日常的な撮影シーンが広がる富士フイルム X-H2S レビュー
はじめに
2018年に発売された前モデルのX-H1から4年。X-Hシリーズファン待望のX-H2Sが誕生しました。Xシリーズ10周年という節目に登場した本機は、第5世代の画像処理エンジンとプロセッサーを搭載したXシリーズのフラッグシップモデルです。
X-H2Sを手に、日頃じっくりと撮影をする筆者が日常的な撮影シーンを探り、動体撮影も行ってみましたのでその感触をお伝えします。
X-H2Sのデザイン
高速性能を突き詰めたX-H2Sは、あらゆる瞬間も逃すことなく記録できるXシリーズ史上最高の性能を持ったカメラとして登場しました。モデル名X-H2Sには、スピードを意味する「S」の文字が付いています。
X-Hシリーズの象徴である深めのグリップは、筆者には大きすぎるくらいで、手の大きな男性でもしっかりとホールドできるよう配慮がなされています。望遠ズームレンズを装着しても安定してカメラを構えることが可能で、バッテリーグリップVG-XHを装備した際の重量の安定性も高められています。
グリップでホールディングを確保しながらも、ボディサイズは前モデルよりも一回り小型化を実現。バッテリーを横置きから縦置きにしたことで横幅もスリムになり、高さはISOダイヤル、シャッタースピードダイヤルをモードダイヤルに集約したことで低背化を図り、背面液晶モニターは3軸チルト式よりも板金が少ないバリアングル式とすることでボディの厚みを抑えるなど、様々な工夫が施されています。
モードダイヤルにはMENU画面「カスタムモード設定」から静止画・動画のいずれか、シーンに合わせて7つ登録することが可能で、Fn.ボタンへの機能割当てを合わせることで撮影者独自の直感的なカメラ操作を実現します。静止画からとっさに動画への切り替えもスムーズです。
プロスペックの周辺アクセサリーも充実
別売のバッテリーグリップVG-XHを装備することにより、大容量バッテリーNP-W235をさらに2つ装填することも可能で、高速連写撮影、長時間の動画撮影を行う際に役立ちます。バッテリーグリップには、横位置撮影時と変わらず快適に撮影できるよう、操作しやすい位置に各種ボタンが配置されています。
動画向け専用アクセサリーの冷却ファンFAN-001も用意されました。電子接点を介してボディから電源供給されるため、ケーブルレスで使うことができます。
この他にも通信機能をサポートするファイルトランスミッター「FT-XH」も発売予定とあり、これらの周辺アクセサリーを充実させることであらゆるシーンに対応する、まさにプロスペックな1台となります。
ディープラーニング技術のAF&連写性能
X-H2Sは従来のXシリーズよりも動体撮影に向けアルゴリズムを改良し、動く被写体への予測AF、小さい被写体の捕捉性能が大幅に改善されています。動物・鳥・車・バイク・自転車・飛行機・電車などをAIで被写体検出し、一度キャッチした被写体を追尾しながらピントを合わせ続けます。ディープラーニング技術でカメラに覚えさせて、「ここが目だよ」とはっきり分かるようにしてあるのだとか。
細やかに動き続けるわんちゃんたちを撮影させていただき、その感触をつかみました。今までは黒い体毛のペットたちは、コントラストが低く顔検出が難しかったのですが、きちんと顔検出をし、動体撮影に慣れていなくてもしっかりと追尾してくれます。
友人にジャンプしてもらいました。たった一度のジャンプでしたが高速連写でキャッチ。見事にとらえることができました。
フォーカスエリア+AFコンティニュアンスでピントをカメラ任せにして撮影が自在になるので、瞬間を撮り逃せないステージ、ウェディング、スクールのスナップカメラマンにも信頼を得られると感じます。
水族館で実写 動体撮影&被写体検出
さらに瞳の小さく、俊敏な動きを捉えてみたくなり水族館に出かけてきました。驚くのは、分厚い水槽越しに止まることのない、高速かつ微細に動く魚たちと目が合うことです。また、魚に対しても瞳AFと顔認識が働き追尾し続けます。これも驚きました。
被写体検出は「鳥」に設定しての撮影です。高速で回り続けるイワシの群れをキャッチしました。これには感動です!
水槽から離れた場所からもエイの顔を検出をしてくれました。
ペンギンとアイコンタクトを取れたかな? ニッコリと笑っているように見えますね。
普段動体を撮影する機会の少ない筆者ですが、追従性や、ゾーンAFの精度の高さ、コントラストが低い環境下でのAF精度など、今までのXシリーズでは実現できなかった飛躍的進歩を感じられ、あらゆる被写体も快適に撮影が楽しめると確信しました。
センサーとプロセッサーも第5世代へ刷新
X-Trans CMOSセンサー初の積層構造を採用した第5世代のデバイスは、画像処理エンジンに「X-Processor 5」を搭載。X-Processor 4と比べ約2倍の高速処理を実現。現行のX-Trans CMOS 4から4倍以上、初代比30倍以上の高速読み出しスピードを可能になったことで、ブラックアウトやローリング現象の発生を抑えています。
静止画では低感度時の解像度向上や高感度時のノイズ抑制を果たし、解像感の高さと画質の向上にも貢献。静物を撮影していると画面全体の立体感、細部にわたる鋭ささえ感じる精細な描写、その精細さやリアルな質感に目を見張ります。
X-T4では6.5段だったボディ内手ブレ補正も7.0段へとパワーアップ。三脚の使えない場所や、明るさが足りないと感じるようなシーンでもOISレンズを装着すれば手ブレ補正の協調制御ができ、OISがないレンズではしっかりとボディ内手ブレ補正が機能するので撮影シーンも広がります。
フィルムシミュレーション ノスタルジックネガ搭載
GFX100Sより搭載されたフィルムシミュレーション「ノスタルジックネガ(Nostalgic Neg.)」が、Xシリーズとして初搭載となりました。ノスタルジックネガが加わったことにより、フィルムシミュレーションは全19種となり、「どれを選んで使ったらいいのか?」と悩んでしまうくらいです。
ノスタルジックネガは「アメリカン ニューカラー」と言われた1960年代後半から1970年代初めにかけて登場したカラー・フィルムを使用して撮られた写真作品の雰囲気を醸し出します。この頃アメリカで使われていたフィルムだとすれば、コダック社のフィルムと察しますが、それを富士フイルムが再現をすることにも面白味を感じました。
ハイライト部を柔らかくアンバーに描写する一方で、シャドウ部はディテールを残したまま滑らかな色味を実現し、トーンの柔らかい叙情的な表現ができます。赤・黄・青といった原色の発色は彩度が高いのが特徴的です。
放課後の教室に射す夕陽や、真夏の午後の日差しが良く似合います。アメリカの乾いた空気や土埃の気配を感じるような仕上がりと言えば伝わるでしょうか。晴天の日中・順光での撮影に相応しい雰囲気を感じられます。
スナップの撮影時はあいにく雨の日が多かったのですが、それでもアンバーの色気とシャドー部のコントラストの柔らかさを感じられました。
全19種類のフィルムシミュレーションとともに、グレインエフェクト、カラークロームエフェクト、トーンカーブ補正等を加え、シーンに合わせた自分らしい表現を探る楽しみが増えたと言えるでしょう。
おわりに
〝絶対に撮りたい、逃したくない〟を叶えてくれるX-H2S。プロカメラマン・写真家、そしてユーザーの声が凝縮され、今までのXシリーズにないハイスペックな1台に仕上がっています。次世代の始まりを直感すると同時に、「まばたきの中で起こる一瞬、確実に捉える一枚の写真」を撮る、これからのニュースタンダードであるように感じました。
また、フィルムメーカーとしてのフィルムらしい表現の奥深さを楽しませてくれているように思います。X-H2Sの登場によって、これからのXシリーズもますます目が離せなくなってしまいそうです。
■撮影協力
モデル:sayu(@12_sayu_10)
わんちゃん:キャビア君、タルト君
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。