ネイチャースナップのすすめ|キヤノン EOS 7D Mark IIで撮る水辺の冬鳥
はじめに
秋も深まり冬の気配が感じられるようになってくると、これまでと違う被写体を見られるようになってきます。風景は中途半端になってしまうこともありますが、その反面、冬鳥と呼ばれる渡り鳥がたくさんやってきます。
なかでも冬の使者などと呼ばれるハクチョウは、通常は四国・九州を除く日本全国にやってくるので、メジャーな渡り鳥といえるでしょう。小鳥と比べて動きもゆっくりで、人の近くで見られることも多いので、いきものを撮影する練習台としてもぴったりです。今回は、ハクチョウを中心に動くいきものの撮り方を解説していきます。
野生のいきものを撮る前に
いきものを撮影するときには、なによりも観察が大切です。ハクチョウが集まってくる場所では餌付けが行われているところもありますが、だからといって飼い慣らされているわけではありません。人間と同様にそれぞれに個性があり行動も違います。
いきものをうまく撮りたいと思ったら、まずは撮影の前にゆっくり観察することです。次にどんな動きをするか予測できなければ、動きのあるシーンはうまく撮影できません。
まずは静かに観察して、いま何をしようとしているのか、その行動にはどんな意味があるのかを考えましょう。いきものの姿をみつけたからといってむやみに近づけば、警戒されて自然な姿が見られなくなるだけでなく逃げられてしまい、結局何も撮影できないで終わってしまいます。
逆にこちらが安全な存在だと認識してもらえれば、かなり近くに寄ってくることもあり、間近で撮影させてもらえることも多いです。
適度な距離を保ちながら撮影するためには、超望遠ズームが便利です。現在では各社で発売されていますから、可能な限り望遠側の焦点距離が長いレンズを使うといいでしょう。
ハクチョウの行動をおおまかに解説しておくと、夜間は湖や池など水の上で寝ています。日の出の頃から行動を開始し、餌場に向かって飛んでいきます。秋に渡ってきたハクチョウは田んぼやコーン畑などの落ち穂を食べに行くことが多いです。日中はずっと田んぼや畑を転々と移動して食べたり休憩したり、ときには湖に戻ってくることもあります。湖に戻ってくると、水を飲んで喉を潤したり羽繕いをしたりして、また食事に出かけていきます。夜はだいたい日没後に湖へ戻って一晩過ごすのです。行動を開始する時間は、天候やハクチョウの気分によって違うので、そこは現場で待つしかありません。
超望遠レンズを使うための準備
はじめて超望遠レンズを使う人が一番戸惑うのが、被写体をファインダーでうまく捉えられないことだと思います。超望遠レンズは画角が極端に狭いため、狙った被写体を画面に入れること自体が難しいのです。
これは体で覚えて慣れるしかないので、ひたすら練習あるのみです。
超望遠ズームなら少し画角を広くしておいて、被写体を画面に入れてから望遠側にズームするという方法がありますが、動きの速い被写体ではシャッターチャンスを逃す可能性もあります。
ハクチョウを撮影するときも、動きがないからといってボーっと待っているのではなく、すばやくハクチョウを画面に入れられるように練習しておくといいです。
シャープに撮るための設定
いきものの撮影では超望遠域の焦点距離を使うことが普通です。そのためブレが起きやすく、ピント合わせも正確に行わなければいけません。手ブレ補正機能が良くなっているといっても飛翔しているハクチョウの撮影では、簡単にブレが起きてしまいます。手ブレ補正は流し撮りモードがオススメです。
動きのあるシーンでは、できるだけ速いシャッター速度を選ぶことが大切です。1/1000秒以上を基本にして必要に応じて調整しましょう。それでも飛翔しているときには、きちんと被写体を追い続けないとブレて微妙に甘い写りになってしまいます。
露出モードはシーンによって絞り優先AEとマニュアルを切り替えています。絞り優先AEでは、開放絞り付近に設定します。大きな動きがないときや、光線の変化が激しいときは絞り優先AEで、飛翔シーンのように大きく背景が変化するときはマニュアルにすることが多いです。
ハクチョウは白いために、激しく白トビさせるとRAWで撮影していても、後処理で救えなくなります。こまめに露出をチェックし、とくに露出オーバーには気をつけましょう。
ピントも動きに合わせて追従できるように、AFモードをAIサーボやAF-Cに設定します。どの程度の動きを追えるかは機種によって違いがありますが、まずは正確に被写体をファインダー内はもちろん、AFフレームで捉え続けることが基本です。
はじめはとっさに被写体を画面に入れることさえ困難でしょう。そこからさらに動きを追い続けるのですから、日頃から練習しておくことが必要です。ハクチョウは鳥の中でも大きく動作もゆっくりのように見えますが、いざファインダーで捉えるとなると、けっこう難しいです。
測距点は1点で被写体を追えれば理想的ですが、なかなかそれも難しいので、1点とその周辺といったように少し広くしておくと被写体を捉え続けやすいです。最新のミラーレス一眼ではトラッキングなどの機能もついているので、カメラ任せでもけっこう撮れるかもしれません。
レンズにフォーカスリミッターがついていれば、活用するとピントを外したあとのフォローが速くなります。
三脚を使うときのコツ
ふだん超望遠ズームでも手持ち撮影が多いですが、可能なときは三脚を使います。これだけでもシャープさはかなり違ってきます。ハクチョウの場合は水辺で動きを待ちながら撮る事が多いので、積極的に三脚を利用しています。三脚を使ったほうが腕の疲れも少なく、安定した構図で撮影できるメリットもあります。
三脚を使うときのコツは、雲台受けが平行になるよう三脚を立てることです。面倒でも三本の足を調節して、きちんと水平を出すようにしましょう。大型の三脚やビデオ三脚ではレベラーといって雲台受けが水平になるよう調節できる機構を持ったものが多いです。
雲台受けが斜めになっていると、被写体を追って雲台を左右に振ったときに水平線が曲がってしまいます。また、自由雲台も同様に水平が傾きやすいのでおすすめしません。スリーウェイ雲台やツーウェイ雲台(ビデオ雲台)を使うと画面の水平が傾くことなく撮影できるようになります。
この基本を守れば、超望遠を使った撮影もだいぶ楽になります。
撮影環境を活かして臨機応変に絵作りする
同じ被写体であっても、背景や光が違ってくると写真の印象は大きく変わってきます。例えば、水面の色は空に影響されることが多く、青空が映り込めば青くてとてもきれいですが、雲が映り込むと白くなって、ハクチョウなどは色が近いのでハクチョウが目立ちにくくなります。
また、飛翔しているときはどんどん移動していくので、背景となる場所も変わります。飛翔したらなりふり構わずシャッターを押すのではなく、あらかじめ絵になりやすい場所を確認しておいて、そこでシャッターを押すようにすると、無駄打ちしなくてすみます。あとから作品をセレクトするときにも無駄がなくなります。
今回も、朝日が登ってきたところにハクチョウが飛んでくれないかと意識していたら、ちょうど良い位置を飛んでくれたこともありました。
また、逆光になったときには割り切って、ハクチョウはシルエットにして空の色を優先する露出で撮影するなど、シーンに合わせて撮り方を変えることも必要です。日没後は高速シャッターで撮影するのは無理ですが、撮影をやめるのではなくて流し撮りに挑戦してみるなど、そのときの撮影条件に合わせた撮り方をすれば、いろいろ楽しめます。
EOS 7D Mark IIの印象
2014年10月発売のキヤノン EOS 7D Mark IIは、もう10年前のカメラとなりますが、今回撮影していてもキビキビと動き、AFも快調で、さすが一世を風靡したカメラだとあらためて感じました。
とくに日没後のコントラストが低く薄暗いときの撮影では、現行のミラーレス一眼よりも速くピントが得られるのではと思うこともありました。キヤノンのミラーレスカメラではまだEOS R1にしか搭載されていない、AFクロスセンサーの威力でしょう。
キヤノンのAPS-Cモデルは焦点距離をフルサイズに換算したときに1.6倍となって、他のメーカーよりも望遠に強いというメリットがあり、今回のような超望遠を必要とするいきものの撮影に適したセンサーを持っていると言えます。
唯一、今のカメラと比べると高感度域でややノイズが目立つのが気になるところでしょうか。ただ、現在のEOS R5 Mark IIでもAPS-Cにクロップすると約1700万画素。2000万画素モデルのEOS 7D Mark IIの方がセンサーピッチがより狭いということになるので、10年前のカメラでこれだけの画質と考えると立派だと思います。
まだオーバーホールもできるボディなので、もうしばらく愛用したい人は、今のうちに済ませておくと良いですね。
まとめ
今回の撮影は新潟県の瓢湖を中心に撮影しました。幸い天気に恵まれたので、ほぼ24時間の間に撮ったもので構成しています。渡りの途中で人に慣れていないため、あまり近くに来てくれなかったのが残念です。地元でもなければ毎日通うのも難しいですから、皆さんが休日に撮影に行くのと同じような感じになっていると思います。
ちょうど渡りの最中で5000羽を越えるハクチョウがやってきていて、撮影のメインは日の出の頃からの飛び立つ姿となりました。6時から8時にかけての二時間は常に何処かからハクチョウが飛んでいく状態で、あちこちに視線を送りながらカメラを振り回していると、目が回ってくるほど。
日中は田んぼへ行ってしまうので休憩できましたが、それでも時々戻ってくるハクチョウが賑やかに喧嘩をしたりしていて、シャッターチャンスには事欠きません。カモもたくさん来ていて、すぐ近くにいるので見ていて飽きることがありませんでした。
こんなにたくさんのハクチョウがいなくても、身近なところにハクチョウがやってくる場所があれば動体撮影の練習にぴったりなので、一度チャレンジしてみてほしいです。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。