ネイチャースナップのすすめ|陽射しを避けて陽射しを撮ろう

小林義明
ネイチャースナップのすすめ|陽射しを避けて陽射しを撮ろう

はじめに

2024年は早い時期から気温が上がり、夏は猛暑続きとなってしまいました。さすがにこれだけ暑くなると外に出るのがおっくうになって、写欲も下がり気味になってしまうのではないでしょうか。

以前から、多くの人の作品を見せてもらうと夏の時期の作品が少ない傾向があって、やっぱり暑さを避けて撮っていないのだなぁと思っていました。

そこで今回は、暑い夏に撮影するときのワンポイントアドバイスをしてみようと思います。

森のなかから見上げた夏雲。今年の夏は異常に暑く、北海道でも猛暑日や蒸し暑い日が続出した。あまりにも暑いので体調には気をつけながら、その暑さを作品で表現していこう。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F14 1/320秒 ISO200 WB太陽光

暑い夏は木陰で撮ろう

昨今の暑さは尋常ではないですが、実際外に出てみると日向と日影では体感的にかなり暑さが違うのはご理解いただけると思います。陽射しを避けることで暑さはだいぶ違ってきますので、晴れて暑いときは、木陰に入って撮影することをオススメしたいと思います。木陰で風があれば、かなり涼しく感じます。

ネイチャースナップができるような公園であれば、ちょっとした木陰もあると思いますし、本格的な自然のなかなら森や谷間など影の多いところはたくさんあります。林間歩道とか渓谷沿いの遊歩道などが整備されているところもあるでしょう。

暑い日中はこんな場所を選んで撮影してみましょう。

木漏れ日が射し込む森。日向から木陰に入ると体感的には涼しく感じられホッとする。一見薄暗い感じだが、よく見るとところどころに木漏れ日が射し込んでいて、今回はこのような光を活用して撮影する方法を解説していく。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/40秒 -1EV補正 ISO1600 WB太陽光
ここは森のなかにある湿原の木道。これほどの自然のなかではなくても、ちょっとした雑木林沿いの道や木立があるところなら木漏れ日は落ちている。わざわざ遠くにいかなくても、マクロ的な視点で見れば、街路樹の近くにも木漏れ日で撮れる被写体がみつかるかもしれないので、日頃から木漏れ日を意識して探してみよう。

木漏れ日は魔法の光

こういった木陰ではどんな光線状態になっているのか想像してみてください。夏の陽射しは太陽が高く昇り、真上から強い光が射しています。光は強いですが、夏は木の葉がしっかりと茂っていてあまり光は射し込んでこられず、薄暗いくらいの感じです。しかし、葉の隙間から射し込んでくる木漏れ日がところどころに見られます。そう、薄暗い森のなかにポツポツと木漏れ日が射し込んでいる状態なのです。森のなかにスポットライトが当たっているようなものですね。この光を活用して撮影します。

スポットライトは主役が浴びるライト。暗い舞台のなかで主役だけが光を浴びて浮かび上がってくるのです。同じようにこの木漏れ日を利用することで、一見地味に見える被写体でも主役にすることができます。

まずは木漏れ日が射し込んでいるところに注目して、気になる被写体がないか探してみましょう。木漏れ日が射し込む位置は思っている以上に速く移動します。まごまごしていると絶好のチャンスを逃してしまいますので、手早く撮影していきましょう。

倒木にキノコがたくさん生えていた。はじめは完全に木陰に入っていて写真的には面白くない光だったが、数分待っていたら木漏れ日が射し込んで、いいアクセントになった。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F11 1/50秒 -1EV補正 ISO1600 WB太陽光
木漏れ日のスポットライトが、木の幹と手前にある草を森のなかから浮かび上がらせた。特別な被写体ではないけれど、インパクトのある写真に仕上がっている。光の効果を知るのにもいい光だ。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F13 1/50秒 -1.7EV補正 ISO1600 WB太陽光
木陰に咲いていたアジサイが木漏れ日を浴びて誇らしげに咲いていた。奥には光が当たっているところを入れて、画面の奥行きも表現するのと同時に木立の雰囲気も見せられるようにした。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F8 1/200秒 -0.3EV補正 ISO1600 WB太陽光
木漏れ日で撮影するときに、テカリが強いシーンではC-PLフィルターのありなしでずいぶん写り方が違ってくる。左はC-PLフィルターあり、右がなしとなっていて、普通の撮影ではC-PLフィルターは画面のコントラストをあげる効果があるのだが、木漏れ日の撮影ではコントラストを下げる方向に働いている。好みに合わせて使い分けてみよう。

影にも注目

光が当たれば影ができるのは必然です。スポットライトの当たっているものだけではなく、そこでできる影にも注目してみましょう。強い光によってはっきりとした影ができていて、これもインパクトがある写真となりやすいです。

影を見せるポイントとしては、影として写っているものが何であるか伝わるように、形が分かりやすいものを選ぶことが大切です。写真を見る人へのヒントとして、実際のものの一部を画面に入れておくと分かりやすくなります。

影だけで画面構成しようとすると難しいので、脇役として利用すると考えるといいかもしれません。

森のなかの小川の縁に生えていたシダの葉が印象的だったので、影を脇役にして画面構成。影のおかげでシダの葉も形がしっかり見えるようになり、同時に影が何のものであるか分かりやすく伝えられる。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F14 1/320秒 ISO200 WB太陽光
葉の上に落ちた花と、その近くにある花の影が対照的で目をひかれた。画面に奥行きを見せるためと花の色のイメージを伝えるために、画面左上に実際の花を前ボケとして入れてある。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F8 1/400秒 +0.3 ISO3200 WB太陽光
背の高いアジサイの葉に花の影が落ちていた。影というと下を見ることが多いけれど、上を見ても面白い影がみつかることもある。いろいろなところに視点を向けて被写体を探すことが大切だ。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F8 1/250秒 +0.7 ISO1250 WB太陽光

影を黒く

木漏れ日を使った撮影のポイントは、露出です。基本は光が当たっている部分に合わせることで、影のところは真っ黒くつぶれてしまって構わないと考えています。高いコントラストによってインパクトの強い画面となって、光の当たっている部分が引き立てられるのです。

肉眼で見ていると影のところもつぶれずに見えてきますが、ここは写真ならではの写し方として、影のところは真っ黒につぶれるくらいの思い切った露出とした方が光の強さが感じられてインパクトが出るのと同時に、周りを省略してより被写体を引き立てられます。

構図のポイントとしては、木漏れ日が当たっている場所に視点が集まるようにするため、まわりに暗い部分を多く入れることです。光が当たっているところをあまり大きく画面に入れると、インパクトが弱くなります。

影の面積が多い構図では暗い部分の影響を受けて明るく写りやすいので、マイナス補正が必要となることが多いです。

ときにはかなり極端にマイナス補正しないといけないこともありますし、後処理するとしても光の当たっている主役が白とびしていると補正しきれないので、撮影時に的確に露出補正をしておくことをオススメします。

どの程度の補正が必要になるのかは、構図や機種によってかなり違ってきます。ミラーレス一眼では撮影結果を確認しながら撮影できますが、一眼レフでは自分のカメラの露出傾向が把握できるまで撮影後に露出を確認するようにしましょう。

手前が木陰で奥にいくほど光が射し込んでくる渓谷の風景。手前の斜めに伸びた木あたりまで黒く潰して、木の形をはっきり見せると同時に陽射しの強さや森の深さを感じられる画面としている。肉眼では影の部分も見えているが、写真は必ずしも見た目と同じではなくていい。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F8 1/25秒 -0.7 ISO1250 WB太陽光
木漏れ日が落ちている地面を撮影しただけだが、大幅なマイナス補正で光が当たっているところ以外は黒く潰れるようにした。光が当たっているところには形が分かりやすい葉がある部分を選んでいる。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F18 1/80秒 -2.7EV補正 ISO640 WB太陽光
木漏れ日の当たっているシーンでマイナス側に0.7EVぐらいずつ露出を変えて撮影している。明るめに撮影してしまうと木漏れ日の雰囲気がなくなってしまうので、適度なマイナス補正をして光の雰囲気を再現するようにしよう。どの程度の補正が適切かは光の強さや構図、カメラの測光方式や機種によっても違うので、はじめは段階的に露出を変えて撮っておくといい。

日陰の被写体も見逃さずに

木陰では木漏れ日を利用するだけでなく、木陰だから撮れる被写体もいろいろあります。被写体の見つけ方を解説しますので、活用してください。

ひとつは木陰にあるものをシルエットとして捉える方法です。背景に光が当たっているところを選び、露出は日向に合わせれば、日陰にあるものはシルエットとして写ります。ポイントは、シルエットとして写るものの形を分かりやすく見せられるように、影となる暗い部分と重ならないように画面構成しましょう。

もうひとつは影が出てしまうと煩雑に見える被写体を撮影することです。前回の曇天を活かす撮影方法と同様に、影のなかでは被写体には強い影ができることはないので、日向の花の影が気になるときは、日陰に咲いている花を探すと撮りやすいです。

日陰で撮影する場合、やや色が青みがかったり森のなかでは木の葉を通した光によって緑っぽい色になったりすることがあります。私はこれも自然の色のひとつとして見ていますが、気になる場合は後処理で色補正をしてもいいでしょう。

そして、水辺では水面の映り込みに注目すると面白いです。影になっている水面では、まわりの明るいところが反射して映り込みがはっきり出てきます。映り込みにピントを合わせてもいいですが、映り込みの部分をぼかして背景として利用することもできます。

木陰にあるものは肉眼で見ると暗く見えるものですが、露出次第で明るく見せることもできます。見た目の通りに撮るだけでなく、自分のイメージに合わせて露出をコントロールして作品に仕上げましょう。

スイレンの池の縁に伸びていた草にピントを合わせ、シルエットで撮影している。スイレンはぼけているが、雰囲気は伝わるようになっていると思う。ここでスイレンにピントを合わせていたら、手前の草は邪魔なものとなってしまっている。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F6.3 1/320秒 -0.3EV補正 ISO250 WB太陽光
木陰で咲いていたオオウバユリ。曇天と同じように影が出ない光となるので、花の形をきちんと見せることができた。背景も影になっているところが多いので、真っ黒に潰れることもなく自然な雰囲気に見せられた。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F5.6 1/400秒 -0.3EV補正 ISO1600 WB太陽光
湧き水によってできた小さな溜まり。そこに生えたエンコウソウの葉にピントを合わせ、後ろには空と木の映り込みを入れて森の雰囲気を表現した。きれいな水なので映り込みの景色の色も透明感があり美しい。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF24-240mm F4-6.3 IS USM
■撮影環境:F7.1 1/500秒 +1EV補正 ISO1250 WB太陽光
木陰の景色は肉眼で見ても暗く黒っぽく見えるが、露出次第で雰囲気は大きく変わる。左側が見た目の印象に近い写りだが、プラス1EV補正、プラス2EV補正と明るく撮影すると、まったく違う印象に仕上げることができる。後処理で調整よりも撮影時に自分が求めるイメージの露出はどれなのかわかると、見える景色も広がってくるはずだ。

高感度の活用

木陰で撮影してみると、意外と暗いことに気づくでしょう。夏は葉が茂っていてあまり光が入ってこないからです。

三脚を使ってじっくり撮るのであれば問題ありませんが、ネイチャースナップでは手持ち撮影の方が多くなります。カメラブレ、被写体ブレを起こさないように適宜ISO感度を調節して、手際よく撮影していきましょう。

私はISO感度はオートに設定しています。今回撮影したキヤノンEOS R5では、風景撮影などではISO100~1600、動体撮影ではISO400~6400で設定していて、必要があればさらに調整します。実際にはISO1600でも足りず、ISO6400やときには12800を使うこともありました。
 
高感度にすると解像力が低下したりノイズが出てきたりと画質的には低下しますが、感度を低くしたために意図しないブレを起こしてしまう方が写真としては見苦しく見えると思っています。

まずはシャープに見せられるよう、ブレを防ぎ丁寧にピントを合わせて撮影しましょう。強力な手ブレ補正機能も100%信用できるものではありませんし、被写体ブレまでは防げません。不安なときは何枚か撮影しておくということも、あとで後悔しないために必要だと思います。

風景など静物の撮影するときのISO感度設定。オートを基本にISO100から1600で撮影している。必要があればそれ以外のISO感度に設定することもある。ISO1600でおさえているのは、それ以上に設定すると風景撮影時に細かい部分での解像感が落ちると感じているからだ。
いきものなどの動体撮影用のISO感度設定。被写体ブレを防ぐためにシャッター速度の低速限界を1/1000秒としている。ISO感度の範囲もISO400から6400と高感度寄りになっている。画質よりも画面のシャープさを優先した設定だ。
ISO感度は「MODE」ボタンの周りにあるサブ電子ダイヤル2ですぐに変更できるので、ISO感度オートで意図したISO感度にならないときは適宜ダイヤルで設定しなおしている。ただ、ISOオートに戻すときには、露出計が一度オフにならないと設定できないのが面倒なところだ。露出計の働く時間はメニューのカメラ7タブにある「測光タイマー」で設定できるが、最短4秒となっていて、その時間が煩わしく感じることがあるのだ。

まとめ

北海道でも猛暑日を記録したところがあり、今回の撮影をしていたときも最高気温が33℃になって、自然と陽射しを避けて陽射しを撮るという撮影スタイルになっていました。木陰にいることにこだわって被写体を探すと、またいつもと違う視点が生まれ撮っていて面白かったです。

木陰からうまく撮影することができるようになれば、他の場所でもいろいろ応用ができます。光の読み方を学ぶひとつの方法として、活用してみてほしいと思います。

ただ、自然が豊かな場所のデメリットとして、アブの襲来には参りました。アブは水辺に近い木陰に多くいて熱に集まってくる習性があり、クルマをとめると数十匹がクルマにまとわりついてアブだらけになりました。クルマの方が熱いのでクルマから離れてしまえばあまり人について来ることはないのですが、アブは蚊と違って痒みや腫れが長く続くことも多いので、注意が必要です。

都会でも木陰には蚊がいることが多いですので、長袖シャツ長ズボンでなるべく肌を露出せず、虫除けなども塗っておくといいと思います。最近は冷感素材や虫除け効果のある服もあるので、そういったものを活用するといいですね。

暑いから撮影しないではなくて、いつもと違うから何か面白いものがみつかるかもしれないという前向きの気持ちで、夏の撮影を楽しんでみましょう。

 

 

■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。

 

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