キヤノン RF600mm F4 L IS USM レビュー|A☆50/Akira Igarashi
はじめに
2022年現在、キヤノンのレンズラインナップの最高峰に位置するのが、このRF600mm F4 L IS USMを含めた超望遠単焦点レンズ群。世界的なスポーツ大会のカメラマンブースなどで、存在感ある白レンズが並んでいるのを見たことがある方も少なくないと思います。
充実したレンズラインナップの頂点に位置するだけに、価格も他のレンズに比べて超弩級。通称“バズーカレンズ”と呼ばれるほど本体は大きく、一般の方には「天体望遠鏡ですか?」と言われることもしばしば。プロ用途や業務用途が多勢を占めるため、一般的なレンズかというとそうではありませんが、ヒコーキや野鳥、自動車レースなど超望遠レンズを必要とするジャンルを愛する方にとっては究極の一本、夢の一本としてアツい視線を浴びるレンズ。その魅力を写真とともにお伝えできればと思います。
今回はエクステンダーについても言及。RF600mm F4 L IS USMにEXTENDER RF1.4xをかませた840mm(35mm判フルサイズ換算、以下同)や、EXTENDER RF2xをかませた1200mmで撮影した画も同時に紹介させていただきます。
RF600mm F4 L IS USMの外観と携行性
RF600mm F4 L IS USMは、キヤノンの一眼レフ用マウントに適合するEF600mm F4L IS III USMと双子のような存在。EF600mm F4L IS III USMもアダプターを装着することでRシステムのカメラに装着、使用することが可能です。
手ブレ補正がRFの方は約5.5段、EFは約5段など細かな違いはあれど、レンズ構成など基本的な仕様はほぼ同一。Rシステムのカメラにアダプター無しで装着可能な分、RFの方が約40g重く、約24mm全長が長くなり472mmとなっています。
ただ、それでも最初にこのレンズを持ってみて最も驚いたのがその軽さ。以前は約4kg近い同社のロクヨンを使っていたので、約3090gのRF600mm F4 L IS USMが異様に軽く感じました。ヒコーキ撮影においては手持ち撮影の機会が少なくありません。レンズを振る際に、軽いほうが歩留まりが良いということもありますから、軽量化に進化のベクトルが向いているのは有り難く感じます。
RF600mm F4 L IS USMのレンズ構成
レンズ構成は13群17枚。キヤノンの最高峰に位置するレンズだけあり蛍石が2枚も採用されています。蛍石はとくに望遠レンズの軽量化や高性能化に寄与。色分散しにくい特性があるため色収差が非常に発生しにくくなっています。このため、600mmという長大な焦点距離でありながら遠くの機体のディテール部分まで精細に描写可能。まるで近くにいる機体を撮っているかのような錯覚に陥るほどです。
蛍石に加え採用されているスーパーUDレンズはレンズのさらなる軽量、コンパクト化に寄与。色収差の補正にもひと役かっています。これだけの価格のレンズですから、画質については文句のつけようがなく、作品の撮影前はむしろ視程や陽炎の有無など撮影条件の精査に時間を割きます。条件の良い日にしっかり撮られた一枚は、機体のリベットや小さな文字までクッキリとシャープに描き出され、レンズを何枚も通していることが信じられないほどのクリアな空気感に圧倒されました。
RF600mm F4 L IS USMとエクステンダー
フルサイズセンサー搭載のカメラならEXTENDER RF1.4xを使用して840mm、EXTENDER RF2xを使用して同1200mmとすることも可能。APS-Cセンサー搭載のカメラならフルサイズ換算でEXTENDER RF1.4xを使用して1344mm、EXTENDER RF2xを使用して1920mmにもなります。
筆者の場合、このレンズの使用時はエクステンダーの使用頻度がかなり高め。フルサイズセンサー搭載のカメラを使用している時は、プレーン状態で使っていることの方が少ないかもしれません。以前ほど、エクステンダー使用による画質の低下やAFの合焦速度の低下が気にならないレベルとなっているのが理由。
焦点距離も1000mm前後となるとかなり条件が良い日を選ぶことが必要とされるため、EXTENDER RF1.4xの使用が多くなりますが、月に機体が刺さる画を狙う時などはいつもEXTENDER RF2xを装着して撮影しています。
RF600mm F4 L IS USMのAF
レンズのコンパクト化に寄与するリアフォーカス方式を採用。USM(ウルトラソニックモーター)を搭載したオートフォーカス(以下AF)は素早く精密に合焦します。RFシステムのカメラに搭載されるデュアルピクセルCMOS AFの進化と相まってAF動作は快適そのもの。動体撮影が多くAFの性能が重視されるヒコーキ撮影においても、当然ながら問題なく使用できます。
その他、動画撮影に便利なパワーフォーカスも使用可能。マニュアルフォーカスで撮影する際、フォーカス速度も選ぶことができます。
RF600mm F4 L IS USMの手ブレ補正
前述の通りレンズ単体で約5.5段分の手ブレ補正効果を発揮。手持ちで超望遠撮影を行うことの多いヒコーキ撮影ですから強力な補正効果に助けられます。
手ブレ補正モードは3種類用意されていて、水平方向に動く機体を流し撮りするような時はMODE2を使用。不規則に動く被写体、例えばサッカー選手の撮影の時などはMODE3の使用が適するとされています。
RF600mm F4 L IS USMその他の特徴
防塵防滴構造を採用しているため多少の雨や雪の中でも撮影可能。しかし、完全にほこりや水滴を防ぐものではないと謳われているため、雨天での長時間撮影などではレインカバーの使用をオススメします。
レンズにはフッ素コーティングが施されているため、汚れをカンタンに取り除くことができます。ヒコーキ撮影は屋外で行われることがほとんどで、ほこりっぽい現場も少なくないことから、このコーティングにはいつも助けられています。また、ASCコーディングによりフレアやゴーストを大幅に軽減。夜間、着陸灯を点灯させた機体を正面気味に撮る場合などは効果を感じることができます。
まとめ
キヤノンの豊富なレンズラインナップの中でも、頂点に君臨するレンズですから、当然のように最高級の技術やパーツが惜しみなく注入されています。もはや写りや搭載されるテクノロジーに抜かりはありません。
ただ、その妥協なき高性能ゆえの価格だけに、誰でも気軽に購入できるレンズでは正直なところありません。何しろ本体価格もさることながら、純正のフード単体だけでも約10万円するのですから。ほんのわずかな差で瞬間を逃したくない方、撮り逃がすリスクを極限まで減らしたい方、超望遠の一枚を大きく引き伸ばして印刷する機会のある方などが使うレンズ。報道など業務用途はもちろんですが、このレンズの導入を考えるくらいの世界になるとプロもアマもありません。
究極の一枚、妥協無き一枚を求める写真家の方にオススメとなります。ヒコーキ写真においては、やはり迫力のある機体カットを求める方に最もオススメでしょうか。ヒコーキは基本的に近づくことが難しい被写体ですから、この焦点距離を必要とするシーンが少なくありません。長大な焦点距離でググッと機体に寄り、機体の質感まで表現したい。そして、ディテールまでクッキリ表現したい。こう考える方に「夢の一本」として検討していただきたいレンズとなります。
■写真家:A☆50/Akira Igarashi
絶景ヒコーキ写真を求め全国を駆け巡る瞬撮系航空写真家。雑誌、WEB、TVなど各種メディアに出演、作品を提供するかたわら大手航空会社やカメラメーカーなどのオフィシャル撮影を担当。公益社団法人 日本写真家協会会員。