キヤノン RF50mm F1.8 STM レビュー|鶴巻育子
はじめに
50mm F1.8 STMと言えば、一眼レフ時代からのキヤノンのベストセラーレンズ。プロアマ問わず好まれるのは、F1.8の明るさで優れた描写力。そして、なんと言っても、初心者でも手が届きやすい比較的安価な価格帯が人気の理由でしょう。その人気レンズがRFマウントで登場しました。
断然、ズームよりも単焦点派の私。50mmレンズのレビューですが、正直に申し上げますと、35mmが自分の表現にマッチするため、通常ほとんどはRF35mm F1.8 MACRO IS STMで撮り歩いて、ときどき単焦点50mmを使うのが私の撮影スタイルなのです。50mmを装着しファンダーを覗くと、初心に返ると言いますか、気が引き締まり新鮮な気分になります。それが私にとって標準レンズでの撮影の醍醐味になります。
単焦点の魅力
単焦点の魅力や単焦点とズームレンズの違いについては、さまざまな本やサイトに書かれていますので、うんざりする方も多いのは承知しています。しかし、このように記事を書いていますと、どうしても単焦点の魅力を伝えたくなってしまうのが、写真家のサガと言うもの。
明るいF値によるボケ味は、やはり単焦点ならではの魅力です。邪魔にならない美しいボケは、主役を引き立てます。また、夜間や屋内の暗い場所でもISO感度を上げずに手持ちでの撮影が可能ですから、悪条件でも低感度の高画質が得られるのは大きなメリットとなります。
そして、単焦点レンズの最大の魅力は、画角をコントロールできないもどかしさ。装着しているレンズの画角でフレーミングするしかないので、被写体に寄ったり引いたりと自分が動くしかありません。その作業は、自然とフレーミングや被写体との距離感、背景のバランスなどが身に付いていくのです。
かく言う私もズームレンズは持っています。要するに、画角が身体に染み付くことで、ズームレンズを使用していてもそれぞれの焦点距離の特徴を生かしたフレーミングができ、自由度の高いズームレンズをより効果的に扱えるようになるわけです。
50mmの画角(スナップで好まれる50mmと35mmの違い)
50mmレンズの画角は、人の視野に近いと言われています。感覚では、じっと見つめた感じでしょうか。私が50mmを装着した途端に狭く感じてしまうのは普段35mmを常用しているからで、その画角はぼんやりと眺めているような少し広い視野となります。
どちらの焦点距離もスナップでは好まれますが、広角の35mmはやや情報が多く写り込み、主役となる被写体に加え、その場の雰囲気が感じられ易くなります。一方、肉眼に近い50mmの画角は、より見たままに近い自然な写りで主役である被写体そのものによりフォーカスされ、きっちりと収まり整理された描写が得られます。
要するに「普通に写る」ことが、50mmの特徴であり、興味深さなのです。パースペクティブの強い広角レンズや圧縮効果のある望遠レンズなど、レンズの特性を生かした魅力的な撮影も楽しいものですが、普通に写るのにいい写真が撮れたら、最高です!
製品スペックなど
単焦点や標準50mmレンズの魅力を語ったところで、そろそろ製品のお話をしなくては。
キヤノンRFレンズシリーズの50mmにはあの少し大きなRF50mm F1.2L USMがあります。シャープさ、ボケの美しさ、ぬけの良さ、どれを取っても最高なレンズです。しかし、何分お値段が現実的でない。サイズ感をみても気軽に普段使いでとはいきません。特にスナップシューターにとっては、いつでもパシャパシャ撮れるコンパクトな単焦点が最強レンズなのです。
EFマウントでもベストセラーだった50mm F1.8 STMの魅力のひとつは、小型軽量。いつでも持ち歩き、撮りたいと思ったときに撮れる。街スナップや日常の記録には格好の1本。一眼レフからミラーレスに切り替えた方の中には、マウントアダプターを装着しEF50mm F1.8 STMを使う手もありますが、当然その分全長は長くなりコンパクトさに欠けてしまうのは難点ではあります。
PMo非球面レンズ1枚を採用、画面周辺まで高い解像感でRFレンズならではのキレのある写り。EF50mm F1.8 STMと比べるとシャープさの違いを実感しました。
絞りやシャッタースピード、ISO感度などの設定を割り当てられるコントロールリングはもちろん備わっています。私はそこに露出補正を割り当ていますが、微細なピント調整をしたい場面ではマニュアルフォーカスに設定し撮影することもあります。その場合は、鏡筒部分にある切り替えスイッチでフォーカスリングとして使用します。
■最短距離
最短撮影距離は30cm、最大倍率0.25倍のクオーターマクロ。EF50mm F1.8 STMでは35cmでしたので、5cmも縮まったことになります。実際に、RF50mm F1.8 STMとマウントアダプターを装着したEF50mm F1.8 STMとで撮り比べてみました。かわいらしいケーキを撮影したいところですが、甘いものは滅多に食さないため、自宅にあるお酒の瓶を被写体に選びました。どちらもラベルに書かれた大きなアルファベットの文字に最短距離まで近づきピントを合わせています。
▼RF50mm F1.8 STMで撮影した小瓶の作例
▼EF50mm F1.8 STMで撮影した小瓶の作例
ご覧の通り、RF50mm F1.8 STMの方が被写体がより大きく写るのがわかります。普段はマクロ的な撮影を行う機会は然程多くなくても、お料理や小物などをちょっと撮影したいと言うときに、30cmの最短撮影距離が有り難く感じるはずです。標準レンズの肉眼に近い自然な描写は、歪みやパースが出ず商品撮影などでも重宝します。
■開放F1.8
開放F値F1.8ならではのボケを生かし被写体が浮かび上がる印象的な写真を撮りたくなりますね。EF50mm F1.8 STMと比較すると、周辺部の画質が改善されているように思います。大口径レンズで撮影する際、大きなボケを出したいがためについ開放にしたくなりますが、被写界深度を考慮して撮影意図に沿ってF値を決定したいものです。
今回高感度撮影に強いEOS R6を使用して撮影していますが、それでもできれば低感度の画質を維持しながら撮影できたら嬉しいものです。そこで開放絞り値が明るいレンズですと、夜景や暗い部屋の中など暗所でも低ISO感度のまま速いシャッタースピードでブレずに撮影することができます。しかも、カメラ内手ぶれ補正機能を搭載しているEOS R6との組み合わせですと7段の手ぶれ補正効果が得られますから、車のライトの軌跡なんかも手持ちで撮れてしまいます。
私のお気に入りの場所、川崎にある展望台から夜景を撮ってみました。開放F1.8、ISO100に設定し、シャッタースピードは1秒です。高画質な夜景が手持ちで撮れちゃうわけです。高速道路を走る車ライトの軌跡も捉えることができました。
色々撮影してみました
単焦点レンズでのスナップはワクワクします。写真を撮っている喜びが増すんです。「今日は50mm一本」と決めて街を歩くと、目がその焦点距離の画角になります。被写体を見つけ、ファインダーを覗く前から撮影する距離が自然に計算されフレーミングする。いわゆる、足を使って撮ると言うことですが、特に標準レンズでパシャパシャとリズミカルに街スナップするといい訓練になりますよ。
仕事でポートレイトを撮る場合は、一般的にポートレイトレンズと言われる85mm以上の圧縮効果の高い望遠を装着することもありますが、制限があまりない仕事の撮影や作品作りでは、人を撮るときも私は50mmか35mmを使用しています。被写体との距離が近く会話をしながら撮れますし、その場の状況や空気感も一緒に写すことができる自然な画角が私のポートレイト撮影にはぴったりマッチします。
最後にまとめ
冒頭にも書きましたが、私の基本焦点距離は35mm、時々50mmというスタイル。現在はRF35mm F1.8 MACRO IS STMとこのRF50mm F1.8 STMの2本が私のメインレンズです。コンパクトなサイズでこれだけの描写力、そして何より価格がお手頃なのが魅力。キヤノンミラーレスユーザーなら、迷わず即買いで後悔しないレンズです。
■写真家:鶴巻育子
1972年、東京生まれ。広告写真、カメラ雑誌の執筆のほか、ワークショップやセミナー開催など幅広く活動。写真家として活動する傍ら、東京・目黒、写真専門ギャラリーJam Photo Gallery 主宰を務める。ライフワークでは、これまでに世界20カ国、40以上の都市を訪れ、街スナップや人物を撮影。主な写真展 Brighton-a little different(2012年、オリンパスギャラリー)、東京・オオカミの山(2013年、エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、3[サン] (2015年、表参道スパイラルガーデン)、THE BUS(2018 年、ピクトリコギャラリー・PLACE M)、PERFECT DAY(2020年、キヤノンギャラリー銀座)など。THE BUS(2018年、自費出版)、PERFECT DAY(2020年、冬青社)がある 。