キヤノン EOS-1D X MarkIII レビュー | 飛行機撮影の現場でポテンシャルを確認!
はじめに
頂点性能をまとう究極の一眼レフカメラとして発売されたEOS-1D X MarkIII。今回もキヤノンのフラッグシップ一眼レフカメラらしく、また「1」の名に恥じない究極の性能を身にまとい誕生しました。飛行機撮影を含め、スポーツや野鳥撮影など動体撮影はまだまだ一眼レフカメラの方が有利、かつ確実性の高い場面が多く、まさにこれらの被写体を主として撮影する者にとっては待望の一台。各社ミラーレスカメラに力を入れる現在、よくぞこれだけの一眼レフ機を出してくれたと嬉しくなりました。
そんなEOS-1D X MarkIIIを飛行機撮影の現場に持ち出しインプレッション。動きのあるシーンや露出差の厳しいシーンなどで使用し、そのポテンシャルを確認してきました。
連写性能
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■撮影環境:ISO200 F9 1/1250 焦点距離600mm
飛行機撮影に際して最もその頂点性能を感じたのが連写性能です。OVF、いわゆる光学ファインダー撮影においては最高約16コマ/秒。ライブビュー撮影時においてはメカシャッター、電子シャッターどちらの使用時においても最高約20コマ/秒の連写が可能です。先代EOS-1D X MarkII では光学ファインダー撮影においては最高約14コマ/秒、ライブビュー撮影時においてはメカシャッター使用で最高約16コマ/秒ですから、およそ2〜4コマ分の進化を達成。先代よりさらに狙った瞬間を切り取りやすくなりました。
この写真では画角を富士山と空港ターミナルやタワーに合わせ置きピン。離陸する機体が写真右手から左手へと通過するのを待ちました。機体が画角に飛び込んでくるのと同時にカメラやレンズを動かさず連写を開始。機体が画角から外れるまでシャッターボタンを押し続けました。その結果がこの写真なのですが、高速で画角を横切る機体をしっかりと画面中央にとらえています。
連写性能に優れるカメラであれば、こういった場面で自分の思っていた位置に機体が収まる確率がアップ。作品の完成度も一段とアップします。
新型センサー
画素数
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■撮影環境:ISO200 F8 1/1250 焦点距離600mm
カメラの心臓部とも言えるセンサー部分には新開発の約2010万画素の35mmフルサイズセンサーを採用。先代MarkII では約2020万画素ですから、画素数はほぼ据え置きとなっています。
3000万画素〜4000万画素の高画素機が居並ぶ2020年現在のカメラ市場において、2000万画素といのはいささか物足りない印象を持つ方もいらっしゃるかと思いますが、多頻度で大きくプリントするという人でなければ必要十分。3000万画素〜4000万画素の高画素機では実現し難い高感度性能や連写性能を手に入れているのですから、手持ち撮影の多い飛行機撮影においてはちょうど良い画素数と言えます。
ディテールが重視される飛行機撮影ですが、機体の細部までしっかりと表現。小さな文字やパーツなどもきちんと解像されています。
ダイナミックレンジ
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■撮影環境:ISO100 F11 1/5000 焦点距離1200mm
センサーで進化を感じた点のひとつがダイナミックレンジ。先代に比べ数段の拡がりを感じます。こういった夕陽のシーンを先代EOS-1D X MarkII で撮ろうとした時、太陽の輪郭を出そうと思うと周囲が暗くなり過ぎ、かといって周囲を明るく見せようとすると太陽とその周囲が一緒に白トビしてしまったりしました。
しかし、EOS-1D X MarkIIIでは太陽の輪郭を出しつつ周囲の明るさもキープし、機体のシルエットをクッキリと出すことができたことに驚きました。
高感度
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■撮影環境:ISO1600 F4 1/4 焦点距離420mm
前述した程良い画素数は高感度性能にも恩恵を与えています。35mmフルサイズセンサーに無理のない画素数に抑えることで、夜間などの高感度撮影において非常に強いカメラといえます。体感的に先代ではISO12800程度を上限として使っていましたが、EOS-1D X MarkIIIではISO25600まで普通に使えるのでは?という感触。輝度ノイズ、カラーノイズともに上手に抑えられている印象です。
個人的にISOを上げずシャッタースピードを最大限まで切り詰めるという撮影スタイルですが、中間のISOも良好。夜間の手持ち撮影などにおいては引き続き最強のカメラだと認識しました。
GDローパスフィルター
ローパスフィルターにはこちらも新開発のGDローパスフィルターを採用。先代では2枚のフィルターで4点に点像を分離していましたが、MarkIIIでは4枚のフィルターで16点に点像を分離する方式が採用されています。これにより、先代に比べより偽色や輝度モアレを効果的に抑制。高い解像感を実現しています。
新型映像エンジン
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■撮影環境:ISO200 F8 1/1250 焦点距離600mm
高感度撮影時の低ノイズ化には新開発の映像エンジン「DIGIC X」のパフォーマンスも寄与。解像感の向上、撮影時のDLO(デジタルレンズオプティマイザ)処理などで画質を向上させています。
AF性能
測距点など
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■撮影環境:ISO200 F8 1/1000 焦点距離390mm
飛行機撮影をはじめとした動体撮影ではカメラ側の性能に頼る部分も少なくありません。その代表的な部分がオートフォーカスシステムです。本機はファインダー撮影におけるAFシステムを刷新。緻密に配分された最大191点の測距点が精密なピント合わせを実現してくれます。
また、動体追尾性能も向上。AIサーボを用いて離陸機を追いかける際などは、機体が遠ざかっていくに従いジェットエンジンのブラストにピントを持っていかれる危険性が増しますが、そのような時でも機体からピントが外れにくくなっています。
これらは新しいHigh-res AFセンサーのおかげ。ファインダーAF処理専用にDIGIC8を使用するという最高級機ならではの配慮により実現した、AF演算能力の大幅アップが効いています。
測距輝度範囲
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■撮影環境:ISO800 F3.2 1/40 焦点距離200mm
また、新AFセンサーの採用により測距輝度範囲が先代に比べ-4EVに拡大。写真のような真っ暗な場面でも、機体に少しでもコントラストがあれば瞬時にAFが反応してくれます。
夜の空港は地上スタッフが作業しやすいよう駐機エリアこそ照明を設置していますが、滑走路や誘導路などはパイロットが灯火類を見やすいよう真っ暗。夜の機動シーンを撮影するには機体が暗くてもしっかりAFが作動してくれないと話になりませんので、こちらの性能向上は非常に助かりました。
ハード面・操作性
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■撮影環境:ISO 6400 F8 1/1250 焦点距離1200mm
キヤノンのフラッグシップ一眼レフカメラらしくハード面も充実。雨の中、屋外で長時間使用しましたがまったく問題ナシ。様々な現場で使える堅牢性を今回も備えているなと感じました。ファインダーの横に新たに採用されたのがスマートコントローラー。ボタントップに指で触れスライド操作を行うと、指の動きを光学的に検知してAF測距点が移動します。
今までAFポイントひとコマずつカチカチと移動していたところがスウ〜っと移動するのが快適。慣れれば測距点の移動を瞬時に行えるため、この点も動体撮影に適していると言えます。
また、新たに液晶下のボタン類にイルミネーションが追加。夜間撮影においてはボタンの誤操作が発生することが多かったので非常に助かる改善といえます。
ただ、カメラ上部のボタン類にもこのイルミネーションを加えてもらえると個人的には満点でした。次回作でのさらなる進化が期待されます。その他、新セルフクリーニング機構を採用。従来は強化ガラスを使用していましたが、本機では水晶板でゴミ除去を行う新機構が採用されました。
CFエクスプレス
記録メディアはCF expressのダブルスロットを採用。CF expressは2019年に仕様策定された次世代規格のメモリーカードです。キヤノンのカメラには初採用となるメモリーカード。先代EOS-1D X MarkⅡではCFカードとCFastカードのダブルスロットでしたので、どちらのカードも使用不可という大幅な変更となりました。
EOS-1D X MarkIIIではライブビュー時に秒間約20コマ/秒という驚異的な性能を発揮しますが、これもこのメモリーカードの大幅な性能アップによるところが大きく、膨大な連続撮影枚数はこのCF expressによって支えられていると言っても過言ではありません。専用カードリーダーを使用したPCへの転送速度も速く作業効率も向上します。
まとめ
各社ミラーレスカメラに力を入れる中、究極の一眼レフカメラがどう進化してくるのか大いに注目しました。正直なところ、先代EOS-1D X MarkII の性能を見て、もう絞り出すものは無いのではないかと考えていましたので、連写性能や高感度性能のさらなる向上に驚きを隠しきれませんでした。
この進化、性能により、動体撮影は被写体を問わず新たな世界をまた創造できるようになりました。飛行機撮影もまた同じく。EOS-1D X MarkIIIだからこそ撮れる究極の一枚を模索したいと思います。