富士フイルムX-Pro3開封レビュー|“写真を撮る喜び”を感じるカメラ
はじめに
2019年10月に富士フイルムから、新しいミラーレスカメラX-Pro3が発表されました。前モデルのX-Pro2が発表されたのが、2016年のため3年ぶりに発売される後継機となるのですが、あまりにも濃すぎる特徴が発表前から噂に上がり、とても話題になりました。
初めてその噂を知った時は、「え?本当にこんな感じのカメラが発売されるの?」と思った方も多いのではないでしょうか?私もその一人でしたが、富士フイルムから公式情報がリリースされてその噂が真実だと知った時は驚きました。
X-Proシリーズはレンジファインダーを採用しているからか、心のどこかに“写真を撮ること”に特化しているイメージがあり、もちろんX-Pro3に対しても同様の印象を抱いています。
そんなX-Pro3につけられたキャッチコピーは、“PURE PHOTOGRAPHY”で、本機種で写真を撮ることの楽しみを味わってほしいという願いが感じられ、そのための仕掛けもたくさんあります。
今回はそんなX-Pro3の開封から実写まで、作例を交えてレビューしたいと思います。ぜひご覧ください。
X-Proシリーズの3代目!
X-Proシリーズといえば、レンジファインダールックな外観が特徴的なレンズ交換式ミラーレスカメラです。富士フイルムのレンズ交換式ミラーレスカメラには、ボディ内手ブレ補正が搭載されているX-H1や、高性能で扱いやすいことから大人気なX-Tシリーズ、簡単で扱いやすいX-Aシリーズと、様々なシリーズが展開されています。
これだけ多くのシリーズがある富士フイルムのミラーレスカメラですが、実はXシリーズ初となるレンズ交換式ミラーレスカメラは、2012年に発売されたX-Proシリーズの初代“X-Pro1”ということはご存知ですか?
X-Pro1がXマウント初のレンズ交換式カメラというのは、フイルムを作っているメーカーだけに“写真を撮る“ことへのこだわりを感じました。
X-Pro2との比較
2016年には後継機となるX-Pro2を発売し、外観部分ではジョイスティックや記録メディアのダブルスロットが採用され、“プロ仕様のカメラ”という感じが強まりました。
ソフトウェアの部分では、フィルムシミュレーションに新機能が搭載されました。それは一時販売中止になってしまったものの、滑らかな階調から人気で最近復活を遂げた白黒フイルムACROS(アクロス)です。さらに粒状感をコントロールする機能のグレインエフェクトが搭載されました。
X-Pro3には、もちろんACROSが搭載されていますし、X-Pro2では搭載されていないETERNA(エテルナ)が搭載されています。
エテルナとは、X-H1から搭載されたフィルムシミュレーションで、かつて映画用のフイルムとして実在したフイルムです。特徴はシネマ調の風合いで、色彩が薄目なもののダイナミックレンジを広く撮ることで、まるで映画のような色合いにするものです。
■撮影環境:F3.2 1/250 ISO320
■使用したフィルムシミュレーション:ETERNA
また、ジョイスティックや記録メディアのダブルスロットも引き継がれています。富士フイルムはJPEG発色の良さも人気の一つで、お好きな方も多いと思います。(私も好きです)
しかし、JPEGのみで撮影すると「さっきのシーンはASTIAじゃなくて、PRO neg.Hiの方が良かったな~」と考えることもあります。そんなときにダブルスロットがかなり役立ちます。
例えば、スロット1はRAWで撮影しておいてスロット2はJPEGのみで撮影。取り込むときは、スロット2でJPEGデータを読みだして、気になる画像はスロット1からRAW現像をする。といった分割をすればイメージに近い仕上がりになり、よりハイクオリティな作品作りも可能です。
X-Pro3では他にも新たに採用された、大きな特徴がまだまだあります。この後はその特徴にも触れながら開封します!
いざ開封!
それではお待ちかねの開封です!外箱はイメージカラーの一つでもある黒ベースに白文字で、FUJIFILMとX-Pro3のロゴが書かれています。
本体と付属品を紹介
早速開封して、全てを取り出すとこんな感じです。付属品は比較的少なく、必要最低限のものが同梱されている印象です。
バッテリー
バッテリーはNP-W126Sを採用しています。このバッテリーはX-Pro、X-Tシリーズにも対応しているバッテリーなので、既に予備バッテリーとしてお持ちの方は買い替えることなく使用できるのも嬉しいですよね!
一つ気になったのは、専用のバッテリーチャージャーが無いことです。また、USB-Cケーブルは付属しているのですが、コンセント部分のACアダプターは同梱されていないのも少し気になります。しかし、スマートフォンに付属しているようなものでも充電可能なので、専用に買い足す必要はないかもしれません。
また、USBケーブルなのでACアダプターを使用しなくても、モバイルバッテリーを使用しても充電できます。これなら外出先でコンセントが無いシーンでも充電できるので助かりますよね。
ストラップ
ストラップはX-T3と同様、レザーのストラップが付属しています。ストラップにはFUJIFILMの文字があるのですが、こちらはプリントされたものではなく空押し(デボス)加工のようなものが施されており、長期使用してもロゴが消えてしまう心配がなさそうです。
むしろ、レザーを使用しているだけに使えば使うほど馴染み、革製品ならではの良い味が出ることでしょう。長く付き合うことで生まれる味はまさに、“自分の物”という感じがするのですが、これが嬉しいのは私だけでしょうか?
また、最近のカメラでは最初からついていることが多いストラップリングも、X-Pro3では開封時点ではついておらず、自分で取り付けます。
今回初めて取り付ける方もいらっしゃるかと思いますが、ストラップリング取り付け補助具を使用すれば爪を痛める心配も少なく、簡単に取り付けることができます。
“自分で取り付ける”ということに対して手間なように感じる方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、付けている間は道具の組み立てやメンテナンスをしているような感覚でした。
この時は早く使いたくなる気持ちを抑えながら取り付けていました笑
お待たせしました!ボディです!
ボディの正面は前モデルのX-Pro2と大きく変わっておらず、これまでX-Pro2を使用していた方も違和感を覚えないような造りになっています。
グリップの横にあるレバーは、ファインダーの見え方を切り替えるレバーですが、ファインダーの造りが面白いのもX-Proシリーズの大きな特徴の一つです。
というのもX-Proシリーズのファインダーは、アドバンスドハイブリッドビューファインダーというもので、光学ファインダー(OVF)と電子ビューファインダー(EVF)を切り替えることができます。
OVFの右下にEVFの小窓を表示しているエレクトロニックレンジファインダー(ERF)は、OVFならではのクリアで抜けの良い部分と、撮影者にとってありがたい露出やホワイトバランス、MF時のピント位置など、情報を教えてくれるEVFの良さを融合させたようなファインダーです。
実際に使用した例を挙げると、日中はOVFのみを使用して、暗所や太陽を直接入れる場合はEVF、逆光時のポートレートやMF時など確認がしづらいシーンでもOVFを使用したい場合はERFを使用するなど、光の向きや質感によってファインダーを使い分けて撮影を楽しむことができました。
話題になった背面モニター
やはり気になるのは、噂にもなった「背面モニターが無い」ことですが、外観を見ると確かに最近のミラーレスカメラに搭載されているような3型クラスのモニターはありません。
というのも、上の写真で写っている小さいモニターは1.28型で、このモニターはメインモニターではなくサブモニターです。
よく見てみると「PROVIA」の文字が入っていることが分かりますが、このモニターには現在選択しているフィルムシミュレーションや撮影設定を表示が可能です。
表示モードでクラシックモードを選択すれば、かつてフイルムのパッケージを切って差し込んでいたフイルムカメラのような見た目で表示できます。標準モードでは、フイルムのパッケージ感はなく撮影情報(F値やシャッタースピード、ISO感度など)のみを表示することも可能です。
どちらも共通して、メモリ液晶を採用しているので電源をオフにしてもずっと表示することができます。
背面モニターは下方向180度チルト式モニター
メニュー画面や撮影した写真をモニターで、確認するために使用するモニターは、サブモニターの裏側にあります。つまり普段はボディ側に格納されている状態になっているため、それらを確認するためには下へチルトする必要があります。
下方向へは180度チルトできるのですが、下90度のところで止めることも可能です。そのためローアングルでの撮影や、アイレベルよりも少し低い位置からの撮影でも、ファインダーを覗くために屈む必要はありません。
アイレベルよりも少し位置からの撮影は、ポートレートの際にカメラを構えることによる威圧感を減らしたいときや、より自然な表情を引き出したいときに便利だと思いました。
これは富士フイルムが「ファインダーを覗いてね」と言わんばかりのギミックですが、使い勝手の好みは分かれると思います。ちなみに私は初めて見た時と、使う前は「使い勝手はどうだろう」という気持ちを抱いていましたが、使ってみたら意外に使い勝手が良かったです。
もし一つ思うことがあるとすれば、X-T3やX-H1のように縦方向も動けば・・・というところです。しかし、ファインダーを使用することにこだわった機種なので、不要な考えかもしれませんね(笑)
クラシックネガが良い!
■撮影環境:F3.6 1/1000 ISO500
■使用フィルムシミュレーション:CLASSIC Neg.
富士フイルムと言えば、単焦点レンズを中心にボディが持つ描写性能を引き出すフジノンレンズも有名ですが、やはりフィルムシミュレーションの表現力や、描写の美しさも魅力の一つですよね。
X-Pro3には、新しく追加されたフィルムシミュレーションがあり、それはクラシックネガというものです。クラシックネガは、フイルムを作っている富士フイルムならではのもので、まるで本物のフイルムで撮影したかのような、味のある写真に仕上がるフィルムシミュレーションです。
このクラシックネガは、X-Pro3との相性が良いと感じており、お借りしている間はクラシックネガを多く使用して撮影していました。
クラシックネガが合う理由
■撮影環境:F2 1/125 ISO3200
■使用フィルムシミュレーション:CLASSIC Neg.
クラシックネガは、昔ながらのフイルムで撮影したかのような描写に仕上がるもので、レトロ調な仕上がりになります。
粒状感をコントロールする、グレインエフェクトとも相性が良く、調整することで粒状感をコントロールすることが可能です。少しだけ粒状感を入れて、より自然な描写にできるだけでなく、増感したときに現れる大きな粒状感も演出できるので、まるで本物のフイルムで撮影したかのように感じます。
■撮影環境:F4 1/25 ISO200
■使用フィルムシミュレーション:CLASSIC Neg.
少しアンダー気味から適正露出付近で撮影することで、最近海外でも人気になったティール&オレンジに近いような描写も、簡単に仕上げることも可能なので、動画で使用するのも面白いですよ。
■撮影環境:F2 1/125 ISO400
■使用フィルムシミュレーション:CLASSIC Neg.
フイルムはデジタルカメラの普及で、一時期落ち込んだものの、どこか懐かしいレトロ感が、温かみを感じることからSNSをきっかけに再流行しました。
それを裏付けるかのように、ネガフイルムやフイルム調は人気なカテゴリになりましたし、レンズ付きフイルムの“写ルンです“も、SNSのトレンドに入ったことからも人気なことが分かります。
■撮影環境:F2.5 1/1000 ISO400
■使用フィルムシミュレーション:CLASSIC Neg.
X-Pro3は、デジタルカメラであるものの、まるでフイルムカメラで撮影しているかのような感覚で、撮影することも可能です。
それは、ファインダーをOVFに設定して、フィルムシミュレーションをクラシックネガで撮影することです。ポイントは、撮影後すぐにモニターを見ずに、プリント注文画面で初めて見るか、自宅に帰った後にスマートフォンやタブレットに転送した時に、初めてどんな写真が撮れたか確認することです。
というのも、フイルムカメラで撮影する場合は、撮影をしても現像に出さなければ、どのように写っているかが分からないですよね。例えば露出オーバーで、真っ白や黒つぶれで真っ黒、ピンボケしすぎて何が写っているか分からないなど、ミスをしていてもその場では気づくことが出来ず、現像したときに初めて気づくこともあります。
■使用レンズ:XF23mm F2 R WR
■撮影環境:F7.1 1/25 ISO200
■使用フィルムシミュレーション:CLASSIC Neg.(彩度-1)
もちろんミスが無い写真が最高で、ミスがある写真がダメ!というわけではありません。多少のミスがある写真も、味があって良い場合があります。しかし撮影の際には、撮影枚数に限りがあるだけに、ピントの位置や露出などでミスが無いように、1枚1枚気を付けて撮影することが多いのも確かです。
1ショットにそれだけ気持ちを込めているだけに、現像待ちの「きちんと撮れているかな?」とワクワクするのも楽しくて、デジタルではなかなか味わうことができないフイルムの良さだと思います。
X-Pro3は、特徴的な背面モニターを搭載していますが、そのギミックに加えてフイルムを作っているメーカーが表現するクラシックネガは、相性がかなり良いと思います。
他にも豊富なフィルムシミュレーション
■撮影環境:F6.4 1/500 ISO400
■使用フィルムシミュレーション:ACROS
X-Pro3にはクラシックネガだけでなく、豊富なフィルムシミュレーションが搭載されています。
例えば、滑らかな白黒フイルム調で、前モデルのX-Pro2から搭載されたアクロスや、シネマ調の描写になるエテルナなども、もちろん搭載されており、各フイルムの特徴を活用して撮影することで、同じ被写体やシーンでも印象を変えて撮影できます。
ボディ裏面のQボタンの上に、何も書かれていないカスタムボタンがあるのですが、開封時点ではこのボタンに、フィルムシミュレーションがセットされています。
ボタンを押してから後ろのダイヤルを回すことで、簡単にフィルムシミュレーションを変更することができます。さらに、握った時に親指で押しやすい位置にあるので、“X-Pro3を使うならぜひフィルムシミュレーションの違いを楽しんでほしい”という、熱意のような気持ちを感じました。
他にも、機能を割り当てられるカスタムボタンは多く、ファインダー切り替えレバー上にもボタンがあるのですが、私はここにグレインエフェクトを追加しました。
そうすることで、フィルムシミュレーションを選択してから、粒状感を調整するという流れが簡単にできるのでおススメです!
カラークロームエフェクト
カラークロームエフェクトでは、青をより強調して撮影することができる“カラークローム ブルー”が追加されました。青空や、海など風景撮影をする際には、青をどう表現するかで写真の印象が大きく変わりますよね。
カラークローム ブルーを使用して撮影した作例は、先日公開した中西学先生の記事でもご紹介しています。ぜひこちらから併せてご覧ください。
暗所の撮影でも強いAF
■撮影環境:F3.6 1/1000 ISO500
■使用フィルムシミュレーション:PROVIA
X-Pro3は、X-T3と同じくX-Trans CMOS 4センサーを搭載しています。このセンサーは、AFの性能が非常に進化し、合掌までのスピードはもちろん正確さが前モデルよりも良くなりました。
X-Pro3はそのセンサーを搭載しているので、AFスピード・精度が良く、あらゆる撮影シーンでもスムーズでストレスを感じずに撮影できました。特に瞳AF使用時に、人物の瞳を捉える力と、被写体が横を向いても粘ってくれることが多かったので、ポートレートを撮るときも非常に助かりました。
作例では、暗いトンネルを車で走行中している時に、助手席から撮影したものです。
トンネルの先は明るくなっていますが、かなり先にあります。トンネル内は暗く、さらに車は走行中なのでピント位置が秒単位で変わる状況なのにもかかわらず、すっとピントが合いました。
このようなピント合わせが難しい環境で、中にはフォーカスが行ったり来たりを繰り返して、やっとピントが合うという機種もあってもおかしくない状況でも、あれだけ食いつけることが分かった時に、性能の良さを実感しました。
ただの踏襲ではない
「X-T3と同じセンサーを搭載している」と言いましたが、センサーが全く一緒でただボディの形が違うだけではありません。
というのも、センサーは同じものを搭載しているものの、アルゴリズム等を調整したことによって低照度のAF精度が向上し、EV-6の薄暗い環境でも、AFを使用した撮影ができるようになりました※。(ちなみにX-T3はEV-5まで対応)
もちろんEV-5でAFが使えることも凄いのですが、さらに暗いEV-6の環境でも、AFが使えるのはかなり凄いです。
普段の私は、周辺が暗いシーンで撮影することは少ないものの、ポートレートを逆光で撮影することは多いです。逆光のシーンでは、鮮やかな夕日や朝日の澄んでいる光になるので好きですが、被写体の顔が暗くなってしまうこともあります。
そんなシーンでも、ピントが合うとなればこれまでだったら諦めるほどの逆光や、表現の幅がぐっと増えるので、良いと思いました。※富士フイルム公式HPより引用
撮影後記
本物のフイルムを作っているメーカー、富士フイルムがお送りする“写真撮影を楽しむことに特化したカメラ”いかがでしたか?
今回、X-Pro3を使用して改めて「写真を撮ること」が楽しいと思いました。目の前の被写体や、光からどんな風に撮るかというのは他の機種でも同じですが、モニターを使用せず、ファインダーを覗いて撮ることにこだわっているので、一眼レフ機を使用しているかのような使用感だと思いました。
さらに、ダイヤルの操作方法や、撮影後の結果がどうなっているかを確認しない使い方をすれば、フイルムカメラで撮影しているかのような感覚が味わえるので、さまざまな写真の撮り方を楽しめました。
意外に思ったことは、自由度の高さです。当初は“モニターが見えない”ことに引っ張られて「モニター操作ができなく、モニターを使用した素早いピント位置の移動や、カスタムの制限から使い勝手が制限されているのでは?」と、勝手に考えていました。使用してみると、むしろカスタムボタンの自由度は想像以上に高く、自分好みの設定にしやすいと思いました。
最近のカメラで多く採用されているプラスチックや、樹脂の素材に比べると、チタン素材・DR加工は指紋が少し残りやすいです。この辺りは好みになるので、苦手な方もいるかもしれませんが、その指紋もついたら拭くことを繰り返すと、革製品のようなどこか味のある印象になります。
チタン素材・DR加工による金属の質感や、自分好みにカスタム設定した後の使い勝手の変化を、ぜひ実機を触って試してみてください!(きっと驚きますよ)