キヤノン RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM|ふたつの「目」を持ったレンズ
はじめに
今年8月、キヤノンから超広角ズームRF15-30mm F4.5-6.3 IS STMが発売されました。私たちの肉眼では捉えることのできないダイナミックな世界だけではなく、ふと目にした情景を目で見たままの雰囲気で写し取れる、ふたつの「目」を持ったレンズです。そんなRF15-30mm F4.5-6.3 IS STMの魅力をご紹介していきます。
デザイン・仕様
レンズの最大径は約φ76.6mm、レンズ本体の長さは88.4mmと、とてもコンパクトなレンズです。さらに重さは驚きの約390g。これはほぼ同じ焦点距離のLレンズRF15-35mm F2.8L IS USMと比べると半分以下の重さとなります。レンズフードは別売りとなりますが、前玉が大きく、近接撮影も多い広角レンズには装着しておくことをオススメします。また、防塵防滴機能は非対応のため、撮影シーンによってはこの点は気を付けたいポイントと言えるでしょう。
ワイド端時のレンズの繰り出しはわずかで、AF撮影時の最短撮影距離0.28mでも焦点距離を変更した際に被写体にぶつかるリスクは少ないでしょう。また、ピント合わせの際にレンズの全長が変わらないリアフォーカス方式を採用しています。これにより、ワイド端15mm時のマニュアルフォーカスでは0.128mまで被写体に寄れるハーフマクロ撮影の際は、より使い勝手の良さを実感できると思います。ズームリングはRFレンズの特徴である少し段差のあるデザインをしているため、手で持った時のホールド感がとても良いです。
描写
広角レンズは周辺の解像感が甘くなりがちと言われてしまう部類のレンズです。RF15-30mm F4.5-6.3 IS STMはワイド端15mmの開放F値撮影での四隅の描写は若干ソフトな印象を受けましたが、不自然に像が流れるといったことはありませんでした。また、絞り込むことで全体に隙のないシャープな描写を得られるため、建物などをダイナミックに捉えるのにオススメです。
お堂の中を格子状のガラス窓越しに撮影しました。年季の入った木の桟や外から差し込む光に鈍く照らされた床の質感、窓ガラスの映り込みなど、それぞれの素材感を非常に忠実に再現してくれています。
窓辺にエアコンの室外機が備え付けられているレトロなビルと、少し秋めいた雲の広がる空を広くフレーミングしたくて15mmで撮影しました。見上げる構図になったため、F13まで絞ったところ四隅までしっかりと解像しつつ不自然な歪みも感じない、すっきりとした描写が得られました。
手ブレ補正
RF15-30mm F4.5-6.3 IS STMの絞りはF4.5-6.3の可変絞りで、開放F値はそこまで明るくありません。ですが、5.5段分の手ブレ補正が効く上にボディ内手ブレ補正機構を搭載したEOS Rシリーズに装着時は、協調ISにより7.0段分の手ブレ補正効果を得られるため、暗い場所での撮影にも不安はありません。この強力な手ブレ補正機能を生かし、手持ちでの夜景撮影などにも積極的に活用してもらえると思います。
雨上がりに近所の公園にできた水溜りを水面ギリギリのローアングルで撮りました。バリアングルモニターを使いつつも、かなり不安定な体勢でのフレーミングとなりましたが、EOS R6との協調ISのおかげで少し遅めのシャッタースピードでもブレることなく写し留めることができました。
可愛らしさに拍車をかける広角の世界
空間の広がりや遠近感を強調するのに効果的なレンズである広角レンズですが、広角レンズならではの特徴を生かしつつ、被写体をどう切り取るかを工夫すると、私たちが見ている日常のシーンを少しデフォルメした世界に変身させることができます。
世田谷の豪徳寺には、たくさんの人たちの願いを込めた数え切れないほどの招き猫が鎮座しています。ワイド端15mmで最短撮影距離まで近寄ってみると、たくさんの猫たちを従えたボス猫にジッと見つめられているような迫力を感じる1枚になりました。
色とりどりの和傘に縁取られた神社を訪れました。住宅街の中にポツンと佇む神社でしたが画面いっぱいに傘をフレーミングし、現実感のある存在を排することで幻想的な世界への入り口のような雰囲気に仕上げました。
スナップでも楽しめる程良い距離感
スナップ撮影には15-30mmという焦点距離は少し広すぎると感じる方もいるかと思います。そんな方にはぜひ先日発売されたEOS Rシリーズ初のAPS-C機、EOS R7やEOS R10との組み合わせをオススメします。キヤノンのAPS-Cの倍率は1.6倍。フルサイズ換算で24-48mm相当の焦点距離での撮影が可能になるため、自分の目で見た画角に近い世界で切り取ることができるようになります。焦点距離は変わりますがレンズの性能はそのままですので、画角の変化を楽しみつつ、最短撮影距離を生かした画作りや手ブレ補正の恩恵を受けることが可能です。
なんともフォトジェニックなミニバーガーを手持ち撮影。レンズの軽量さと手ブレ補正機構のおかげで、片手でのフレーミングでも安心して撮影ができました。
ハートの模様が可愛らしい鯛のおみくじをテレ端で撮りました。テレ端側での開放F値のボケ味とフルサイズ換算48mmという人間の目に近い焦点距離が心地良くマッチしていて、主役となるおみくじの存在感を引き立ててくれました。
夕暮れ時の波打ち際を歩く女性が、ちょうど太陽の光跡の中に入ったタイミングを遠目からスナップしました。明るさの残る画面上部と対照的に、夕闇が迫ってくるような砂浜の黒さが画面を二分したことで、明と暗の対比が際立つ1枚となりました。
まとめ
Lレンズと比較すると多少暗い可変式の開放F値も、光学式手ブレ補正とボディとの協調ISがしっかりとカバーしてくれるため不安はありません。防塵防滴仕様ではない点は少し撮影シーンを選びますが、小型軽量に加え価格もリーズナブルなので、ご自身のレンズラインナップに加える価値のあるレンズだと思います。
■写真家:金森玲奈
1979年東京生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京藝術大学美術学部附属写真センター勤務等を経て2011年からフリーランスとして活動を開始。日常の中で記憶からこぼれ落ちていく何気ない瞬間や怪我と障害がきっかけで引き取った2匹の飼い猫との日々を撮り続けている。池尻大橋のアトリエで写真を手に取れる形で残すためのプリントレッスンや各種撮影会、モノクロ暗室ワークショップなどを企画運営している。