ネイチャースナップのすすめ|冬から春・季節の狭間を楽しむ

小林義明
ネイチャースナップのすすめ|冬から春・季節の狭間を楽しむ

はじめに

今シーズンは3月12日にタンチョウへの給餌が終了するまで、連日のようにタンチョウを撮影していました。
タンチョウが給餌場から自分たちの縄張りに帰るようになるのは、今年の繁殖に向けて巣作りを始めるためであり、雪も溶け始め草が芽吹いて魚やザリガニなどが活動を始めていろいろなものを食べられるようになるからです。

そのタイミングで私もメインの被写体をタンチョウから風景に切り替えて、季節の移り変わりを探し始めました。今回は、そんな冬から春への季節の狭間をネイチャースナップしたお話をしたいと思います。

冬との違いを感じながら撮る

冬の長い北海道では3月になっても雪が残っている場所も多く、私の住む釧路エリアでは3月いっぱいは冬のような景色もたくさんあります。気温が上がるにつれて雪溶けも進み景色も変わっていくので、その変化を活かしながら季節感のある作品を撮るように考えていくことが大切です。

長い冬の間に見慣れたように思える景色でも、よく見てみるとちょっとずつ違うところがあります。真冬の景色とまったく同じでは季節感が出てこないですから、まずはその違いが何なのかはっきりと自分で認識するようにしてから撮影します。
たとえば、いままで一面真っ白だった景色のなかに地面が出てきている、という当たり前のことでも十分で、その違うと認識できたところを活かして絵作りしていくのです。

広い景色の場合は、どうしても構図が真冬と同じになってしまうことも多く定点観察しているような写真になりがちなので、意識して違う構図でも撮っておくようにするといいでしょう。

凍った湖面に雪が積もり、一面真っ白だった屈斜路湖もやっと春が近づいて氷に亀裂が入ってきた。これまでとは違う春らしくなったことを感じられるカットだが、この場所からの撮影だと背景に変化がなく定点的な印象にもなってしまう。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/1250秒 ISO800 +0.7EV補正 WB太陽光
同じ場所でも背景を見せないようにすることで、流氷の上に乗っているハクチョウのような感じで見せることもできる。ここでは比較するために周りをトリミングしているのだが、撮影時にこんな感じでちょっと変化をつけるだけで印象は変わってくるので、撮影時に構図を変えて撮っておくようにしよう。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/1250秒 ISO800 +0.7EV補正 WB太陽光
湖面の氷に亀裂が入り、デザイン的に美しかったので切り取った一枚。こんなシーンは気温が上がってくるとすぐに溶けて変わってしまうので、一期一会の出会いといえる。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F14 1/320秒 ISO800 +1EV補正 WB太陽光
湖畔を歩いていたら、水中に沈んだ氷の中に鳥の顔のような形が見えてきた。急ぎ足で歩いていたら気づくこともなかっただろう。こんな景色を見つけられたら、ほんとうにラッキーだ。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/200秒 ISO1250 +1EV補正 WB太陽光
湖畔にできた飛沫氷やその上に積もった雪が作ったドームも中の方が溶けてきて、面白い形を見せてくれた。気温が上がってくると真冬とは違う景色を見せてくれることも多い。そのちょっとのタイミングに運良く出かけられたら良い出会いがあるはずで、それを見逃さないようにしたい。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/320秒 ISO800 +1EV補正 WB太陽光
溶けてきた湖畔では早朝には薄氷が張り、ちょっとした光の加減で面白い景色を見せてくれる。おおきな景色だけではなく、マクロの視点でも景色を見ることで変化を感じることができるようになる。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F7.1 1/640秒 ISO800 -0.3EV補正 WB太陽光 APS-Cクロップ C-PLフィルター

植物の目覚めを捉える

春が近くなると、植物も活動を始めます。いままで地味だった景色に色が加わってくるので、楽しみな季節でもあります。真っ先に咲く花は、フクジュソウです。今シーズンは暖かかったこともあり、日当たりの良い南斜面では雪解けも早く、3月上旬には咲き始めているところもありました。その他、キタコブシやヤナギのつぼみはもっと早い時期からうぶ毛をつけて膨らんできているのを見ることができます。あちこち歩きながら、そんな草花を探していくのは楽しいものです。

冬から春へと季節の移り変わりを感じられる写真として表現するには、残雪と絡めると伝わりやすいです。理想的なのは、雪の中から顔を出すフクジュソウといったイメージでしょうか。

しかし実際そのような条件に恵まれるのはなかなか難しく、花が咲き始めたときには雪が残っていないということの方が多いです。

こちらでは4月になっても雪が降ることがありますので、ある程度花が咲き始めてから遅い雪が降ったタイミングを狙って撮影する方が効率よく撮影できるかもしれません。しかし、すぐに溶ける雪ですので撮り逃さないようにすることが必要です。また、日頃からどの当たりで花が咲いているか、調べておくことも大切です。

雪と花などを組み合わせると画面内の輝度差が大きくなり、花に露出を合わせると雪が白トビしやすくなります。あまり彩度を上げず、自然な色再現の設定にして、さらにコントラストを下げたり階調拡張機能を利用したりするといいと思います。空を画面に入れなければ曇天を選ぶのも有効です。

雪溶けが進む湿原周辺の森。山から湧きだした小さな流れが見えるようになり、ヤチボウズが頭を出してきた。このように植物が姿を見せると太陽の熱を蓄えて雪溶けはどんどん進んでいく。日々変わっていく景色だ。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F16 1/60秒 ISO400 +2EV補正 WB太陽光
エゾイソツツジの冬芽が雪の中から姿を現してきた。背の高いものは雪の上に出てしまっているが、季節の変化を感じるようにあえてこのような状態ものを選んでいる。どんなイメージを伝えたいかをはっきりさせることが大切だ。
■撮影機材:Canon EOS R5 + SIGMA 70mm F2.8 DG MACRO
■撮影環境:F9 1/100秒 ISO640 +1.7EV補正 WB太陽光
EOS R5の設定例。カメラ設定タブ1の「高輝度側・階調優先」を一番効果の強い「D+2」に設定しておくと、ハイライトの白トビをおさえることができるようになる。シャドーが多い画面ではノイズが目立ちやすくなるので、撮影シーンにあわせて切り替えた方がいいだろう。最低ISO感度がISO200となるので注意しよう。
雪景色とか白が多いシーンでは、ピクチャースタイルは「ディテール重視」を利用することが多い。特に晴れた日の雪景色では効果が大きいと思っている。さらにコントラストもいちばん低いマイナス4に設定している。必要に応じて彩度を変えることもある。
地面から姿を現したフクジュソウ。うっすらと降った雪も溶けてしまったが、膨らんできたつぼみにはまだ水滴が残っていて、みずみずしかった。遅い春の到来を教えてくれる大切な花だ。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F10 1/250秒 ISO1600 +0.3EV補正 WB太陽光 APS-Cクロップ
背景の大きな木の姿も一緒に写し込みたかったので、魚眼レンズを使って撮影。かなり近くで撮影しているので、レンズ先端や自分の影が画面に入らないようにするのが難しかった。
■撮影機材:Canon EOS R5 + SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
■撮影環境:F11 1/80秒 ISO200 +0.3EV補正 WB太陽光
近くには小川が流れていたので、川面のきらめきを背景にして玉ボケを入れ、より春らしい温かなイメージで撮影した。ひとつの場所でも背景を変えていくと、印象も変わってくるので違うイメージを探してみることも大切だ。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F6.3 1/800秒 ISO200 +0.7EV補正 WB太陽光
湖畔ではヤチハンノキが花を咲かせていた。茶色くて小さい地味な花だが、季節の変化は確実にやって来ている。拡がりを感じられるような構図で春をむかえた気持ちよさを感じられるようにした。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/250秒 ISO400 +0.7EV補正 WB太陽光 C-PLフィルター
ヤナギの穂が夕陽に照らされて輝いていた。穂は2月くらいから膨らみ始めて、3月にもなるとそれなりの存在感を感じられるようになる。花開くのももう少しだ。離れたところにあるので望遠レンズで切り取った。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM
■撮影環境:F7.1 1/400秒 ISO800 +0.7EV補正 WB太陽光

雪溶けの場所に来るいきものたち

春になると地面が出てくるようになり、いきものの行動パターンも変わってきます。冬の間ハクチョウは湖にいることが多かったですが、地面が出てくると近くの畑に行って落ち穂などを食べるようになります。また、道路脇や早く雪が溶けたところにはエゾシカの姿もよく見かけます。その他、小鳥類もやって来て食べ物を探しているので、運が良ければ近くでその姿を見られるかもしれません。

地面をよく見ていると、雪がなくなったところからは小さな植物の芽が出ていたり、ドングリが落ちていたり、落ち葉の下には小さな虫が隠れていたりします。それぞれは写真にならないかもしれませんが、どうしていきものがやって来るのかを理解して、その行動を邪魔しないように見ていることができれば、撮影させてもらえるチャンスも増えてきます。

いきものの姿を見かけたら、すぐに近づくのではなく、何をしているのか観察しながら逃げられない適度な距離を持って撮影することが大切です。できるだけ焦点距離の長い超望遠レンズで距離を持って撮影しましょう。フルサイズのカメラであれば、APS-Cサイズにクロップするのも有効です。小鳥は動きが速く被写体ブレしやすいです。1/1000秒以上を目安にして、ブレを抑えるようにするとシャープに撮ることができます。

冬の間ここでは姿を見かけなかったエゾシカだが、雪が溶けて地面が出てくると集まってきて、一生懸命何かを食べている。雪が溶けることは野生動物にとっては大きな意味があるのだろう。私の姿に気づいて、ちょっと緊張している。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM
■撮影環境:F9 1/1250秒 ISO3200 WB太陽光
ツグミが地面に降りて食べ物を探していた。ときには積もった落ち葉を放り投げる大きな動きがあるので、その瞬間を狙ってみた。しばらく見ていると、小さなイモムシのようなものを食べているのを確認できた。
■撮影機材:Canon EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM
■撮影環境:F13 1/1250秒 ISO800 WB太陽光 APS-Cクロップ

まとめ

季節の変わり目はひと味違った写真を撮るチャンスでもあります。季節のピークを狙った方が見栄えがいいのかもしれませんが、風景だと観光写真的になってしまうことも多いものです。
逆にこの時期は定番の景色がみつけにくいからこそ、自分の足で歩いて自分で見つけた被写体にカメラを向けることになります。また、最近は天候も変わってきていて、今まで見られなかった景色があるかもしれません。

ピークを過ぎたから撮影シーズンも終わりではなく、被写体を見つける目を磨く時期と考えて、いろいろなところを歩いてみてください。ひとつ気になる景色を見つけられると、次々に違うものも見えてきますよ。

 

 

■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。

 

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