富士フイルム XF33mmF1.4 R LM WR レビュー|大口径プライムシリーズの新標準レンズ
はじめに
XFレンズの「第二章」と言われ、将来的なイメージセンサーの高画素化を見据えた高解像性能を有する新世代「大口径プライムシリーズ」。先に発売されたフジノンレンズ XF18mmF1.4 R LM WRに加え、XF33mmF1.4 R LM WR(35mm換算:50mm相当)がラインナップに加わりました。
街を歩いてスナップしながら感じた〝新たな標準レンズ〟となるその描写と特徴、解像性能のインプレッションをお届けします。
デザイン&ボディバランス
ストレートでシンプルなレンズデザインは、このプライムシリーズの特徴となっています。質量約360gのコンパクト設計はX-T4とのバランスが最適です。その質量だけを比較してしまうとXF35mmF1.4 RやXF35mmF2 R WRの約2倍と感じますが、非球面レンズ2枚とEDレンズ3枚を含む10群15枚のレンズ構成に加え、リニアモーターを採用していることから見ても決して重たいわけではなく、むしろ小ささと軽さを感じます。
小さなボディのX-E4に装着すると、フード装着時には見た目の大きさを感じてしまいますが、鏡筒がしっかりと握れるサイズなのでホールド感が増し、安定した撮影が可能に。手の大きな男性でも扱いやすいと感じました。
プライムシリーズには絞りリングにAポジションロック機構が装備されており、リング動作時のクリックする感触と操作感が心地よく、取り回しの良さも魅力です。
50mm相当の標準レンズで感じる遠近感、立体感
筆者がこのレンズで一番嬉しいと感じたのは、35mm換算で50mm相当であること。いままでのXF35mmF1.4 RやXF35mmF2 R WRは35mm換算53mm相当であり、少々狭さを感じるようなこともありましたが、この「2mmの差」はAPS-Cサイズのセンサーでありながらきっちりと標準レンズ50mmで35mmフィルムの隅々まで写し込んでいるようで、とっさに構えた時のフレーミングの決まり方に納得感があり、フィルムで撮影していた時の感覚が自然と蘇り撮りやすさを感じました。
特に開放F1.4では、被写体との距離の取り方によってリアルな視野と立体感を得られる標準レンズらしい写りです。自然な遠近感のあるポートレート撮影やスナップ撮影にピッタリと言えます。
開放F値1.4のボケ
開放値F 1.4のボケにはこのレンズの特徴が凝縮されており、ボケの種類の豊富さに魅了されるのがこのXF33mmF1.4 R LM WR。ここで、比較されやすいのはXF35mmF1.4 Rですが、そのボケの質は異なり、XF35mmF1.4 Rのように輪郭が滲みながら溶けていくようなボケではなく、輪郭を残しながらも滑らかに優しくボケるのがXF33mmF1.4 R LM WRです。
常緑樹の葉は色も強く透け感が出にくいですものが、優しく前ボケとなり、葉に反射した光は柔らかな玉ボケとなりました。最短撮影距離30cmで捉えるとその特徴が掴めます。
こちらのシーンでは、網目の小さな金網越しにピントを合わせて撮影しています。レンズ前で網目の形状がうっすらと見える程にボケたことで、グルグルとしたオールドレンズのような効果が生まれました。
高精細なピント面の描写はキリっとシャープ。浅い被写界深度の柔らかいボケは日陰で捉えたことで情緒的でしっとりとした雰囲気に。深度の浅い撮影ではリニアモーターによる正確なピントの合焦を実感します。
玉ボケは美しい輪郭を見せてくれます。チェーンに反射した小さな光が画面奥に行くほどボケながら背景に馴染んでいき、車のヘッドライト、ショーウィンドウも優しいニュアンスになりました。
バリエーション豊かで奥深い表現が可能なボケを味わえるのがXF33mmF1.4 R LM WR。フィルムシミュレーションとの組み合わせ次第でより印象的な仕上がりを楽しめます。
圧倒的な解像性能
どんな被写体でも使いやすい35mm換算で標準画角の50mm。レンズ自体は33mmと広角レンズであるため、深度も深く、特にスナップ撮影において嬉しいパンフォーカスのキレの良さが際立ち、絞り込まずとも驚くべきシャープネスを発揮します。
画面全体の奥行きを感じられる立体感や、コントラストが高い中に陰影を感じる解像力の高さは、ふと立ち止まりシャッターを切るスナップにおいて肝というべきところをしっかりと担ってくれます。
肉眼で見ると平面的に見えてしまう日本建造物ですが、その微細な材質までも精細に写し出します。職人が手作業で仕上げたことがわかる表面のザラっとした質感と、陰影の美しさを見事に引き出す非常にリアルな描写です。
夜間薄暗い軒下を撮影してみましたが、シャドウ部の奥まで緻密に写し出しています。
解像ピークはF5.6前後。浅すぎるのではないかと思われるかもしれませんが、これも次世代の高画素センサーを見据えてのことを察すると納得のいく数値と言えます。
リニア駆動のインナーフォーカスAFと防塵・防滴機構
フォーカス群の駆動にはインナーフォーカス方式を採用。リニアモーターによる正確なピントは、浅い被写界深度ではピント精度を高め、光量の少ないシーンでも手ブレやノイズを抑制した高画質な撮影が可能に。音を全く感じないほど静かで、高速・高精度なAFは被写体を素早く正確に捉えます。
また、X-T4のボディ内手ブレ補正を効かせ、気軽に長秒撮影も撮影ができてしまうほど。暗所でも明るくとらえることができる大口径レンズの醍醐味を感じます。
XFレンズに標準装備となりつつある防塵・防滴・-10℃の耐低温構造は、鏡筒の11ケ所にシーリングが施されています。傘を差しながら小雨の中撮影していて、気が付けば濡れていたということも少なくありません。防塵・防滴機構は風景写真だけでなく、街中の撮影や海辺などでも安心です。
おわりに
直感的に、Xマウント単焦点レンズの中でもストロングと言えるほど力強さを感じました。開放F値の明るさと似た焦点距離からも、神レンズ言われるXF35mmF1.4 Rと比較してしまいがちですが、約10年前のXシリーズ発売当初とはデザインもセンサーも、プロセッサーも世代と設計が異なり、これはやはり次世代のために新設計された“新たな標準レンズ”と認識するのが相応しいでしょう。
この先どんなカメラが登場し、このレンズの写りがどう変わるのか?活かされていくのか?という期待値も高く、これからのために使いこなしておきたい標準レンズです。
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。