富士フイルム X-S10レビュー|小さなボディーにフジ製品のいいところがギュッと詰まった頼れる相棒

片岡三果

01_富士フイルム X-S10で撮影した自撮り写真.JPG

はじめに

 2020年11月19日に富士フイルムから発売されたX-S10。発売前から非常に話題になっていたこちらの新製品を試用させていただき、歴代の富士フイルム製品を使ってきた上で感じたことなどを書かせていただきます。

Xシリーズの「S」ラインとは

 今回のX-S10はメインのTラインとは異なる新たなライン。
このSには
・Small&Slim‥小型軽量
・Secure‥握りやすいグリップ
・Stabilization‥手ぶれ補正
・Simple‥シンプルな操作性
という意味が込められています。以前X-S1というレンズ一体型カメラも出ていますが、今回はレンズ交換式になっていて多彩な富士フイルムのレンズたちから撮影シーンに合わせてチョイスすることができます。

 簡単に一言でこのX-S10を表現するのなら、「フジ製品のいいところをギュッとコンパクトにした凄いカメラ」という感じでしょうか。今まで使ってきた同社のカメラの中でも、凄いカメラが登場したと実感しています。

小さく軽いボディで世界がぐっと広がる

 小型軽量なボディは、撮影のフットワークを軽くするのであれば必要不可欠でぜひ備わっていて欲しいところ。わたしも愛用しているX-T4は重さが607g※で今回のX-S10は重さが465g※です。その差は単一電池約1個分の重さ。キットレンズでもあるXC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZレンズと組み合わせてX-T4のボディよりも若干軽いという組み合わせ。
※バッテリー、 SDメモリーカードを含んだ質量です。

 わたしの撮影のメインはスナップ写真ですが、スナップ撮影において大事なのはフットワークの軽さだとも思っています。持ち物は軽い方がいい。それでいてしっかり撮りたいものを撮ることができる!というのが理想です。ボディが軽い分、もう一本レンズ持っていこう!となったり、身軽な分さらに足を伸ばして素敵な瞬間を探しにいく・・などなど撮影の幅が広がりそうですね!大きさも女性のわたしが構えても大きすぎず丁度よいサイズ感です。

グリップの深さは安心の深さ

 わたしが最初に実感した進化ポイントはグリップです。とっても握りやすいグリップは少し手が大きい方でもカメラをしっかりとホールドすることができると思います。X-T3からX-T4はグリップが今までに比べて若干深くなりましたが、X-S10は今まで横向きに入れていたバッテリーをグリップ部分に縦に入れる形状に変更することで、とても深いグリップを作りだしています。

 撮影をするときに右手で深く握ることができると安心感につながります。軽い上に深いグリップがあれば片手でも素早くイメージした通りの撮影を行うことができます。過去のTシリーズでは外付けのグリップやサムレストを使っていましたがX-S10にはこれらのものは不要だと思います。

このサイズ感で優秀な手ぶれ補正を搭載!

 驚きなのはこの小型軽量ボディーに最高5軸6段の高性能な防振ユニットが搭載され、高性能ジャイロセンサーとの組み合わせで静止画と動画どちらでもブレの少ない映像を得ることができます。動画撮影時はこの光学式手ブレ補正に加えて電子式手ブレ補正を使い、更にブレを抑えることが出来ます。

 富士フイルムのX-H1、そしてX-T4にボディ内防振ユニットが搭載されていますが、防振ユニットを導入すると通常は本体が大きくなったり重たくなったりします。この大きさ、この重さで防振ユニットが備わっていることは本当に優秀なカメラだといえます。(X-T4に比べて重さと体積は30%少なくなっています。)

 バッテリーはX-T4からの新しい規格のバッテリーではなく、X-T3までと同じ規格のものなので、電池の持ちという意味では予備バッテリーがあった方が安心です。それでもこの大きさで防振ユニット内蔵という強みには変えられないものがあります。

はじめての方でも感覚的な操作が可能

 このX-S10ですが、これからカメラを始めたいという初心者の方から、今まで富士フイルム製品に興味があったけれど、なかなか使う機会のなかった他メーカーのカメラユーザー、既に富士フイルムカメラを使っている方など、全ての方に扱いやすい操作性になっているのも特徴の一つです。

 カメラの操作が複雑だとせっかく買っても使いこなせなくて部屋の飾りになってしまっている…という方もいらっしゃいますよね。シンプル、かつ感覚的に操作ができると「使いながらカメラに慣れていく」ということが容易になります。カメラは毎日のように持ち歩いてこそ、日常にあふれる決定的瞬間を逃すことなく写真に収めることができます。無理なく持ち歩けて、操作が複雑ではなく、撮りたい時にすぐ撮れる!これはとても大事なことだと感じています。

フィルムシミュレーション、全部揃っています!

 富士フイルムのカメラの人気の要素のひとつにフィルムシミュレーションがあります。フィルムを作り続けてきたからこそできる色の表現。歴代のフィルムの色味をデジタルカメラで堪能することができたり、新たに登場するフィルムシミュレーションの色味を体感することができます。

 マジックアワーの絶妙な空のグラデーションも繊細に表現することができます。

01_2_X-S10の作例.JPG
Velvia/ビビッドの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO800 F1.4 SS 1/55 フィルムシミュレーション Velvia/ビビッド

 例えばモノクローム。モノクロームのフィルムシミュレーションは通常のモノクロ、そしてさらに質感が豊かなACROSがあり、それぞれスタンダード、イエロー、レッド、グリーンのフィルターから選ぶことができます。

02_ACROS作例.JPG
ACROS イエローの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ
■撮影環境:ISO1600 F4.4 SS 1/105/ フィルムシミュレーション ACROS+Yeフィルター

 現在のフィルムシミュレーションは全部で18種類。エントリーモデルには新しいフィルムシミュレーションが導入されていないこともあったりしますが、X-S10にはハイエンドモデルのカメラで公開されているフィルムシミュレーション全てを使うことができます。

 注目のフィルムシミュレーションはクラシックネガとETERNAブリーチバイパス。今までのフィルムシミュレーションに比べて渋い色味で深みがあり、かっこいい雰囲気の写真に仕上げることができます。彩度が抑えられ、フィルム時代から写真愛好家に好まれた手法の銀残しを表現することができます。

04_作例.jpg
ETERNAブリーチバイパスの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO800 F1.4 SS 1/25 フィルムシミュレーション ETERNA ブリーチバイパス

 歴代のフィルムシミュレーションと合わせて表現の幅がさらに広がり、シーンに合わせての絵作りがより一層楽しくなります。わたしは最近もっぱら「クラシックネガ」がお気に入りで、スナップ撮影時に大活用しています。高いコントラストで深みのある写真に仕上がります。

03_作例.JPG
クラシックネガで薔薇の作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO800 F1.4 SS 1/680 フィルムシミュレーション クラシックネガ

アドバンストフィルターの紹介

 フィルムシミュレーションとは別に、トイカメラ、ハイキー、ダイナミックトーンなど13ものフィルターを使っての撮影が可能です。フィルターで編集した作例を動画にまとめましたので是非ご覧ください。

Qボタンを使いこなして、より自分の表現したい作品を撮ろう

 さらに富士フイルムのカメラはQボタンという項目で静止画、動画それぞれに「シャドウ」「ハイライト」「カラー」「シャープ」なども簡単に調節することができます。Qボタン選択時の画面表示数は4、8、12、16表示からカスタムすることができます。わたしのおすすめは16表示。上に挙げた項目以外に「セルフタイマー」、「顔検出/瞳AF設定」、「画像サイズ」、「画質モード」などを設定しています。X-S10は物理ファンクションボタンがX-T4などと比べて少ないので色々な設定をQボタンの中で完結できるように設定すると、より使いやすいと思います。

カメラ内RAW現像で撮った後にも変化を楽しむ

 RAWという写真の生のデータでも撮影しておくと「カメラ内RAW現像」をすることができ、撮った後でカメラにSDカードが入った状態で「フィルムシミュレーション」や「シャドウ」「ホワイトバランス」「増感/減感」などなど他項目を変更してjpeg写真に新たに残すことができます。

カメラ内RAW現像でフィルムシミュレーションだけを変えると…

05_クラシックネガ作例.JPG
クラシックネガの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO200 F2.0 SS 1/45 フィルムシミュレーション クラシックネガ
06_アスティア作例.JPG
アスティアの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO200 F2.0/ SS 1/45 フィルムシミュレーション ASTIA/ソフト
07_ETERNA作例.JPG
ETERNAの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO200 F2.0 SS 1/45 フィルムシミュレーション ETERNA
08_プロネガ作例.JPG
プロネガの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO200/ F2.0 SS 1/45 フィルムシミュレーション PRO Neg.Std

 少し写真を明るくしたいな…という時や、違うフィルムシミュレーションだとどう表現できたんだろう?という時にパソコンを使わずともカメラ内で完結することができます。パソコンを持っていない、あまり現像ソフトを使わないユーザーにも優しい機能ですね。

 グレインエフェクトを使うと、フィルム写真のような粒子感を出すことができます。(強弱や粒度を選べます)

09_クラシックネガ作例.JPG
カメラ内RAW現像前作例(クラシックネガ)
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO800  F1.4  SS 1/25 フィルムシミュレーション クラシックネガ
10_グレインエフェクト作例.JPG
RAW現像後作例(グレインエフェクト強)
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO800 F1.4 SS 1/25 フィルムシミュレーション クラシックネガ グレインエフェクト 強 粒度 大 カラークロームブルー 強 シャープネス:+1
11_ETERNAブリーチバイパス強の作例.JPG
カメラ内RAW現像後作例(グレインエフェクト 強)
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO800/ F1.4/ SS1/25/フィルムシミュレーション:ETERNA ブリーチバイパス グレインエフェクト 強 粒度 大 カラークロームブルー 強 トーンカーブ シャドウ+0.5 シャープネス +1

 カラークロームエフェクト機能もついているので、彩度が高い被写体に色と階調に深みを出すことができます。

12_カラークロームオフ作例.JPG
カラークロームオフの作例
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO320 F1.4/ SS 1/50 フィルムシミュレーション Velvia ビビッド カラークロームオフ
13_カラークローム強の作例.JPG
カラークロームオン作例(カラークロームエフェクト強)
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO320 F1.4/ SS 1/50 フィルムシミュレーション Velvia/ビビッド カラークロームエフェクト強

センサーはハイエンドのX-T4と同じ!

 搭載されているセンサーはX-Trans CMOS 4、画像処理エンジンはX-Processor 4。これらはハイエンドモデルのX-T4と同じ。さらに最速0.02秒の高速AFが逃したくないシャッターチャンスをしっかりと捉えてくれます。

14_撮影している片岡三果さん.JPG
カメラを構えているところ
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF35mmF1.4 R
■撮影環境:ISO800 F1.4 SS 1/40 フィルムシミュレーション クラシックネガ

動画機能のご紹介(VLOGを公開)

 6K相当のデータ量から4K映像を生成し、ノイズが少ない高解像の映像を残すことができます。また、DCIフォーマット(17:9)での撮影や、18種類もの多彩なフィルムシミュレーションとの組み合わせにより、ドラマティックな映像を高解像度で記録することができます。

 Full HDの高画質で最大10倍のスローモーション効果が得られるハイスピード動画撮影が可能です。1秒間を240コマで記録することができ、高解像且つ滑らかに記録することができます。

ハイスピード動画撮影のサンプル動画

X-S10を使ってショートムービーを作成してみましたので是非ご覧ください。

■「秋の日のVLOG」

さいごに

 今回はスナップ写真でお届けしていますが、富士フイルムのカメラはオートホワイトバランス機能も優れていて、人肌の表現もとっても美しいんです。ハイエンドモデルとの価格差もありながら、上位機種と肩を並べられる機能満載のX-S10。クラシカルなデザインを継承しつつ、小型軽量なボディに盛り沢山な使い勝手。今回ご紹介しきれなかった機能もまだたくさんあります。

 歴代の富士フイルムシリーズを使ってきたからこそ、今回のX-S10は「凄いカメラが出てきた!これは買いですね!」と自信を持ってお勧めできます。富士フイルムのカメラのいいところを凝縮した頼れる相棒をお探しの方にぴったりなカメラです。まだ富士フイルムの色再現に触れたことのない方は、このX-S10でデビューしてみてはいかがでしょうか?

■写真家:片岡三果
https://www.kitamura.jp/shasha/author/kataoka-mika/

北海道三笠市出身
絵画を描く気持ちで写真を表現する写真画家。
FUJIFILM X photographer。
漫画家の両親、大叔父が油絵画家という家庭環境で育ち、幼い頃から美術、デザインを学ぶ。
写真を通して一期一会を忘れないよう、自分史を提案し撮った写真をプリントして楽しむことを大切にしている。
2017年はじめての個展「A la Parisienne!」を開催。
2018年2度目の個展「No Photo, No Life.」では大盛況を収める。
2018年台湾の台北で海外初個展「A la Parisienne!〜好想成為巴黎女子!〜in台北」
2020年10-11月「空の色に魅せられて Xで残すマジックアワー」
写真集「No Photo, No Life. ~Live in the moment~」

~ 「X-S10」はこちらの記事でも紹介されています ~

■FUJIFILM Imaging Plaza東京でのX-S10取材記事
富士フイルム X-S10が登場|しっかり握れる小型ボディーに、びっしり詰まった高機能!
https://www.kitamura.jp/shasha/article/478001035/

■写真家のこばやしかをるさんによるX-S10レビュー記事はこちらからご覧頂けます。
富士フイルムX-S10でポートレートスナップを撮る|充実の機能と日常使いに相応しい単焦点レンズ
https://www.kitamura.jp/shasha/fujifilm/x-s10-4-20210122/

X-S10特集ページ

X-S10特集ページでは、他製品とのスペック比較や同製品に合う人気アクセサリーなども紹介していますのでコチラのページも合わせてご覧ください。

x-s10.jpg

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