富士フイルム XF16-55mmF2.8 R LM WR II レビュー|小型軽量に生まれ変わった新世代レッドバッジズーム
世間話のように前機種を振り返る~レッドバッジについて
どれくらい浸透しているかわかりませんが、富士フイルムの交換レンズには最上位グレードとしてレッドバッジと呼ばれるラインがあります。鏡胴のマウント側のところに赤いバッジが付いているのが外観的な特徴。そこを強調するため久しぶりにパートカラーを使ってみました。
最上位グレードのレンズはメーカーによって違いがあり、鏡胴に目立つ色の線が入っていたり、とくべつな名前が付けられたり、いろいろです。ずっと不思議だったのですが定義がはっきりあるものは存在しないはず。解像力が何本以上ある、特殊レンズを何枚以上は使っている、そういう条件が明示されていません。松葉ガニにタグが付くためには大きさ以外に、中身がぎっしり詰まっていて、見栄えが良くて・・・といった数字では表せない条件があるそうで、レンズもそれに似ていますね。
そのレッドバッジの最初のラインナップが、今回リニューアルされたXF16-55mmF2.8 R LM WRでした。
進化に求めるものと予想された姿
バイアスがかかってしまわないように実写の前にメーカーのリリースを読まないことにしているので、XF16-55mmF2.8 R LM WRがII型になると聞いて想像していたレンズの姿がありました。
まずは今回のリニューアルの一番の目的であるはずの「これからの10年をフラッグシップとして戦える」解像力を持っていること。
I型は2015年の発売で、当時のフラッグシップはX-T1でしたから16MP。いまの第五世代は40MP。X-T5で撮っても「もうダメだ、ぜんぜん解像できてない」と失望することはないですし、それどころかやっぱりいいなと思います。破綻を見つけるのは困難ですが、そこは引き上げているはず。
解像力にばかり目が行きがちですが、最近のレンズの特徴として色収差が皆無と言っていいほど抑えられているので、濁りのないクリアな写りをするのでは。
となると23mmF1.4や56mmF1.2がII型になったときのように、太くて重いレンズになることが予想されました。
防塵防滴とリニアモーターはすでに搭載されていたので、興味はOIS(手ブレ補正)がどうなるか。 I型が登場したときにはボディ内手ブレ補正を持ったカメラがなかったため、X-H1が発売されたとき「これでXF16-55mmF2.8 R LM WRが快適に使える」と喜んだ人も多くいました。
レンズのためにボディを買い替えたくなるってすごいことですよね。それだけの魅力があったということです。「ズームレンズの割に写りがいい」ではなく「焦点距離域によっては単焦点と比較してもこちらが好き」という人がいるほど。
でも先に発売されたXF16-50mmF2.8-4.8 R LM WRのように、手ブレはボディで補正して、レンズは小さく軽いことを優先するのも最近の流れ。
先に書いたように写りに関しては定評あるレンズでしたが、大きく重いのは誰もが指摘するウィークポイントなので、解像力を引き上げながら小型軽量に挑むことになるのでしょうが、どれくらいまで実現できるのか・・・
というのが事前の予想でした。
同時に発表されたXF500mmF5.6 R LM OIS WRと一緒に送られてきたとき、やけに箱が小さく軽いので「あれ?別々に届くのかな」と思って開けたら二本のレンズが入っていて驚きました。あっち(500mm)もすごいけれど、こっちは先代と比較して別の姿になっています。RIZAPのCMを見ているよう。
これで写りも良くなってるの?そんなにうまい話ないでしょう、と懐疑的な気持ちで実写へ。
数字で見比べる進化
レンズにプリントされた文字を見比べてみて、Nano-GIだったのがSUPER EBCになっている!と騒ぎ立てたいところですがトレンドの変化によるものでしょうから無視。77mmだったフィルター径が72mmになっています。こっちは地味ながら無視できないポイント。
直径83.3mm→78.3mm、全長106mm→95mm、重量655g→410gとかなりのシェイプアップを果たしていて、体積ではおよそ38%も小型化。実際に持ったときは数字以上に違いを感じて半分くらいになった感じがします。手の上に乗せて持つサイズだったのが握って包み込めるようになってホールディングが落ち着くからでしょう。
X-T5が557g(メモリーカード、バッテリー込み)ですから合わせても1kg未満。APS-Cのメリットを十分過ぎるくらい体感できます。
▼レンズ前面のプリントに見る新旧の違い
近接も強くなっていて、ワイドからテレまで0.3mまで寄れます。撮影倍率は0.21倍。ズームレンズはワイド側だけ寄れて最短撮影距離のスペックを上げていることもありますが、55mmで0.3mまで寄れればちょっとしたマクロふうの撮影も可能。
この性能差は大きさがわかるものを撮り比べたほうがわかりやすいと思ったので、X-Pro3のセンサーを撮ってみました。
寄れるということはボケも大きくなるため、センサーのフチにだけピントが合っていてマウント部分がボケているのがわかります。I型だとそこまで寄れません。よく見るとマウントにある年輪のようなパターンの解像にも差があるようです。どっちもズームレンズに見えないくらいリッチな画像ですけれど。
▼従来レンズで近接撮影
▼XF16-55mmF2.8 R LM WR IIで近接撮影
絞りリングのクリックをフリーにできる機能も搭載されました。動画を配慮したものだと思われます。X-T5とX-H2と両方で使ってみましたけれど、個人的には少しでも軽くなるX-T5のほうがバランスがいいような気がしました。大きなグリップがなくても持ちやすくなったと思います。
小型化で失ったものを探してみる
非球面レンズ4枚、スーパーEDレンズ1枚、EDレンズ3枚を含む11群16枚という贅沢なレンズ構成。非球面レンズを4枚も使ったらボケが硬くて汚いのでは、という先入観で試してみましたが悪影響を感じません。
色収差が抑えられていて濁りがないことと、メーカーのアナウンスに「円ボケで生じる輪帯模様の低減」とあるので、ボケは軟らかさを残しながらもクリアになっているように感じます。絞り羽根の枚数も9枚から11枚に。
解像力は今回のリニューアルのテーマのはずで、中央部がいいのは当然として、周辺部まで落ちるところが見つかりません。I型の描写性能も凄かったですが、余裕で上回っているのは見事です。写真を見比べたときに、キリッと澄んでいて、でも嫌な鋭さや硬さがありません。
I型の評判がいいのは、しっかり解像しているのにしっとりしていて、軟らかさを感じるような密度の高い描写が好まれたからでしょう。その印象は継承されています。
ここまでの小型化が実現できた背景には、製造技術の向上があるそう。机上の空論とまでは言いませんが、すごいレンズを設計したとして、あまりにシビアだと製品にできないわけですね。どれだけ美しく高解像の写真を撮っても、印刷技術が追いつかないことでもどかしい思いをしていた写真家のよう。
レンズは画素数のようなわかりやすい数字がなく、非球面レンズやリニアモーターなども古くからある技術なので、革命的な性能の向上を感じづらいところがあります。それでもI型とII型を並べたとき、9年の時間とその間に積み上げてきたものについて考えずにいられません。
こんな出会いがあるなら単焦点を持ってくればよかったと思わせない画質と、どこにでも持っていける、いつでも持っていられるサイズ。レッドバッジの新世代が始まっていくのだと心が躍ります。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist