富士フイルム GF20-35mmF4 R WR|GFX用超広角ズームレンズレビュー
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。今回は昨年9月に発売されたGFXシリーズ用の超広角ズームレンズである「GF20-35mmF4 R WR」をレビューします。広角好きの私としては待ちに待ったレンズです。世界遺産の撮影をライフワークとしている身として一番広角を効果的に使えるのはどこだろうと考えた結果、14年ぶりに屋久島に行くことにしましたので、その旅で撮影した作品とともに使い勝手を見ていこうと思います。
このレンズの特徴
GFレンズ史上最広角の20mm(フルサイズ換算16mm相当)の画角を実現しながら、35mm(フルサイズ換算28mm相当)の普段使いできる画角までカバーしています。ズーム全域でF4を保持しながらも、ラージフォーマットのレンズとしては比較的小型軽量(725g)に仕上がっています。
レンズ表面はナノGIコートを施すことにより高い逆光性能を維持し、広角レンズで特に気になるゴーストやフレアも出にくい仕様です。フィルター径が82mmというのもフィルターワークを多用する方には扱いやすいのではないでしょうか。もちろん防塵・防滴・-10℃の耐低温構造になっているので、雨天などの撮影にも安心して使うことができます。
GF23mmF4 R LM WRとの比較
GF20-35mmF4 R WR | GF23mmF4 R LM WR | |
焦点距離(35mm判換算) | 16mm~28mm相当 | 18mm相当 |
レンズ構成 | 10群14枚 | 12群15枚 |
最小絞り | F22 | F32 |
絞り羽枚数 | 9枚 | 9枚 |
最短撮影距離 | 0.35m | 0.38m |
最大撮影倍率 | 0.14倍(テレ端) | 0.09倍 |
最大径×長さ | Ø88.5mm×112.5mm | ø89.8mm×103.0mm |
フィルター径 | ø82mm | ø82mm |
質量 | 725g | 845g |
以前レビューしたGF23mmF4 R LM WRに比べて、広角側が3mmワイドになったにも関わらず重量は100g以上軽くなっています。最短撮影距離も若干ですがGF20-35mmF4 R WRのほうが短い仕様です。開放絞りが両レンズ共にF4ですが、最大絞りがGF23mmF4 R LM WRがF32なのに対してGF20-35mmF4 R WRはF22までとなっています。
画質
ラージフォーマット用のレンズなので大きさやAFスピードなどの点においては妥協が必要な部分もありますが、GFXユーザーであれば一番気になるのはやはり画質だと思います。GF23mmF4 R LM WRとの比較を交えながらテストしてみました。同じ23mm付近でそれぞれのレンズで撮影してみました。
中央部分を抜き出してGF23mmF4 R LM WRと解像度を比べてみます。
▼中央部比較
GF20-35mmF4 R WRの方がコントラストが高めの描写で、その分解像度も高いように見えます。単焦点レンズであるGF23mmF4 R LM WRよりも解像度が高く見えるという、予想していなかった結果となりました。画角の隅のほうでも比べてみましたが、やはり同じ結果でした。
▼周辺部比較
作例
このレンズを持って昨年12月に世界自然遺産でもある屋久島に出かけました。大阪から飛行機で飛べば1時間半ほどで到着してしまいますが、今回は船旅も楽しむことにしてみました。出向前に船上から撮影したものです。太陽が直接画角に入る場面でも、ゴーストやフレアも発生することなくクリアな描写を得ることができました。
福岡県の門司行きの船でしたが、途中3か所の橋の下を通過します。船は動いているので感度をISO12800まで上げて撮影しました。超高感度が普通に使えるのもラージフォーマットカメラの魅力ですね。他の2つの橋の通過時は・・・寝ていました(笑)
門司に早朝に到着し無料送迎バスで小倉へ。駅構内から垣間見える小倉の街を撮影しました。最広角域では超広角レンズ特有の周辺の歪みが発生しますが、少しズーミングすることによって自然な感じに仕上がります。
福岡から飛行機移動に切り替えました。屋久島行きはこのような小さなプロペラ機です。写真を撮ろうと前方窓際の席を確保したのですが、真横にプロペラが被ってしまいあまり写真は撮れませんでした。飛行機の座席指定の際には、飛行機の種類まで確認しておく必要がありますね。
「月に35日雨が降る」と言われるほど雨の多い屋久島で、滞在期間中の晴れ予報は到着日のみでした。空港があるのは島の東側なので急いでレンタカーを借りて島の西側に移動しました。日の入り時間ギリギリの到着だったのでまずは手持ちで一枚。ボディ内手ブレ補正のついたGFX50S IIはとっさの手持ち撮影でも役立ちます。
翌日からはあいにくの曇り空でしたが、屋久島の撮影には曇りや雨は逆に草木の色がしっかり出るので良い条件でもあります。アジア南東部の熱帯から亜熱帯地域に生息するガジュマルの木ですが、屋久島が日本では自生する最北端のようです。高さ20mにも及ぶ巨木を撮影するには超広角レンズは必須です。
人物を入れた撮影では、広角レンズでローアングルから撮影することにより小顔効果が得られます。森に迷い込んだイメージで撮影してみました。
屋久島は車を使うと3時間ほどで島を一周することができます。西部林道と呼ばれる島西部の約17kmの区間は手つかずの森林に加え、ヤクザルやヤクシカも多く生息する地域です。実は世界遺産の登録地域にもなっていますので、長時間のトレッキングをしなくても世界遺産を堪能できる場所でもあります。道幅が狭いので行かれる際には運転には十分にご注意くださいね。
半時計周りに島を一周すると、西部林道の終着点に「日本の滝百選」にも選ばれている大川の滝があります。雨の翌日など水量の多い時なら左右に広がったダイナミックな光景を見ることができます。流れを表現するためにNDフィルターを使いましたが、このGF20-35mmF4 R WRはいわゆる出目金レンズではないので、前面にフィルターの装着が可能です。
途中花が咲いている場所を見つけたので撮影。このようなアングルは広角レンズを使うことによって手前の被写体を強調し、奥行き感を出すことができます。
いよいよ島で一番古いと言われる縄文杉を目指してトレッキング開始です。シーズン中は登山口までは専用のシャトルバスに乗る必要があるのですが、冬季は車で直接アクセスが可能です。往復10時間以上の行程なので冬場は真っ暗なうちから歩き始めることになります。歩いている途中に撮影したい場所がたくさんありますが、時間が限られているので我慢しながら先に進みます。どうしても撮影したい場所があるときには極力短時間で済ませられるように高感度での手持ち撮影も多用しました。
フォトジェニックな場所で休憩をとるようにして、その時には三脚を取り出してじっくりと撮影します。ほとんど休憩になっていませんが(笑)
大木は超広角域で寄って撮影すると遠近感が強調され力強い木々の姿を表現することができます。広角レンズは目に見えるほぼすべてのものが画角に収まってしまう分、作品として仕上げるなら撮りたいものを明確に強調して見せる必要があります。
切り株のとある場所から見上げるとハート型に見えることで有名なウィルソン株です。豊臣秀吉によって京都のお寺造営のために伐採されたそうです。明暗差がとても激しく、森に霧がかかるタイミングを待って撮影しました。ラージフォーマットならではのダイナミックレンジの広さを活かした一枚です。
今回は妻と一緒だったので、残念ながら縄文杉まで行くのは諦めウィルソン株で引き返すことにしました。途中、シダの生い茂る中に赤い花が一輪咲いているのを見つけて寄って撮影しました。最短撮影距離が35cmなのでそれなりに近接撮影もできます。
もうすぐゴールです。望遠側はフルサイズ換算で28mm相当なので、スナップ的な撮影にもレンズ交換をすることなく使うことができます。
夜中に目覚めると星が見えたので、初日に夕日を撮影した東シナ海展望所に急いで移動しました。レンズのF値が暗いと思われるかもですが、その分感度を上げることができるので星撮りにも対応が可能です。残念ながら到着してすぐに雲がかかってしまいました。
翌日は白谷雲水峡を歩きました。こちらは縄文杉コースに比べると歩く距離は短いながら変化に富んだ景観を見ることができます。写真撮影には特におすすめのコースです。
苔むした岩がゴロゴロと転がっていて、その間を水が流れるルート内で一番のお気に入りポイントです。望遠側にズーミングすることで標準レンズで撮影したかのように歪みのない描写もできます。
某アニメの舞台に似ているとのことで話題の苔むす森です。アニメのフィギュアを置いて撮影する方の姿を見ました。面白いアイデアですね。
屋久島はとても雨が多い場所ですが、緑の色がしっかり出るので雨や曇りは撮影にはむしろ好条件です。これから観光シーズンの夏を迎えますが、年間を通して撮影できるのも屋久島の魅力ではないかと思います。
まとめ
単焦点レンズを凌ぐほどの描写力を持つGF20-35mmF4 R WRは、広角レンズを持っていない方はもちろん、すでにGF23mmF4 R LM WRを使っている方にも自信を持っておすすめできるレンズです。GFX50S IIのキットレンズでもあるGF35-70mmF4.5-5.6 WRをお持ちの場合には、焦点距離が被らないので20mm~70mmまでを無駄なく使うことできます。特に風景をメインで撮影する方にとっては必須のレンズになるのではないでしょうか。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師