富士フイルム XF10-24mmF4 R OIS WR レビュー|旅写真家が選ぶ広角ズームはどれ?
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。今回は2020年11月に発売された富士フイルムの広角ズームレンズ「XF10-24mmF4 R OIS WR」をレビューします。私は長らく前モデルの「XF10-24mmF4 R OIS」を愛用してきました。超広角の10mm(フルサイズ換算15mm)から標準画角の24mm(フルサイズ換算35mm)までをカバーしているので、広角好きの私にとって実は標準レンズ以上に使用頻度の高いレンズになっています。発売されて6年が経過してのリニューアルなので、前モデルとの比較を交えながら進めていきたいと思います。
広角レンズの特徴
広角レンズは単に広い範囲を写すものだと考えている方もおられるかと思いますが、レンズの特性を生かすことによって広角ならではの表現をすることが可能です。広角レンズには近くのものは大きく、遠くのものは小さく写るという特徴があります。当たり前のように思いますがそれが見た目以上に強調され、これを「パース効果」といいます。
まずは見上げるような構図で撮影してみましょう。パース効果によって画面の端に行くほど直線が画面中央部に向けて歪むという特性があります。建築物や人物などを見た目通り写すのには向いていないのですが、逆にその特性を生かして迫力のある作品に仕上げることが可能です。
またローアングルで撮影をするとよりその効果が強く感じられます。この写真は蓮畑で撮影したものですが、一輪だけ水面に咲く蓮を見つけ水面ギリギリで撮影しています。この位置でカメラを構えるとファインダーを覗くことは困難なので、バリアングルモニターのついているX-T4やX-S10などが便利です。
逆に対象物を画面中央にもっていくようにすると、ほとんど歪みなく撮影することができます。
また、同じ絞り値の場合、広角になればなるほど被写界深度が深くなり、画面全体にピントが合う(ように見える)という特徴があります。風景などの撮影ではある程度絞り込んで撮影することが多いですが、シャッター速度の稼ぎにくい夜間の手持ち撮影などでは思い切って開放絞り付近で撮影しても、全体にピントの合った写真を撮ることができます。
スペック比較
左が新モデル、右が旧モデルです。大きさはほとんど変わらないので、見た目では違いがほとんどわからないほどです。各レンズのスペックは以下のようになります。参考までに、もうひとつの広角ズームレンズであるXF8-16mmF2.8 R LM WRのスペックも載せています。
XF10-24mmF4 R OIS WR(新型) | XF10-24mmF4 R OIS(旧型) | XF8-16mmF2.8 R LM WR | |
焦点距離(フルサイズ換算) | 15-36mm | 15-36mm | 12-24mm |
重量 | 385g | 410g | 805g |
最短撮影距離 | 24cm | 24cm | 25cm |
開放F値 | F4 | F4 | F2.8 |
手ブレ補正 | 3.5段 | 2.5段 | 非搭載 |
フィルターサイズ | 72mm | 72mm | 装着不可 |
絞り羽 | 7枚 | 7枚 | 9枚 |
防塵防滴 | あり | なし | あり |
発売時期 | 2020.11 | 2014.3 | 2018.11 |
そして、リニューアルされたXF10-24mmF4 R OIS WRは以下のように進化しています。
①軽量化
重量が410gから385gに軽量化。微々たるものと思われるかもしれませんが、光学系をそのままに軽量化できたのはすごいことだと思います。旅先での荷物は1gでも軽いに越したことはありません。
②防塵防滴耐低温化
私にとっては一番歓迎するべき進化点です。ボディは防塵防滴構造なのにレンズがそうでなければ雨の日の撮影を安心して行うことはできません。
③手ブレ補正の進化
レンズ単体での手ブレ補正は2.5段から3.5段に進化しています。ボディ内手ブレ補正を搭載している機種では進化の恩恵は少ないですが、X-T4との組み合わせでは6.5段もの補正効果となります。
④絞りリング付近の変更
進化というより変更といったほうがいいかもしれませんが、絞りオートの切り替えスイッチがなくなりリングを回すことで「A(オート)」ポジションに変わる機構になりました。私はあまり絞りオートは使わないのですが、前モデルで時々絞りリングを回しているときに、指が触れて勝手にオートになっていることがあったので使い勝手は良くなったと思います。また、目盛りがついてファインダーを見なくても目視で絞り値が確認できるのも地味に便利です。
光学系の変更はないので写りに関しては同じと考えていいと思います。私がこのレンズを使い始めて特に気に入ったのは光条(太陽など強い光源を撮ったときに現れる光の筋)が綺麗なところです。このレンズは7枚絞りを採用しているので、絞り込んで撮影したときには光源から14本の光の筋が出ます。
フィルターを使って表現の幅を広げよう
XF10-24mmF4 R OIS WRはワイド側が超広角の10mm始まりながら、特殊な器具を使うことなくフィルターを装着することが可能です。72mm径のフィルターに対応(角型フィルターの場合は100mm幅に対応)しているので、比較的安価にフィルターワークを楽しむことができます。
私が普段よく使うフィルターです。上段は角型のハーフNDフィルターで半分だけに減光効果があります。左からソフト(グラデーションがゆるやか)、ハード(グラデーションがはっきりしている)、リバース(上部にいくほどND効果が薄くなる)などのタイプをシーンにより使い分けしています。また、水面の反射や空の青みを増すためのPLフィルター(左下)、滝などの撮影に重宝する可変式のNDフィルター(右下)をよく使います。
本レンズはダイナミックに空を入れて撮影することが多いため、特にハーフNDフィルターの使用頻度がとても高いです。
XF10-24mmF4 R OIS WRの作例
ではこのレンズで撮影した作例を紹介いたします。地元奈良を中心に撮影しています。
①平城京(奈良県奈良市)
まずは地元奈良の世界遺産である平城京の大極殿です。家から車で30分程度なのでよく行く場所なのですが、梅雨時期の天気の安定しない時期には夕暮れに空が大焼けすることがあります。そんなときは超広角で空を思いっきり入れて撮りたいものです。
建物を主役にしたいときには、24mmにするとパース効果もほとんどなくなり標準レンズ同様の使い方ができます。(写真は朱雀門)
②藤原京跡(奈良県橿原市)
四季折々の花が咲くことで知られている藤原京跡。もともとは日本で初めての本格的な都が造成された地です。夏には蓮が咲き誇ります。太陽の光条を出すためにF20に絞って撮影していると、偶然飛んできた蜂がワンポイントのアクセントになりました。
ちょうど同じ時期にキバナコスモスも咲いていたので日没直後の夕焼け空と一緒に撮影しました。ハーフNDフィルターを使用したので花も黒つぶれすることなく撮影することができました。
③佐用町のひまわり畑(兵庫県佐用町)
兵庫県西部にある関西を代表するひまわり畑です。午後に嵐のような雨が降り夕方は撮影できないと諦めかけていたのですが、最後に太陽が顔を出してくれました。おかげで誰もいないひまわり畑を独占して撮影することができました。空の白とびを抑えるためにハーフNDフィルターを使用しました。
思いっきり寄っての撮影もしました。太陽の光の一部を遮ることで光条を綺麗に出すことができます。手持ちで微妙に位置を変えながら何枚も撮影しました。このような場面では強力な手ブレ補正がついているのはありがたいです。
④飛龍の滝(兵庫県佐用町)
ひまわり畑から近いところにある高さ20mの滝です。滝はなるべく近くでダイナミックに撮りたいものです。広角レンズは横位置で使いがちですが縦位置にすることでイメージががらりと変わることがあります。
⑤世界遺産白川郷合掌造り(岐阜県白川村)
合掌造りで有名な白川郷ですが四季折々の風景が楽しめる場所でもあります。花が咲き青空とのコントラスがきれいな8月に訪れました。暑さのためか、ひまわりも元気なさげでしたが一本綺麗に咲いていたのでぐっと近づいて撮影しました。かなり近づいても背景を広く入れることができるのもこのレンズの特徴です。
ため池があったので映り込みを狙いました。このようなシーンでは超広角レンズの威力が発揮されますね。このような構図の写真は隅々まで目がいってしまいますが、周辺部の画質劣化も少なく気にならないレベルです。
⑥名もなき池(岐阜県関市)
ここ数年で有名になった通称「モネの池」です。普段は観光客も多く、人が写り込まないカットはなかなか撮れないのですがこの日は雨模様で人も少なかったのがラッキーでした。雨に濡れながらの撮影でしたがボディ・レンズ共に防塵防滴対応だったので安心して撮影することができました。
⑦円原川(岐阜県山県市)
川霧と光芒で有名な場所です。あいにく、昨年の大雨により治山工事が行われていたため途中までしか行くことができませんでした。川に入っての撮影でしたが夏にもかかわらず水はとても冷たかったです。水面ギリギリに置いて動画も撮影してみました。
まとめ
富士フイルムにはもうひとつの広角ズームレンズであるXF8-16mmF2.8 R LM WRがあります。Xシリーズの広角ズームレンズを選ぶ場合は現在この2択になります。XF8-16mmF2.8 R LM WRの広角側2mmの画角の違いは思った以上に広く感じます。また、F2.8の明るさは星空を撮る場合には魅力的です。
ただ重量、価格を考えると最初に買う広角レンズとしてはXF10-24mmF4 R OIS WRがおすすめです。特に、標準レンズにXF16-80mmF4 R OIS WRを使っている人はフィルター径が同じなのでフィルターを共用できるというメリットもあります。前モデルから光学性能は変わらないものの使い勝手は大きく向上しており、広角好きなら持っていて損はないレンズです。さらに予算が許せば、表現の幅が広がるXF8-16mmF2.8 R LM WRもチェックしてみてください。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師