はじめに
この冬、道東の太平洋側はぜんぜん雪が降らず、大晦日に一度雪が積もったきりで、冬らしい景色が少なく撮影には苦労しました。冬に雪がないと風景がなかなか撮れず、タンチョウばかり見ていました。
今回は、キヤノンEOS Rシリーズの中堅となるEOS R5 Mark II(以下R5II)を2024年9月中旬からメインボディとして使っているので、あえて細かいところを見ながら従来機のEOS R5(以下R5)と比較し、正直なレポートをしてみようと思います。
操作感について
扱い慣れているR5を基準で考えると、ボタンやダイヤルなど基本的な操作性はR5と同じです。さらに前回の記事で解説したカスタマイズを行なっているので、まったく違和感なく操作できるようになっています。ボタンについてはより押しやすく微妙に形状が変更されているのもありがたいところです。メニューは整理されていてR5と違う部分もありますが、必要な項目はマイメニューに登録することで分かりやすくしています。
唯一、いまだに馴染めないのが電源スイッチの位置です。R5で電源スイッチだったところがR5IIでは静止画・動画切り替えスイッチとなっているため、誤操作をしてしまいます。最近のEOS RシリーズのボディではR5IIと同じ位置が電源スイッチとなっていて、右手だけでの操作に適しているので好ましい位置ですが、R5と同時に使うと迷うところです。
AFについて
一般的な風景やマクロなどの動きがない撮影では、まったく問題なく気持ちよくピントを合わせてくれます。これまでちょっと苦手に感じていたエゾリスのような、体全体が同じ色の被写体も迷いにくくなりました。ただ、早朝の雲海や霧の中の景色のように、極端にコントラストが低く照度も低い条件になるとなかなかピントが合わないことがあり、他社のカメラでも同じような傾向があると聞いているので、今後のミラーレス一眼の課題と言えるでしょう。
動体撮影においては、R5と比べるとピントの迷いが少なくなったと感じています。ただ、AFがかなり敏感なようで、ONE SHOT、AI SERVOに関わらず、被写体の近くに植物の茎や木の枝のような縦のラインが入っただけでもピントがそこに引っ張られることがあり、せっかくの被写体認識が十分に活かされていないと感じることもあるので、今後の改善を期待しています。
私がAF追従性能を判断しているシーンの一つに、冬のタンチョウ撮影があります。白い背景の中で白い体が重なり、コントラストが低くカメラにとってピント合わせが厳しい条件です。またピントがシビアな超望遠での撮影が多く、ちょっとしたピントの甘さも目立ちます。
R5IIでタンチョウを撮影すると、体の割に顔が小さいためか被写体認識を利用していてもお尻の黒い部分にピントを合わせていることが多いです。アップ気味なら立っている時には顔を認識してくれますが、急に羽を広げたり顔を動かすと形が変わって被写体を認識できなくなるのか、ピントが背景に抜けることもあります。
このあたりはR5と大きな差は感じられず、被写体認識では鳥が指定できないうえにタンチョウという被写体が特殊であるため、認識率が低くなるのは仕方ないところかもしれません。しかし、タンチョウの撮影に関してはEOS-1DXのような光学ファインダー機の方が安定したピントを得られていた感じもしていて、被写体認識に頼らない光学ファインダー機と同じAFアルゴリズムも好みで選べるようになるといいと思っています。
一方でR5IIになって扱いやすくなったところは、測距エリアごとにトラッキングの有無を選べるようになったことです。
R5では「顔+追尾優先AF」にすることでトラッキングに近い追尾ができましたが、タンチョウの飛翔シーンでは輝度が高いところや縦線のある部分に引っ張られて追尾を外すことが多く、初期のファームウェアでは気がつくと変な場所を追尾して画面の四隅でピント合わせをしているようなこともあって使わなくなりました。結果的に「領域拡大AF」や「ゾーンAF」で測距点の位置を移動しながら撮影していました。
R5IIではトラッキング中に被写体のすぐ後ろにある縦線などにピントが抜けることは時々あるものの、被写体の位置をきちんと追尾しているのでピントが抜けたことが分かればすぐに合わせ直すことも可能で、積極的にトラッキングを利用しています。画面中央あたりで「領域拡大AF」で被写体を捉えてからトラッキングさせることで、構図の自由度も高まりました。
ファインダーについて
EVFの解像度はR5と同じ約576万ドットですが、輝度が高くなったおかげかすっきりと見やすくなっています。同時にボディ内手ブレ補正の効きも良くなっているようで、ファインダー像の安定性も高くなっています。
電子シャッターでの完全ブラックアウトフリー表示ができるようになったことや、表示速度が連続撮影時は60fpsと高速化されたことで、動体撮影時も安定して被写体を追えます。何よりも、R5では連写時1コマ目のレリーズ後の表示にわずかなブラックアウトのタイムラグがあり、これに慣れないと被写体をうまく追えなかったのですが、タイムラグがなくなって気持ちよく動体撮影が行えます。
また、R5では1/2秒までしか電子シャッターが使えなかったので、より遅いシャッター速度で撮影したいときは先幕電子シャッターに切り替えるなど、ちょっと面倒なところがありました。R5IIではそのような制約がなくなったのと同時に、星を撮影するときなどかなり暗いシーンでもファインダー像が真っ暗にならずに撮影でき、露出シミュレーションも使えるので利便性が向上しています。
さらに露出だけでなく実絞りの状態でファインダー表示する「表示シミュレーション」が可能となっていて、ボケ具合を確認しながら撮影できるのも便利なところです。ただ、対応しているのはRFレンズや最近のEFマウントのレンズに限られ、それ以外のレンズをつけたときは利用できないようです。
画面周辺に表示される情報の位置がR5とR5IIでは違うものがあり、そこはちょっと戸惑うことがあります。電源と同じように最近のボディに合わせているのだと思いますが、なるべく変更しないでほしいと思いました。
また、R5もR5IIもアイカップがネジ止めされた固定式です。R5では雪の中などで撮影していると、アイカップの中に湿気が入って曇ってしまい、ファインダー像を確認できなくなることがありました。R5IIでは似たような条件で撮影していても、今のところ曇ることがないので改善されたと思っています。
その他
基本的に電子シャッターで撮影しているので、R5IIでは連続撮影速度を選べるようになったのも嬉しいところです。R5では電子シャッターにすると常に秒20コマで、ちょっと多過ぎると感じていました。
3段階で連続撮影速度を変えることができるようになっていて、それぞれ好みに合わせてカスタマイズが可能です。私は低速連続撮影では秒5コマ、高速連続撮影で秒10コマ、高速連続撮影+で秒20コマに設定しています。
新バッテリーの「LP-E6P」は持ちも良く、タンチョウの撮影では1000~1500コマほど撮影できています。三脚にのせている時よりも手持ち撮影でカメラを手に歩いている時の方がバッテリーを消費しているように感じるのは、歩いているときに手ブレ補正が働いているのではないかと推測しています。マイナス15℃ほどになるとさすがに冷えて減りが早くなりますが、温めれば回復するので、寒冷地でも十分使えると感じています。
画像の消去関連でも扱いやすくなっています。連写速度が速く大量に撮影されるようになったので、画像を消去するときに「この画像を含む連写画像全てを消去」が追加されました。いきものの撮影では撮ってみないと動きがわからないこともあって、無駄にシャッターを押すことも必要な場合がありますが、撮ってみていらないと感じた時にはこの操作で一気に連写した画像を消せるので便利です。
また、メニューの「画像消去」からは「範囲指定」ができます。バックアップが済んでいるのにデータを消し忘れてメディアに残したままになっているけれど、すでに撮影を始めてしまっていてメディアの初期化はできないといったときに、まとめて不要な画像を消すことができるので便利です。
個人的に搭載してほしいのが、セルフタイマー時のランプ点滅をなくす設定です。ランプ部分に黒テープでも貼っておけばいいのですが、寒冷地では剥がれてしまいます。
R5IIでは赤外線式のリモコンが使えなくなり、2秒セルフタイマーを使うことも多いのですが、ランプが意外に明るく他の人の迷惑になったりいきものに影響を与える可能性があるのです。AF補助光は点かないようにできるので、このランプ点滅の有無は将来的に実現してほしい機能です。
まとめ
キヤノンの5シリーズはさまざまな被写体に対応できるオールマイティ機であると言われるだけあって、R5IIは多くのユーザーの要望を満たす優れた性能と機能を持っていることが実感できます。あらゆる面で出来が良いあまり特筆して褒める部分が少なくなっていますが、それはプロが安心して使える十分な性能があるからです。
初代R5ではちょっと物足りなく感じていた動体撮影の部分を補って、より使いやすく確実に撮れるカメラとして進化したのがR5IIで、ネイチャースナップにとっても最適なカメラです。
私もまだ全ての機能を使いこなしているわけではなく、より自分に合ったカメラとして設定しなおしたりカスタマイズしてみたりできるかもしれないと思っています。また新たに使いこなしのポイントなどが貯まったら紹介したいと思いますので、楽しみにしてください。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。