キヤノン EOS R5 Mark II × 野生動物|井村淳
はじめに
キヤノン EOS R3が発売されて2年半が経った頃、EOSRシリーズのフラッグシップR1と、Rシリーズ最高画素数R5の後継機R5 Mark IIの
2トップが同時に発表されました。まさかの同時発表で気になるスペックをドキドキしながら確認したものです。私は野生動物と自然風景を主に撮影しているのでどちらの機種にも興味がありました。R3を入手後は動物写真を、風景写真をR5と使い分けていましたが、ごく最近では、高解像度を優先して、動物の撮影でもR5を使うことが増えていました。R5がどの様にスペックアップしてR5 Mark IIへと進化したのかR1以上に期待度が高かったのです。
R5 Mark IIの一番のセールスは何か、サイトや紙のカタログで最初に大きくうたっているのが、『高速高画質!新開発の裏面照射積層フルサイズCMOSセンサー、映像エンジンDIGIC Xに加え、瞬時に解析処理を行うもう一つの映像エンジン、DIGIC Acceleratorを搭載。』です。映像エンジンDIGIC Xは前機種でも搭載されていたものと同様ですが、DIGIC Acceleratorがもう一つの映像エンジンと言っている様に映像エンジンが二つ搭載され、処理を分担し高速化を実現しているそうです。
さらに『「Accelerated Capture」とディープラーニング技術をベースに進化した、次世代AFデュアルピクセル Intelligent AFを新搭載。』でAF性能も上がっている様で期待大です。
動物園で「瞳検出」を試してみる
カタログ上での説明では難しい言葉が並んで進化の実感が湧きませんので早く実写したく、まずは動物園や公園の花壇などで使ってみました。カメラの設定は新機能以外は使い慣れた前機種のR5同様に設定し、今までと同じように撮影してみました。ボタンの位置などはおおよそ変わりはなく、メインスイッチの位置が左上部から右上部に変わったくらいです。
動物園の撮影では檻越しに動物を狙うなど障害物も多く、被写体の目にピントを合わせることが一段と難しくなります。向上したAF性能「瞳検出」で動物の瞳をどれだけ捉えてくれるかが楽しみでした。動かないハシビロコウの目はもちろん、小さいミーアキャット、歩いて来るトラ、突然水から顔を出したカバ、檻の格子の隙間から見えるコンドルの目に見事に反応して合焦に成功しました。瞳を検出した時のピントはギリピン(ガチピン)でシャープです。
ヤマアラシの展示がアクリル越しで、逆光が当たり、白く濁って綺麗に見えません。アクリルの柵の高さは僕の身長くらいだったので、その上からカメラを覗かせてヤマアラシを狙うことにしました。バリアングルで液晶パネルを開いてはいたのですが、逆光で画面がよく見えません。この辺かなというところで撮影したのですが、しっかり目をとらえてくれて、ピントが合っていました。
ミーアキャットがウロウロ歩いていたので、ピントはカメラ任せで連写してみました。顔の角度にもよりますが、ほぼ目を追従していました。ピントはカメラ任せで大丈夫と思ったので、流し撮りはファインダーで被写体を追いかけることに集中できました。
動物園の屋内の暗い場面でアカショウビンをISO51200で撮影してみました。それなりにノイズが見られますが、十分使えるクオリティと判断します。常用ISO感度最大で51200は前機種R5と同様ですが、R5 Mark IIは裏面照射積層CMOSセンサーの搭載により高感度でも高画質を実現していることを確認しました。
ごちゃついた背景でも捉え続けるトラッキング
動物園の次に公園の花壇で手持ち撮影をしました。花を見ているとチョウがいたのでチョウを主役に狙うことにしました。花にとまるチョウの顔、複眼辺りを捉えてくれました。一度食いつけば、チョウの顔が隠れない限りトラッキングで追従してくれます。チョウの動きは素早く、ピント合わせにまごついているとすぐに移動してしまいます。また、アゲハチョウ2匹が空中で追いかけっこをしていたので測距エリアを「領域拡張AF:周囲」に変更しアゲハチョウを捉えた後、トラッキングで追従して撮影しました。このように背景が枝や葉でごちゃついているとAFが背景に食いついてしまうことも多かったのですが、R5 Mark IIは狙ったチョウを捉え続けてくれました。
花の撮影では、前ボケを狙うことが多く、手前の花や葉の隙間の向こうにある花にピントを合わせるという場面が多くなります。測距エリアを1点AFやスポット1点AFを使い、合わせたいところにピンポイントで合わせます。
撮影中、急に強めの雨が降り出しました。新しいカメラを濡らしたくないという気持ちもありましたが、バンダナをカメラとレンズに巻き付けて、雨と花を撮影しました。背景が暗いところで雨粒を浮かび上がらせます。この様な場面では、手前の雨粒にピントが合ってしまい花がボケてしまうことが多いので、1点AFなどで花にピントが合ったことを確認しながら撮影しました。
本格的な取材で実写
入手してからしばらく経ってしまいましたが、ようやく本格的な取材で実写できる機会がやってきました。動物園や公園で使い手応えを感じているので、撮影が楽しみでした。
道東の中で私が気に入っているのが野付半島です。特に秋冬にはエゾシカを道路際でたくさん見ることができます。夕方になると、野付湾側に夕陽が低くなってきて、シカの群れと重ねて撮影できることがあります。野付半島の広くが鳥獣保護区で、禁猟区になっている場所ではシカが人間をあまり怖がらないのですが、それでも静かに身を低くして超望遠レンズで撮影します。日没直前になるとエゾシカと夕陽を一つの画面に狙うことができますが、太陽を大きく写すには超望遠レンズを使うので画面に太陽を捉えられるのはわずかな時間となります。太陽がちょうど良い位置に来た時に、シカがどういう状況かは運です。
背景に強い光が入るとピントが外れることもよくありましたが、雄ジカであればAFがツノを捉えて、歩き出してもトラッキングしてくれました。また、他の雄ジカが近づいて突然走り出しましたがAFが追従してくれていました。
日没後はすぐに暗くなってきます。最後にもう一枚と200-800ミリを手持ちで狙い、1/500秒までシャッター速度を落としても感度がISO32000とファインダーで確認しながら、動物園の試し撮りを思い出し、そのまま撮影しました。
野付半島から知床のウトロに移動して、ここでもエゾシカに会いました。黄葉した松の前にエゾシカがいて、少しこちらを気にしていました。100-500ミリを装着していたのでなるべく距離を取り、脅かさないように時間をかけて撮影しました。中でもツノの大きな雄ジカは警戒心が強く、しばらくすると森に帰っていきました。森の中に入る前に立ち止まり、一瞬こちらを向いた瞬間カメラを向けるとすぐにAFが顔を捉え、数枚シャッターを切ることができました。
カメラ内アップスケーリング
霧多布岬でラッコが見られると最近話に聞き、レンタカーを南に走らせ行ってみました。ネットで調べると注意事項なども記載されています。霧多布岬は断崖になっていて40m~100mとネット上にさまざまに書かれています。先端の方は断崖が少し低くなっているので、そこで見つけられれば少し近いのかなと思います。
初めは少し岸から離れたところに見つけましたが、あまりに遠く800ミリでも米粒のように小さくしか写りませんでした。駐車場付近に戻り、カメラを持った方とお話をしました。前に撮った写真をスマホで見せていただき、どれも素晴らしかったです。諦めて帰ろうとした時に、先端で先ほどお会いした方が、「近くに出てきましたよ」と教えてくださり、急いで岬の先端へ戻りました。
先ほどよりかなり岸寄りにラッコが2匹いました。隣の方が求愛ではないかと言っていました。夢中でシャッターを切りましたがもう少し大きく狙いたいと思い、カメラ内アップスケーリングをしてトリミングをしてみようと思いました。画素が4倍になるので、1/4サイズへのトリミングをし、焦点距離でいうと2倍になった感じで1600ミリ相当となります。
頼れる手ぶれ補正機能
日没後、夕焼け空に防風林のシルエットが浮かび上がっていました。かなり暗くなっていたので三脚を立て撮影しました。30秒の露光時間で肉眼では感じない雲の動きをブラすことができました。R5は電子シャッターでは0.5秒よりスローシャッターは使えなかったのですが、R5 Mark IIでは30秒まで設定することができます。バルブ撮影やインターバルタイマー撮影では電子シャッターで更なる長時間撮影も可能です。
風景の撮影は、三脚を使い、レリーズでシャッターを切るというのが基本です。感度を低く設定し、綺麗な画質を狙います。ブレをなくすために三脚とレリーズは必需品です。そして4500万画素という高解像度で繊細な描写を期待します。三脚が建てられない場合もたまにありますが、そんな時でも手持ち撮影で優れた手ぶれ補正機能に頼ります。
北海道取材の前後で紅葉を撮影しに北関東から福島県方面へ出かけました。日が陰った後の吹割の滝の少し上流で三脚を立てて、NDフィルターをつけて3.2秒のスローシャッターで撮影しました。ホワイトバランスを太陽光で撮影すると、日陰は色温度が高く青く写ります。ピクチャースタイルは風景でその青さが強調できました。
森の中の撮影では、目線を低く地面レベルに下げることもあります。少し昔はファインダーを覗くのに寝そべらなければならかったのですが、バリアングル液晶画面で上から覗き込めば良いのです。三脚を目一杯開きローアングルにして見上げる構図が楽に撮影できます。
広角レンズで大木やシダを見上げるような構図は非日常な世界観が面白いです。
風景写真でも重宝する高速化
風景写真は地球外の宇宙までが撮影範囲と言われます。太陽や星を被写体にするからですが、その星の撮影も昔と少し変化してきています。フィルム時代は長時間露光で1枚撮りするしか無かったのですが、最近では短く撮影したものを何枚も比較明合成するという方法があります。ホタルの撮影も少し似ています。そのため、風景写真でもカメラの高速化が重宝することがあります。今回星の撮影で30秒露光を連写する撮影をしましたが、1コマごとのコマ間が少しでも短い方が良いのです。R5と比較すると、長秒になるのでメカシャッターしか使えずコマ間が少し長くなります。星の光跡を綺麗な線にするにはコマ間は短い方が良いです。
さいごに
EOS R5 Mark IIはトータル的には大満足に進化したと言っていいと思います。風景写真にはもちろんですが、動物写真のように機動力を必要とする撮影に大きくスペックアップしたと感じます。良いことしかないわけではありません。残念なところも2点あります。一つは、バッテリーです。消費が早いので予備が必要ですが価格が高いです。しかしE6タイプでこれまでのLP-E6N、LP-E6NHも制限付きで使えるのはありがたいです。もう一つは、EOSR5とメインスイッチの位置など少しですが形が変わってしまったので、水中ハウジングも新調しなければならないことです。
それでも進化は期待通り以上でしたので2台目をポチって入荷待ちです。2台体制の撮影を今から楽しみにしています。
■写真家:井村淳
1971年生まれ。横浜市在住。日本写真芸術専門学校卒業後、風景写真家竹内敏信氏の助手を経てフリーになる。「野生」を大きなテーマとして世界の野生動物や日本の自然風景を追う。
(社)日本写真家協会(JPS)会員。 EOS学園東京校講師。