ネイチャースナップのすすめ|陽射しを避けて陽射しを撮ろう
はじめに
2024年は早い時期から気温が上がり、夏は猛暑続きとなってしまいました。さすがにこれだけ暑くなると外に出るのがおっくうになって、写欲も下がり気味になってしまうのではないでしょうか。
以前から、多くの人の作品を見せてもらうと夏の時期の作品が少ない傾向があって、やっぱり暑さを避けて撮っていないのだなぁと思っていました。
そこで今回は、暑い夏に撮影するときのワンポイントアドバイスをしてみようと思います。
暑い夏は木陰で撮ろう
昨今の暑さは尋常ではないですが、実際外に出てみると日向と日影では体感的にかなり暑さが違うのはご理解いただけると思います。陽射しを避けることで暑さはだいぶ違ってきますので、晴れて暑いときは、木陰に入って撮影することをオススメしたいと思います。木陰で風があれば、かなり涼しく感じます。
ネイチャースナップができるような公園であれば、ちょっとした木陰もあると思いますし、本格的な自然のなかなら森や谷間など影の多いところはたくさんあります。林間歩道とか渓谷沿いの遊歩道などが整備されているところもあるでしょう。
暑い日中はこんな場所を選んで撮影してみましょう。
木漏れ日は魔法の光
こういった木陰ではどんな光線状態になっているのか想像してみてください。夏の陽射しは太陽が高く昇り、真上から強い光が射しています。光は強いですが、夏は木の葉がしっかりと茂っていてあまり光は射し込んでこられず、薄暗いくらいの感じです。しかし、葉の隙間から射し込んでくる木漏れ日がところどころに見られます。そう、薄暗い森のなかにポツポツと木漏れ日が射し込んでいる状態なのです。森のなかにスポットライトが当たっているようなものですね。この光を活用して撮影します。
スポットライトは主役が浴びるライト。暗い舞台のなかで主役だけが光を浴びて浮かび上がってくるのです。同じようにこの木漏れ日を利用することで、一見地味に見える被写体でも主役にすることができます。
まずは木漏れ日が射し込んでいるところに注目して、気になる被写体がないか探してみましょう。木漏れ日が射し込む位置は思っている以上に速く移動します。まごまごしていると絶好のチャンスを逃してしまいますので、手早く撮影していきましょう。
影にも注目
光が当たれば影ができるのは必然です。スポットライトの当たっているものだけではなく、そこでできる影にも注目してみましょう。強い光によってはっきりとした影ができていて、これもインパクトがある写真となりやすいです。
影を見せるポイントとしては、影として写っているものが何であるか伝わるように、形が分かりやすいものを選ぶことが大切です。写真を見る人へのヒントとして、実際のものの一部を画面に入れておくと分かりやすくなります。
影だけで画面構成しようとすると難しいので、脇役として利用すると考えるといいかもしれません。
影を黒く
木漏れ日を使った撮影のポイントは、露出です。基本は光が当たっている部分に合わせることで、影のところは真っ黒くつぶれてしまって構わないと考えています。高いコントラストによってインパクトの強い画面となって、光の当たっている部分が引き立てられるのです。
肉眼で見ていると影のところもつぶれずに見えてきますが、ここは写真ならではの写し方として、影のところは真っ黒につぶれるくらいの思い切った露出とした方が光の強さが感じられてインパクトが出るのと同時に、周りを省略してより被写体を引き立てられます。
構図のポイントとしては、木漏れ日が当たっている場所に視点が集まるようにするため、まわりに暗い部分を多く入れることです。光が当たっているところをあまり大きく画面に入れると、インパクトが弱くなります。
影の面積が多い構図では暗い部分の影響を受けて明るく写りやすいので、マイナス補正が必要となることが多いです。
ときにはかなり極端にマイナス補正しないといけないこともありますし、後処理するとしても光の当たっている主役が白とびしていると補正しきれないので、撮影時に的確に露出補正をしておくことをオススメします。
どの程度の補正が必要になるのかは、構図や機種によってかなり違ってきます。ミラーレス一眼では撮影結果を確認しながら撮影できますが、一眼レフでは自分のカメラの露出傾向が把握できるまで撮影後に露出を確認するようにしましょう。
日陰の被写体も見逃さずに
木陰では木漏れ日を利用するだけでなく、木陰だから撮れる被写体もいろいろあります。被写体の見つけ方を解説しますので、活用してください。
ひとつは木陰にあるものをシルエットとして捉える方法です。背景に光が当たっているところを選び、露出は日向に合わせれば、日陰にあるものはシルエットとして写ります。ポイントは、シルエットとして写るものの形を分かりやすく見せられるように、影となる暗い部分と重ならないように画面構成しましょう。
もうひとつは影が出てしまうと煩雑に見える被写体を撮影することです。前回の曇天を活かす撮影方法と同様に、影のなかでは被写体には強い影ができることはないので、日向の花の影が気になるときは、日陰に咲いている花を探すと撮りやすいです。
日陰で撮影する場合、やや色が青みがかったり森のなかでは木の葉を通した光によって緑っぽい色になったりすることがあります。私はこれも自然の色のひとつとして見ていますが、気になる場合は後処理で色補正をしてもいいでしょう。
そして、水辺では水面の映り込みに注目すると面白いです。影になっている水面では、まわりの明るいところが反射して映り込みがはっきり出てきます。映り込みにピントを合わせてもいいですが、映り込みの部分をぼかして背景として利用することもできます。
木陰にあるものは肉眼で見ると暗く見えるものですが、露出次第で明るく見せることもできます。見た目の通りに撮るだけでなく、自分のイメージに合わせて露出をコントロールして作品に仕上げましょう。
高感度の活用
木陰で撮影してみると、意外と暗いことに気づくでしょう。夏は葉が茂っていてあまり光が入ってこないからです。
三脚を使ってじっくり撮るのであれば問題ありませんが、ネイチャースナップでは手持ち撮影の方が多くなります。カメラブレ、被写体ブレを起こさないように適宜ISO感度を調節して、手際よく撮影していきましょう。
私はISO感度はオートに設定しています。今回撮影したキヤノンEOS R5では、風景撮影などではISO100~1600、動体撮影ではISO400~6400で設定していて、必要があればさらに調整します。実際にはISO1600でも足りず、ISO6400やときには12800を使うこともありました。
高感度にすると解像力が低下したりノイズが出てきたりと画質的には低下しますが、感度を低くしたために意図しないブレを起こしてしまう方が写真としては見苦しく見えると思っています。
まずはシャープに見せられるよう、ブレを防ぎ丁寧にピントを合わせて撮影しましょう。強力な手ブレ補正機能も100%信用できるものではありませんし、被写体ブレまでは防げません。不安なときは何枚か撮影しておくということも、あとで後悔しないために必要だと思います。
まとめ
北海道でも猛暑日を記録したところがあり、今回の撮影をしていたときも最高気温が33℃になって、自然と陽射しを避けて陽射しを撮るという撮影スタイルになっていました。木陰にいることにこだわって被写体を探すと、またいつもと違う視点が生まれ撮っていて面白かったです。
木陰からうまく撮影することができるようになれば、他の場所でもいろいろ応用ができます。光の読み方を学ぶひとつの方法として、活用してみてほしいと思います。
ただ、自然が豊かな場所のデメリットとして、アブの襲来には参りました。アブは水辺に近い木陰に多くいて熱に集まってくる習性があり、クルマをとめると数十匹がクルマにまとわりついてアブだらけになりました。クルマの方が熱いのでクルマから離れてしまえばあまり人について来ることはないのですが、アブは蚊と違って痒みや腫れが長く続くことも多いので、注意が必要です。
都会でも木陰には蚊がいることが多いですので、長袖シャツ長ズボンでなるべく肌を露出せず、虫除けなども塗っておくといいと思います。最近は冷感素材や虫除け効果のある服もあるので、そういったものを活用するといいですね。
暑いから撮影しないではなくて、いつもと違うから何か面白いものがみつかるかもしれないという前向きの気持ちで、夏の撮影を楽しんでみましょう。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。