キヤノン RF35mm F1.8 MACRO IS STM レビュー|村上悠太
はじめに
様々な特徴を持つレンズを、状況によって使い分けることができるのはレンズ交換式カメラの大きな楽しみの一つです。交換レンズには大きく分けて、焦点距離を変えることのできる「ズームレンズ」と焦点距離が固定されている「単焦点レンズ」の2つがあります。
ズームレンズのほうが画角を自由に変えられて便利なのですが、1つの焦点距離しか持たない単焦点レンズにもズームレンズにはない魅力が詰まっています。今回は僕の撮影に欠かせない単焦点レンズ、「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」をご紹介したいと思います。
単焦点レンズの魅力って?
先にも明記した通り、単焦点レンズはズームレンズのように焦点距離を変えることができません。そのため、「もっと寄りたい!」「もっと広く撮りたい!」といった際には自分が動いて立ち位置を変える必要があります。
各メーカーからズームレンズが発売される中、単焦点レンズのラインナップも決して無くなることはありません。ではズームレンズにはない単焦点レンズの魅力とはなんでしょうか??
1:ズームレンズよりコンパクト&高画質
複数の焦点距離をカバーするズームレンズは各焦点距離で高画質を実現するため、一般的に単焦点レンズに比べて、多くのレンズ枚数が必要になります。そのため、F値の明るいズームレンズの場合、どうしても大きく・重くなる傾向があります。
また、同じ焦点距離での画質を比べた場合、単焦点レンズはその焦点距離に特化した設計を追求できるため、ズームレンズとは一味違う描写力を持っています。いわば単焦点レンズはその焦点距離の「プロフェッショナル」なのです!
2:明るい開放F値による大きなボケ
もう一つの特徴として単焦点レンズはズームレンズに比べて明るいレンズが多い点が挙げられます。レンズの明るさは「F値」で表しますが、今回紹介するRF35mm F1.8 MACRO IS STMの開放F値はなんとF1.8!RFレンズの中には開放F値F2.0のズームレンズもラインナップされていますが、RF35mm F1.8 MACRO IS STMと比べると機能面の違いが前提ですが、大きさも重さも価格帯も大幅に異なります。
小型軽量かつ、明るい開放F値が作り出す大きなボケ味と暗い条件でも撮影を身近に可能にしてくれる性能は単焦点レンズならではです。
3:構図力が鍛えられる
ズームレンズは焦点距離を自由に変えられるため、構図を作るときにあまり「焦点距離」を意識しないことが多いと思います。立ち位置が限定される鉄道写真にとってはこの自由度は確かにメリットで、僕もズームレンズを主体にレンズラインナップを揃えています。
もし、撮影に必要な焦点距離を全部単焦点レンズで揃えようとしたら、コストだけでなく撮影地に携行するのも難しくなってしまいます。そのため、自分がよく使う焦点距離だけ、単焦点で揃えています。
レンズの焦点距離は単に「写る範囲」が変わるだけでなく、焦点距離によってそれぞれ遠近感、ボケの出方なども変わっていきます。単純に画角だけを考えてズームで構図を作ると想像とは違った結果になることもしばしば。
一方で、画角を変えるには自分が動くしかない単焦点レンズは、その焦点距離の特徴を自身の感覚に染み込ませることもでき、結果として「構図力」が鍛えられることにつながると感じています。もし、ちょっと普段の撮影に行き詰ってしまっていたらぜひ単焦点レンズでの撮影にチャレンジしてみてください。
35mmが好きな理由
僕が35mmを好きな理由に、なにげなく感じた「あ、いいな」をストレートに写真へ変換してくれるというものがあります。みなさんもカメラを構えるとき、なにかしらの動機があるはずです。その動機を元に構図を作り、シャッターを押すわけですが、その場で感じた感情をストレートに描いてくれるのが僕にとってこの「35mm」という画角なのです。
「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」はEFレンズの同クラスレンズとほぼ同等の大きさにも関わらず、軽量化を果たし、さらにマクロレンズとしてラインナップされました。ただ、通常の単焦点35mmレンズとして使用してもなにも問題なく、個人的には「マクロレンズ」という認識よりむしろ、35mmレンズにマクロ機能がついているという感覚で使用しています。
RF35mm F1.8 MACRO IS STM作例
阿蘇を経由して熊本と大分を結んでいるJR九州豊肥本線。2016年に発生した熊本地震では一部区間で甚大な被害が発生し、長く不通となっていた区間がありましたが、2020年に全線での運転が再開されました。
この写真を撮影した豊後竹田〜朝地間には、「若宮井路笹無田石拱橋」というアーチ状の美しい石造りの水路橋があり、豊肥本線はそのすぐ横を走っていきます。撮影地に着いた時、この石橋の造形美と、力強く生い茂る緑の存在感に心惹かれました。
そんな目の前の光景に余分な写真的な演出を加えることなく、なるべく真っ直ぐに自身が惹かれた光景を写真に表現するためにRF35mm F1.8 MACRO IS STMをすぐに選択しました。単焦点レンズだけが持つ緻密な描写力を生かし切るために、カメラはEOS R5を組み合わせます。
列車を写し止めてしまうと、どこか列車の存在感が大きすぎるため、「列車」ということがわかる程度にブラして「走り去る」というニュアンスを表現しています。この日は無風だったため、木々のブレは気にしなくてもよかったのですが、1/30秒というとカメラブレが気になるシャッタースピードです。
しかし、EOS R5とRF35mm F1.8 MACRO IS STMの組み合わせでは、レンズ側とボディ側のそれぞれの手ブレ補正機構が協調する「協調制御IS」が機能するため、約7段分の手ブレ補正性能で強力に手ブレ、カメラブレを防いでくれました。
冒頭でも述べた通り、単焦点レンズはその焦点距離の「プロフェッショナル」。RFレンズはズームレンズでも単焦点レンズに匹敵するような性能を持つレンズも多くラインナップされていますが、大きさや価格を考えるとやはり単焦点レンズもまだまだ魅力的。
また、焦点距離が固定されているため、構図を組み立てる上でおのずと要素を整理することができます。この撮影地は「新緑」「岩」「川」そして「列車」と素敵な要素が満載の場所です。もっと広角を使用して要素を入れ込み、ダイナミックな構図にしようかとも考えたのですが、どこか構図に散漫さを感じました。
そこで一度、単焦点の35mmを付けて自分の足で前後しながらアングルを探したところ、結果として要素の整ったアングルを探すことができました。
こちらの写真も1つ上の写真と同様に35mmを使うことで構図を整理できたと感じた1枚です。満開の桜に囲まれて走る1両のディーゼルカー。素敵なシチュエーションにどこまで桜を入れ込むか現場で悩みました。
ワイドで撮れば撮るほど、桜の量は増えるものの、電柱や花付きの悪い枝なども入ってくるために思い描いたような写真になりませんでした。こんな時、僕は「なぜここで写真を撮ろうと思ったんだろう」という原点に帰ります。
自分の視界に入った桜とレールのある光景が素敵だったわけですから、一度35mmに戻して、この現場に到着した時の「僕の視界」を改めてカメラを通して再現してみました。よく、「人間の視界は50mm」という風にも言われていますが、僕の感覚では50mmはやや望遠気味で、35mmの方がしっくりくるかなという印象です。
このカットは日中でありながらISO1000で撮影しています。理由はズバリ「絞りたかった」から。F11まで絞ることで、桜の輪郭がある程度しっかりわかる程度まで被写界深度を深くしています。単純に絞るだけならシャッタースピードを下げればよいのですが、そうすると今度は列車がブレてしまいます。列車をブラさず、でも被写界深度を稼ぎたい。この両方を両立するためにISO1000で撮影しています。
JR九州日田彦山線採銅所駅。この駅は毎年、桜の時期になると素敵な春の光景が広がる駅です。この日は他の取材帰りに列車で立ち寄りました。自分が乗る列車がやってくる瞬間、駅舎、改札、そして列車の先で光り輝く「桜」に心惹かれました。
僕がRF35mm F1.8 MACRO IS STMがもつ性能の中で最も気に入っているのが「ボケ」です。35mmは広角域になってくるので、被写界深度は深めのレンズです。それでもこのレンズの開放F値であるF1.8まで開けると「広角」でありながら「ボケ」を活かした画面作りをすることができます。
このカットも改札や時刻表、列車などの要素を入れ込みつつ、あくまでピントは僕が最も心が惹かれた「桜」に合わせています。ある程度絞り込めば画面全域にピントを合わせることもできますが、そうしてしまうと僕の主張が弱まってしまうと感じたので、絞りを開放に設定して桜以外は大きくボカしています。ボケは写真を通して撮り手の視界を見る人に伝えることのできる大切なファクターです。
少し話が逸れますが、花や景色が美しい駅は多くの観光客や写真愛好家の方が集まります。その中で鉄道敷地内に入り込んでしまう方や、踏切を使用せずに線路を横断する方の姿をしばしば見かけます。
うっかり!ということもあるので、お見かけした際にはそっと言葉を選びながらお声がけしています。素敵な場所だからこそ、ルールを守って撮影したいものです。鉄道の世界において安全に関わることは「マナー」ではなく、「ルール」です。よく耳にする「ちょっとくらい」「せっかく咲いているのに」「昔はやってもよかった」「みんなやってる」という言葉はきちんと一度、考え直すべき時代だと僕は思っています。
みかん山に囲まれて東京を目指す東海道新幹線最新鋭の「N700S」。こちらの1枚もF1.8の絞り開放で撮影しています。絞り込んでピントを深く合わせた方がいいかなと現場で試してみたのですが、桜などの花とは違い、みかんは丸いので大きくボカしても雰囲気が悪くならなかったので、大胆にボカしてみました。
圧縮効果が出る望遠レンズとはちがう、35mmならではのほどよい遠近感と大きなボケが両立できるのもこのレンズの見逃せない長所です。
大口径でボケ味が楽しめるRF35mm F1.8 MACRO IS STMですが、ミラーレス特有のショートバックフォーカス機構により小型・軽量化を達成したため、EOS RPやEOS R6といった軽めのボディと組み合わせて気軽なスナップも楽しめるレンズです。さらに鉄道撮影ではあまり使用しませんが、最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロ撮影できるのも楽しいポイント。
湘南エリアを走っている江ノ電のすぐそばにあるこちらの魚屋さん。一声かけて軒先の干物と一緒に撮影させていただきました。こうした新しいモチーフを探す時には機材の小型軽量というのは大きなメリットです。この魚屋さん、どの魚も鮮度抜群、丸干しなどもおいしいので訪れた際にはぜひたくさんのお土産も買ってみてくださいね。
RF35mm F1.8 MACRO IS STMの大きなボケは、ふとした目の前の光景も特別な瞬間に描いてくれます。僕の息子ということもあり(?)、順調に鉄道好きに育っていっている我が息子人生初の「ロマンスカー」乗車のひとときを撮影してみました。
初めて乗るロマンスカーに大はしゃぎの息子の表情をEOS R6のサーボAFと顔+追尾優先AFで撮影しています。比較的近接しているだけでなく、F2.0に設定しているため、被写界深度は非常に浅いのですが、興奮して激しく動く息子の瞳にも、きちんとピントを合わせることができました。
この時乗車した白いロマンスカー「VSE」という車両はドーム状の天井が特徴なのですが、その特徴をボケの中に写し込んで、単なる子どもスナップではなく、彼の旅の記録なので「鉄道の車内」で撮影しているということがわかるように心がけました。
こちらは先のカットの続きです。車掌さんからもらった「VSE」のカードを胸に、はしゃぎ疲れた息子を撮影しました。シートの上から見下ろすように撮影しているのですが、その時にシートの背面を少しだけ「前ボケ」として入れ込んでいます。
そうすることで、そっと覗き込んでいるといったニュアンスを表現しています。そしてこの「前ボケ」を最大限に生かすために絞り値はF1.8に設定。今はシートにラクラク横になれる彼ですが、きっとすぐに大きくなるんだろうな、と思ってシャッターを押しました。
まとめ
シーンに合わせてシャープな描写力から優しいボケ表現まで、一本で多彩な表現ができるRF35mm F1.8 MACRO IS STM。最近ではEOS R6にこのレンズ一本を付けっぱなしにして、近所の散歩や家族の記録などを撮ることも増えてきました。
単焦点レンズだからこそ楽しめるストレートな撮影も、新しい表現の発見にきっとつながるはずです。日々のなにげない瞬間の記録にも最適な一本です。
■写真家:村上悠太
1987年東京都生まれ。鉄道発祥の地新橋でJR発足年に生まれた。日本大学芸術学部写真学科卒業。「ひとと鉄道、そして生活」をテーマに制作活動を行う。鉄道旅を通して日台観光促進、相互交流にも携わり、2019年台湾観光貢献賞(台湾政府 観光局)を受賞。高校時代には、毎夏北海道東川町で開催されている「写真甲子園」に出場し、2019年開催大会では出場者で初めて審査委員を務める。主な個展に、鉄道写真+動画展「てつ動展」(EIZOガレリア銀座 2015年)、「つなぐ旅」(キヤノンオープンギャラリー 2016年)、「つなぐ旅-その、日々へ-」(キヤノンギャラリー銀座・大阪 2020年)。
・キヤノン EOS学園東京校 講師
・日本大学芸術学部写真学科 非常勤講師
・日本鉄道写真作家協会 理事
〜「RF35mm F1.8 MACRO IS STM」はこちらの記事でも紹介されています ~
キヤノンRF35mm F1.8 MACRO IS STM|スナップに最高の一本!常用したい単焦点レンズ
ライター:shasha編集部
https://www.kitamura.jp/shasha/article/474090284/