心がときめいたカメラ「富士フイルム X-H1」| 佐々木啓太
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はじめに
今回紹介するのは富士フイルムのX-H1です。発売日は2018年3月で、いまでは後継機のX-H2(高画素タイプ)とX-H2S(速射タイプ)の2種類がある、確固たる地位を築いているフラッグシップカメラの元祖です。富士フイルムさんのXシリーズにはこの他にも様々なバリエーションがありますが、このX-H1はXシリーズ初のボディー内手ブレ補正機能が入ったカメラでした。補正量も最大5.5段といまでも十分通用する仕様です(カメラのファームウエアVer.2.0以上では、ボディ内手ブレ補正とレンズ内手ブレ補正の協調制御を実現しています)。
もう一つ印象的だったのは、動画に最適な新フィルムシミュレーション「ETERNA(エテルナ)」が初めて搭載されたことです。X-H1の特徴はこのフィルムシミュレーションに代表されるように動画撮影への対応でしょう。その他のXシリーズと違って、ボディー上面に大きめのサブモニターがあるのも少し違っています。背面の液晶モニターも3方向チルトでカメラが横位置だけでなく縦位置でも液晶モニターをチルトさせることができます。
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出会いは縁から
私が富士フイルムさんとのご縁をいただいたのは実は師匠がらみでした。プロフィールなどで書くことはないですが、これでもちょっと有名な方のアシスタントを4年ほどしていました。そのアシスタント時代にお世話になっていた富士フイルムの方に声をかけていただいたのがきっかけで、X-E3というカメラを使い始めて「次にX-H1を触らせていただきながら本格的な撮影ができるかも」そんなことを思ったのを覚えています。
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■撮影条件:シャッタースピード1/125秒 絞りF2.0 露出補正+2.0 ISO感度 AUTO(ISO 400) WB AUTO フィルムシミュレーション ETERNA
師匠が好きだった桜をETERNAで撮影しました。トーンが優しくなかなか相性が良いと感じました。
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■撮影条件:シャッタースピード1/600秒 絞りF2.0 露出補正+1.0 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽光 フィルムシミュレーション ACEOS+Ye
師匠は撮らなかったモノクロの桜。師匠は基本的には風景をカラーで撮影するイメージが強い人でしたが、昔はモノクロでドキュメンタリーを撮っていたので、モノクロのことも教えてもらいました。
桜はいつもワクワクする被写体です。師匠の元にいたときも桜の取材は宝探しのような感じでした。そんなことを思い出しながら都内の桜を撮るときもX-H1は活躍してくれました。師匠が大好きだったVelviaをあえて外しているのはへそ曲がりなところです。
お気に入りのシャッターボタン
このカメラで一番気に入ったのはシャッターボタンでした。フェザータッチで切れるシャッターボタンの感覚が私にはあっていました。はじめのうちはあまりにも繊細なので、シャッターボタンの半押しと全押しの違いをつかむのに苦労しましたが、慣れれば、指の腹にかける力具合だけでシャッターボタンの半押しと全押しを分けることができます。それまで使っていたX-E3はしっかりシャッターを押す、という感覚がありました。
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メインはXF90mmF2 R LM WR
このカメラを使うようになったもう一つのポイントはXF90mmF2 R LM WRとの相性です。この組み合わせは、レンズの重さとボディーの重さやハンドリングのバランスが良く手に馴染みます。XF90mmF2 R LM WRはそこまで大きなレンズではないですが、その描写はとても繊細でお気に入りのレンズです。
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■撮影条件:シャッタースピード1/420秒 絞りF2.0 露出補正-2.0 ISO感度 AUTO(ISO 400) WB 2520K フィルムシミュレーション PRO Neg. Hi
山の中腹で見つけた蜘蛛の巣にもやの水滴がついていました。カメラとレンズのバランスが良いので微妙なアングルが探しやすいのもポイントです。カメラ内RAW現像で色みをコントロールして仕上げています。
出会いを楽しむカメラ
使い始めると旅気分で出掛けるときのお供になっていることが多かったように思います。旅といってもちょっとした山登りや渓流に日帰りか一泊程度です。トップや上の蜘蛛の巣の写真も御岳山に登ったときのものです。このときは10月の雨のあとで少しもやがでるような気象条件でしたが、防塵・防滴・耐体温(-10℃)仕様のカメラなので安心して撮影を続けていました。
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■撮影条件:シャッタースピード1/480秒 絞りF2.8 露出補正 -2.0 ISO感度 AUTO(ISO 400) WB 2520K フィルムシミュレーション PRO Neg. Hi
木々の間をもやがゆったり流れるように動いていました。あっという間になくなってしまう条件なので三脚撮影より手持ち撮影の機動力を活かす方があっていました(カメラ内RAW現像仕上げ)。
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■撮影条件:シャッタースピード1/600秒 絞りF2.8 露出補正 -1.7 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション PRO Neg. Hi
新緑の鳩ノ巣渓谷に出かけたときの写真です。せっかくの渓谷はこのレンズの画角ではそれほど面白く撮れなかった記憶があります。それでもこの緑の色の美しさに出会えたので満足でした。このカメラとレンズの組み合わせはそんな緑の美しさを繊細に表現してくれます。
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■撮影条件:シャッタースピード1/8500秒 絞りF3.6 露出補正-2.3 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション PRO Neg. Hi
あまり欲張らないのが私の基本的な撮影スタイルですが、こんな雲が程よく迎えてくれることがあります。絞り優先で出来るだけ絞りを開け気味にして使うことが多いシステムですが、さすがに雲の撮影では絞りも少し絞り込むことになります。シャッターはメカシャッターと電子シャッターをシームレスで使う設定にしています。
シャッターの設定 MENU/カメラマーク/シャッター方式/M+E
御岳山に登るときはいつも同じ登山道を使います。慣れている登山道を使うと安心して撮影ができます。鳩ノ巣渓谷は足場が危ないところがあるのでいつも以上にゆっくり歩くようにしています。そんな感じで三脚は持って行かないというのも基本です。どちらもいつも同じコースで楽しんでいますが、季節や気象条件で出会いがあります。このカメラを使っているときはいつも以上に出会いに恵まれるように思います。
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■撮影条件:シャッタースピード1/1500秒 絞りF4.0 露出補正-2.0 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション PRO Neg. Hi
晩秋の箱根で見つけた光です。三脚を使わないもう一つの理由はこの光を追いかけているからです。特に森の中の木漏れ日は一瞬で変わってしまうので、三脚を構えるより手持ちの方が一番良い条件を追いかけやすいと考えています。
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■撮影条件:シャッタースピード1/280秒 絞りF4.0 露出補正-2.0 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション PRO Neg. Hi
先の方で待ってくれていたように大きな木々に囲まれた若い木が輝いていました。そこに近づくより離れたところからからこの場所の雰囲気と一緒にまとめたいと考えて、少し後ろに下がって撮影しました。
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■撮影条件:シャッタースピード1/2000秒 絞りF2.0 露出補正-2.3 ISO感度 AUTO(ISO 800) WB 太陽 フィルムシミュレーション PRO Neg. Hi
この日は水量が少なくちょっと残念に感じましたが、しぶきの感じをだすために高速シャッターを使っています。こんな暗い条件でも画質を気にせず高速シャッターが使えるときはデジタルカメラの進化の恩恵を感じます。
箱根は初めてだったので気になる方へ自由に歩いたのを覚えています。そんなときに意識しているのは光です。基本的には光に向かって歩くようなコースを選ぶようにしていますが、そんな光に導かれながら歩いていると出会いも多くなります。
光を捉えるときに大切にしているのは、光の次の動き予測しながら先回りすることです。X-H1は手ブレ補正機能やフェザータッチのシャッターボタン、しっかりとしたグリップがあり、とても安定して構えることができます。そして、その安定感のわりには小型・軽量なのでこのカメラを持って長時間動いても疲れづらい印象があります。
モノクロの旅
このところモノクロ撮影が見直されている?というよりモノクロ撮影の機能が充実したミラーレスカメラが増えてきたように感じています。富士フイルムさんのフィルムシミュレーションにはそんなモノクロに適したACROSがあります。旅に出かけたときにモノクロにしていると初めての場所でもちょっと懐かしく感じる、そんな出会いがあります。そんな感覚を大事にしたいので旅にレンズをフルセットで持っていくという野暮なことはせずに、大体単焦点レンズ1本だけにしています。そのレンズで撮れることに専念すると新たなアングルに出会うことがあります。それが実は懐かしく感じる風景になっていたりします。
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■撮影条件:シャッタースピード1/5000秒 絞り F2.8 露出補正-1.0 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
初めて電車で訪れた諏訪でした。まずは初めて降りた駅を1枚。どこから撮れば雰囲気がでるか考えながら歩くのも楽しい時間でした。
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■撮影条件:シャッタースピード1/7000秒 絞り F2.8 露出補正-1.0 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
諏訪といえば諏訪湖。というあまりにもステレオタイプすぎる動きですが、5月の暖かい陽気に誘われて歩いていました。背景のアルプスの雰囲気も程よく収まるのがこのレンズの画角の良さです。
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■撮影条件:シャッタースピード1/550秒 絞り F2.8 露出補正-3.3 ISO感度 AUTO(ISO 400) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
黒城とも呼ばれる国宝の松本城の内部です。中まで黒ではないですが、露出をかなりアンダーにして小さな窓から差し込む光を捉えるイメージにすると内部も黒い感じになります。
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■撮影条件:シャッタースピード1/3500秒 絞り F2.8 露出補正-1.3 ISO感度 AUTO(ISO 400) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
水が豊富な松本のイメージを捉えたいと感じながら狙った1枚です。水面の反射の美しさは豊富な水の美しさに繋がっています。
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■撮影条件:シャッタースピード1/125秒 絞り F2.8 露出補正-1.0 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
軽井沢での1枚です。賑やかな軽井沢ではなくしっとりした軽井沢。この日はそんなテーマで巡りました。
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■撮影条件:シャッタースピード1/125秒 絞り F2.8 露出補正-1.0 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
雲場池での1枚です。対岸で楽しそうにされている姿に思わずレンズが向きました。女性の顔が正面になっているのが気になりますが、別のカットの後ろ姿よりこちらの方が美しい立ち姿だったので、このカットを選びました。
見たままの美しさを捉える写真もあれば、自分のイメージを作る写真もあると思います。そんなイメージを作りやすいのもモノクロの利点です。そして、初めての風景に感じた懐かしさのような表現にもモノクロはあっています。そんな写真は1枚よりまとめた方が良いと考えています。今回紹介したモノクロの旅やカラーの風景は「Keita’s Book」という毎月作っていたフォトブックにまとめていました。
最後はTouitシリーズ
富士フイルムさんのXマウントシリーズには豊富な交換レンズがあります。それでも機会があれば、ZEISSのTouitシリーズを使ってください。このシリーズは超広角と標準と中望遠マクロの3本の単焦点レンズだけですが、その特徴は繊細さと深みのある描写です。
▼Touit 2.8/50M
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■撮影条件:シャッタースピード1/2900秒 絞り F2.8 露出補正-1.7 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
マクロレンズとしてより、中望遠レンズとして使うことが多いレンズです。街の中で気になるものを切りとるのに便利で、自然なボケ味の万能選手です。
▼Touit 2.8/12
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■撮影条件:シャッタースピード1/1400秒 絞り F5.6 露出補正-0.7 ISO感度 AUTO(ISO 200) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
このレンズの画角の広さが活きると思って、東所沢にできた商業施設を見に出かけました。雲が多く光の弱い条件でしたが質感をしっかり再現してくれました。
▼Touit 1.8/32
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■撮影条件:シャッタースピード1/52秒 絞り F1.8 露出補正-0.7 ISO感度 AUTO(ISO 250) WB 太陽 フィルムシミュレーション ACROS+Ye
大口径レンズというよりちょっと明るい標準レンズという感覚で使える大きさと重さのレンズです。夜の闇の深さの再現もよく、光の当たっている場所の程よい切れ味も良い雰囲気です。これはレンズの描写性能だけでなくX-H1の絵作りの良さもあります。
ちょっと語弊があるかもしれませんが、Touitシリーズは静止画がメインのレンズシリーズです。確かにミラーレスカメラでは動画もシームレスで撮れるのが魅力で、このX-H1もその動画撮影に対するアプローチを強めたカメラでした。それでも静止画を撮っていて安心するカメラです。そんなところもTouitシリーズと一緒に使ってもらいたいポイントです。
おわりに
富士フイルムさんの絵作りはフィルムで培われた膨大な研究成果がそのバックボーンにあると聞いたことがあります。そのカラーバランスの良さから師匠に禁じられた風景を撮り、一時期はこのシステムで本格的に風景撮影を始めようか。そんなことを考えるほど良くできたカメラでした。それでも使っているうちに結局はモノクロがメインになっていました。そのモノクロでも繊細な線と暗部の深みなどの魅力は満載です。
本文で紹介したフォトブック「Keita’s Book」
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■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」というフィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。