてナイロビに向かいます。エミレーツ航空が取れない時やとても高い席しか残っていない時に、同じUAEの航空会社でエティハド航空やお隣の国のカタール航空も同じような時間帯でナイロビに行ける便があり、そちらを使うこともあります。
乗り換え時間を入れて20時間前後でジョモケニアッタ国際空港に到着します。入国審査を通過してターンテーブルで荷物をピックアップし、出口でランダムで持ち物チェックがあるのですが、なぜかかなりの確率で私は呼び止められます。荷物を開けた時にプラスチックバッグが見えるとやばいので荷造りの時に、これを想定しておくと良いです。
あまりレートが良くないですが必要な方は、空港の両替所で現地のケニアシリングに換金できます。現地コーディネーターがいるならばレートの良いところに案内してもらうか、多額ならば、あらかじめ銀行で両替しておいてもらうと良いです。ただ、今は現金がなくても支払いができることも多いのでチップ用に少し換金するくらいで足りると思います。
いよいよサバンナへ
国際空港からナイロビの街へ行きます。空いていると40分もあれば着くのですが、ちょっと混むと2〜3時間、またはそれ以上かかったこともあります。次に行く場所がどこで何を使うかにもよりますが、私は基本的にナイロビに1泊します。翌日の午前中の小型機でサバンナに行くか、早朝から車で移動することもあります。
小型機ならば40〜50分のフライトでマサイマラ国立保護区という「THE サバンナ」という雰囲気のエリアに行けます。車で行くと7〜8時間かかります。飛行機は早いのですが、荷物がさらに厳しくて機内持ち込みと預け荷物合わせて15キロと、全ての装備をその範囲で持ち込むことは絶対に無理です。そのため、超過料金を払って載せるのですが、混んでいるときはお金を払っても積めないと断られることがあります。特にツアーなどでお客さんをお連れすると、お客さんのほとんどは大きなハードのスーツケースが主流なので、容積的に小型機には入らないと言われます。そのため最近はナイロビでソフトバッグに詰め替えて、スーツケースは帰るまでホテルなどで預かってもらいます。
小さいと14人乗りくらいの小型機ですが、その日のお客さん次第で何回着陸するのかが変わります。サバンナの泊まる宿によって着陸するところがいくつもあって、その時々によって着陸回数が変わるのです。時には、途中で別の飛行機に乗り換えてということも。
着陸する前に窓から見える景色は、雨季ならば真っ青な緑色で、乾季なら一面黄金色。草原に草が生えていない真っ直ぐな砂利道の滑走路(エアストリップという)に降ります。飛行機が降りる直前に滑走路に動物がいないか地上で見張っています。飛行機を降りると宿から車が迎えに来ています。車に乗ればそこはもうサバンナです。宿に移動する時にも野生動物がいます。まだ撮影の準備もしていませんが、時にはこの時点でレアものに出会うこともあります。宿にチェックインしてランチをしたら、午後3時半からサファリがスタートです。
初めてサファリをする時に必ずと言っていいほど言われるのがビッグファイブ!についてで、「今回の滞在中にその5種類コンプリートできたらラッキーです」のようにゲーム感覚に楽しませてくれます。その5種類とは、ライオン、ヒョウ、ゾウ、バッファロー、クロサイです。旅行会社やガイドによって少しずつ説明が変化しているのですが、由来は、昔、人間が動物をライフルなどで狩りする時に、一発で仕留められないと逆に襲われてしまう気性が荒い危険な大物としてビッグファイブと言われていたとのこと。特にサイの中でもシロサイは大人しいですがクロサイはやばいらしいです。「滅多に出会えない珍しい動物5種類です!」と説明しているのを聞いたことがありますが、珍しさで言いうと、サイは滅多に見られないものの、バッファローはどこにでも居ます。
私が初めてケニアに行った時、ライオンはビッグファイブに入っているけどトラは入ってないの?と質問したら、大笑いされました。「サバンナにトラはいないよ。」って小声で教えてくれました。「そーなの!」って顔を赤くしながら叫びました。実は、そのくらい動物について何も知らずにケニアに行ってしまったのです。ライオンが草食獣を捕食する弱肉強食の世界を見たいと言う思いだけを抱いて、オスはたてがみがあって百獣の王と言われている、と言うのが私のサバンナについての全知識でした。
臆病なライオン
ここで、ビッグファイブの一角であるライオンについて少しお話ししておきましょう。ライオンは夜でも行動できる夜行性ですが、私たち旅行者がサファリをできるが日の出直前から日の入りまでです。早朝のサファリに出ると、お腹がポンポコリンのライオンに会うことがよくあります。暗いうちにどこかで狩をしてお腹いっぱいになってねぐらのブッシュに戻る場面です。たまに食べている最中の場面も見かけますが、私が見たいのは狩る瞬間です。しかしながら、そんな場面には滅多に出会いません。日中は暑いので木陰でだらしなく仰向けに寝ているためです。お腹を見せて寝られるのは強さの証だと思いますが、フォトジェニックではありません。それでも何十回とサバンナに通っていると、日中に狩りをするライオンにも出会うことがありますが、ライオンは足があまり早くないので狩りを失敗することも度々です。
あるとき、バッファローに近づくライオン5頭のグループに出会いました。「念願だったバッファローを狩りするところが見られる!」と興奮しながらファインダーを覗きながらその時を待っていました。ライオンがだんだん接近してある程度の距離に近付くと気がついたバッファローが立ち上がりました。その瞬間、先頭のライオンの表情が「あれ!?」みたいに変化しました。立ち上がったバッファローがあまりにデカくてビビったように見えました。その後、まさかと思いながら見守っているとライオンは後ずさりするようにバッファローから離れて行ってしまいました。なんとも情けない若いオスライオンでした。
■写真家:井村淳
1971年生まれ。横浜市在住。
日本写真芸術専門学校卒業後、風景写真家竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。「野生」を大きなテーマとして世界の野生動物や日本の自然風景を追う。
(社)日本写真家協会(JPS)会員。 EOS学園東京校講師。