キヤノン RF1200mm F8 L IS USMでボート競技を撮る|中西祐介
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はじめに
今回はRF1200mm F8 L IS USMの使用レビューをお伝えします。1200mmの焦点距離を持つレンズは以前にEF1200mm F5.6 L USMというレンズが存在しました。受注生産品の業務用レンズで、野球場のバックスクリーンからバッターをノートリミングで撮影出来ると言われ、ごく一部の新聞社が所有していたと聞いたことがあります。
私はこれまで数多くのスポーツ競技を撮影してきましたが1200mmのレンズを使用して撮影した経験はありません。一番長いレンズで800mmまでだったと記憶しています。今回1200mmという未知の世界を見るにあたり何を撮ろうかと試行錯誤した結果、ボート競技を撮影することに決めました。以前にボート競技を撮影した際に撮影位置から被写体までの距離があまりにも遠く、当時手元にあった400mm+エクステンダー RF1.4x(計560mm)では全く歯が立たず、大きくトリミングをして使用したことを思い出したためです。
EOS R7などのAPS-C機に装着すれば焦点距離1.6倍換算となりますが、使用媒体が大きなものではフルサイズ機で撮影したいシーンがあります。今回はEOS R3との組み合わせで撮影を行い、1200mm単体とエクステンダー RF1.4x(計1680mm)を装着した二つの焦点距離で撮影しました。現在ボート競技はシーズンオフのため、早朝に行われた練習時に撮影した写真をご覧ください。撮影は数カ所を自転車で移動しながら撮影ということもあり、機動力を重視して一脚を使用しています。
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■撮影環境:ISO800 SS1/2500 F8
意外と軽量な1200mm
上記で述べたEF1200mm F5.6 L USMは手振れ補正機能がなく、重量はなんと16,500gでした。RF1200mm F8 L IS USMは開放絞りがF8と一段暗くなりますが、4段分の手振れ補正機能が付いて3,340gとなり13,260gの軽量化です。本当に技術の進歩を感じます。
とても大きなレンズではありますが、実際に手にとってみると想像以上に軽量であることを実感します。もしかしたら手持ちで撮影出来るのではないかと思わせるほどの重量です。また全体の重量バランスがいいのでレンズを振りやすく、スポーツの撮影には最適だと思います。
私がこれまで思い描いていた1200mmとは別次元のものというのが第一印象です。私が普段愛用しているRF400mm F2.8 L IS USMの延長上にあるような感覚で使えそうです。また、開放絞りは暗くなりますがエクステンダーRF1.4x使用で1680mm、エクステンダーRF2x使用で2400mmに焦点距離を伸ばすことが可能です。
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■撮影環境:ISO1000 SS1/1600 F8
1200mmでなければ見えない世界
1200mmがどのくらいの距離で撮影出来るのかを知っていただくために、同一の撮影位置からエクステンダーRF1.4x使用の1680mmとRF70-200mm F2.8 L IS USMで撮影した焦点距離200mmの写真を比較してみます。また、レンズ本体の大きさも見比べてみてください。
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上:RF1200mm F8 L IS USM
下:RF70-200mm F2.8 L IS USM
200mmではほとんど風景の一部となっている選手の表情が、1680mmではしっかりとわかるところまで接近出来ました。1200mmのインパクトは本当に大きいですね。スポーツなどのように撮影場所に制限があり被写体との距離を詰められない時は、本当に頼りになるレンズです。これまで諦めていた世界をグッと引き寄せることが出来ます。
今回は一脚につけて使用していますが、軽量のため選手の動きに合わせてレンズを振りやすく、フレーミング時にストレスを感じませんでした。強風時に使用する場合は煽られないように注意が必要なくらい軽量です。また、超望遠レンズでありながら最短撮影距離4.3mを実現しているのも驚きです。遠くの被写体を撮ることだけに集中していましたが、練習上がりの選手に近づいてレンズを向けてもスムーズに撮影が出来ました。
長い焦点距離だからこそ実現できるボケ味を作り出せます。遠距離から近距離までこの1本で様々なシーンが撮影出来そうです。
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■撮影環境:ISO800 SS1/1000 F8
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■撮影環境:ISO800 SS1/1000 F8
快適なAFと高画質を合わせ持つ超望遠レンズ
AFは他のLレンズ同様に、静かで素早く正確に被写体をフォーカスしてくれました。今回使用したEOS R3との相性も抜群で、特に瞳(顔認証)AFは快適でフレーミングにしっかり集中出来るのでとても助かります。エクステンダーを使用した場合は開放絞りがF11以上となり、測距エリアがセンター方向に狭くなってAFと手振れ補正が使えます。この時はさすがにAFの速度が落ちている印象がありますが、焦点距離と開放絞りを考慮すれば実用の範囲内であると思います。
また、画質は蛍石レンズとスーパーUDレンズを贅沢に使用していることもあり、クッキリとシャープに像を結んでくれます。順光時はもちろんのこと、ASCコーティングの効果もあり朝日が差し込む逆光時でもにじみが少なく空気感をしっかりと表現してくれます。
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■撮影環境:ISO8000 SS1/6400 F8
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■撮影環境:ISO800 SS1/2000 F8
まとめ
これまで1200mmといえば特殊な用途で使用するものであり、全く別世界のものと思っていましたがRF1200mm F8 L IS USMを実際に使用してみると軽量、高画質、取り回しがしやすい万能型レンズという側面を持ち合わせていました。RF400mm F2.8 L IS USMやRF600mm F4 L IS USMと同じラインナップの中にあっても違和感のない仕上がりになっています。
EF1200mm F5.6 L USM以来の1200mmの登場はユーザーに新しい可能性を開いてくれるのではないでしょうか。主にスポーツや報道、野生動物、野鳥などどうしても被写体との距離を埋めることが出来ないシーンでの出番が多くなると想像しますが、1200mm(エクステンダーRF2x使用で最大2400mm)でなければ見えてこない世界があるのは間違いありません。販売数を考慮すると手を出しにくい領域ではあると思いますが、本レンズを商品化したキヤノンに賛辞を送りたいと思います。
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■撮影環境:ISO800 SS1/2500 F8
■撮影協力:日本大学ボート部
■写真家:中西祐介
1979年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエージェンシーであるアフロスポーツを経てフリーランスフォトグラファー。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップや大学での講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。
・日本スポーツプレス協会会員
・国際スポーツプレス協会会員