さまざまな光で描く風景写真の魅力|八木千賀子
はじめに
「光」は、写真を撮影する上で、非常に重要な要素です。普段、わたしたちが何気なく見ている「光」を少し意識してみるだけで、同じ風景でも写真の雰囲気や表現が大きく変わり、自然の美しさをより引き立てる要素として活用することができます。
今回は「光」に注目し、美しい風景写真を撮影するための方法についてお話していきたいと思います。
「光」にはいくつかの種類があり、それぞれが写真に異なる影響を与えてくれます。例えば「順光」は、被写体に直接光が当たるので、細部や色彩などが鮮明に写り、微細なディテールまで際立たせてくれます。「逆光」は、被写体をシルエットとして浮かび上がらせ、幻想的な効果を生み出してくれます。「サイド光」は、立体感を際立たせることで、陰影を強調させることができます。曇天や雨天の日などは、ソフトな光なのでコントラストを和らげ柔らかな質感で撮影することができます。
さらに、写真の中に太陽をアクセントに活用したり、ハイキーやローキーのテクニックを使うことで、光を写真のストーリーや雰囲気の一部としても利用することができます。
どんな被写体がどの光に適しているかを理解し、光の特性を最大限に引き出すことで、風景写真をより一層美しく魅力的に撮影することができるのです。
光を意識的に活用することで、普段みている風景が素晴らしい写真になる可能性が広がります。光の種類、そして活用方法を覚えて、美しい風景写真の撮影をぜひ楽しんでみてください。
順光
まずは、基本の光の一つ「順光」
順光とは、撮影者の後ろから被写体に当たる光を言います。順光は、被写体をくっきり鮮やかに表現することができるのですが、全体的に光が当たるため、陰影や奥行き感が出にくくなるため、立体感を出したい被写体には向かないこともあります。
風景写真の撮影においては、被写体に直接当たる光により、明るくくっきりとした写真を撮影するのに非常に有用です。鮮やかな色彩でメインの被写体のみではなく、遠くの風景や背景までしっかりと撮影することができます。
順光で撮影したことで、メインの被写体であるタンポポ、そして空の色も鮮やかに写り、遠景の山もはっきりと撮影することができました。順光で撮影する際は、C-PLフィルターを使用すると、より鮮やかな一枚を撮影することができます。
大気中には分子があり、その分子に太陽の光が当たることで、光の散乱が起きるため実際の被写体の色より霞むことがあります。その光の散乱を、C-PLフィルターは抑えてくれるので、より青空で撮影することができ、被写体を引き立ててくれます。
虹をみつけるには、太陽が出ていて雨が降っているときに、太陽を背にした方向を探してみてください。虹は必ず太陽の反対側の決まった位置で見ることができます。撮影者の後ろから光が当たる状態なので「順光」で見ている状態ですね。
虹は、太陽の光と撮影者から常に42度の角度を保って現れます。そのため、虹を予測することが可能で、虹が出そうだなと思ったら太陽の角度を見て、事前に虹の出る角度を考えて前に何を入れるか被写体を探しておくこともできますね。ただ太陽が高い位置にあると、撮影者から42度の角度は、地平線近くやその下の場合もあるため見ることができません。
虹を撮影する際も、C-PLフィルターを使用すると効果的です。虹が出る条件として、雨が降っていたり、空気中の水分が多い条件になります。そうすると空気中の水分が多いので、太陽の光を散乱させてしまいます。その散乱を抑えるため、C-PLフィルターを使用することで虹の色をくっきりと写すことが可能になります。
雨が降っていたり空気中の水分が多い時に、太陽の陽射しが出ている場合は、ぜひ虹を探してみてくださいね。
逆光
つづいて、基本の光の一つ「逆光」
逆光は、撮影者の前・正面から当たる光、被写体の後ろから当たる光を言います。被写体には光が当たらないため暗く写りますが、背景や周囲の光により被写体の輪郭を強調することができ、シルエットとして浮かび上がるので、印象的な写真を撮影することができます。
風景写真の撮影においては、逆光の明暗差によりドラマチックな一枚を撮影することができます。この時、露出のコントロールが重要になります。逆光で撮影するときは、思い切って露出をアンダーに設定することで、光が当たっているところだけが浮かび上がり印象的な写真になってくれます。
太陽が沈んでいく方向にカメラを向けて撮影したことで、ひまわりは黒くシルエットになっていますが、透け感のある花びらはバックライト効果により陰影が生まれています。
逆光で撮影する際、カメラのレンズに光が入ることで、フレアやゴーストが出る場合もあるので注意が必要です。フレアやゴーストが出る場合は、太陽を何かに少し隠すことで防ぐこともできます。またフィルターをつけていると、レンズとフィルターの間で乱反射してしまうこともあるので、フィルターを外すことでフレアやゴーストが出にくくなります。
サイド光
基本の光の一つ「サイド光」
サイド光は、被写体の横から当たる光を言い、被写体の輪郭や表面の凹凸を際立たせることができ、立体感を強調する効果があります。早朝や夕方などの低い太陽の光の方が、強いサイド光になり、より陰影を強めてくれます。太陽がある程度高い位置になると、被写体の反対側まで光が回るため陰影は弱くなります。
風景写真においてサイド光を活用するときは、被写体の位置と光の角度に注意し、被写体の輪郭や陰影を引き立てる効果を最大限に引き出してあげることが重要です。サイド光を活かすことで、風景写真に立体感や深みを持たせることができるので、印象的な写真を撮影することができます。
太陽が左側から昇ってきている状況なので、左からの強いサイド光により、ポピーの花や茎に陰影が生まれました。透け感のある花びらは、光を通すので陰影が弱くなりますが、茎やつぼみには陰影がうまれているので、力強い一枚になっています。サイド光を活かすには、露出補正はマイナスにすることで陰が引き締まります。サイド光は光が強く、コントラストが高く出る傾向にあり、黒つぶれしてしまうこともあるので、カメラの設定でコントラストを下げたり、現像の時にコントラストを下げることで、黒つぶれを緩和させることができます。
ソフトな光
ソフトな光とは、曇天や雨天、日没前後の時間帯に撮影できる光で、明るさが穏やかで影が柔らかく、被写体を優しく包み込むような光の条件を言います。柔らかな光なので陰やコントラストが減少し、明るい部分や暗い部分をより明確に写し撮ることができます。
風景写真において、ソフトな光を活用すると被写体が柔らかく写り、被写体本来の美しさを引き立てることができます。ただ、メリハリ感が乏しく、インパクトに欠けた写真にはなりますが、ソフトな光でしか撮影することができない、柔らかなで優し気な雰囲気を演出してくれます。
光が弱くなるため、シャッタースピードが上がらず、手ブレしてしまうこともあるので注意が必要です。また、暗く写ってしまうこともありますので、そんな時は露出補正をプラスにすることで、より柔らかな写真を撮影することができます。
雨上がりの曇り空、雲によって光が散乱され、均一な光が稲の隙間にいたアマガエルに降り注いでくれたので、柔らかな光で撮影することができました。光が柔らかいのでコントラストも弱くアマガエルの体の細部まで写し撮ってくれています。薄暗いためシャッタースピードが上がらず手ブレする可能性があったので、ISOを上げて撮影しました。
太陽をアクセントに
風景写真の中に、太陽をアクセントとして写すことで、視覚的な焦点として見ている人の視線を引き寄せたり、光と陰の対比もうまれるので、風景写真に深みや立体感を演出してくれます。ですが、太陽をアクセントとして入れる際は注意が必要です。太陽は明るいため、露出の調整が難しい場合もあり、被写体と太陽のコントラストが高まるので、どちらかの詳細が写らない場合もあります。また、太陽の光がレンズに直接入ることで、フレアやゴーストが現れてしまったり、太陽の光はとても強いため、周囲の風景が失われ、白飛びしてしまうこともあります。
太陽を風景写真に取り入れるかどうかは、被写体の撮影の目的に応じて検討することが必要になってきます。太陽を入れる際も、直接配置する方法と、何かに隠して間接的に配置する方法があり、太陽の光の強さも考慮して撮影してみてください。
太陽を少し樹木に隠すことで、美しい光条の効果を写真に加えることができます。光条を出すには、カメラの絞り値を上げ、太陽は木や葉で隠します。太陽を隠す量によっても、光条の大きさが変わりますので、お好みの量を見つけてみてください。「光条」は写真のアクセントにもなってくれますし、不要なフレアやゴーストを抑えることができます。この方法により、太陽が写真にドラマチックな要素をもたらし、美しい効果を生み出すことができます。
ハイキーで表現する風景写真
ハイキーとは、露出オーバーした写真ではなく、通常の露出よりあえて写真を明るくし、軽やかな雰囲気を演出するテクニックになります。ハイキーで撮影するには、通常の露出設定よりも明るい露出補正(+1から+3程度)を使い写真を明るく仕上げます。
曇り空や全体的に明るい被写体がハイキーに向いています。ただし、コントラストや陰影が強すぎる被写体をハイキーで撮影すると、露出設定が誤っているだけにみえることもありますので、撮影時の光の状態を考慮しながら撮影してみてください。
磯でたたずむカニをハイキーで撮影をしました。明るい露出設定にしたのでカニや海の玉ボケが明るくなりさわやかな印象です。ハイキーにする際は、逆光や半逆光のような撮影条件が向いています。
ローキーで表現する風景写真
ローキーは、意図的に露出をマイナス側にすることで写真を暗くし雰囲気あるイメージに仕上げる方法になります。通常の露出設定よりも暗い露出補正(-1から-3程度)を使い、写真を暗く仕上げます。ローキーで撮影する際は、スポット光や逆光、サイド光などの陰影が強く出る光の状態が必要となりますが、ローキーで撮影することで、より陰影が強くなり写真にストーリーが生まれます。
低い太陽の逆光が木道に差し込み、写真に強い陰影を生み出しました。露出補正をマイナスに設定したことで、暗部が引き締まり、光の効果が際立ち、写真にストーリー性が感じられます。特に主題となる被写体が逆光やスポット光で照らされている場合、露出補正をマイナスに調整してローキーなスタイルで撮影することをおすすめします。これにより、光の印象が強調され、写真に深みと魅力が加わります。
まとめ
さまざまな光の条件を使い、風景写真を撮影することで美しい瞬間を捉えることができます。光の質や方向によって写真の印象は大きく変わり、被写体や撮影の目的に応じて、適切な光の条件を選ぶことが重要です。順光、逆光、サイド光、ソフトな光、太陽のアクセント、ローキー、ハイキーなど、それぞれが写真に新たな魅力と個性をもたらしてくれます。光と影を意識し、風景写真の美しさを発見し、写真撮影をより楽しんでみてください。
■写真家:八木千賀子
愛知県出身。幼い頃より自然に惹かれカメラと出会う。隻眼の自分自身と一眼レフに共通点を見いだし風景写真家を志す。辰野清氏に師事し2016年に【The Photographers3 (BS 朝日)】出演をきっかけに風景写真家として歩み始める。カメラ雑誌、書籍など執筆や講師として活動。