キヤノン RF28-70mm F2 L USM レビュー|圧倒される繊細な描写力
はじめに
2018年、ミラーレスカメラ「EOS R」の誕生とともに生まれたキヤノンのRFレンズは、2021年8月時点で広角から望遠、マクロレンズまでほぼ出揃い、個人的にもEFレンズからRFレンズへの買い替え移行が完了したところ。中でも使用頻度が高いレンズが、今回ご紹介する「RF28-70mm F2 L USM」です。
正直に言うと、このレンズの第一印象は「重い!大きい!お値段も立派!」といった皆さんと同じような感想でした。でも「ズーム全域で開放F2だし…」と気になって使いはじめてみると、ミラーレスカメラとの相性も抜群。写真好きには堪らない繊細な描写力に圧倒され、いつの間にかこのレンズの虜になっていました。今も作品を撮影する時の標準ズームレンズとしては一番使用頻度の高いレンズです。
今回のレビューはこのレンズで撮影した日本各地の風景の作例をご覧いただきながら、お届けしたいと思います。
デザイン・外観
重量1430gのどっしりとした存在感、AF/MF切り替えスイッチのみの質実剛健な佇まい。ショートバックフォーカス設計のミラーレスカメラのシステムだからこそ、28mm~70mmのズーム全域でF2の明るさを確保した高画質かつ小型のレンズが実現しました。小型?と驚く人もいるかもしれませんが、EFレンズで同じスペックで設計すると、より重く大きくなってしまうため製品化が難しかった、夢のようなスペックのレンズなのです。
開放から使える描写力
まず驚いたのが、開放F2から風景の線が細かく描写される点です。EFレンズの描写も綺麗でしたが、綺麗の質がちょっとその上をいく繊細さ。
下の写真は那須岳の峠の茶屋駐車場から、登山前に「これから登るぞ~!」と、朝日岳方面を手持ちで気楽に撮影した一枚ですが、ご覧いただきたいのは山の稜線です。
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■撮影環境:F2 1/15秒 ISO800
登山口などで撮影の出発時にひとまずご挨拶のシャッターを切ります。準備運動のような感じです。
山の稜線がとてもシャープに描写されています。F2でこのレベル!
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■撮影環境:F2 1/5000秒 ISO400
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■撮影環境:F2 1/8000秒 ISO50
登山の途中で気になった岩の表情をF2で撮影。ピントが合っている箇所がシャープだからこそボケが活きてきますね。
今まで風景の質感や造形を撮りたい時に、開放値から2〜3段絞ったF8~F11前後を使うのが当たり前だと思い込み、いつの間にか「常識」として染み付いていましたが、このレンズを使い始めてから開放値を積極的に使って、ざらざらした岩や山肌などを撮影するようになりました。お花などの被写体も花びらの細かな線が今までのレンズ以上に繊細に浮かび上がります。
一本で4本分!?お得なレンズ
冒頭に第一印象として「重い!大きい!お値段も立派!」と書きましたが、使用してみると開放値F2の単焦点レンズ、「28mm・35mm・50mm・70mm」の4本が一本にまとまったレンズとして考えるようになりました。単体での1430gは確かに重いですが、単焦点レンズ4本分と考えるとコストパフォーマンス的にもかなりお得なレンズではないでしょうか。
海や山の自然環境では風が強いことも多いため、ホコリが入りやすいレンズ交換はなるべく避けたいところですが、RF28-70mm F2 L USMを装着していれば、レンズ交換をせずに単焦点4本分かそれ以上の描写が楽しめるのも魅力です。
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■撮影環境:F16 1/3秒 ISO50
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■撮影環境:F2 2秒 ISO50
上の写真はいずれも焦点距離70mmで撮影。ズーム域の数値だけでは測れないのが写真の面白さ。被写体との距離感で写真が変わります。
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■撮影環境:F4 1/3200秒 ISO400
こちらも焦点距離70mmで撮影。最短撮影距離39cmで被写体にぐっと寄って撮影した一枚。体感としては思っていた以上に寄れる印象です。
近年の標準ズームレンズは、ワイド側で24mm、望遠側で70mmや105mmのレンズが主流。RF28-70mm F2 L USMはそれよりも少し控えめなズームレンジですが、私はその狭さを個性として捉えています。少し足りないなと感じる場合は体を動かして被写体に近づいたり離れたりして、単焦点レンズで撮影するような楽しみ方でカバーしています。
このレンズは決して撮影者を楽にしてくれるレンズではありませんが、写真を単焦点で撮り始めた時に当たり前にやっていた「体を動かして、被写体を発見する喜び」を思い出させてくれたレンズなのです。体を使って手に入れた高画質の写真をみて、思わずニヤッとしたことが何度あったことでしょう。このレンズ、超個性的ですが作品を撮りたい方にはデフォルトの標準レンズとしてオススメです。
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■撮影環境:F11 1/2000秒 ISO200
焦点距離28mmで撮影した阿蘇中岳の噴煙。
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■撮影環境:F5.6 1/1250秒 ISO800
焦点距離50mmで撮影した杵島岳。肉眼で見る感覚と近い自然な画角です。
逆光に強い
単焦点に匹敵する画質のRF28-70mm F2 L USMは、「SWC」と「ASC」の反射防止効果をもつコーティングの採用で、フレアとゴーストを大幅に低減しています。風景の撮影では太陽光が有害光となりうるのですが、実際の撮影現場では「逆光だから撮れないな。」とか、「フレアやゴーストが気になるな。」ということはほとんどありません。撮影者が意識しない状態で、高画質をサポートしてくれているコーティングはとてもありがたく、頼れる裏方さん的な性能です。逆光に強いことが体感できたら、あとは気にせず積極的に逆光で撮影を楽しみ、表現の幅を広げていきましょう。
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■撮影環境:F16 1/8000秒 ISO100
太陽光が正面から入る逆光のシーンでもこの写り。
相性の良いおすすめカメラ
RF28-70mm F2 L USMはイメージスタビライザー(IS)機能がないレンズのため、EOS Rで使用していた時は手持ち撮影の場合、手ブレしないように慎重に撮影するか三脚を使用して対応していました。しかし、5軸ボディ内手ブレ補正機構が搭載されたEOS R5やEOS R6とセットで使えば、IS機能のついたレンズと同じように、暗い夕暮れ時や屋内での撮影でも気楽に手持ち撮影が楽しめるようになりました。
■撮影環境:F2 1/160秒 ISO400
夜明けの頃、月にAFでピントを合わせて手持ち撮影。EOS R5のAF領域はスペック上は縦100%、横90%(一点AF等、任意選択時)ですが、体感としてはほぼ100%AFが合う感覚です。開放F2+広いAF領域で、今までのセオリーから外れた、新しい構図にチャレンジしてみるのはいかがでしょうか。
被写体は光学ファインダーのような自然な見え方をするEVF(EOS R5・R6)での確認と撮影がおすすめです。暗い場所でも被写体が明るく見え、画面に不要なものが入っていないか確認できます。EVFでは撮影の設定やヒストグラムでの白飛びチェックなども一目瞭然のため、撮影のコックピットとして使っています。
また、明るい時間に屋外で撮影する場合、カメラ背面の液晶モニターでは外の光が明るく、反射で見えにくいことも多いため、私はEVFを覗くことで外光の影響を受けずに確認しています。それは映画館で映画をみるような感覚です。
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■撮影環境:F10 1/500秒 ISO125
日の出の撮影。広いAF領域を利用して、手持ちで手軽に撮影。AFの合焦も素早いです。
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フィルター・三脚のおすすめ
RF28-70mm F2 L USMのフィルター径は95mmで、よく使われている77mmや82mmの径よりも一回り大きいサイズです。95mmのフィルターなんてあるのか?と思われる方のために、私自身が使用している円形タイプのPLフィルターとNDフィルターをご紹介します。円形を使用している理由は、角形よりも面積が小さくて持ち運びに便利であることと、山などで風の影響も受けにくいためです。複数の異なる径のフィルターを持ち歩きたくない方はステップダウンリングを使うといいでしょう。
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三脚を選ぶポイントの一つに「耐荷重」のチェックが挙げられます。RF28-70mm F2 L USMが1430g、EOS R5が738gですので合わせると2168gになります。このレンズよりもさらに重い望遠ズームなどを使うこともあると思いますので、雲台と三脚の耐荷重5~6㎏以上の製品を選んで使いましょう。私が使用しているのはGITZOの三脚、GITZOの雲台、マーキンスの雲台です。雲台はそれぞれピタッと止まって使いやすいというシンプルな理由で使用しています。
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まとめ
標準ズームレンズは群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)、どの一本にするかお悩みの方も多いと思います。RF28-70mm F2 L USMはズバリ、暗いところでも撮りやすいズーム全域F2という明るさに魅力を感じる方、単焦点レンズと同等の高画質、描写力で作品力をアップさせたい方にオススメのレンズです。大きさと重さは、日々使っていると当たり前になり慣れてきますのでどうぞご安心を。
■写真家:GOTO AKI
1972年、川崎生まれ。1993~94年の世界一周の旅から今日まで56カ国を巡る。現在は日本の風景をモチーフに創作活動を続けている。2020年日本写真協会賞新人賞受賞。武蔵野美術大学造形構想学部映像学科・日本大学芸術学部写真学科 非常勤講師、キヤノンEOS学園東京校講師。