FUJIFILM X-M5で写真を楽しみ尽くす|名前はMでもサイズはS、可能性はL?

内田ユキオ
FUJIFILM X-M5で写真を楽しみ尽くす|名前はMでもサイズはS、可能性はL?

X-M5はX-M1の後継機なのか?

Xシリーズの新しいカメラの名前がX-M5だと聞いて、外観や機能を見る前に「えっ、X-M1の後継機?あれまだ続いていたんだ」と驚きました。

X-M1の登場は2013年のこと。Xシリーズに長く関わってきた特権のようなものなので、少しだけ思い出を書いておきます。初めて量販店でトークショーをやったのがこのX-M1で、最初のうちはあまり人が集まりませんでした。「ふーん、フジってカメラも作ってるんだ」と言われたこともあります。もうX100は大ヒットしていてそれなりに認知されていると思っていたので意外でした。ひとつの製品がヒットしても全国区になるのは難しいということですね。

X-M1が登場した背景に、X100やX-Pro1のようにこだわりが詰まったマニアックなカメラだけではファンが偏ってしまうという考えがあったのかもしれません。

懐かしのX-M1。当時の写真をそのまま。表面張力デザインも時代を感じるけれど、背景がオレンジってところが・・・。

個人的にXシリーズがデジタルカメラに与えた三つのインパクトがあったと思います。Xシリーズの魅力や個性と考えることもできます。

まずはデザイン。ネオ・クラシカルとかいろんな言い方をされますが、デジタルカメラだからといって先進的で無機質なデザインにするのではなく、「フィルムカメラの名残りを持ったクラシカルなデザインはやっぱりいいよね、アナログな操作感には懐かしさを伴い、使う喜びに繋がるのだ」と新旧のカメラファンから支持を得ました。

次がRAW現像からの開放。2010年代初め頃のカメラ雑誌の記事を見ると、特集のほとんどはRAW現像で写真の見栄えを良くする方法です。写真が上手くなる一番の近道はRAW現像のスキルを磨くことだという風潮さえありました。けれどもXシリーズはフィルム製造で得たノウハウと技術が注ぎ込まれれたフィルムシミュレーションを搭載。JPEG撮って出しを推奨していました。パソコンに向き合うよりも、次の出会いを求めて外に出よう!という感じがよかったです。

この二つは今回のX-M5でも魅力の柱になっています。

新世代へようこそ、という感じがして新鮮。

もうひとつ、Xシリーズが与えたインパクトでいちばん大きかったのはファインダーの復権だったと思います。もうデジタルカメラにファインダーっていらないんじゃないの?少なくとも入門機から中級機なら必要ないでしょ、という流れのなかにX100が登場しました。みんな揃って「私たちはやっぱりファインダーを覗きたいんだ、そこで驚きや感動に出会いたい」と喜んだわけです。

・・・なのにX-M1にはファインダーがありませんでした。よく似たモデルにX-Aシリーズがありますが、あちらはセンサーがX-Trans CMOSではありません。X-MシリーズというのはX-Trans CMOSを搭載しているけれどファインダーがない機種なのですね。

脇を締めて頭に押し付けるようにホールディングすべし、と育てられた古い世代なので、ファインダーがないカメラでタッチシャッターにすると簡単に手ブレします。
クラシックネガのトーンとばっちり合って、フィルムっぽい雰囲気になってそれはそれで悪くないですけれど、気をつけたいところ。
■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
■撮影環境:SS1/4秒 絞りF5.6 ISO3200
■フィルムシミュレーション:クラシックネガ

先に書いたように、ひとつのマニアックな機種がヒットしても全国的な知名度に繋がりませんし、ファン層が偏ってしまいます。もしも皆さんが知り合いから「写真をはじめてみたいのだけれど、おすすめのカメラはありますか?」と相談されたとします。ここを読んでくださっているからにはXシリーズのユーザーが多いと思うのですが、即答できますか?

X100系はかつては究極のエントリー機でしたけれど、レンズ一体型ですから撮れるものが限定されてしまうことと、今の価格を考えるとどうでしょう。X-T5までは必要ないかも、かといってX-T50でもそんなに値段が変わらないんだよな、もうちょっと小さくて軽いほうがいいだろうし・・・。フィルムで撮った経験はないだろうけれど、写真を撮る喜びはちゃんと感じられてカメラを扱う楽しさもあったほうがいいはず。思いつく機種があるでしょうか?

そんな人たちが少なくないことを考えればX-M5の存在価値が見えてきます。

センサーは第四世代、プロセッサーは第五世代。フィルムシミュレーションなどはフルで使えて、でもファイルサイズが小さく扱いやすい。ペンティアムに対するセレロンみたい。

このクラスのカメラは第一印象が大事

「若い頃はカメラ3台とレンズ5本であちこち駆け回ったけれど、もうこれ一台で気軽に写真を楽しみたい」とX-M5を買う人もいるかもしれません。でも実際には初めて手にする本格的なカメラになる可能性が高いわけです。ニュース記事で、メーカーが「エントリー機、入門機と安易に括って欲しくない」と語っていると見ました。世間で思われるエントリー機より実力が上だとしても、このカメラがエントリーになることは多いでしょう。

お父さんがXシリーズのユーザーでレンズは何本か持っていて、子どもが写真を始めたいというのでボディだけ買ってレンズは共有するなんてのは素敵ですね。これは安いカメラだからできないことがあるんだよ、という言い訳がないのがいいです。

知識や経験がない人にとって第一印象はとても大事。
箱がエコ仕様になっていて充電器どころかUSBケーブルさえ同梱されてないのは新鮮でした。持ったときに驚くほど軽いわけでもないですが、手触りに安っぽさを感じません。X-M1はXシリーズで初めてのプラスチックボディだったと記憶していて、表面張力デザインと称された緩やかな曲線と尖ったシェイプが美しかったものの、やはり持つ喜びの部分は犠牲になっていると感じました。X-M5にそれはないですね。

重量のバランスがよく小さくても持ちづらさはないですし、ダイヤルの感触もいい(Xシリーズで最高という声もあるらしい)です。このクラスでは、動いたことがしっかり感じられて誤操作が少なく、操作したときにちょっとした心地よさがあるのが理想だと思います。

これまでのXシリーズではX30に似ていると感じて、若いデザイナーのセンスが表れているのかも。シルバーの単焦点を組み合わせるのが個人的には好き。

個人的に残念だと思ったことも書いておきます。
Xシリーズは機種ごとにボタンの配置などがバラバラで、どれだけ慣れてもスムーズに扱えません。興味があったら歴代Xシリーズの再生ボタンの位置を見てみてください。

今回のX-M5もそう。併用しないだろうという前提で、常に理想の位置を追い求めているのだとしたらもっといい配置があったような気がします。プレビューボタンとAF切り替えだったら優先順位は前者のほうが高いのでは。
Xシリーズの操作系として確立させたいのなら、そろそろ決まったポジションができてもいいと感じます。

もうひとつ、Xシリーズの露出補正ダイヤルは刻印があってアナログな物理ダイヤルを採用しているため、電源オフにしてもリセットされません。これはこれでいいと思います。でもX-M5を使う層なら誤操作のリスクを避けるためにも電源オフでリセットされるほうがいいように思いますし、刻印のないダイヤルだったらそれが可能だったのでは。

この二つを例に、初心者が使うことになるだろうことを考えて、カメラが何をサポートしてあげられるのかという目線で、操作系が練られていると良かった気がします。

私はVlog撮影しないため、その界隈でどんな操作系が扱いやすいのかわかりません。動画を多めに撮って、手が少し小さくて、スマートフォンに慣れ切った人なら扱いやすいのかも。ですので、あくまで上記は個人的な感想です。

右肩部分。デザインはすっきりしていて大きな手でも持ちづらさはない。
Qボタンが小さく奥まっていて押しづらいのと、本文にも書いたように露出補正は電源オフでリセットされるほうが扱いやすいかも。

名前はMだけれどサイズはSで写真はL

メイン機としてX-Pro3を今でも愛用していて、第五世代のX100VIを併用していて、それでX-M5を使ってみて、ガチで作品を撮ろうと考えたときに「劣っていて物足りない」と感じる部分がないのは素晴らしいです。撮った写真を見て「ああ、やっぱり入門機だな、それなりなのは否めない」と思わないはず。

40MP時代にあっても24MPは物足りない画質ではなく十分すぎるくらい。X100VIに搭載されている、つまりはXシリーズで最新のフィルムシミュレーションは全て選べて、カスタム設定の幅にも制限はありません。

初期の頃のレンズで今でも好きなものがあるのですが、X-M5のセンサーは第四世代なので余裕を持って組み合わせることができます。もちろん第五世代に対応したレンズを使えば、その解像度の高さを実感できるポテンシャルもあります。
後半で実写してみましたから、そちらを見てください。

キットになっているズームを久しぶりに使いました。役不足じゃないかなと思ったのですが、周辺まで均質な描写をしていて画質に関して物足りない感じはないです。同じシーンをスマートフォンでも撮って見ましたが、繊細な色の違いなどでは圧倒的な違いがあります。
■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
■撮影環境:SS1/140秒 絞りF5.6 ISO250
■フィルムシミュレーション:クラシッククローム

ずっとX30かX70の後継機を待ち望んでいるのですが、もしかしたらこれがそうなのかもと思いました。小型軽量が特徴だったX100も今では521g。X-M5にXF27mmF2.8 R WRを付ければ355+84=439g。X70は410gでした。

XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZがキットになっていて、この上のレンズが使えるポテンシャルがあるのに勿体ない気もするな・・・と思ったのですが、X-M5にはボディ内手ブレ補正がありません。そこを補えて軽さを犠牲にせずに値段も安く動画でも扱いやすいズームが選ばれたのでしょう。

個人的には単焦点で使うほうが軽快で魅力を感じやすいと思ったので、動画は難しくなるかもしれませんが軽くて小さいXF27mmF2.8 R WR、近接での高画質など一眼ミラーレスならではでスマートフォンにはない世界を体験できるXF30mmF2.8 R LM WR Macro、現代の広角レンズのスタンダードであるXF16mmF2.8 R WR、Vlogにも最適なXF8mmF3.5 R WRなど相性が良いように感じます。

普段は使わないのでWBオートを試してみました。雰囲気重視など進化は感じますが、もうちょっと空の色に主張が欲しくなります。意図があって撮るものだとマニュアルにしたほうがいいですね。
本格的なカメラは初めてという人には、まずは露出補正とホワイトバランスを覚えて欲しいです。カメラ任せにしないことで劇的に写真が変わって楽しいので。
■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
■撮影環境:SS1/480秒 絞りF5.6 ISO160
■フィルムシミュレーション:ベルビア
ということで、ズームレンズならではのぎりぎりのフレーミングと露出補正だけで絵を作ってみました。フィルムシミュレーションが隠し味になってくれたと思います。
■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
■撮影環境:SS1/280秒 絞りF5.6 ISO160
■フィルムシミュレーション:クラシッククローム

実写しながら思ったこと

シンメトリーに配置されたダイヤルはどこかバルナック・ライカを彷彿とさせるという声を聞いたので、ヴィンテージのライカのレンズを付けてみました。デザインのフィット感は悪くないですね。なるほどマウントアダプターで遊ぶのにいいかもしれません。第五世代のセンサーほどレンズ性能には厳しくなくて、でも違いを楽しむには十分すぎるポテンシャルがあります。

ヴィンテージのレンズを組み合わせるとレトロ感が際立つ。FUJIFILMのロゴがなければ、マイナーなクラシックカメラに見えるかも。

絞りとか露出とかそういう面倒なことはさておき、フィルムシミュレーションを使いこなしてガンガン撮りたいという人がいるとします。スマートフォンから写真を始めていたらおかしなことでもありません。

フィルムシミュレーションはフィルターやエフェクトほど劇的に効果が変わっていくわけではないですが、それゆえに自分だけのこだわりがある感じがして楽しいですよね。何を撮っても失敗しないスマートフォンから本格的なカメラに持ち替えるなら、失敗することもあるけれど繊細な加減ができる難しさと楽しさは欠かせません。ボタンひとつでなんでも撮れる一眼ミラーレスというのだと、スマートフォンとの差が感じづらいから。フルオートを充実させるよりも操作できるところを増やしたのは賛成です。

ACROSでモノクロの美しい階調を満喫。
■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/180秒 絞りF2.4 ISO1250
■フィルムシミュレーション:ACROS
ACROS+Rで身近なものがモノクロになるとアートみたいになるという表現の楽しさを満喫。カスタムの世界に踏み入れる前に、この違いだけでもかなり楽しめます。
■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/180秒 絞りF5.6 ISO800
■フィルムシミュレーション:ACROS+R

フィルムシミュレーションダイヤルについては、個人的に使用頻度の高いもの(例えばPRO Neg.)が最初の割り当てにないのと、場合によってはカチャカチャ回すほうが手間と時間がかかってしまうことがあるのと、夜ではほとんど見えないというデメリットもあります。

なので「ショートカットのボタンを押すと画面が分割されてタッチで選べる」といった機能があるといいと思いました。居酒屋や回転寿司のメニューを選ぶみたいになりますが、パトローネのデザインが並び、どんな写真と相性がいいか見られたら楽しそうです。フィルムを経験していない人たちなら、名前で覚えるのではなくアイコンで覚えていくほうが馴染みやすく早いと思います。スマートフォンのアプリを選ぶとき名前なんて見ないですよね。

■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/40秒 絞りF3.5 ISO3200
■フィルムシミュレーション:クラシックネガ
どれか単焦点を組み合わせてみたくてXF8mmを用意してもらいました。超広角は傾けすぎると下品になるので抑え気味に撮るのがセオリーですが、かっこよければいいじゃないと言わんばかりに撮りました。すごく楽しかった(←大事なこと)です。
■撮影機材:富士フイルム X-M5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/4秒 絞りF22 ISO3200
■フィルムシミュレーション:ベルビア

わざわざ用意してもらってXF8mmF3.5 R WRでも撮りました。ボディ内手ブレ補正がないのに夜景で絞り込んで使うとき不安がありましたけれど、最高に楽しかったです。発売前に使って以来でしたが欲しくなるくらい良いレンズでした。X-T5で使ったときは傑作を撮らねばという変なプレッシャーがあり、「超広角で見る世界って楽しい〜!」という気持ちになりづらかったですがX-M5だと全力で楽しめます。

あの角を曲がったところも撮ってみよう、この先に橋があったはずだからそこもどう見えるか試したい・・・気づいたら駅を三つ分くらい歩いていて、これがカメラの喜びだよ!と実感しました。軽くて持っていることも負担になりません。これこそがX-M5のいちばんの魅力でしょう。

小雨が降ってきて、しばらくは防塵防滴じゃないこと忘れていて慌ててタオルをかけましたけれど・・・。オチがあってステップアップの道筋がはっきり見えているところもいいです。

X-M5のM、服のサイズなどでも馴染みがあるMの語源はMediumです。皆さんがメディアと呼んでいるものと同じですね。「あいだにあるモノ」という意味があって、撮影者と被写体のあいだで世界の素晴らしさを見つめるカメラになったら最高です。

クラシカルなムードでX-M5のポートレートを。
ダイヤルが多く角の立ったデザインはレトロ感が強いものの、「離れて見たらフィルムカメラかと思った」というムードは希薄。

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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