はじめに
今シーズンは3月12日にタンチョウへの給餌が終了するまで、連日のようにタンチョウを撮影していました。
タンチョウが給餌場から自分たちの縄張りに帰るようになるのは、今年の繁殖に向けて巣作りを始めるためであり、雪も溶け始め草が芽吹いて魚やザリガニなどが活動を始めていろいろなものを食べられるようになるからです。
そのタイミングで私もメインの被写体をタンチョウから風景に切り替えて、季節の移り変わりを探し始めました。今回は、そんな冬から春への季節の狭間をネイチャースナップしたお話をしたいと思います。
冬との違いを感じながら撮る
冬の長い北海道では3月になっても雪が残っている場所も多く、私の住む釧路エリアでは3月いっぱいは冬のような景色もたくさんあります。気温が上がるにつれて雪溶けも進み景色も変わっていくので、その変化を活かしながら季節感のある作品を撮るように考えていくことが大切です。
長い冬の間に見慣れたように思える景色でも、よく見てみるとちょっとずつ違うところがあります。真冬の景色とまったく同じでは季節感が出てこないですから、まずはその違いが何なのかはっきりと自分で認識するようにしてから撮影します。
たとえば、いままで一面真っ白だった景色のなかに地面が出てきている、という当たり前のことでも十分で、その違うと認識できたところを活かして絵作りしていくのです。
広い景色の場合は、どうしても構図が真冬と同じになってしまうことも多く定点観察しているような写真になりがちなので、意識して違う構図でも撮っておくようにするといいでしょう。
植物の目覚めを捉える
春が近くなると、植物も活動を始めます。いままで地味だった景色に色が加わってくるので、楽しみな季節でもあります。真っ先に咲く花は、フクジュソウです。今シーズンは暖かかったこともあり、日当たりの良い南斜面では雪解けも早く、3月上旬には咲き始めているところもありました。その他、キタコブシやヤナギのつぼみはもっと早い時期からうぶ毛をつけて膨らんできているのを見ることができます。あちこち歩きながら、そんな草花を探していくのは楽しいものです。
冬から春へと季節の移り変わりを感じられる写真として表現するには、残雪と絡めると伝わりやすいです。理想的なのは、雪の中から顔を出すフクジュソウといったイメージでしょうか。
しかし実際そのような条件に恵まれるのはなかなか難しく、花が咲き始めたときには雪が残っていないということの方が多いです。
こちらでは4月になっても雪が降ることがありますので、ある程度花が咲き始めてから遅い雪が降ったタイミングを狙って撮影する方が効率よく撮影できるかもしれません。しかし、すぐに溶ける雪ですので撮り逃さないようにすることが必要です。また、日頃からどの当たりで花が咲いているか、調べておくことも大切です。
雪と花などを組み合わせると画面内の輝度差が大きくなり、花に露出を合わせると雪が白トビしやすくなります。あまり彩度を上げず、自然な色再現の設定にして、さらにコントラストを下げたり階調拡張機能を利用したりするといいと思います。空を画面に入れなければ曇天を選ぶのも有効です。
雪溶けの場所に来るいきものたち
春になると地面が出てくるようになり、いきものの行動パターンも変わってきます。冬の間ハクチョウは湖にいることが多かったですが、地面が出てくると近くの畑に行って落ち穂などを食べるようになります。また、道路脇や早く雪が溶けたところにはエゾシカの姿もよく見かけます。その他、小鳥類もやって来て食べ物を探しているので、運が良ければ近くでその姿を見られるかもしれません。
地面をよく見ていると、雪がなくなったところからは小さな植物の芽が出ていたり、ドングリが落ちていたり、落ち葉の下には小さな虫が隠れていたりします。それぞれは写真にならないかもしれませんが、どうしていきものがやって来るのかを理解して、その行動を邪魔しないように見ていることができれば、撮影させてもらえるチャンスも増えてきます。
いきものの姿を見かけたら、すぐに近づくのではなく、何をしているのか観察しながら逃げられない適度な距離を持って撮影することが大切です。できるだけ焦点距離の長い超望遠レンズで距離を持って撮影しましょう。フルサイズのカメラであれば、APS-Cサイズにクロップするのも有効です。小鳥は動きが速く被写体ブレしやすいです。1/1000秒以上を目安にして、ブレを抑えるようにするとシャープに撮ることができます。
まとめ
季節の変わり目はひと味違った写真を撮るチャンスでもあります。季節のピークを狙った方が見栄えがいいのかもしれませんが、風景だと観光写真的になってしまうことも多いものです。
逆にこの時期は定番の景色がみつけにくいからこそ、自分の足で歩いて自分で見つけた被写体にカメラを向けることになります。また、最近は天候も変わってきていて、今まで見られなかった景色があるかもしれません。
ピークを過ぎたから撮影シーズンも終わりではなく、被写体を見つける目を磨く時期と考えて、いろいろなところを歩いてみてください。ひとつ気になる景色を見つけられると、次々に違うものも見えてきますよ。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。