ヨーロッパのフォトスポットを巡る旅|三田崇博 海外撮影記【前編】
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。2020年以降のコロナ感染拡大以降長らく海外旅行が制限され、海外旅行好きの方の中にはそろそろ行きたくてうずうずしている方も多いのではないでしょうか。これまで世界遺産を中心に海外100か国以上で撮影を行ってきましたが、今年(2022年)6月に2年半ぶりの海外撮影に行くことができました。今回は旅の撮影記として撮影テクニックも取り入れながらレポートさせていただきます。
海外旅行の現状について(2022年8月現在)
当初は3月にパリ行きの飛行機を予約していたのですが、出発の前日になってウクライナ情勢の影響を受け欠航となってしまいました。その後運航の再開を待っていたのですが、パリ便はしばらく再開の見込みが立たちそうにないとのことで、ベルギーのブリュッセル行きの飛行機で向かうことになりました。
現在ロシア上空を飛ぶことができないので東回りにアラスカ上空を飛行するルートに。通常より3時間ほど長いフライトとなりました。ルートにもよりますが現在日本からヨーロッパまでは12~16時間ほどかかるようです。万が一現地でコロナに感染した場合のために、感染によるキャンセルや隔離期間の費用も補償対象となる保険にも加入していきました。
持参した機材
ラージフォーマットのGFX50S II(GF23mmF4 R LM WR、GF35-70mmF4.5-5.6 WR、GF100-200mmF5.6 R LM)とX-T4(XF8-16mmF2.8 R LM WR、XF16-80mmF4 R OIS WR、XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR)の二台を使って撮影を行いました。この組み合わせだとバッテリーが共用できて便利です。また、動画用としてジンバル付きの小型カメラDJI Pockt2を持参しました。
機内にて
機内から撮影は始まります。座席を窓際にとるのはもちろんですがなるべく飛行機の翼の被らない前方がオススメです。後方だとエンジンから放出される排気ガス(?)によりゆらぎが発生してしまうことがあります。以前は禁止されていた離着陸時の撮影も近年は緩和されてきているようです。(まだ禁止している航空会社もあるので要確認ですが)
長距離フライトの機内では時間感覚がなくなり昼なのか夜なのか分からなくなりがちですが、日の出と夕日の時間は必ず外を眺めるようにしています。飛行機は雲よりも高い高度を飛んでいるため、当然ですが天候に関係なく朝日・夕日を撮影することができます。今回は北極海を通るルートだったので珍しい北極海に沈む夕日を撮影することができました。
座席が空いていたので反対側も撮影しました。夕日に照らし出されたアラスカの山並みも壮観でした。
後で撮影したおおよその場所が分かるように、座席モニターのルートマップも同時に撮影しています。記録用なので写り込みなどは気にせずに撮影します。スマホ撮影でもいいのですが、カメラで撮っておくと写真整理の際にファイルナンバー順になるので分かりやすいです。
グリーンランド上空で撮影した一枚です。グリーンランドは日本の5.7倍の面積を持つ世界最大の島で全体の80%以上が年中雪で覆われた大地になっています。どこまでも続く白い台地、飛行機からでしか見られない光景です。
アイスランドの世界遺産「ヴァトナヨークトル国立公園」の氷河です。雲間から氷河湖に流れ込む姿を捉えることができました。以前に地上から撮影したことがあったのですが、上空から見るとそのスケールの大きさに圧倒されます。
ブリュッセルに到着
ブリュッセルはベルギーの首都で、EU(ヨーロッパ連合)やNATO(北大西洋条約機構)の本部がありヨーロッパの政治の拠点となっています。到着した日の夜に世界遺産の「グラン・プラス」に出かけました。ヨーロッパで一番美しいとも言われるこの広場は夜にはライトアップされ一層輝きを増します。結構な人出でしたがアジア人を見かけることがほとんどなく、地元の人々が多い印象でした。この時期のヨーロッパは日が長く夜の撮影ができるのは午後11時以降になります。
ここに来るのは2回目なのですが以前は超広角レンズを持っていっておらず、今回はXF8-16mmF2.8 R LM WRが活躍してくれました。
ラージフォーマットのGFXは最広角の23mm(フルサイズ換算18mm相当)で撮影。人物も入れることで広場の賑やかな雰囲気を出すことができました。
有名な小便小僧の像は実は前回訪れたときはどこにあるか分からず(当時はまだスマホなどの地図もなかったので……)行けなかったので今回リベンジしました。世界三大ガッカリとも比喩されますがたくさんの人が見学に訪れていました。
ブルージュのお祭り
年に一度のお祭りが開催されるというのでベルギー北西に位置するブルージュに行くことにしました。ブリュッセルからブルージュまでは電車で約1時間で行くことができ、日帰りでも十分に楽しむことができます。後で思い出せるように移動した乗り物なども撮影するようにしています。
ブルージュには3つの世界遺産があり一日ですべて見て回ることが可能です。まずは「フランドル地方のベギン会修道院群」のひとつとして世界遺産に登録されている修道院に向かいました。ベギン会とは12世紀にベルギーで女性の自立支援のために設立された共同体です。森の木々と花々に囲まれた中に白壁の建物がとても美しかったです。
次に「ブルージュ歴史地区」として世界遺産に登録されている旧市街の中心に向かいました。この町は「北のベニス」や「屋根のない美術館」などと呼ばれ、運河が張り巡らされた中世の街並みが残ります。この日は風があり水面が波立っていたので、ND1000のフィルターを使い水面をフラットにしています。
町中にはベルギー名物のフリッツを売る店もたくさんあります。フリッツとはフライドポテトのことですが実はベルギーが発祥だと言われています。面白いオブジェがあったので撮影してみました。
中心にそびえたつ高さ83mの鐘楼は世界遺産「ベルギーとフランスの鐘楼群」にも登録されています。逆光だったので太陽の光条がでるように絞り込んで撮影しました。
祭りの始まる14時が近くなると大勢の人々が集まってきました。なんとか撮影できそうな場所を見つけてスタンバイしました。このお祭りは「聖血の行列」という14世紀から続く宗教行事で、ブルージュの市民3000人が聖書やブルージュ史の登場人物に仮装して街を練り歩くというものでユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
GFXにはGF23mmF4 R LM WRをつけて撮影しました。広角レンズは高い位置からの撮影と低い位置からの撮影で随分と雰囲気の違った写真を撮ることができます。
中世のカラフルな衣装を身にまとった人々の行列が何百メートルと続きます。パレードに参加しているのは全員地元の人々だということです。
X-T4では主に目線の位置から人の表情を狙って撮影しました。
古代ローマ帝国軍の再現でしょうか。大きな盾を持った行列は特に迫力満点でした。
パレードは2時間も続きましたが最初から最後まで全部見てしまいました。一年に一度しかない日にたまたま当たってラッキーでした。DJI Pocket2を使って動画も撮影しましたので以下よりご覧ください。DJI Pocket2は117gと小型軽量なのでポーチなどに入れて必要なときにすぐに撮影できるのがとても便利です。
ブリュッセルからパリへ
ブリュッセルとパリ間は300kmほどしか離れておらず、鉄道で1時間30分で行くことができます。国をまたぎますが国境や検問というものは何もありません。パリは2019年に来て以来3年ぶりとなります。
パリは町スナップの楽しいところです。街中にオープンカフェやレストランがたくさんありこのような雰囲気がとても好きです。
パリ市内の移動は主に地下鉄を利用しました。中心地であれば一乗車1.7ユーロなのですが、11回の回数券である「カルネ」や一日乗り放題券など目的によって使い分けることができます。また入場料の割引がついたチケットなどもあります。
地下鉄を使えばパリの主な名所を1日で回ることは可能ですが、写真を撮るとなるとそういう訳にはいきません。私は海外でも撮影する時間帯や天気にはとても気を使います。
ルーブル美術館のメインエントランスとなっているガラスのピラミッドです。ブルーの空とオレンジの色の組み合わせを狙いました。残念ながら手前の噴水の映り込みは風が強かったせいで綺麗には映りませんでした。
コンコルド広場でふと後ろを振り返るとシャンゼリゼ通りの先にシルエットの凱旋門が見えました。セピア色に輝くこの時間帯もパリにはよく合いますね。
ライトアップされた凱旋門です。車の光跡をポイントにするためにかなり長い時間同じ場所で撮影しました。
セーヌ河を挟んだ対岸のシャイヨー宮からのエッフェル塔です。こちらは風もなく噴水の池に空がきれいに映り込みました。
最後に高いところからパリの町を俯瞰する写真を撮ろうと、パリ市内一の高層ビルであるモンパルナスタワーの展望台に上りました。エッフェル塔に登るのが定番ですが、そうするとパリの象徴でもあるエッフェル塔が見えないのであえてこちらを選びました。
210mの高さから俯瞰するパリの夜景。ガラス越しの撮影だったので、窓の反射を除去するために着ていた上着をカメラに被せて撮影しています。
エッフェル塔は毎時0分になるとキラキラと光るライトの点滅が見られます。光線を残すために感度を上げてシャッター速度を速めています。
レンタカーでフランス各地へ
パリからはレンタカーを使って移動することにしました。ヨーロッパは日本と違い左ハンドルなので最初は戸惑いますが、慣れると意外に交通マナーは良く都市部以外は運転しやすいです。やはり車があると好きな場所に好きな時間帯に行けるのは大きなメリットとなります。ちなみにヨーロッパで運転するには事前に日本で国際運転免許書の取得が必要です。空港で借りるとすぐに高速道路に乗れるのでパリ中心地を通らずに郊外への移動ができるのでおすすめです。
車がないと気軽に行くことが難しいエトルタに向かいました。ここはフランス北西部の海辺の町で風光明媚であることからモネをはじめ多くの画家に愛された場所でもあります。やはりここは晴天が似合いますね。PLフィルターを使って空と海の青さを強調してみました。
次にヨーロッパで最も有名な世界遺産のひとつでもあるモン・サン=ミシェルに。ここでの撮影は潮の満ち引きのタイミングがとても重要です。モン・サン=ミシェル自体は陸地から見て北側に位置するので、定番位置からだと夕日と絡めるのは困難です。夕方は引き潮だったので干潟を歩いて夕日とモン・サン=ミシェルの見える位置に移動することができました。
同じ場所でライトアップの時間まで撮影しましたが、周りで撮影していた人が帰り始めた時点で帰りました。もう少し撮りたい気持ちもありましたが真っ暗で道もぬかるみが多かったので安全を優先しました。特に海外撮影では無理をしすぎないというのも大事です。
翌日の満潮時の姿も撮影しました。ここは展望デッキになっている定番ポイントです。この地域は風が強いのですが早朝の微風の時間帯に水面に写り込む姿を撮影しました。
次に向かったのはフランス西部のナントという町です。旅行者にはあまり馴染みが薄いかも知れませんがロワール川河畔の港湾都市です。大きな町ですがパリとはまた違った雰囲気で、アートの町と言われるだけあり洗練された印象でした。人工的に水鏡を作っている公園があったのでローアングルで町並みと路面電車を撮影しました。
街の郊外に車を置いてバスで中心地まで来たのですが、帰りのバスを待っていると空が色づき始めたので結局バスを遅らせて撮影しました。街中に構図のポイントとなる建物がたくさんあるので助かります。
パリまでの帰りは「シュリー=シュル=ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷」として世界遺産に登録されているロワールの古城群を撮影しながら帰りました。川面に映る姿が美しいシュノンソー城では、PLフィルターとハーフNDフィルターを使って水面の映り込みが綺麗に出るように撮影しました。
アンボワーズ城は、シャルル7世、ルイ11世、シャルル8世、フランソワ1世らヴァロワ朝の国王が過ごした場所です。
ブロア城では三日月が綺麗でした。ラージフォーマットのGFXは夕暮れの諧調をとても綺麗に表現してくれます。
ジャンヌ・ダルクの生家があることで有名なオルレアンにあるサン・クロワ大聖堂内部です。手持ち撮影ですが手ぶれ補正の恩恵で1/3秒のシャッター速度でもブレなく撮影することができました。
まとめ
久しぶりの海外での撮影でした。ヨーロッパは徐々に以前の活気を取り戻しつつあり、ようやく海外旅行に行けるようになった印象でした。円安や原油高の影響を受け以前よりもコストがかかるようになったのも事実です。しかし海外でしか得られない充実感があるのも事実です。今回の撮影旅ではヨーロッパ5か国を撮影して回りました。後編ではスペイン・ポルトガル・ドイツを巡りますのでお楽しみに!
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師