キヤノン RF14-35mm F4 L IS USM レビュー|RFユーザー待望の小三元広角ズーム
はじめに
2021年の9月、続々と誕生するキヤノンRFレンズのラインナップに、プロからアマチュア写真家まで待ち望んでいた開放F4の広角ズームレンズ「RF14-35mm F4 L IS USM」が加わりました。開放値がF2.8Lの大三元レンズと比較されることも多いF4Lの小三元レンズですが、使ってみると大三元レンズの低価格バージョンとはいえない「RF14-35mm F4 L IS USM」ならではのメリットが盛りだくさん。レンズの魅力をポイントごとにご紹介していきたいと思います。
デザイン・外観・操作感
まずはレンズの外観です。全長99.8mmと、質量約540gの軽さは、旅行や散歩にも気楽に連れて行きたくなる大きさです。実際の撮影現場では、レンズ交換の際にパーカーのポケットなどにもスッと入れやすく重さで落ちる不安もなかったため、実用的、実践的なサイズといえるでしょう。
ワイド端14mmは超広角の領域といえますが、レンズの前玉が飛び出ているわけではなく、通常のフィルターワークが可能な便利な形状です。フィルター径は「RF24-105mm F4 L IS USM」、「RF70-200mm F4 L IS USM」と同じサイズの77mm。フィルターを共用で使えるので荷物が少なくて済むのもメリットです。
ズームリングを回転させるとワイド端とテレ端では、内筒が少し伸び縮みしますが、飛び出るのは最大でも10mm程度。小型軽量レンズですが、マウント部にはゴムのガスケットがつく仕様で、プロやハイアマチュアの使用に耐える、Lレンズらしい防塵防滴の設計になっています。砂やほこりが入りにくいので、ロケ先でも使い倒せるのがいいですね。コントロールリングやフォーカスリングなどは他のRFレンズ同様、均質で滑らかなちょうど良いトルク感が特徴です。
ズーム全域で高解像度
「RF14-35mm F4 L IS USM」は一眼レフ用の「EF16-35mm F4L IS USM」に比べて、ワイド端が2mm拡大。画角でいえば「7度」も広くなるので、目に見える空間の広がりは別次元です。パースペクティブを強調して、広い空間をダイナミックに切り取るもよし、森や洞窟などの閉ざされた空間、自然風景以外では建築の内観を広く撮るのもレンズの特徴を活かせるシーンです。
こちらの焦点距離は14mm。崖側にレンズを近づけ遠近感を強調した広角らしい一枚。被写体の細部を写し撮るシャープな描写力はLレンズならでは。絞り数値はF11で撮影しました。開放値でも線が詳細に描写されますが、F8~F11に絞るとさらにシャープです。
風景写真では人気のアングル、上空へレンズを向けたカットを撮ってみました。カメラ(EOS R5)のデジタルレンズオプティマイザを「ON」にして、周辺の収差や歪みなどが補正されたカットです。
こちらは焦点距離35mm、絞り値F8で捉えた一枚。海面の波の揺れや雲の立体感など、さりげないシーンもきっちり解像しています。
広角ズームレンズでは歪曲や周辺減光を気にする方も多いですが、キヤノン公式のDigital Photo Professional(DPP)やAdobe Lightroomなどのアプリケーションによる補正で高画質な作品が仕上がるため、実用上は歪曲や周辺減光のことは考えずに撮影して大丈夫です。EOS R5などで、あらかじめカメラの設定をしておくと補正のことも悩まずに済むでしょう。
EOS R5の場合、やり方はカメラのメニュー表示に「レンズ光学補正」の項目がありますので、そこを選択。次に出てくる画面で「周辺光量特性」を「ON」、「デジタルレンズオプティマイザ」を「標準」にしておけば、撮影時点で補正が完了しているので便利です。
下の2枚は同じ場所から、富士山を焦点距離14mmと35mmで撮影した写真になります。
焦点距離14mmで広い空間と湖面を切り取った一枚。12月の18:30頃、絞り開放F4で、満月の逆光で撮影しています。三脚使用で露光時間は20秒。レンズが軽くてセッティングも楽。
焦点距離35mmで富士山、空、湖面を切り取った一枚。こちらは17:20頃の撮影です。ダイナミックな14mmの空間表現と比べても切り取った感じが強くなります。14mmと35mmは数値で感じる以上に幅広い表現が可能です。
焦点距離プラス最短撮影距離で表現力アップ
前述でズーム域の広さを感じていただきましたが、ここではズーム域の広さ+撮影撮影距離0.2mを利用して作例を見ていきましょう。
「RF14-35mm F4 L IS USM」の撮影倍率は0.38倍で、マクロまではいきませんが擬似的なマクロ撮影ともいえる迫力のある近接撮影が可能です。この作例では登山道にあった倒木に0.2mの最短撮影距離まで近づき、絞り数値はF4に設定、AFでピントを合わせて背後をボケで描写しています。この作例は焦点距離14mmでの撮影です。
こちらも最短撮影距離まで岩に近づき、質感を詳細に捉えた一枚です。焦点距離は35mm。背後がボケすぎないようにF5.6に少し絞り、背景の様子が伝わるように撮影しています。
私の被写体は風景がほとんどですが、「RF14-35mm F4 L IS USM」は、料理やテーブルフォト、建築や子供の撮影など、被写体だけでなくその背後にどのような状況があるのかも同時に伝えやすいレンズです。被写体だけでなく背後の観察も同時に行うと撮影しやすいでしょう。
レンズのレビューでは、どうしてもスペックや画角の情報が優先されますが、写真を豊かにするためにはみなさん自身の体を動かすこともとても大事ですので、最短撮影距離や焦点距離+体を動かすことを少し書かせてください。
14mmで距離を考えずに普通に足元を撮った一枚。
14mmで最短撮影距離0.2mまでカメラとレンズを近づけて撮った一枚。一見、広角域で撮ったとは思えない描写ですね。
同じく14mmで、地面に寝転がり、カメラアングルを変えて奥ゆきをみせた一枚。カタログや数値で見るスペック(この作例では、レンズの焦点距離14mmプラス最短撮影距離)に体の動きを加えるだけで表現の幅が広がります。
レンズやカメラのスペックと特徴が頭に入ったら、是非体も動かしてバリエーション豊かに撮影を楽しみましょう。
強力な手ブレ補正+高速AF
「RF14-35mm F4 L IS USM」はAFも優秀です。上でご覧いただいた作例は「RF14-35mm F4 L IS USM」の超音波モーター「ナノUSM」で、静かに高速にピントを合わせて撮影しています。ナノUSMのAFは静止画では被写体を高速に捉え、動画では滑らかにAFが合う設計です。ほぼ無音でスッと合焦するのが当たり前になってしまうと、もう昔には戻れません。
愛用のカメラEOS R5のEVFでは、暗い場所でも明るさが拡張されて被写体を綺麗にみることが可能です。極端な低輝度や暗がりでない限り、AFの反応もスムース。焦点距離35mmの場合、EOS Rなどではレンズ単体のISで約5.5段、EOS R5ではボディとの協調制御で約7段の手ブレ補正効果が期待できますので、暗い場所や三脚が使えないシーンでは手持ち撮影が便利です。
本栖湖と富士山、早朝の光で撮影。レンズの焦点距離は14mm。千円札の裏側に描かれた富士山の光景と同じ場所で撮影しました。シャッター速度1/25秒で手持ち撮影。
こちらは焦点距離35mmで撮影した一枚。AFでピントを稜線に合わせ、手ブレ補正をONで手持ち撮影。
タイムラプス動画
風が生み出す光景を想像して、タイムラプスで雲や湖面を描写した作例です。EOS R5を三脚に取り付け、タイムラプスの機能を使って撮影しています。この日は満月で明るく、星が見えにくい環境でしたので、雲の動きを重視し焦点距離35mmで空の面積は控えめに捉えています。タイムラプスの撮影時間は1時間30分です。
まとめ
今回は「RF14-35mm F4 L IS USM」の焦点距離や最短撮影距離を中心に、ご紹介させていただきました。軽くて小さいだけでなくLレンズならでは描写力も備わった用途の広い、オールラウンドに活躍するレンズです。広角側に1mm差がある「RF15-35mm F2.8 L IS USM」もラインナップされているので、購入のポイントは開放F値「F2.8」が必須かどうか?といったところでしょうか。海や山など、歩く時間が長い方や、旅行へ持ち歩きたい方などにはこの軽さと小ささを存分に味わってみてください。
■写真家:GOTO AKI
1972年、川崎生まれ。1993~94年の世界一周の旅から今日まで56カ国を巡る。現在は日本の風景をモチーフに創作活動を続けている。2020年日本写真協会賞新人賞受賞。武蔵野美術大学造形構想学部映像学科・日本大学芸術学部写真学科 非常勤講師、キヤノンEOS学園東京校講師。