蓮をマクロで!クニさんの季節の花レシピ
はじめに
夏の花の代表の一つといえば、蓮。仏像の台座のモチーフにもなっていて、神秘的な雰囲気が漂う花です。
広い蓮池一面に咲き誇る蓮の姿を想像する方も多いかと思います。
そんな姿を風景的に撮るのもいいのですが、ぜひ今年はマクロレンズでクローズアップ撮影にチャレンジしてみてください。
もしかするとマクロで撮影するイメージがあまりないかもしれませんが、蓮はマクロ撮影にも、とても魅力的な花なのです。
今回はマクロレンズでのいろいろな蓮の撮り方についてお話しします。
主役を見つけてクローズアップ
一面の蓮池に咲く蓮を見ると、いったいどこをどう撮ったらいいのか悩むかもしれませんね。
マクロ撮影の基本は、まず主役を見つけること。当たり前のことかもしれませんが、これがまず大事です。
では何を主役にすればいいか。
じっくり花を観察してみると、何かしら心に引っかかるものがないでしょうか。
「なんだかかわいいな」「好きな色だな」「面白い形だな」そんなふうに何かを感じたら、その部分に注目してクローズアップしてみてください。
あるいは、その花の特徴的な部分をポイントにするのもひとつの方法です。それは何も特別なものである必要はありません。
花びらや葉の形、飛び出したシベ、花についた雨の雫。そんな部分を主役にしてあげましょう。
この作品は蓮の花びらのカーブに焦点を当てました。
思い切って花びらに近づき、カーブの一部分だけを切り取っています。
絞りを開放にすることでピントを合わせた花びらのライン部分以外が大きくボケて、柔らかな描写になりました。
花の写真というと、花の姿が全体に写っていて、何の花かわかるように撮らないといけないものだと思っている方もいるかもしれません。
でもそんなことを考える必要はまったくありません。
気になった部分だけを思い切って、ちょっとやりすぎかな?と思うぐらい大胆に切り取りましょう。
慣れないうちはなかなか寄り切ることができず、「こんなに寄っていいのかな?」と不安になるかもしれませんが、大丈夫です。
寄って主役以外の要素をできる限り排除することで、何を撮りたかったのかが見た人により伝わりやすくなります。
こちらの作品は雄しべに注目しました。
元気いっぱいの雄しべが花びらの隙間から溢れんばかりに飛び出している、そんなイメージを思い浮かべながら撮影した一枚です。
溢れ出るような躍動感を演出するため、思い切って花に寄り、一部分だけを切り取っています。
これがもし花全体を写し込んでいたら、飛び出しそうな勢いは感じられなくなるでしょう。
前ボケで主役を引き立たせる
クローズアップ以外にも主役を引き立たせる方法があります。それはボケをうまく使うこと。
そのひとつが前ボケです。
前ボケとは、主役にしたい被写体の前に他の花や葉などを入れてボカすこと。
これにより主役以外のものがボケで隠され、主役がより引き立ちます。
花びらの形の面白さに注目し、そこだけに視線を集めるため手前にある葉を前ボケにした作品です。
前ボケを作る際に意識するのは、主役以外の部分をボケでできる限り埋め尽くすこと。
主役以外にはっきり見えているものがあると、そちらに視線が奪われて主役の印象が弱まってしまいます。
前ボケの状況は肉眼で見ることはできませんので、ファインダーを覗きながら撮影位置を前後左右に動いたり高さを変えたりして、より主役が活きるボケの入り方を探しましょう。
光の後ボケでキラキラ感を演出する
もうひとつのボケが後ボケです。主役の背景にやわらかなボケを入れることで、主役を引き立てる効果があります。
寄り添うような二つの蕾を、木漏れ日のボケを背景に撮影したものです。
光のボケに包まれて、生き生きとしたイメージが感じられる作品になりました。
木漏れ日を入れるには、背景に木の葉が密集している場所を選びます。
葉っぱの隙間から覗く白い光の部分が大きな円ボケになります。低い位置から少し見上げるようにして撮ることがコツです。
こちらは光の反射を利用した後ボケです。
晴れた日に水面に咲く蓮を上から見ると、水面に光が反射して白く光っていることに気づくでしょう。
そんな水面の輝きを背景にして撮れば、主役の花がキラキラ輝く光に包まれたようなイメージになります。
撮影する位置が少し変わるだけで光のボケの大きさが変わったり見えなくなったりしますので、ファインダーを覗きながらいろいろ動いてみて、もっともお気に入りと感じるポジションを探しましょう。
主役は蓮の葉ですが、少し遠い場所にあるため2倍のテレコンバーターを装着して焦点距離を伸ばしています。
脇役を後ボケに
背景に他の花などの脇役をボケとして入れることで、物語性を演出することもできます。
こちらの作品は小さな蕾の背景に花をボケとして写り込ませました。
蓮の花の形がわかるぐらいのボケにすることで、生まれたての小さな蓮の子供を遠くからお母さんが優しく見守っているような、そんな物語をイメージしてみました。
主役の蕾を小さく配置することで可愛らしさを表現し、また少し下から見上げるように撮ることで、背景の蕾の大きさを強調しています。
雨の日は雫を主役に
蓮のシーズンはまだまだ梅雨の真っ只中で雨降りの日も多い時期です。
雨の日は撮影に出かけるのも億劫になりがち。
ですが雨の日にしか撮れない風景がありますので、ぜひ雨対策を万全にして撮影にでかけましょう。思いきって出かけてみれば、きっと面白い発見があって撮影が楽しくなりますよ!
雨の日の撮影で真っ先に思い浮かぶのは、花についた水滴ですよね。
花びらの表面や葉の縁にぶらさがった雫はとてもフォトジェニックです。水滴らしさを出すには形が大事。できるだけ球形の雫を選びましょう。
大きなカーブを描いている蓮の葉の縁にぶらさがった雫に焦点を当ててみました。
雫らしいまん丸の形がわかるように真横の位置から狙っています。
さらに暗めの背景になるようにポジションを選んで雫の白い縁取りを際立たせ、雫のイメージを強調しました。
生きものたちをかわいく撮ろう
蓮池ではカエルやトンボなど、たくさんの生きものに出合います。そんな生きものたちを見つけたら、ぜひ撮影したいですね。
虫などの生きものを撮るときのポイントは、表情がわかるように撮ること。しっかりと目にピントを合わせ、ユーモラスな姿を捉えましょう。
こちらは蓮の葉に止まったトンボ。見ていると、顔をくるくる回したり手で顔を拭ったりと、いろんな仕草をしていました。
そんなトンボが「よっ!」という感じで片手を上げた瞬間を撮影したものです。動きが早いので一枚のシャッターで思い通りに撮るのは至難の業。動きを予想して連射することで撮影できた一枚です。
蓮の花の中からひょっこり現れたカエルくん。
落っこちてしまったのか、一所懸命這い上がって顔を出したところを捉えた一枚です。
こうした生きものは、慌てて大きな動きをしたり急に近づいたりすると、びっくりして逃げてしまいます。
驚かさないように「私は何も危害を加えませんよ~。安心してね~。」とアピールしながらゆっくり近づいて撮らせてもらいましょう。
おわりに
蓮は早朝に咲き、午後には閉じますので、撮りたいイメージのタイミングをうまく狙って撮影にいきましょう。とは言え、咲いた花だけでなくても蕾も魅力的なので、ぜひいろんな姿の蓮を撮影していただければと思います。ここに挙げた撮り方はほんの一例です。
いろいろな撮影方法にチャレンジしながらぜひ自分なりの撮り方を見つけましょう!
■写真家:くにまさ ひろし
1971年生まれ。大阪在住。身近にあるちょっとした幸せ「プチ・ハピ」をテーマに、マクロレンズで花や虫たちの小さな世界をふんわりやさしく描く。
各種写真教室では、マクロ撮影の面白さを楽しくわかりやすくお伝えすることを意識している。
・写真展 2020年、2022年「花色の息吹」(大阪・東京)、2021年「花の鼓動~Life~」(大阪)
・写真集「花色の息吹」(風景写真出版)
・日本風景写真家協会(JSPA)会員
・一般社団法人 日本写真講師協会認定インストラクター
・フォトマスターEX(総合)
・カメラのキタムラ フォトカルチャー倶楽部 講師
・富士フイルムアカデミーX 講師
・OM SYSTEMゼミ 講師
・クニさんの花マクロ写真塾 主宰