富士フイルム X-T5 レビュー|撮る喜びが味わえる写真撮影特化の1台
写真ファンが求めたX
X-H2が先にリリースされたことにより、X-T5への期待はより高くなっていた。ファンが望んでいたことは、動画はX-H2に任せて思いっきり写真撮影に特化したカメラであって欲しいということ。
そこで発表されたのは、Tシリーズのアイコンと言ってもいい3ダイヤルを継承して、3方向チルトの復活、小型化の実現という期待通りの仕様だった。
筆者は動画をほとんど撮らないが、撮影される機会は多いためいつも思うのだが、動画撮影の機材はいつも最新のフラッグシップ機だ。写真よりも儲かるんだなと妬む気持ちもありつつ、「X-Pro3のように扱う喜びがあるとテンションが上がるんです」「とにかく軽さが第一なのでメイン機はX-E4」といったプロ写真家はいるのに、動画の世界にはいないことを実感する。それがそのままX-H2とX-T5の違いに現れているように思う。ドライでよく動くX-H2と、趣味性を残したX-T5というキャラクターが、はっきり分かれている。
X-T4からの進化
「第五世代」という呼び方が一人歩きしてしまった感はあるが、X-Trans CMOS 5 HRとX-Processor 5による4000万画素の高画質が最大のトピック。ここまで画素数が上がるとデータが大きくなるため、処理速度や発熱をどうコントロールしているか興味があった。趣味性を意識したカメラとはいえ、Xシリーズのフラッグシップであり、ハードな仕様を想定して作られたはずだ。
さらにはレンズに求めるものが厳しくなるので、システムを見直す必要があるかもしれない。今年はXマウント10周年で、一般的にレンズは十年くらい先を見据えて設計されると言われているから、システムの大きな転換期を迎えていると言ってもいい。X-T3からX-T4へのモデルチェンジとは意味合いが違う。細かい変化を見ていこう。
まずは肥大化しつつあるボディサイズをギュッと縮めた。原点回帰と呼ばれているように、X-T1とほぼ同じ。ペンタプリズムが絞られていて、フィルムカメラに近い印象を受ける。バリアングルだった液晶が3方向チルトに変わり、SDカードのみのダブルスロット。アナログの3ダイヤルを固持しながらも、グリップの形状を見直し、シャッターボタンの位置を前にずらすことによって自然に指がかかるようになった。写真で見比べてみると違いがはっきりわかる。
グリップ形状は手の大きさと持ち方、組み合わせるレンズによるので、一概にどちらがいいとは言えないが、小型化されたことは素晴らしい。フルサイズと比較してレンズではまだまだAPS-Cに小型軽量のアドバンテージがあるが、ボディの差はなくなっている。今回のモデルチェンジにより、システムとして小型軽量のメリットを感じられるだろう。
アナログ操作系の実用性を問う
筆者の愛用機はX-Pro3。それだけでわかるようにアナログな操作系に慣れ親しんでいて、カメラを扱う喜びが撮影でもプラスになると考えている。
それでもアナログダイヤルに疑問もある。象徴的なのはISO感度ダイヤル。12800もある感度をアナログで設定すること、6400との間に1/3のクリックがあることに、実用的な意味があるだろうか?ぐるっと一周して刻まれた細い文字のおかげで、デザインのバランスがいいのはわかる。でもそのせいでAから外れたときにすぐ隣がC、次が12800。これらが狭い間隔に密集していて、ロックが付いているとはいえ誤操作のリスクが高すぎる。
露出補正のようにブランクがあってもいいし、ISO3200から上はコマンドダイヤルによる設定でも良いのでは。整然と並んだ三つのアナログダイヤルを見ていると、ロマンが掻き立てられるのは理解できる。けれどもこれはレトロであって、Xが提唱してきたネオクラシカルではないのではないか、という迷いも感じた。
もともとX100がダイヤル操作にこだわったのは、まだフィルムカメラの操作に慣れている人が多いだろうという想定と、早さを比べたときアナログ操作に利があると考えたからだ。電源を入れなくても設定がわかることも重要。
ところが現在のXのオペレーションシステムは複雑になり、設定できる項目も非常に多く、幅が飛躍的に広がった。ダイヤル操作に実用面での優位性があるか、見直す時期に来ているように思う。
各ファンクションボタンに割り当てられている機能についても同じことが言える。どうぞ好みでカスタムして自分に使いやすいカメラに育ててください、という仕様はありがたい反面、「新時代のデジタルカメラのあり方と、写真との付き合い方」を提案するくらいのビシッとしたチューニングが見たかったという気持ちもあった。
初代X100から継承されてきたレリーズ横のFnボタン(最も早く扱えるファンクション)と、複雑なメニュー操作を避けるために重要なQボタンが、ともにフラットな形状で手袋などをしていると押せないのも好みが分かれるのでは。
4000万画素が見せてくれる新世界
部屋で扱っているときには、上に書いたような細部が気になって仕方なかったが、いざ撮影のために外に出ると、とにかく軽いだけで気分がいい。
レリーズのフィーリングはX-H2には及ばないものの、作動音が静かで動きは軽快。液晶で見るだけでも違いがはっきりわかる第五世代の画質に、テンションが上がるのを抑えられない。普段より多めにローアングルの撮影をしてみたが、やはり3方向チルトのほうが水平と垂直を整えやすい。X-H2だとうっかり動画撮影ボタンを押してしまうことがあったのだが、X-T5だと写真撮影に集中することができる。
ピントのヤマのような精緻な部分でのEVFの見え具合はやはりX-H2のほうが上だが、フィルムシミュレーションの違いなどの再現性は悪くない。
高画素がもたらす画質は、第一印象ではとにかくスムーズで滑らか。ベタっと潰れてしまいがちなところが滑らかな階調によって表現され、おかげで質感がとにかく美しい。キレとクリアさに魅了される。
心配していたのが、センサーが高画素になるとレンズに厳しくなるとされているため、古いレンズを使ったとき欠点ばかりが目立つのではないかということ。第一世代のレンズを組み合わせて撮ってみたので作例を見てもらいたいが、ポテンシャルを最大限に発揮するために最新のレンズを組み合わせるほうがいいのは当然だが、古いレンズでも画質は引き上げられていた。
いい写真が撮れるのがいいカメラ、という結論
部屋でこそこそ扱っているときには不満や戸惑いもあったが、外に持ち出してからの楽しさは抜群で、意識的にバリエーションを広げていろんなケースを想定して撮ってみたが、気分よく撮影を終えることができた。
撮影データが大きく、HEIFなど次世代のファイル形式など、業界の動きを見ながら対応していくことが求められるかもしれない。
2014年にX-T1が登場して、Xシリーズで初めての防塵防滴を搭載していてタフネスの意味を与えたTシリーズが生まれた。X-T3 とX-Pro2が実用性と趣味性によるキャラクターの違いからダブルフラッグシップと呼ばれていた時期を経て、X-H2と明確にコンセプトが差別化されたX-T5が揃った。2022年に、写真撮影に特化したフラッグシップ機がこの価格で手に入ることを喜びに感じる。
■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist