富士フイルム XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR|新型超望遠ズームレンズレビュー
はじめに
こんにちは。旅写真家の三田崇博です。今回は富士フイルムから2022年7月に発売されたばかりの望遠ズームレンズXF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WRをレビューします。以前にXシリーズの最望遠レンズとしてXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRを紹介しましたが、それを上回る超望遠レンズの登場に気になっている方も多いのではないでしょうか。今回は同じく7月に発売された富士フイルムのX-H2Sとの組み合わせで様々な被写体を撮影してきました。
レンズの特徴
まず最初に驚いたのはその軽さ(1605g)です。見た感じの印象で手に持ってみると拍子抜けするくらい軽いのです。普通はこのクラスのレンズになると三脚や一脚が必須なのですが、このレンズだと長時間の手持ち撮影も可能です。ちなみに他社の同クラスのレンズとしてはタムロン SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2が2010g(キヤノン用の場合)、シグマ 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Contemporaryが1930gとなっていますので、他社よりも300g以上軽く仕上がっています。
その代わりと言っては何ですが、望遠側の開放F値は8に抑えられています。ここは評価の分かれるところだと思います。本体は白色塗装になっていて熱がこもりにくいという利点がありますが、何と言ってもカッコいいですね。
XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRとの比較
XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR | XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR | |
焦点距離(フルサイズ換算) | 229mm~914mm相当 | 152mm~609mm相当 |
重量 | 1605g | 1375g |
最短撮影距離 | 2.4m | 1.75m |
F値 | 5.6-8 | 4.5-5.6 |
手振れ補正 | 5段 | 5段 |
フィルターサイズ | 82mm | 77mm |
絞り羽根 | 9枚 | 9枚 |
防塵防滴 | あり | あり |
発売時期 | 2022.7 | 2016.2 |
スペックの違いは表の通りですが、やはり気になるのは数値には出てこない画質面。両機を持って世界遺産の薬師寺西塔を撮り比べてみました。
まずは400mm付近を撮り比べて、解像度の違いを見るために尖塔部分を切り出してみました。どちらのレンズも十分な解像度がありますがXF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WRのほうがややコントラストが高く輪郭がはっきりとしているようです。
次に600mm付近の画質を比べてみます。XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRは1.4倍テレコンを装着し約560mmで撮影してみました。
結果はXF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WRの圧勝でした。やはりテレコンを装着すると画質の劣化は避けられないようです。
XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR作例
月齢16.2の月を撮影しました。2倍テレコンを併用することにより、フルサイズ換算1800mmという驚異的な画角での撮影が可能です。ノートリミングでここまで月を間近に写すことができました。ただ、2倍テレコンを使うと絞りがF16になってしまうので、感度を上げてシャッター速度を速くしています。これだけの画角になると月は思っている以上に動きます。
この写真は合成ではありません。岐阜城と月を写したものですが圧倒的な圧縮効果により、とても巨大な月がそこにあるかのように表現することができました。岐阜城から約7.5km離れた場所から撮影しました。本当は満月の日に撮影したかったのですが、残念ながら曇り空で月が出なかったので、この一枚の撮影のために片道170kmの道のりを2往復しました……。
同じ焦点距離で太陽を写してみました。黒点の模様まで写り込みました。太陽はとても明るいので撮影時にはNDフィルターを使います。
滋賀県にある弥生の森歴史公園のシダが水面に映る様子がとても綺麗でした。正面から撮影するためには水際まで距離があり、なおかつ手前に草木があるため超望遠レンズが必要です。
バイカモの花を撮影しました。望遠側でF8なのでボケ具合が心配でしたが綺麗な玉ボケになってくれました。この時は離れた場所からかなりのローアングルで撮影しました。
スイレンにイトトンボがとまっていたので近づいて撮影しました。最短撮影距離は2.4mなので近接撮影が得意なレンズではありませんが、最望遠側でここまで寄れるので普段使いには問題ないと思います。
奈良に住んでいると望遠レンズで撮りたくなるのが鹿(笑)。小鹿の目線に合わせて地面ギリギリに構える構図で撮影しました。小鹿がこちらを向くまでかなりの時間カメラを構えていましたが、レンズが軽いので苦になりませんでした。
次に高速で動く被写体を求めて、岐阜県大垣市のひまわり畑でヒマワリと新幹線のコラボレーションを狙いました。X-H2Sの超高速連写を使うと、一瞬で通り過ぎてしまう新幹線も撮った後に配置を決めることができるので撮り逃しがありません。
何とこれだけのカットをわずか1/4秒の間に撮影することができました。動画でさえ1秒間に30コマが標準なのに、それを上回るスピードを2600万画素で撮影できるとは驚きです。
X-H2Sに搭載されている被写体認識機能が面白くて飛行機を撮りに行きました。空港の敷地外からの撮影ですが、まるで搭乗ゲートから撮影したかのような迫力ある写真を撮ることができました。被写体認識は遠方の場合は飛行機全体に、近接の時はコックピットの窓に焦点しました。
600mmだと夕日をかなり大きく撮ることができます。夕日の中に飛行機のシルエットを入れたかったのですが、なかなかいい位置に飛んではくれませんでした。
夏場は鳥を見つけるのが難しいので動物園に行きました。大きな温室の中に入って自然に近い状態の鳥たちを撮影することができるエリアがありましたが、観賞場所から遠く、超望遠レンズの恩恵を受けました。
動物の顔のアップも大迫力で撮影することが可能です。特に動物園の場合は背景に人工物が写り込んでしまう場合が多いので、背景の割合を少なくしたりぼかしたりするのに超望遠レンズは有効です。以前にアフリカのサファリを撮影したときにこのレンズがあれば……。
大阪で開催された、なにわ淀川花火大会の撮影に行きました。超望遠で花火??と思われるかもですが、人気の花火大会になると撮影場所の確保に早朝や前日の夜から場所取りが必要です。そこで混雑を避けるため地元の生駒山から毎年撮影しています。花火会場からは約20km離れていますが、標高が高いためかなり遠くまで見渡すことができます。
参考までにXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRで撮影した写真です。横位置で安定した構図で撮影できますが左右の空間が少し気になります。
フィナーレの連続打上げもまるですぐ近くにいるような大迫力で撮影することができました。ちなみに音はほとんど聞こえていません(笑)。
まとめ
富士フイルムユーザーにとっては待望の超望遠レンズです。大きさはそれなりにありますが、重量はとても軽く仕上がっていて特に手持ち撮影で重宝しそうです。そのトレードオフとして最望遠時の絞りがF8になっていますので、室内や夜間の動体撮影ではかなり感度を上げる必要が出てきます。しかし、X-H2Sとの組み合わせではAFも非常に優秀で、相性バッチリのレンズと言えます。海外での撮影に持っていくには(大きさ的に)少し躊躇しますが、車移動がメインで昼間の撮影が多い方には特におすすめできるレンズでしょう。
■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師