キヤノン RF100mm F2.8 L MACRO IS USM レビュー|鶴巻育子
はじめに
2021年7月に発売されて以来、RF100mm F2.8 L MACRO IS USMを使って毎日撮影しています。きっかけは、小鳥を飼い始めたこと。かわいい小鳥ちゃんを画面いっぱいに大きく写すことができる100mmマクロで、毎朝撮影するのが日課となっています。しかも最大撮影倍率は1.4倍!肉眼では確認しづらい鳥の不思議を発見することに今ハマっているところです。写真だからこそ楽しめる新鮮な世界に引き入れてくれる魅力的なマクロレンズをご紹介します。
最大撮影倍率1.4倍!
写真は、現実を写す役割もありますが、写真だからこそ見える世界があります。特に、マクロレンズでの写真表現は、肉眼では味わうことの出来ない不思議で美しい表現を楽しめるのが魅力です。キヤノンのマクロレンズと言えば、EF100mm F2.8Lマクロ IS USM。その高画質な描写は変わらず、最大撮影倍率は1倍から本レンズでは1.4倍、最短撮影距離は0.26mを実現し、より被写体を大きく捉えることが可能になりました。寄れることで、インパクトのある描写が楽しめます。
最大撮影倍率で、小鳥の瞳にピントを合わせました。真っ黒でまん丸な瞳は遠目で見るとかわいらしいですが、これだけ寄って確認してみると、目の周りが小さな丸で縁取られているのに気づきます。ちょっとグロテスク。こんな発見があるのも、マクロレンズの魅力のひとつです。
撮影距離を短くすると被写界深度が浅くなります。ボケを生かしたいからと言って、むやみに絞り開放にすると、見せたい部分までボケてしまうので要注意です。合わせたい被写体にピントの範囲が収まる絞りに設定することを意識したいですね。
鳥は恐竜が進化したものと言われていますが、脚を観察すると納得できます。逆光で狙いボコボコした特徴的な形状を際立たせました。シンプルな描写だからこそ、ピント部分のシャープさが際立ち、ボケの美しさが実感できました。
SAコントロールリングで、多彩なボケを楽しむ
キヤノンでは初めて採用されたSAコントロールリング。球面収差を変化させることで、ボケをコントロールできます。+方向へ回すと、フォーカス部分より後方のボケの輪郭が硬くなり、手前のボケの輪郭が柔らかくなります。逆に-方向へ回すと、フォーカス部分より後方のボケの輪郭が柔らかくなり、手前のボケの輪郭が硬くなります。玉ボケのある状況で撮影すると、効果がわかりやすいでしょう。実際に同じシチュエーションでSAコントロールリングを回転させて描写の比較を試してみました。
朝日を浴びたたくさんのお狐さま。そのうちの1体にピントを合わせ、絞り開放F2.8に設定し撮影しています。まずは、プラマイゼロの状態です。このままでも綺麗な玉ボケが現れています。
SAコントロールリングをプラス方向全開に設定しました。玉ボケの輪郭はくっきり強く出ているのがわかります。まるでシャボン玉のよう。ピント部分や前ボケも少し柔らかく表現されていてます。
次にSAコントロールリングをマイナス方向へ。背景の玉ボケがより柔らかくなり、全体に強いソフトフォーカスがかかっているようなファンタジーな描写になりました。
正直、購入当初はSAコントロールリングの必要性を感じず、全く使っていませんでしたが、使ってみるとオールドレンズで撮影しているような雰囲気が出ておもしろい!注意したいのは、意図せずにSAコントロールリングが回ってしまっていることがあります。通常のシャープな描写で撮影したい場合は、レンズ右横にあるLOCKボタンをセットしておきましょう。
驚異的な手ブレ補正と高精度なピント合わせ!
レンズ単体で5.0段分の手ブレ補正効果を実現。さらに、ボディー内手ブレ補正が搭載されたEOS R5又はEOS R6の組み合わせでは、協調制御によって最大8.0段分の手ブレ補正効果を発揮します。そして、ナノUSM採用によって、高速かつ滑らかなAFは快適なピント合わせでストレスなし。マクロレンズ撮影は、被写界深度が浅くなるためシビアなピント合わせが必要です。しかも、手ブレが目立つため、三脚必須と言われていますが、手ブレ補正機能搭載によって手持ちで撮影できる気軽さが撮影意欲を掻き立てます。フレーミングも自由度が高くなり、スナップ感覚でマクロ撮影を楽しめます。
水たまりに映った葉っぱにピントを合わせました。絞り開放で手前の石畳がボケて不思議な描写になりました。いいシーンを直感的に素早く写し止めることができます。
シャッタースピード1/6秒、手持ちで撮影。夕焼けの空に富士山のシルエットがきれいに浮かんでいました。電線が被ってしまっていますが、これも美しい東京の風景のひとつです。
シャープでクリアな描写
美しい描写は、言うまでもありません。至近撮影での球面収差を抑制する凸面レンズを最前面に採用。13群17枚のレンズ構成で諸収差を低減し、画面全体で高画質が実現しています。シャープでクリアな絵は、見ているものを再現すると言うよりは、肉眼で見ている以上に美しく感じてしまうほどです。
細かい葉脈の一本いっぽんが繊細に描写されています。レビューでは、高解像度や高精細の話ばかりするのは避けたいと思いつつ、この描写力を見るとつい語りたくなってしまいます。
ピント部分はシャープに浮かび上がります。背景には美しいボケが現れ、抜けの良さを感じる一枚です。鮮やかな色彩も再現され、お狐さまのキリッとした顔立ちが際立ちます。
一粒で2度おいしいレンズ
寄れるレンズが魅力のRF100mm F2.8 L MACRO IS USMですが、もちろん、中望遠レンズとしても大活躍します。圧縮効果を狙ったフレーミングで風景写真もおすすめです。その場合、絞りは開放にせずF11前後まで絞ってみると高精細、高解像度な描写をより実感することができると思います。また、焦点距離100mmはポートレイト撮影にもおすすめです。圧縮感とボケの効果により背景をすっきり整理できるのはもちろんですが、モデルさんとのコミュニケーションが取れる距離感で撮影できることもポイントです。
冬の朝陽を浴びる神社の鳥居。中望遠レンズのほどよい圧縮感によって、緑豊かな神社の風景を自然に捉えることができました。強い光と影が際立つように、露出補正をマイナス方向に設定しました。
スカイツリーが望める荒川沿いの建物から撮影しています。下町の密集した住宅街の風景を表現することができました。F11まで絞ることで解像感、シャープさが際立ちます。
ポートレイト撮影にも重宝します。中望遠の圧縮感と美しいボケによって、背景が整理されて人物が引き立ちます。明るい逆光を選ぶと、顔に影ができず、光の輪郭ができるので、特に女性のポートレイトにはおすすめの光です。葉っぱに反射した光で玉ボケができています。
葉の落ちた木々を撮影しました。絞り開放F2.8、SAコントロールリングはマイナス方向へ設定しています。ふんわり柔らかい描写で、冬のイメージが一層際立ちました。コットン系の用紙にプリントしてみるたくなる一枚です。
東京で大雪が降った次の日は快晴でした。朝の散歩中、樹木に積もった雪が風で舞い散る美しい光景に出会いました。このような場面では、SAコントロールリングが大活躍します。
普段は35mmの広角レンズでスナップを撮影していますが、望遠を持つことで街の違った光景が見えたり、近くに寄らなくても被写体を大きく捉えたりすることができるので、いつもと違う撮影ができて新鮮です。
おわりに
マクロ撮影から中望遠の圧縮感、そして、SAコントロールリングによる多彩なボケ味と、RF100mm F2.8 L MACRO IS USMは、想像以上に幅広い表現が得られるレンズです。そして、手ブレ補正機能によって気軽に撮影ができる点が魅力です。みなさんにも、美しい描写力と新しい表現をぜひ味わっていただきたいと思います。
■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)がある 。
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■キヤノン RF100mm F2.8 L MACRO IS USM レビュー|驚きの最大撮影倍率1.4倍
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■キヤノン RF100mm F2.8 L MACRO IS USM×ポートレート|大村祐里子
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